StudyMed医師国家試験

右と左はどこが違う?―大動脈の「直接の枝」を見抜く胸部血管解剖

第104回医師国家試験 G問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第104回 G問題 第3問

胸部大動脈から直接分枝する正常血管はどれか。

  1. a.右総頸動脈
  2. b.右鎖骨下動脈
  3. c.右椎骨動脈
  4. d.内胸動脈
  5. e.気管支動脈

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は胸部大動脈の正常解剖を問う問題だ。ポイントは「大動脈から直接出る枝」と「枝のさらに枝」を区別できるかどうか。まずは胸部大動脈をどう区分するか、思い出してみよう。
医学生医学生
解剖学の講義では、上行大動脈、大動脈弓、胸大動脈の3つに分けると習いました。
ドクタードクター
その通り。上行大動脈からは左右の冠状動脈、大動脈弓からは右側から順に腕頭動脈、左総頸動脈、左鎖骨下動脈の3本が出る。そして横隔膜の大動脈裂孔までの胸大動脈からは、気管支動脈や食道動脈などの臓側枝と、肋間動脈や上横隔動脈などの壁側枝が出るんだ。
医学生医学生
右総頸動脈も大動脈弓から出ていると思っていました。総頸動脈って左右対称なイメージがあって。
ドクタードクター
そこが最大の落とし穴だね。頸部や上肢へ向かう血管は左右で起始が違う。左は総頸動脈も鎖骨下動脈も大動脈弓から直接出るけれど、右はまず腕頭動脈が1本出て、それが胸鎖関節の後方で右総頸動脈と右鎖骨下動脈に分かれるんだ。
医学生医学生
なるほど、右の2本は腕頭動脈の枝だから、大動脈から見れば「孫」の位置なんですね。
ドクタードクター
いい表現だ。ちなみに右鎖骨下動脈が大動脈弓の最後の枝として直接出て、食道の後ろを回って右へ向かう右鎖骨下動脈起始異常という破格もある。でもこれは正常血管ではないから、今回の問いには当てはまらない。
医学生医学生
椎骨動脈はどうでしょう。脳梗塞の講義で椎骨脳底動脈系として出てきましたが、起始までは自信がありません。
ドクタードクター
椎骨動脈は左右とも鎖骨下動脈の最初の枝だ。頸椎の横突孔を上って頭蓋内に入り、左右が合流して脳底動脈になる。だから右椎骨動脈は右鎖骨下動脈から、さらにその上流は腕頭動脈ということになる。左椎骨動脈が大動脈弓から直接出る破格もあるけれど、これも正常ではないね。
医学生医学生
内胸動脈は心臓血管外科の実習で、冠動脈バイパスのグラフトとして使うと聞きました。
ドクタードクター
よく覚えていたね。内胸動脈も鎖骨下動脈から下向きに出て、胸骨の外側縁に沿って前胸壁の裏を下行する。最後は上腹壁動脈と筋横隔動脈に分かれるんだ。大動脈の直接の枝ではない。
医学生医学生
そうすると、残る気管支動脈が正解ですね。肺の血管なので肺動脈から出るのかと一瞬迷いました。
ドクタードクター
その迷いは大切だよ。肺には二重の血行支配がある。ガス交換のための機能血管が右心室から出る肺動脈、気管支や肺組織そのものを養う栄養血管が体循環系の気管支動脈だ。気管支動脈は胸大動脈の臓側枝として直接出る。左は胸大動脈から2本出ることが多く、右は第3肋間動脈と共通幹をつくって出ることもある。
医学生医学生
肋間動脈も胸大動脈の枝だから、共通幹でもやはり大動脈由来ということですね。
ドクタードクター
そうだね。では臨床の話をしよう。気管支動脈は気管支拡張症、肺結核後遺症、肺アスペルギルス症などで拡張・増生して、大量喀血の出血源になりやすいんだ。
医学生医学生
呼吸器内科の実習で、喀血の患者さんにカテーテル治療をすると聞いたことがあります。
ドクタードクター
それが気管支動脈塞栓術だね。大動脈から出る体循環系の血管だから、圧が高く出血量も多くなりやすい。起始部の解剖を理解していないと、カテーテルで目的の血管にたどり着けない。解剖の知識がそのまま治療に直結する好例なんだ。
医学生医学生
右は腕頭動脈を介する、椎骨動脈と内胸動脈は鎖骨下動脈の枝、気管支動脈は胸大動脈から直接。この3段階で整理しておきます。

まとめ

胸部大動脈は上行大動脈、大動脈弓、胸大動脈に分けられ、大動脈弓からは腕頭動脈、左総頸動脈、左鎖骨下動脈の3本が直接分枝します。右総頸動脈と右鎖骨下動脈は腕頭動脈から分かれ、椎骨動脈と内胸動脈は鎖骨下動脈の枝なので、大動脈からの直接分枝ではありません。気管支動脈は胸大動脈の臓側枝として直接起始し、肺動脈(機能血管)とは別に気管支や肺組織を養う栄養血管です。気管支拡張症や肺結核後遺症などでは拡張・増生して大量喀血の出血源となり、気管支動脈塞栓術の対象になります。左右差を含めた大動脈分枝の正常解剖は、画像診断やカテーテル治療を理解する土台になります。

解答・解説

正解はeです

胸部大動脈とその分枝の正常解剖を問う問題である。 胸部大動脈は、左心室から出た後の走行に沿って、上行大動脈、大動脈弓、胸大動脈(下行大動脈のうち横隔膜の大動脈裂孔を通過するまでの部分)の3部に分けられる。それぞれから直接出る枝は次のとおりである。 ・上行大動脈:左右の冠状動脈 ・大動脈弓:右側から順に腕頭動脈、左総頸動脈、左鎖骨下動脈の3本 ・胸大動脈:臓側枝(気管支動脈、食道動脈、心膜枝、縦隔枝)と壁側枝(肋間動脈〈第3〜11肋間〉、肋下動脈、上横隔動脈) 右側の頸部・上肢へ向かう血管は、大動脈弓から直接ではなく、いったん腕頭動脈として分かれてから右総頸動脈と右鎖骨下動脈に分岐する。この左右差を押さえておけば、大動脈から直接出るのは選択肢のうち気管支動脈だけであると判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  右総頸動脈

    右総頸動脈は腕頭動脈が胸鎖関節の後方で2本に分かれたうちの1本であり、大動脈から直接は出ない。これに対して左総頸動脈は大動脈弓から直接分枝する。左右で起始が異なる点が問われている。

  2. ×b.  右鎖骨下動脈

    右鎖骨下動脈も腕頭動脈から分枝するため、正常では大動脈から直接出ない。左鎖骨下動脈は大動脈弓から直接出る。なお、右鎖骨下動脈が大動脈弓の最後の枝として直接起始し、食道の後方を通って右へ向かう「右鎖骨下動脈起始異常(aberrant right subclavian artery)」という破格があるが、これは正常血管ではない。

  3. ×c.  右椎骨動脈

    椎骨動脈は左右とも鎖骨下動脈の最初の枝として起始し、頸椎の横突孔を上行して頭蓋内に入り、脳底動脈を形成する。右椎骨動脈は右鎖骨下動脈から出るため、大動脈からの直接分枝ではない。

  4. ×d.  内胸動脈

    内胸動脈は鎖骨下動脈から下方に分枝し、胸骨の外側縁に沿って前胸壁の裏を下行する(前肋間枝を出し、最終的に上腹壁動脈と筋横隔動脈に分かれる)。大動脈からの直接分枝ではない。冠動脈バイパス術のグラフトとして用いられる血管として重要である。

  5. ○e.  気管支動脈

    気管支動脈は胸大動脈(下行大動脈の胸部)の臓側枝として直接分枝し、気管支・肺組織・臓側胸膜などを栄養する体循環系の血管である。通常、左気管支動脈は胸大動脈から直接2本出ることが多い。右気管支動脈は胸大動脈から直接出るほか、第3肋間動脈(肋間動脈も胸大動脈の枝)と共通幹を作って起始することもある。したがって本選択肢が正常で大動脈から直接分枝する血管に該当する。

肺の二重血行支配

肺には、ガス交換のための機能血管である肺動脈(右心室から出る静脈血)と、肺・気管支自体を養う栄養血管である気管支動脈(大動脈から出る動脈血)の2系統が流入する。

気管支動脈の臨床的意義

気管支拡張症、肺結核後遺症、肺アスペルギルス症などでは気管支動脈が拡張・増生し、大量喀血の出血源となることが多い。このため大量喀血に対しては、カテーテルで気管支動脈を塞栓する気管支動脈塞栓術(BAE)が行われる。

大動脈弓の分枝の破格

左椎骨動脈が大動脈弓から直接起始する例や、右鎖骨下動脈起始異常など、分枝にはいくつかの破格が知られるが、試験では正常解剖を基本として判断する。

POINT

・大動脈弓の3分枝:腕頭動脈、左総頸動脈、左鎖骨下動脈。 ・右総頸動脈・右鎖骨下動脈は腕頭動脈から分枝し、椎骨動脈・内胸動脈は鎖骨下動脈の枝。 ・胸大動脈の臓側枝:気管支動脈、食道動脈。壁側枝:肋間動脈、上横隔動脈。 ・気管支動脈は肺の栄養血管で、大量喀血の出血源となりやすい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。