体重計が語る病態―「減る病気」と「増えて見える病気」を見分ける
第104回医師国家試験 G問題 第10問
国試問題にチャレンジ
体重減少を生じやすいのはどれか。2つ選べ。
- a.脳梗塞
- b.うつ病
- c.狭心症
- d.膵癌
- e.ネフローゼ症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
体重は摂取エネルギー、消費エネルギー、体内の水分量で決まり、体重減少は「摂取量の低下」「消化吸収障害」「エネルギーの喪失」「消費の亢進」の機序で整理できます。うつ病は食欲低下を中核症状とし、診断基準にも体重変化が含まれるため体重減少をきたしやすく、膵癌はがん悪液質に加えて膵外分泌不全による吸収障害、疼痛や通過障害による摂取低下、糖尿病の発症・悪化が重なり、体重減少が代表的な症状となります。脳梗塞や狭心症は動脈硬化性疾患で体重減少とは直接結びつかず、ネフローゼ症候群は浮腫により体重がむしろ増加します。体液貯留がある患者では栄養状態の悪化が体重に反映されにくい点にも注意が必要です。意図しない体重減少は日常診療で頻繁に出会う症候であり、機序から鑑別を組み立てる考え方は悪性腫瘍や精神疾患の見逃しを防ぐ基盤になります。
解答・解説
正解はb, dです
体重減少は日常診療でよく出会う症候であり、その背景にある疾患を系統立てて考えられるかが問われている。 体重は「摂取エネルギー」と「消費エネルギー」の差、そして「体内の水分量」によって変動する。したがって体重減少は、大きく次の機序に分けて整理できる。 1. 摂取量の低下:食欲不振(精神疾患、悪性腫瘍、慢性疾患)、嚥下障害、消化管の通過障害など 2. 消化・吸収の障害:膵外分泌不全、吸収不良症候群、炎症性腸疾患など 3. 利用障害・喪失:コントロール不良の糖尿病(尿糖としてエネルギーが失われる) 4. 消費の亢進:甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍、慢性感染症(結核など)、慢性炎症 一方、浮腫や腹水のように体液が貯留する病態では、実際には栄養状態が悪化していても体重はむしろ増える。 選択肢のうち、上記の機序が典型的に当てはまるのは、食欲低下を中核症状とするうつ病と、摂取低下・消化吸収障害・消費亢進が重なる膵癌である。脳梗塞と狭心症は動脈硬化を基盤とする血管疾患で、体重減少を特徴としない。ネフローゼ症候群は浮腫によって体重が増加する方向に働く。
選択肢考察
- ×a. 脳梗塞
脳梗塞は脳動脈の閉塞によって脳組織が壊死する疾患で、高血圧・糖尿病・脂質異常症・肥満など動脈硬化の危険因子を背景とすることが多い。疾患そのものが体重減少を引き起こすわけではない。ただし発症後に嚥下障害(球麻痺・偽性球麻痺)による経口摂取量の低下や、脳卒中後うつ(post-stroke depression)による食欲低下が加われば、二次的に体重が減ることはある。あくまで合併症を介した結果であり、「体重減少を生じやすい疾患」とはいえない。
- ○b. うつ病
うつ病では抑うつ気分と興味・喜びの喪失を中核とし、意欲低下とともに食欲が落ちて食事量が減るため、体重減少が起こりやすい。DSM-5の大うつ病エピソードの診断基準にも「食事療法をしていないのに有意の体重減少(1か月で5%以上の変化など)、またはほとんど毎日の食欲減退」が項目として含まれている。高齢者では身体疾患による体重減少と紛らわしく、原因不明の体重減少の鑑別として必ず挙げるべき疾患である。なお、非定型の特徴を伴ううつ病では逆に過食・体重増加がみられることもあるが、一般的には食欲低下・体重減少が典型的である。
- ×c. 狭心症
狭心症は冠動脈の狭窄や攣縮によって一過性に心筋虚血が生じ、胸痛などを起こす疾患である。肥満やメタボリックシンドローム、糖尿病などの動脈硬化危険因子を持つ人に多く、減量はむしろ治療・予防として推奨される側である。狭心症自体が食欲低下や代謝亢進を起こすことはなく、体重減少を生じやすい疾患ではない。(なお、進行した慢性心不全では心臓悪液質による体重減少がありうるが、これは狭心症の典型像ではない。)
- ○d. 膵癌
悪性腫瘍は一般に消耗性疾患であり、腫瘍由来や宿主由来のサイトカイン(TNF-α、IL-6など)による食欲低下と代謝亢進(がん悪液質)によって体重が減少する。膵癌ではこれに加えて、①膵管閉塞による膵外分泌機能の低下で脂肪などの消化吸収が障害される(脂肪便)、②腹痛・背部痛や十二指腸浸潤による通過障害で食事がとれない、③膵内分泌機能の低下で糖尿病の新規発症・増悪が起こる、といった膵癌特有の要因が重なる。早期には特異的な症状に乏しく、体重減少・食欲不振・腹痛・黄疸などが出た時点で進行していることが多い。体重減少は膵癌の代表的な初発症状の一つである。
- ×e. ネフローゼ症候群
ネフローゼ症候群は糸球体からの大量の蛋白尿(3.5 g/日以上)によって低アルブミン血症(血清アルブミン3.0 g/dL以下)をきたす病態で、浮腫と脂質異常症を伴う。血漿膠質浸透圧の低下や腎での Na 貯留により体液が間質や体腔(胸水・腹水)に貯留するため、体重はむしろ増加する。浮腫の程度を体重で評価し、利尿薬などの治療効果の指標にするほどである。したがって体重減少を生じやすい疾患には当たらない。
体重減少の定義と臨床的意義
一般に、6〜12か月の間に意図しない体重減少が5%以上ある場合を臨床的に有意とし、原因検索の対象とする。
体重減少の主な原因(機序別)
・摂取量の低下:うつ病、神経性やせ症、認知症、悪性腫瘍、慢性疾患、嚥下障害、口腔内疾患、消化管狭窄、薬剤性、社会的要因(独居・貧困) ・消化吸収障害:慢性膵炎、膵癌、吸収不良症候群、炎症性腸疾患(Crohn病など) ・エネルギーの喪失:コントロール不良の糖尿病(尿糖) ・代謝の亢進:甲状腺機能亢進症(Basedow病)、悪性腫瘍、結核などの慢性感染症、HIV感染症、褐色細胞腫 ・その他:副腎皮質機能低下症(Addison病)、慢性心不全・COPDの進行期(悪液質)
体重増加をきたす病態との対比
・体液貯留:ネフローゼ症候群、心不全、肝硬変(腹水)、腎不全 ・代謝低下や脂肪蓄積:甲状腺機能低下症、Cushing症候群 ・薬剤:副腎皮質ステロイド、抗精神病薬など 浮腫・腹水がある患者では、筋肉量や脂肪量が減っていても体重に反映されにくい点に注意する。
膵癌の特徴
膵管癌(浸潤性膵管癌)が大部分を占め、予後は極めて不良である。危険因子として喫煙、糖尿病、慢性膵炎、膵嚢胞(IPMN:膵管内乳頭粘液性腫瘍)、家族歴などがある。膵頭部癌では閉塞性黄疸で見つかることがあり、膵体尾部癌は症状が出にくく進行して発見されやすい。
POINT
・体重減少の機序は「摂取低下」「消化吸収障害」「喪失」「消費亢進」で整理する。 ・うつ病は食欲低下による体重減少が典型的で、診断基準にも体重変化が含まれる。 ・悪性腫瘍、とくに膵癌は悪液質+膵外分泌不全+糖尿病などで体重減少をきたしやすい。 ・ネフローゼ症候群は浮腫により体重がむしろ増加する。 ・脳梗塞・狭心症は動脈硬化性疾患で、体重減少との直接の関係はない。
