StudyMed医師国家試験

体重計が語る病態―「減る病気」と「増えて見える病気」を見分ける

第104回医師国家試験 G問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第104回 G問題 第10問

体重減少を生じやすいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.脳梗塞
  2. b.うつ病
  3. c.狭心症
  4. d.膵癌
  5. e.ネフローゼ症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、体重減少をきたしやすい疾患を選ぶ問題だ。個々の病名を暗記で当てるのではなく、「体重はなぜ減るのか」という機序から整理すると迷わない。体重を決める要素には何があると思う?
医学生医学生
食べる量と使う量のバランス、でしょうか。
ドクタードクター
その通り、摂取エネルギーと消費エネルギーの差だね。もう一つ忘れやすいのが体内の水分量だ。この3つを軸にすると、体重減少は「摂取量の低下」「消化吸収の障害」「尿糖のようなエネルギーの喪失」「消費の亢進」の4つに分けて整理できる。
医学生医学生
生理学で習ったエネルギー収支の話が、ここで症候学につながるんですね。
ドクタードクター
そういうこと。では選択肢を見ていこう。まずうつ病はどうかな。
医学生医学生
精神科の実習で、食欲がなくて数か月で何キロも痩せた患者さんを担当しました。うつ病は体重減少しやすいと思います。
ドクタードクター
いい経験をしたね。うつ病は抑うつ気分と興味・喜びの喪失が中核で、意欲低下とともに食欲が落ちる。DSM-5の診断基準にも、意図しない有意な体重減少やほぼ毎日の食欲減退が項目として入っているくらいだ。だから正解の一つだね。
医学生医学生
逆に、過食で太るうつ病もあると聞いたことがあります。
ドクタードクター
よく知っているね。非定型の特徴を伴ううつ病では過食や体重増加がみられることもある。ただ一般的には食欲低下と体重減少が典型的だ。特に高齢者では、原因不明の体重減少の鑑別にうつ病を必ず入れておきたい。では膵癌は?
医学生医学生
悪性腫瘍なので悪液質で痩せる、というイメージです。
ドクタードクター
それは基本として正しい。腫瘍や宿主が出すTNF-αやIL-6などのサイトカインで、食欲が落ちて代謝は亢進する。膵癌はそれに加えて、膵管閉塞で膵外分泌が落ちて脂肪の消化吸収が障害されること、腹痛や背部痛、十二指腸への浸潤で食べられないこと、膵内分泌が落ちて糖尿病が新たに出たり悪化したりすること、といった膵臓ならではの要因が重なるんだ。
医学生医学生
4つの機序のうち、ほとんど全部が当てはまるんですね。だから体重減少が代表的な症状になるのか。
ドクタードクター
その通り。膵癌は早期の症状に乏しく、体重減少や黄疸、腹痛が出た時点で進行していることが多い。こちらも正解だ。では残りの選択肢。脳梗塞と狭心症はどうだろう。
医学生医学生
どちらも動脈硬化が背景なので、むしろ肥満や糖尿病の人に多い病気ですよね。でも脳梗塞のあとに痩せる人もいそうです。
ドクタードクター
良い指摘だ。脳梗塞そのものが体重を減らすわけではないけれど、嚥下障害で経口摂取が減ったり、脳卒中後うつで食欲が落ちたりすれば、二次的に痩せることはある。ただそれは合併症を介した結果で、「体重減少を生じやすい疾患」とは言えない。狭心症も一過性の心筋虚血であって、食欲低下や代謝亢進は起こさない。減量はむしろ予防・治療として勧められる側だね。
医学生医学生
ネフローゼ症候群は、蛋白が尿に漏れて低栄養になるので痩せると思ったんですが……。
ドクタードクター
そこがこの問題の引っかけだ。大量の蛋白尿で低アルブミン血症になると、膠質浸透圧が下がり、腎でのNa貯留も加わって、浮腫や胸水・腹水として水がたまる。だから体重はむしろ増えるんだ。臨床では浮腫の評価や利尿薬の効果判定に毎日の体重を使うほどだよ。
医学生医学生
腎臓内科を回ったとき、毎朝の体重測定を確認していたのはそのためだったんですね。
ドクタードクター
そう。そして大事なのは、浮腫や腹水がある患者では、筋肉や脂肪が減っていても体重に表れにくいことだ。心不全や肝硬変も同じで、体重だけで栄養状態を判断しないよう注意したい。
医学生医学生
体重減少の鑑別では、どこから有意と考えればいいでしょうか。
ドクタードクター
一般に6〜12か月で意図しない5%以上の減少があれば、原因検索の対象とする。悪性腫瘍、うつ病のほか、甲状腺機能亢進症、コントロール不良の糖尿病、結核などの慢性感染症、炎症性腸疾患、Addison病なども候補だ。先ほどの4つの機序に当てはめて、一つずつ確かめていくといい。

まとめ

体重は摂取エネルギー、消費エネルギー、体内の水分量で決まり、体重減少は「摂取量の低下」「消化吸収障害」「エネルギーの喪失」「消費の亢進」の機序で整理できます。うつ病は食欲低下を中核症状とし、診断基準にも体重変化が含まれるため体重減少をきたしやすく、膵癌はがん悪液質に加えて膵外分泌不全による吸収障害、疼痛や通過障害による摂取低下、糖尿病の発症・悪化が重なり、体重減少が代表的な症状となります。脳梗塞や狭心症は動脈硬化性疾患で体重減少とは直接結びつかず、ネフローゼ症候群は浮腫により体重がむしろ増加します。体液貯留がある患者では栄養状態の悪化が体重に反映されにくい点にも注意が必要です。意図しない体重減少は日常診療で頻繁に出会う症候であり、機序から鑑別を組み立てる考え方は悪性腫瘍や精神疾患の見逃しを防ぐ基盤になります。

解答・解説

正解はb, dです

体重減少は日常診療でよく出会う症候であり、その背景にある疾患を系統立てて考えられるかが問われている。 体重は「摂取エネルギー」と「消費エネルギー」の差、そして「体内の水分量」によって変動する。したがって体重減少は、大きく次の機序に分けて整理できる。 1. 摂取量の低下:食欲不振(精神疾患、悪性腫瘍、慢性疾患)、嚥下障害、消化管の通過障害など 2. 消化・吸収の障害:膵外分泌不全、吸収不良症候群、炎症性腸疾患など 3. 利用障害・喪失:コントロール不良の糖尿病(尿糖としてエネルギーが失われる) 4. 消費の亢進:甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍、慢性感染症(結核など)、慢性炎症 一方、浮腫や腹水のように体液が貯留する病態では、実際には栄養状態が悪化していても体重はむしろ増える。 選択肢のうち、上記の機序が典型的に当てはまるのは、食欲低下を中核症状とするうつ病と、摂取低下・消化吸収障害・消費亢進が重なる膵癌である。脳梗塞と狭心症は動脈硬化を基盤とする血管疾患で、体重減少を特徴としない。ネフローゼ症候群は浮腫によって体重が増加する方向に働く。

選択肢考察

  1. ×a.  脳梗塞

    脳梗塞は脳動脈の閉塞によって脳組織が壊死する疾患で、高血圧・糖尿病・脂質異常症・肥満など動脈硬化の危険因子を背景とすることが多い。疾患そのものが体重減少を引き起こすわけではない。ただし発症後に嚥下障害(球麻痺・偽性球麻痺)による経口摂取量の低下や、脳卒中後うつ(post-stroke depression)による食欲低下が加われば、二次的に体重が減ることはある。あくまで合併症を介した結果であり、「体重減少を生じやすい疾患」とはいえない。

  2. ○b.  うつ病

    うつ病では抑うつ気分と興味・喜びの喪失を中核とし、意欲低下とともに食欲が落ちて食事量が減るため、体重減少が起こりやすい。DSM-5の大うつ病エピソードの診断基準にも「食事療法をしていないのに有意の体重減少(1か月で5%以上の変化など)、またはほとんど毎日の食欲減退」が項目として含まれている。高齢者では身体疾患による体重減少と紛らわしく、原因不明の体重減少の鑑別として必ず挙げるべき疾患である。なお、非定型の特徴を伴ううつ病では逆に過食・体重増加がみられることもあるが、一般的には食欲低下・体重減少が典型的である。

  3. ×c.  狭心症

    狭心症は冠動脈の狭窄や攣縮によって一過性に心筋虚血が生じ、胸痛などを起こす疾患である。肥満やメタボリックシンドローム、糖尿病などの動脈硬化危険因子を持つ人に多く、減量はむしろ治療・予防として推奨される側である。狭心症自体が食欲低下や代謝亢進を起こすことはなく、体重減少を生じやすい疾患ではない。(なお、進行した慢性心不全では心臓悪液質による体重減少がありうるが、これは狭心症の典型像ではない。)

  4. ○d.  膵癌

    悪性腫瘍は一般に消耗性疾患であり、腫瘍由来や宿主由来のサイトカイン(TNF-α、IL-6など)による食欲低下と代謝亢進(がん悪液質)によって体重が減少する。膵癌ではこれに加えて、①膵管閉塞による膵外分泌機能の低下で脂肪などの消化吸収が障害される(脂肪便)、②腹痛・背部痛や十二指腸浸潤による通過障害で食事がとれない、③膵内分泌機能の低下で糖尿病の新規発症・増悪が起こる、といった膵癌特有の要因が重なる。早期には特異的な症状に乏しく、体重減少・食欲不振・腹痛・黄疸などが出た時点で進行していることが多い。体重減少は膵癌の代表的な初発症状の一つである。

  5. ×e.  ネフローゼ症候群

    ネフローゼ症候群は糸球体からの大量の蛋白尿(3.5 g/日以上)によって低アルブミン血症(血清アルブミン3.0 g/dL以下)をきたす病態で、浮腫と脂質異常症を伴う。血漿膠質浸透圧の低下や腎での Na 貯留により体液が間質や体腔(胸水・腹水)に貯留するため、体重はむしろ増加する。浮腫の程度を体重で評価し、利尿薬などの治療効果の指標にするほどである。したがって体重減少を生じやすい疾患には当たらない。

体重減少の定義と臨床的意義

一般に、6〜12か月の間に意図しない体重減少が5%以上ある場合を臨床的に有意とし、原因検索の対象とする。

体重減少の主な原因(機序別)

・摂取量の低下:うつ病、神経性やせ症、認知症、悪性腫瘍、慢性疾患、嚥下障害、口腔内疾患、消化管狭窄、薬剤性、社会的要因(独居・貧困) ・消化吸収障害:慢性膵炎、膵癌、吸収不良症候群、炎症性腸疾患(Crohn病など) ・エネルギーの喪失:コントロール不良の糖尿病(尿糖) ・代謝の亢進:甲状腺機能亢進症(Basedow病)、悪性腫瘍、結核などの慢性感染症、HIV感染症、褐色細胞腫 ・その他:副腎皮質機能低下症(Addison病)、慢性心不全・COPDの進行期(悪液質)

体重増加をきたす病態との対比

・体液貯留:ネフローゼ症候群、心不全、肝硬変(腹水)、腎不全 ・代謝低下や脂肪蓄積:甲状腺機能低下症、Cushing症候群 ・薬剤:副腎皮質ステロイド、抗精神病薬など 浮腫・腹水がある患者では、筋肉量や脂肪量が減っていても体重に反映されにくい点に注意する。

膵癌の特徴

膵管癌(浸潤性膵管癌)が大部分を占め、予後は極めて不良である。危険因子として喫煙、糖尿病、慢性膵炎、膵嚢胞(IPMN:膵管内乳頭粘液性腫瘍)、家族歴などがある。膵頭部癌では閉塞性黄疸で見つかることがあり、膵体尾部癌は症状が出にくく進行して発見されやすい。

POINT

・体重減少の機序は「摂取低下」「消化吸収障害」「喪失」「消費亢進」で整理する。 ・うつ病は食欲低下による体重減少が典型的で、診断基準にも体重変化が含まれる。 ・悪性腫瘍、とくに膵癌は悪液質+膵外分泌不全+糖尿病などで体重減少をきたしやすい。 ・ネフローゼ症候群は浮腫により体重がむしろ増加する。 ・脳梗塞・狭心症は動脈硬化性疾患で、体重減少との直接の関係はない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。