昏睡でも瞳孔は語る―「開ける眼」を変えて見抜く片側視神経損傷
第104回医師国家試験 E問題 第50問
国試問題にチャレンジ
28歳の女性。自転車を運転中に乗用車と衝突して搬入された。意識は昏睡。脈拍88/分,整。血圧124/78 mmHg。右眼のみを開瞼すると右瞳孔径は4 mmで,同時に左眼を開瞼しても右瞳孔径は変化しない。左眼のみを開瞼すると左瞳孔径は6 mmで,同時に右眼を開瞼すると左瞳孔径は4 mmに収縮する。両眼とも眼底に異常を認めない。 瞳孔異常の障害部位として最も考えられるのはどれか。
- a.視交叉
- b.左視神経
- c.右後頭葉
- d.左動眼神経
- e.右外側膝状体
対話形式の解説
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ドクターまとめ
対光反射は、網膜から視神経・視索を経て中脳の視蓋前域へ至る求心路と、Edinger-Westphal核から動眼神経を経て瞳孔括約筋へ至る遠心路に分けて考えます。直接反射が消失し間接反射が保たれる眼は、その眼の求心路障害を示し、片眼だけの入力途絶は視交叉より前の視神経(または網膜)の病変で生じます。本例は左眼の光で両眼とも縮瞳せず、右眼の光で左瞳孔が縮むことから左視神経障害と判断でき、眼底正常の頭部外傷例では外傷性視神経症が考えられます。一方、動眼神経麻痺ではどちらの眼に光を入れても患側瞳孔が縮まず、外側膝状体・視放線・後頭葉の障害では対光反射は保たれます。視力を測れない昏睡患者でも瞳孔所見から障害部位を論理的に推定できることは、救急・神経診療で欠かせない技術です。
解答・解説
正解はbです
状況の整理
・28歳女性、自転車と乗用車の衝突による頭部外傷。昏睡状態のため、視力や視野を本人に答えてもらう検査はできない。そこで、瞼を開けて眼に光を入れたときの瞳孔の反応(対光反射)から、視覚路のどこが障害されているかを推定する設問である。 ・閉瞼している眼には光が入らない。したがって「どちらの眼を開瞼したか」=「どちらの眼に光刺激を入れたか」と読み替えるとよい。
対光反射の経路
入力(求心路):網膜 → 視神経 → 視交叉(鼻側線維が交叉)→ 視索 → 視蓋前域(中脳) 出力(遠心路):視蓋前域から両側のEdinger-Westphal核(動眼神経副核)へ → 動眼神経(副交感神経線維)→ 毛様体神経節 → 瞳孔括約筋 視蓋前域から両側のEdinger-Westphal核へ連絡しているため、片眼に光を入れると両眼が縮瞳する。光を入れた眼の縮瞳を直接対光反射、反対眼の縮瞳を間接対光反射(共感性対光反射)という。
所見の読み取り
1. 右眼のみ開瞼(右眼に光)→ 右瞳孔4 mm:右眼からの入力と右眼の出力は正常である。 2. さらに左眼も開瞼(左眼にも光を追加)→ 右瞳孔は変化しない:左眼に光を加えても縮瞳が強まらず、左眼からの入力が中枢に届いていないことを示唆する。 3. 左眼のみ開瞼(左眼に光)→ 左瞳孔6 mm:左眼の直接対光反射がみられない。これだけでは「左眼の入力が障害されている」のか「左眼の出力(動眼神経)が障害されている」のか区別できない。 4. さらに右眼も開瞼(右眼に光)→ 左瞳孔が4 mmに縮瞳:右眼の光で左眼が縮むので、左の間接対光反射は保たれている。つまり左の動眼神経・瞳孔括約筋(出力)は正常である。 以上から、左眼に光が入っても反応しないのは、左眼からの光の情報を中枢へ伝える入力側(求心路)の障害による。求心路のうち片眼だけの入力が完全に途絶するのは、視交叉より前、すなわち左視神経(または左網膜)の障害である。眼底に異常がないので網膜病変は考えにくく、頭部外傷に伴う外傷性視神経症(視神経管骨折などによる視神経損傷)が最も考えられる。このような瞳孔を黒内障性瞳孔(求心性瞳孔障害)という。
選択肢考察
- ×a. 視交叉
視交叉では左右両眼からの線維が集まり、両眼の鼻側網膜からの線維がここで交叉する。視交叉の障害では両耳側半盲などの両眼性の視野障害が生じ、瞳孔反応への影響も一方の眼だけに限定されない。本例のように右眼からの入力は完全に保たれ、左眼からの入力だけが途絶している状態は説明できない。
- ○b. 左視神経
左眼に光を入れても左右どちらの瞳孔も縮瞳せず(左の直接反射消失、右瞳孔も変化なし)、右眼に光を入れると左瞳孔が縮瞳する(左の間接反射は保たれる)。これは左眼の出力(動眼神経)は正常で、左眼からの入力だけが途絶していることを示す。片眼の入力が完全に失われるのは視交叉より手前の障害であり、左視神経の損傷(外傷性視神経症)で説明できる。受傷直後は視神経萎縮がまだ現れないため、眼底が正常であることとも矛盾しない。
- ×c. 右後頭葉
右後頭葉(視覚野)の障害では左同名半盲が生じる。しかし対光反射の入力線維は、外側膝状体に入る手前の視索から分かれて中脳の視蓋前域に向かうため、後頭葉より後ろの視覚路の障害では対光反射は障害されない。瞳孔所見の説明にはならない。
- ×d. 左動眼神経
左動眼神経が障害されると、左瞳孔括約筋への出力が途絶するため、どちらの眼に光を入れても左瞳孔は縮瞳しない(左の直接・間接反射がともに消失)。本例では右眼に光を入れると左瞳孔が4 mmに縮瞳しており、左動眼神経の機能は保たれている。なお、頭部外傷で動眼神経麻痺による一側の散瞳が生じた場合は、鉤ヘルニアを疑う重要な徴候となる。
- ×e. 右外側膝状体
外側膝状体は視床にある視覚の中継核で、ここから視放線を経て後頭葉へ投射する。右外側膝状体の障害では左同名半盲が生じる。対光反射の入力線維は外側膝状体に入らずに視蓋前域へ向かうため、外側膝状体の障害では対光反射は障害されない。
対光反射の反射弓
網膜 → 視神経 → 視交叉 → 視索 → 上丘腕 → 視蓋前域 → 両側のEdinger-Westphal核 → 動眼神経 → 毛様体神経節 → 短毛様体神経 → 瞳孔括約筋 ・視覚情報を伝える線維の大部分は外側膝状体から後頭葉へ向かうが、瞳孔反射の線維は外側膝状体の手前で分かれて中脳へ向かう。そのため外側膝状体・視放線・後頭葉の障害では、視野障害があっても対光反射は保たれる。
障害部位と瞳孔反応の整理(左側が障害された場合)
・左視神経(求心路)の完全障害:左眼への光で両眼とも縮瞳しない。右眼への光では両眼とも縮瞳する。通常の室内の明るさでは両眼の瞳孔径はほぼ等しい(瞳孔径は両眼の入力の合計で決まるため)。 ・左動眼神経(遠心路)の障害:左瞳孔はどちらの眼に光を入れても縮瞳せず、散瞳している。右瞳孔はどちらの眼への光でも縮瞳する。眼瞼下垂や眼球運動障害を伴うことが多い。
相対的瞳孔求心路障害(RAPD)とswinging flashlight test
・光を左右の眼に交互に当てると、入力が弱い側の眼に光を移したときに両眼の瞳孔がかえって散大する。この現象をMarcus Gunn瞳孔(RAPD)といい、視神経炎や外傷性視神経症など片側の視神経障害の検出に有用である。意識障害があり視力を測れない患者でも客観的に評価できる。
外傷性視神経症
・頭部・顔面(特に眉毛外側部)の打撲で、視神経管部の視神経が損傷されて生じる。受傷直後は眼底が正常で、数週間後に視神経乳頭の蒼白化(視神経萎縮)が現れる。意識障害のある外傷患者では見逃されやすく、瞳孔所見が診断の手がかりとなる。
POINT
・対光反射は、求心路(視神経)と遠心路(動眼神経)を分けて考える。 ・直接反射が消失し間接反射が保たれる眼 → その眼の求心路(視神経)の障害。 ・どちらの眼に光を入れても縮瞳しない眼 → その眼の遠心路(動眼神経)の障害。 ・片眼だけの求心路障害は視交叉より前(視神経・網膜)の病変で起こる。 ・外側膝状体・視放線・後頭葉の障害では対光反射は保たれる。 ・頭部外傷後で眼底正常の片眼の求心性瞳孔障害は外傷性視神経症を考える。
