StudyMed医師国家試験

「まだできない」と「もうできているはず」―1歳6か月児健診で見逃してはいけない発達のサイン

第104回医師国家試験 E問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第104回 E問題 第13問

1歳6か月児で異常が疑われるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.靴を履けない。
  2. b.丸を描けない。
  3. c.二語文を話さない。
  4. d.ひとり立ちできない。
  5. e.名前を呼ばれても振り向かない。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は乳幼児の発達の問題だ。1歳6か月の時点で「まだできなくて当然のこと」と「すでにできていないとおかしいこと」を区別できるかがポイントになる。各行動がだいたい何歳ごろにできるようになるかを思い浮かべながら考えてみよう。
医学生医学生
発達のマイルストーンは小児科の講義で表を覚えましたが、月齢が細かくて混乱しがちです。どれも1歳半ならできそうな気もしてしまいます。
ドクタードクター
そこが落とし穴なんだ。大事なのは、平均的にいつできるかだけでなく、大多数の子がいつまでにできているかを意識すること。多くの子がすでに獲得している行動ができていなければ遅れを疑うけれど、もっと後に獲得するのが普通の行動なら、できなくても異常とはいえない。まずは運動発達から見てみよう。ひとり立ちはいつごろできるかな。
医学生医学生
つかまり立ちが9〜10か月ごろで、ひとり立ちは1歳前後、そのあと歩き出す流れだったと思います。
ドクタードクター
その通り。ひとり立ちは生後10〜12か月ごろ、ひとり歩きは1歳〜1歳3か月ごろだ。1歳6か月はひとり歩きがほぼ完成していて、走り始める子もいる時期。その前段階のひとり立ちすらできないのは、明らかな粗大運動の遅れなんだ。
医学生医学生
そうなると、脳性麻痺や神経筋疾患なども考えないといけないですね。
ドクタードクター
そう、全般的な発達遅滞も含めて精査が必要になる。次に、名前を呼ばれても振り向かないという所見はどうだろう。
医学生医学生
呼名に振り向くのは生後9〜10か月ごろだったはずなので、1歳半でできないのは遅れだと思います。原因としてはまず自閉スペクトラム症でしょうか。
ドクタードクター
自閉スペクトラム症も大事な鑑別だけれど、最初に確認すべきなのは聴こえなんだ。そもそも声が届いていなければ振り向けないからね。まず聴力検査で難聴を除外し、聴力が正常なら、人とのやりとりや呼びかけへの関心が乏しいことを示す所見として、社会性・コミュニケーションの発達の問題を考える。
医学生医学生
臨床実習で小児科を回ったとき、言葉の遅れで紹介された子が、実は難聴だったという話を指導医の先生から聞きました。聴こえの確認は基本なんですね。
ドクタードクター
いい経験をしているね。難聴は言語発達にも直結するから、早く見つけるほど介入の効果が大きい。では、残りの3つも確認しよう。二語文はどうかな。
医学生医学生
二語文は2歳ごろなので、1歳半で話さなくても正常範囲ですね。
ドクタードクター
正解。1歳6か月では「ママ」「ブーブー」のような意味のある単語、つまり有意語がいくつか出ていれば十分なんだ。ただし、有意語がまったく出ていない場合は、言語発達の遅れや難聴を考えて経過を追う必要がある。二語文の有無と有意語の有無を混同しないようにね。
医学生医学生
丸を描くのは3歳でしたよね。1歳半だと、まだぐちゃぐちゃのなぐり描きの段階だと思います。
ドクタードクター
そうだね。図形の模写は丸が3歳、十字が3歳半〜4歳、四角が4歳、三角が5歳ごろという順番で、角が増えるほど難しくなると覚えるといい。最後に靴を履くのはどうかな。
医学生医学生
靴は意外と難しそうです。バランスを取りながら手先も使うので、もっと後だと思います。
ドクタードクター
その感覚で合っているよ。自分で靴を履けるのは2歳半〜3歳ごろで、立位や座位のバランス、手指の協調運動、左右の理解が必要になる。だから1歳6か月で履けなくても異常ではない。というわけで、異常を疑うのはひとり立ちができないことと、名前を呼ばれても振り向かないことの2つだ。
医学生医学生
1歳半より後に獲得するのが普通のものは外して、もっと前にできているはずのものだけを選ぶ、という考え方ですね。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床での視点も押さえておこう。1歳6か月児健康診査は、3歳児健康診査とともに母子保健法に基づいて市町村が行う法定健診だ。ひとり歩き、有意語、指さし、簡単な指示への反応、呼名への反応や視線が合うかなどを確認して、発達の遅れや難聴、自閉スペクトラム症などを早く見つけることが目的なんだ。
医学生医学生
指さしもチェック項目なんですね。共同注意の発達を見ているということでしょうか。
ドクタードクター
よく知っているね。指さしや視線の共有は社会性の発達を反映する大切なサインだ。それから、発達には個人差があるから、一つの項目が少し遅れただけで決めつけず、運動、言語、社会性など複数の領域を総合して評価すること。保護者の不安に寄り添いながら、必要な子を適切な精査や支援につなげるのが小児科医の役割だよ。

まとめ

乳幼児の発達評価では、平均的な獲得時期だけでなく、大多数の子がいつまでに獲得しているかを基準に遅れを判断することが重要です。1歳6か月はひとり歩きがほぼ完成する時期であり、ひとり立ち(10〜12か月ごろ)ができないのは粗大運動の明らかな遅れ、呼名への振り向き(9〜10か月ごろ)がないのは、まず難聴を疑い、次に自閉スペクトラム症などを考えるべき所見です。一方、二語文(2歳ごろ)、丸の模写(3歳ごろ)、靴を履く(2歳半〜3歳ごろ)は1歳6か月より後に獲得する能力で、できなくても異常とはいえません。1歳6か月児健診では運動・言語・社会性を総合して評価し、発達の問題を早期に見つけて支援につなげることが求められます。主なマイルストーンを時期の順に整理しておくことは、国家試験対策だけでなく、健診や外来で保護者に適切な説明をするための基礎になります。

解答・解説

正解はd, eです

本問は、1歳6か月の時点で「まだできなくて当然のこと」と「すでにできていなければ異常を疑うこと」を区別できるかを問う発達の問題である。 発達の評価では、ある行動が「平均して何歳ころにできるか(通過年齢の目安)」だけでなく、「大多数(おおむね90%)の子がいつまでにできるか」を意識することが大切である。ある月齢で多くの子がすでに獲得している行動ができていないときに、はじめて発達の遅れを疑う。逆に、その月齢より後に獲得するのが普通の行動ができなくても異常とはいえない。 1歳6か月児では、粗大運動としてひとり歩きがほぼ完成しており、ひとり立ちはその前段階(生後10~12か月ころ)の到達目標である。社会性・聴覚の面では、名前を呼ばれると振り向く反応は生後9~10か月ころには認められる。したがって、ひとり立ちができない、あるいは呼名に反応しないという所見は、1歳6か月児では明らかに遅れている状態である。 一方、靴を自分で履く(2歳半~3歳ころ)、丸を描く(3歳ころ)、二語文を話す(2歳ころ)はいずれも1歳6か月より後に獲得する能力であり、この時点でできなくても異常とはいえない。 以上から、異常が疑われるのはd(ひとり立ちできない)とe(名前を呼ばれても振り向かない)である。

選択肢考察

  1. ×a.  靴を履けない。

    靴を自分で履けるようになるのは2歳半~3歳ころである。靴を履くには、立位や座位でのバランス、左右の区別、手指の協調運動などが必要で、1歳6か月ではまだ難しい。この時点で履けなくても異常とはいえない。

  2. ×b.  丸を描けない。

    図形の模写は、丸(円)が3歳、十字が3歳半~4歳ころ、四角が4歳、三角が5歳ころに可能となる。1歳6か月では鉛筆やクレヨンで「なぐり描き」をする段階であり、丸が描けないのは正常範囲である。

  3. ×c.  二語文を話さない。

    「ワンワン、きた」のような二語文は2歳ころに出現する。1歳6か月では「ママ」「ブーブー」などの意味のある単語(有意語)がいくつか出ていればよく、二語文が出ていなくても異常とはいえない。なお、1歳6か月で有意語が全く出ない場合は、言語発達の遅れや難聴などを考えて経過をみる必要がある。

  4. ○d.  ひとり立ちできない。

    ひとり立ち(支えなしで立つ)は生後10~12か月ころに可能となり、続いて1歳~1歳3か月ころにひとり歩きができるようになる。1歳6か月はひとり歩きがほぼ完成している時期であり、その前段階のひとり立ちすらできないのは明らかな粗大運動発達の遅れである。脳性麻痺、神経筋疾患、全般的な発達遅滞などの精査が必要となる。

  5. ○e.  名前を呼ばれても振り向かない。

    名前を呼ばれて振り向く反応は、生後9~10か月ころにはみられる。1歳6か月でこの反応がない場合、まず聴力障害(難聴)を疑い、聴力検査を行う必要がある。聴力が正常であれば、呼びかけへの関心や人とのやりとりが乏しいことを示す所見として、自閉スペクトラム症などの社会性・コミュニケーションの発達の問題も考慮する。

主な発達の目安(おおよその通過時期)

粗大運動: 首すわり 3~4か月、寝返り 5~6か月、ひとり座り 7~8か月、つかまり立ち 9~10か月、ひとり立ち 10~12か月、ひとり歩き 1歳~1歳3か月、走る 1歳6か月ころ、両足跳び 2歳、片足立ち 3歳、スキップ 5歳 微細運動・描画: なぐり描き 1歳~1歳6か月、丸の模写 3歳、十字 3歳半~4歳、四角 4歳、三角 5歳 言語: 喃語 6か月ころ、有意語(単語)1歳ころ、二語文 2歳ころ、三語文・自分の名前を言う 3歳ころ 社会性・生活習慣: 人見知り 6~8か月、呼名に振り向く 9~10か月、バイバイ・模倣 10か月~1歳、靴を履く 2歳半~3歳、ボタンをはめる 3~4歳

1歳6か月児健康診査

母子保健法に基づき市町村が実施する法定健診の一つで、3歳児健康診査とともに行われる。運動発達(ひとり歩きができるか)、精神・言語発達(意味のある単語が出ているか、指さしをするか、簡単な指示に従えるか)、社会性(呼名への反応、視線が合うか)などを確認し、発達の遅れや聴力・視力の異常、自閉スペクトラム症などを早期に発見することを目的としている。

評価の考え方

発達には個人差があるため、「平均的な獲得時期」を少し過ぎただけで異常とはせず、大部分の子がすでに獲得している時期を過ぎても未獲得の場合に遅れを疑う。また、一つの領域だけでなく、運動・言語・社会性など複数の領域を総合して評価する。

POINT

・1歳6か月では「ひとり歩き」が完成している時期であり、ひとり立ちができないのは遅れである。 ・名前を呼んでも振り向かない場合は、まず難聴を疑い、次に自閉スペクトラム症なども考える。 ・靴を履く(2歳半~3歳)、丸を描く(3歳)、二語文(2歳)は1歳6か月ではできなくてよい。 ・図形の模写は 丸3歳 → 四角4歳 → 三角5歳 の順。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。