網膜はなぜ剝がれるのか―「穴」「牽引」「滲み出し」で読み解く網膜剝離
第104回医師国家試験 D問題 第7問
国試問題にチャレンジ
網膜剝離の原因となる病態はどれか。2つ選べ。
- a.高眼圧
- b.網膜裂孔
- c.眼位異常
- d.水晶体融解
- e.眼内増殖組織による牽引
対話形式の解説
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ドクターまとめ
網膜剝離は、神経網膜が網膜色素上皮から離れて網膜下に液体がたまる病態で、裂孔原性・牽引性・滲出性の3つの機序に整理できます。網膜裂孔から液化硝子体が流入する裂孔原性網膜剝離が最も多く、強度近視や加齢による後部硝子体剝離が背景となり、飛蚊症・光視症が前駆症状です。増殖糖尿病網膜症などで形成される増殖膜の収縮は牽引性網膜剝離を起こし、Vogt-小柳-原田病などでは滲出液による滲出性網膜剝離が生じます。一方、高眼圧は緑内障、水晶体融解は水晶体融解緑内障やぶどう膜炎、眼位異常は斜視の問題であり、網膜剝離の原因ではありません。構造と機序から病態を理解しておくと、急な飛蚊症や視野欠損を訴える患者を前にしたときに見逃しを防ぐ判断につながります。
解答・解説
正解はb, eです
網膜剝離が起こる仕組みを問う問題である。 網膜は、光を受け取る神経網膜(感覚網膜)と、その外側にある網膜色素上皮の2層からなる。両者は発生学的にもともと別の層(眼杯の内層と外層)であり、強固に接着しているわけではない。網膜剝離とは、神経網膜が網膜色素上皮から離れ、その間(網膜下腔)に液体がたまった状態をいう。剝がれた神経網膜は脈絡膜からの栄養を受けられなくなり、放置すると視細胞が障害されて視力が失われる。 神経網膜が剝がれる原因は、次の3つの機序に整理できる。 1.裂孔原性網膜剝離:網膜に穴(網膜裂孔・円孔)があき、そこから液化した硝子体が網膜下に流れ込んで網膜を剝がす。最も頻度が高い病型である。 2.牽引性網膜剝離:硝子体内や網膜表面にできた線維血管性の増殖組織(増殖膜)が収縮し、網膜を内側へ引っ張って剝がす。増殖糖尿病網膜症が代表である。 3.滲出性(続発性)網膜剝離:裂孔も牽引もなく、脈絡膜や網膜の血管から漏れ出た滲出液が網膜下にたまる。Vogt-小柳-原田病、中心性漿液性脈絡網膜症、脈絡膜腫瘍、妊娠高血圧症候群などでみられる。 選択肢のうち、1の機序に当たる「網膜裂孔」と、2の機序に当たる「眼内増殖組織による牽引」が網膜剝離の原因となる。
選択肢考察
- ×a. 高眼圧
誤り。高眼圧は視神経乳頭を圧迫して視神経障害(緑内障性視神経症)を起こし、緑内障の危険因子となるが、網膜を色素上皮から剝がす原因にはならない。むしろ高い眼圧は網膜を眼球壁側へ押しつける方向に働く。実際には、裂孔原性網膜剝離では房水が網膜下へ流れ出るなどして眼圧はむしろ低下することが多い(例外として、剝離に伴って眼圧が上昇するSchwartz症候群がある)。
- ○b. 網膜裂孔
正しい。網膜裂孔は裂孔原性網膜剝離の直接の原因である。加齢や強度近視では硝子体が液化・収縮し、後部硝子体剝離が起こる。このとき硝子体が網膜と強く癒着している部位(格子状変性の部位など)で網膜が引っ張られて破れ、網膜裂孔(馬蹄形裂孔など)ができる。この裂孔から液化硝子体が網膜下腔へ流入すると神経網膜が色素上皮から剝がれる。前駆症状として飛蚊症や光視症(視野に光が走る)がみられ、剝離が広がると視野欠損、黄斑部に及ぶと急激な視力低下を来す。裂孔の段階で見つかれば網膜光凝固術で剝離への進行を防げるため、早期発見が重要である。
- ×c. 眼位異常
誤り。眼位異常(斜視)は、外眼筋やその神経支配、両眼視機能の異常などによって両眼の視線がそろわない状態であり、眼球の外にある外眼筋の問題である。眼球内部の網膜を剝がすような力は生じないため、網膜剝離の原因とはならない。なお、網膜剝離や黄斑疾患などで片眼の視力が高度に低下すると、両眼で像を融合できなくなって斜視(感覚性斜視)が生じることはあるが、これは視力障害の結果であり、原因と結果が逆である。
- ×d. 水晶体融解
誤り。過熟白内障などで水晶体の皮質が液化し、溶け出した水晶体蛋白が水晶体嚢から漏れると、それを貪食したマクロファージや蛋白そのものが線維柱帯(房水の流出路)を詰まらせ、眼圧が上昇する(水晶体融解緑内障)。また、漏出した水晶体蛋白に対する免疫反応でぶどう膜炎(水晶体起因性ぶどう膜炎)を起こすこともある。いずれも前眼部の問題であり、網膜剝離を起こす病態ではない。
- ○e. 眼内増殖組織による牽引
正しい。牽引性網膜剝離の機序である。網膜の虚血があると血管内皮増殖因子(VEGF)などが産生され、網膜から硝子体へ向かって新生血管とそれを伴う線維性の増殖組織(増殖膜)が形成される。この増殖膜が硝子体と癒着したまま収縮すると、網膜が内側に引っ張られて剝がれる。代表的な疾患は増殖糖尿病網膜症であり、ほかに未熟児網膜症、網膜静脈閉塞症、増殖硝子体網膜症(網膜剝離術後などに網膜表面に増殖膜が形成される状態)、眼外傷後などでも起こる。牽引性網膜剝離は裂孔を伴わずに起こる非裂孔原性網膜剝離の一つであり、治療には硝子体手術による増殖膜の除去が必要となる。
網膜剝離の病型と特徴
・裂孔原性網膜剝離:網膜裂孔から液化硝子体が網膜下に入る。好発は強度近視の若年者(格子状変性に生じた萎縮円孔による)と、後部硝子体剝離が起こりやすい50〜60歳代。外傷(特にボールなどの鈍的外傷)や白内障術後も危険因子となる。症状は飛蚊症・光視症→視野欠損→視力低下。剝離した網膜は眼底検査で灰白色に隆起して見える。治療は、裂孔のみなら網膜光凝固、剝離があれば強膜バックリング手術(強膜内陥術)や硝子体手術を行い、必要に応じてガスやシリコーンオイルで網膜を押さえる(術後は体位制限を要することがある)。 ・牽引性網膜剝離:増殖膜の収縮により網膜が引っ張られる。増殖糖尿病網膜症、未熟児網膜症など。治療は硝子体手術。 ・滲出性網膜剝離:網膜下に滲出液がたまる。Vogt-小柳-原田病、中心性漿液性脈絡網膜症、脈絡膜腫瘍(脈絡膜悪性黒色腫など)、Coats病、妊娠高血圧症候群、腎性網膜症など。原疾患の治療が中心で、原則として手術は行わない。体位によって網膜下液が移動するのが特徴である。
選択肢に関連する病態
・高眼圧→緑内障(視神経障害) ・水晶体融解→水晶体融解緑内障、水晶体起因性ぶどう膜炎 ・眼位異常→斜視、弱視の原因となりうる
POINT
・網膜剝離は神経網膜と網膜色素上皮の間が離れる病態である。 ・機序は裂孔原性(網膜裂孔から液化硝子体が流入)、牽引性(増殖膜の収縮による牽引)、滲出性(網膜下への滲出液貯留)の3つ。 ・牽引性網膜剝離の代表は増殖糖尿病網膜症、滲出性網膜剝離の代表はVogt-小柳-原田病。 ・裂孔原性網膜剝離の前駆症状は飛蚊症・光視症で、強度近視・加齢(後部硝子体剝離)・外傷が危険因子。 ・高眼圧は緑内障、水晶体融解は水晶体融解緑内障の原因であり、網膜剝離の原因ではない。
