StudyMed医師国家試験

60年前の熱傷瘢痕が崩れるとき―治らない潰瘍に潜むMarjolin潰瘍を見逃すな

第104回医師国家試験 D問題 第56問

国試問題にチャレンジ

第104回 D問題 第56問

68歳の女性。右下肢の潰瘍を主訴に来院した。60年前から右下肢に熱傷後の瘢痕があり,8か月前から同部が潰瘍化してきた。右膝窩の写真を別に示す。  治療として適切なのはどれか。

第104回 D問題 第56問の問題画像
  1. a.外科的切除
  2. b.紫外線療法
  3. c.血行再建手術
  4. d.肉芽形成促進薬外用
  5. e.腰部交感神経節ブロック

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、古い熱傷瘢痕にできた潰瘍をどう捉え、どう治療するかを問う問題だ。注目してほしいのは「瘢痕ができてからの年月」「部位」「潰瘍の見た目」の3点。ただの治りにくい傷として扱っていいのか、まずそこから考えてみよう。
医学生医学生
下肢の潰瘍と聞くと、静脈うっ滞や閉塞性動脈硬化症をまず思い浮かべてしまいます。
ドクタードクター
下腿潰瘍の鑑別としては自然な発想だね。ただ、静脈性潰瘍は下腿の下1/3、特に内くるぶし付近に多いし、動脈性潰瘍は足趾や足背といった末梢に出やすい。今回は膝窩で、しかも子どもの頃の熱傷瘢痕の上にできている。この背景をどう解釈するかがポイントなんだ。
医学生医学生
皮膚科の講義で、熱傷瘢痕は前癌病変になると習った気がします。
ドクタードクター
その通り。長い年月を経た熱傷瘢痕は、有棘細胞癌、つまり皮膚の扁平上皮癌の代表的な発生母地なんだ。受傷から数十年たって発癌することが多く、こうした瘢痕や慢性潰瘍から生じる癌はMarjolin潰瘍と呼ばれる。写真でも、色素沈着を伴う瘢痕の上に縦長の大きな潰瘍があり、辺縁が不整に盛り上がって、結節状・乳頭状に隆起している部分が見える。単純な潰瘍なら縁はむしろ平坦で、こういう隆起はつくりにくい。
医学生医学生
膝窩という場所にも意味があるんですか。
ドクタードクター
大いにある。関節の屈側では、曲げ伸ばしのたびに瘢痕が引っ張られて、潰瘍化と上皮の再生が繰り返される。この慢性的な刺激が発癌の温床になると考えられているんだ。数十年来の瘢痕、関節屈曲部、何か月も治らない潰瘍、辺縁の隆起――これだけそろえば、瘢痕癌を強く疑う必要がある。
医学生医学生
では治療は、外科的切除ですね。
ドクタードクター
正解。有棘細胞癌の治療の第一選択は、十分な安全域をつけた外科的切除だ。ただし手順が大事で、まず生検で診断を確定し、所属リンパ節、今回なら膝窩や鼠径リンパ節への転移を評価してから切除する。欠損が大きければ植皮や皮弁で再建し、転移があればリンパ節郭清も考える。
医学生医学生
生検は1か所取れば十分でしょうか。
ドクタードクター
そこは注意が必要だ。瘢痕上の癌では、周囲に偽上皮腫性過形成という反応性の上皮増生を伴うことがあって、1か所の生検で癌が出なくても否定できない。潰瘍辺縁や結節部など、複数か所から採るのが原則だよ。では、ほかの治療法がなぜ合わないか見ていこう。紫外線療法はどうかな。
医学生医学生
乾癬やアトピー性皮膚炎、白斑の治療で使われていました。皮膚科の外来実習でnarrow-band UVBの照射室を見学しました。
ドクタードクター
そうだね、菌状息肉症にも使う。でも紫外線はむしろ有棘細胞癌の危険因子の一つだから、癌を疑う病変に当てても治療にならないし、根治のチャンスを逃してしまう。次に、血行再建手術と腰部交感神経節ブロックは?
医学生医学生
どちらも下肢の血流を良くする治療ですよね。閉塞性動脈硬化症による虚血性潰瘍なら適応になりそうですが、今回は血流障害が原因ではないので効かないと思います。
ドクタードクター
その理解で正しい。交感神経節ブロックは下肢虚血の疼痛や潰瘍、複合性局所疼痛症候群などに用いられるけれど、腫瘍そのものには何の効果もない。最後に、肉芽形成促進薬の外用はどうだろう。
医学生医学生
褥瘡の処置でトラフェルミンのスプレーを使っているのを見ました。潰瘍を治すという意味では一番それらしく見えてしまいます。
ドクタードクター
そこがこの問題の最大の落とし穴なんだ。肉芽形成促進薬は良性の創傷を治すための薬で、悪性腫瘍による潰瘍を「難治性潰瘍」として外用し続けると、診断と切除が遅れ、腫瘍の増大や転移を許してしまう。臨床でも実際に起こりうる見逃しのパターンだよ。
医学生医学生
「治らない潰瘍はまず生検」という意識が大事なんですね。
ドクタードクター
まさにそれ。最後に発展知識をまとめておこう。有棘細胞癌の危険因子には、紫外線、日光角化症、Bowen病、熱傷瘢痕、慢性放射線皮膚炎、慢性骨髄炎の瘻孔、ヒ素曝露、HPV感染、色素性乾皮症、免疫抑制状態などがある。病理では異型角化細胞が真皮内へ浸潤し、癌真珠と呼ばれる同心円状の角化巣が特徴的だ。進行例ではSCC抗原が上がることもある。
医学生医学生
瘢痕から生じたものは、日光露出部の有棘細胞癌より性質が悪いんですか。
ドクタードクター
一般に悪性度が高く、リンパ節転移をきたしやすいとされている。だからこそ早期の生検と、転移評価を含めた計画的な治療が重要なんだ。切除困難例や進行例では、放射線療法や、抗PD-1抗体などの免疫チェックポイント阻害薬を含む薬物療法も検討される。古い傷あとが「最近になって崩れてきた」という訴えを聞いたら、必ずこの病気を頭に浮かべてほしい。

まとめ

数十年前の熱傷瘢痕に、治りにくい潰瘍や辺縁の不整な隆起が新たに生じた場合は、有棘細胞癌(瘢痕癌、Marjolin潰瘍)を疑います。膝窩などの関節屈曲部は瘢痕が繰り返し機械的刺激を受けるため好発部位であり、瘢痕由来の癌は悪性度が高くリンパ節転移をきたしやすいとされます。偽上皮腫性過形成で癌が隠れることがあるため複数か所から生検して診断を確定し、所属リンパ節を評価したうえで十分な安全域をつけた外科的切除を行うのが治療の基本です。紫外線療法、血行再建、交感神経節ブロック、肉芽形成促進薬の外用はいずれも腫瘍の治療にならず、特に良性潰瘍として外用を続けることは発見の遅れにつながります。「治らない潰瘍は生検する」という原則は、下腿潰瘍の鑑別や褥瘡管理など日常診療の多くの場面で役立つ視点です。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・68歳女性、右下肢の潰瘍が主訴 ・60年前(小児期)の熱傷後瘢痕が右膝窩にあり、8か月前からその瘢痕が潰瘍化した ・写真:右膝窩の色素沈着を伴う瘢痕の上に、縦に長い大きな潰瘍がある。潰瘍底は赤色の肉芽様組織と黄色の壊死物・痂皮に覆われ、辺縁は不整で盛り上がり、結節状・乳頭状に隆起する部分がみられる

診断へのプロセス

長い年月を経た熱傷瘢痕に、治りにくい潰瘍や隆起性の病変が新たに生じた場合は、まず有棘細胞癌(皮膚の扁平上皮癌)を疑う。熱傷瘢痕は有棘細胞癌の発生母地となる代表的な病変(前癌病変)であり、受傷から数十年を経て発癌することが多い。特に膝窩のように関節の屈伸で瘢痕が繰り返し引っ張られる部位では、潰瘍化と上皮の再生が繰り返されるため発癌しやすい。本例は、数十年来の熱傷瘢痕、関節屈曲部、数か月続く難治性潰瘍、辺縁の不整な隆起という所見がそろっており、熱傷瘢痕から生じた有棘細胞癌と考えられる。 鑑別としては、単純な瘢痕潰瘍、静脈うっ滞性潰瘍、動脈性潰瘍、褥瘡などが挙がるが、病変の部位(膝窩)や背景(古い熱傷瘢痕)、辺縁の隆起はいずれにも合わない。

設問の考え方

確定診断には生検による病理組織検査が必要である。瘢痕上の癌では、癌の周囲に反応性の上皮増生(偽上皮腫性過形成)を伴うことがあり、1か所の生検で癌が見つからなくても否定はできない。潰瘍辺縁や結節部など複数か所から組織を採取する。診断が確定したら、所属リンパ節(本例では膝窩・鼠径リンパ節)への転移の有無を評価したうえで、十分な安全域をつけた外科的切除を行うのが治療の基本である。

選択肢考察

  1. ○a.  外科的切除

    有棘細胞癌の治療の第一選択は、腫瘍の周囲に十分な切除範囲(安全域)をとった外科的切除である。熱傷瘢痕から生じた有棘細胞癌は、日光露出部に生じるものに比べて悪性度が高く、リンパ節転移をきたしやすいとされるため、生検で診断を確定し、リンパ節転移の有無を評価したうえで切除する。切除後の大きな欠損は植皮や皮弁で再建する。転移があればリンパ節郭清を追加し、手術が困難な場合には放射線療法や薬物療法が検討される。

  2. ×b.  紫外線療法

    紫外線療法(narrow-band UVB、PUVAなど)は、乾癬、アトピー性皮膚炎、尋常性白斑、菌状息肉症(皮膚T細胞リンパ腫の一つ)などに用いられる治療である。紫外線はむしろ有棘細胞癌の発生要因の一つであり、癌が疑われる病変に照射しても治療にならず、根治的治療の機会を逃すことになる。行ってはならない。

  3. ×c.  血行再建手術

    血行再建手術(バイパス術や血管内治療)は、閉塞性動脈硬化症などの末梢動脈疾患で下肢の血流が不足し、虚血性の潰瘍や壊死が生じた場合に行う治療である。本例の潰瘍は血流障害ではなく熱傷瘢痕に生じた悪性腫瘍によるものであり、血流を改善しても治らない。

  4. ×d.  肉芽形成促進薬外用

    肉芽形成促進薬(トラフェルミン〔塩基性線維芽細胞増殖因子製剤〕、ブクラデシンナトリウム、アルプロスタジルアルファデクスなど)の外用は、褥瘡や皮膚潰瘍を良性の創傷として治癒させるための治療である。悪性腫瘍による潰瘍を単なる難治性潰瘍として外用治療を続けると、診断と切除が遅れ、腫瘍の増大や転移を許すことになる。行ってはならない。

  5. ×e.  腰部交感神経節ブロック

    腰部交感神経節ブロックは、腰部の交感神経節を局所麻酔薬や神経破壊薬で遮断し、下肢の血管を拡張させて血流を増やす方法である。閉塞性動脈硬化症などの下肢虚血による疼痛・潰瘍や、複合性局所疼痛症候群(CRPS)などに用いられる。悪性腫瘍の治療にはならない。

有棘細胞癌(皮膚の扁平上皮癌)

・表皮の角化細胞(有棘細胞)に由来する悪性腫瘍で、皮膚癌のなかでは基底細胞癌に次いで多い。高齢者に多い。 ・発生母地・危険因子:紫外線(慢性的な日光曝露)、日光角化症、Bowen病、熱傷瘢痕、慢性放射線皮膚炎、慢性骨髄炎の瘻孔、褥瘡などの慢性潰瘍、ヒ素への曝露、ヒトパピローマウイルス感染、色素性乾皮症、臓器移植後などの免疫抑制状態。 ・臨床像:紅色の結節や腫瘤で、表面にびらん・潰瘍・痂皮を伴い、カリフラワー状に増殖することもある。細菌の二次感染で悪臭を放つことが多い。 ・病理:異型のある角化細胞が真皮内へ浸潤性に増殖し、癌真珠(同心円状の角化巣)がみられる。 ・腫瘍マーカー:SCC抗原が進行例で上昇することがある。 ・転移:所属リンパ節転移が主で、進行すると遠隔転移をきたす。 ・治療:外科的切除が第一選択。進行例ではリンパ節郭清、放射線療法、薬物療法(抗PD-1抗体などの免疫チェックポイント阻害薬を含む)を検討する。

瘢痕癌(Marjolin潰瘍)

熱傷瘢痕などの慢性の瘢痕や潰瘍から生じる悪性腫瘍を総称してMarjolin潰瘍と呼ぶことがあり、組織型はほとんどが有棘細胞癌である。受傷から発癌まで数十年の潜伏期間があることが多く、関節の屈側など機械的刺激を受けやすい部位に好発する。通常の有棘細胞癌より悪性度が高く、転移しやすいとされる。

下腿潰瘍の主な原因と治療

・静脈性:下腿下1/3の内側に多い。圧迫療法、下肢静脈瘤の治療 ・動脈性(閉塞性動脈硬化症など):足趾・足背など末梢に多い。血行再建術 ・糖尿病性:足底など荷重部に多い。血糖管理、除圧、感染対策 ・悪性腫瘍:古い瘢痕上の難治性潰瘍では生検で除外する

POINT

・古い熱傷瘢痕に生じた難治性潰瘍・隆起性病変は有棘細胞癌(瘢痕癌、Marjolin潰瘍)を疑う ・関節屈曲部など機械的刺激を受けやすい部位の瘢痕に好発する ・複数か所からの生検で診断し、リンパ節転移を評価してから外科的切除(安全域をとった拡大切除) ・悪性腫瘍を良性の潰瘍として外用療法などで経過観察することは誤り

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。