StudyMed医師国家試験

駆血帯はいらない、リキャップはしない―写真で学ぶ動脈血採血の正しい作法

第104回医師国家試験 C問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第104回 C問題 第3問

血液ガス分析用の動脈血採取についての写真(①~⑤)を別に示す。  正しく行われているのはどれか。

第104回 C問題 第3問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、血液ガス分析のための動脈血採血の手技を、写真で正しく判断する問題だ。写真はどれも肘窩での上腕動脈穿刺の場面。静脈採血との違い、標準予防策、止血、針の扱いという4つの視点で見ていくと整理しやすいよ。
医学生医学生
OSCEで静脈採血の練習はしましたが、動脈血採血はまだ見学しかしたことがありません。
ドクタードクター
それなら、静脈採血との違いを意識するのが近道だ。まず、上腕に駆血帯を巻いている写真があるね。静脈採血ではおなじみの手順だけど、動脈ではどうだろう。
医学生医学生
採血だから駆血帯を巻くのが基本だと思っていました。動脈でも血管が見やすくなるのでは…。
ドクタードクター
そこがよくある誤解だ。駆血帯は静脈の還流をせき止めて静脈を怒張させるための道具。動脈は内圧が高く、拍動を触れて穿刺するから駆血は不要なんだ。むしろ駆血で末梢の血流が変わり、拍動が触れにくくなるおそれもある。
医学生医学生
なるほど、動脈は「見る」より「触れる」血管なんですね。では、手袋をした術者が肘窩を消毒している写真はどうでしょう。
ドクタードクター
それが正しく行われている場面だ。動脈穿刺は深い血管に針を刺す侵襲的な手技だから、穿刺前の十分な消毒が欠かせない。そして術者が手袋を着用しているのもポイント。手指衛生、手袋着用、穿刺部位の消毒という正しい手順が示されている。
医学生医学生
逆に、素手で拍動を触れながら刺そうとしている写真もありました。拍動を感じやすいように素手なのかなと思ったんですが。
ドクタードクター
気持ちはわかるけど、それは誤りだ。採血は血液に曝露される可能性がある手技だから、標準予防策に従って必ず手袋を着用する。B型・C型肝炎やHIVなどから術者を守るだけでなく、患者さんへの汚染を減らす意味もあるんだ。
医学生医学生
感染制御の講義で習った、すべての患者さんの血液や体液を感染性があるものとして扱う、という考え方ですね。
ドクタードクター
その通り。次は採血後、患者さん自身が肘を曲げて綿を挟んで押さえている写真だ。静脈採血ならよく見る光景だけど、動脈ではどうかな。
医学生医学生
動脈は圧が高いから、患者さん任せだと止血が不十分になりそうです。
ドクタードクター
いい推論だ。動脈は静脈より出血しやすく、止血が不十分だと血腫を作りやすい。だから医療者が穿刺部位を指で確実に圧迫し、少なくとも5分程度、抗凝固療法中ならさらに長く止血して、出血や血腫がないことを確認する。肘を曲げると圧迫点がずれやすいから、肘を伸ばして直接圧迫するのが望ましいんだ。
医学生医学生
最後の、両手で針にキャップをかぶせている写真は、リキャップなので明らかにだめですね。病院実習の前のオリエンテーションでも強く言われました。
ドクタードクター
そう、リキャップは針刺し事故の主な原因で、原則禁止だ。使用後の針はその場で耐貫通性の専用廃棄容器に捨てる。血液ガスの検体は、安全装置付きの器具などで針を外し、シリンジの先端を専用キャップで密閉して空気の混入を防ぐ。
医学生医学生
空気が入ると、酸素分圧や二酸化炭素分圧の値が変わってしまうからですね。
ドクタードクター
その通り。検体は気泡を除いて密閉し、速やかに測定する。すぐ測れないときは冷却して保存する。発展として穿刺部位も押さえておこう。橈骨動脈は表在性で圧迫止血しやすく、穿刺前に尺骨動脈からの側副血行を確認するAllenテストを行うことがある。上腕動脈は近くを正中神経が走行するので注意が必要。大腿動脈は太く穿刺しやすいので、緊急時によく使われる。
医学生医学生
もし針刺し事故を起こしてしまったら、どうすればいいですか。
ドクタードクター
ただちに流水で十分に洗浄し、すぐに所定の窓口へ報告して、HBV・HCV・HIVの検査や必要な予防措置を受ける。隠さず早く報告することが、自分を守る一番の方法だ。手技の正しさは、患者さんと医療者双方の安全に直結することを覚えておこう。

まとめ

動脈血採血は静脈採血と似ているようで、いくつかの重要な違いがあります。動脈は内圧が高く拍動を触知して穿刺するため駆血帯は不要であり、穿刺前には手袋を着用したうえで穿刺部位を十分に消毒します。抜針後は医療者が自ら5分以上確実に圧迫止血し、患者任せにしたり肘を曲げて押さえさせたりしてはいけません。使用済みの針はリキャップせず専用廃棄容器に捨て、血液ガス検体は空気を除いて密閉し速やかに測定します。標準予防策と針刺し事故防止の原則は、あらゆる侵襲的手技に共通する医療安全の基盤であり、臨床実習の段階から確実に身につけておくべき知識です。

解答・解説

正解はbです

本問は、血液ガス分析のための動脈血採血(動脈穿刺)の手技を写真で確認する問題である。写真はいずれも肘窩(肘の内側)での採血場面で、上腕動脈の穿刺を想定している。 写真の内容は次のとおりである。 ①上腕に駆血帯を巻いている。 ②手袋を着用した術者が、穿刺部位の肘窩を綿で消毒している。 ③素手の術者が、一方の手指で動脈の拍動を触れながら注射器を刺入しようとしている。 ④採血後、患者自身が肘を曲げて綿を挟み、押さえている。 ⑤採血後の注射針に、両手でキャップをかぶせようとしている(リキャップ)。 動脈血採血を正しく行うための要点は、次の4つに整理できる。 ・動脈は内圧が高く拍動を触れて穿刺するので、駆血は不要である。 ・穿刺部位をしっかり消毒する(清潔操作)。 ・血液に触れる可能性がある手技なので、標準予防策(スタンダードプリコーション)として手袋を着用する。 ・動脈は静脈より止血しにくいため、術者(医療者)が責任をもって十分な時間の圧迫止血を行う。 ・使用後の針はリキャップせず、ただちに専用の廃棄容器に捨てる。 これらの原則に照らして各写真を評価すると、正しく行われているのは消毒の場面である②のみとなる。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    駆血帯を巻いている。駆血帯は静脈の還流をせき止めて静脈を怒張させ、静脈採血を行いやすくするための道具である。動脈は内圧が高く、駆血しなくても拍動を触知して穿刺できるので、動脈血採血には駆血帯は不要である。むしろ駆血により末梢の血流が変化し、拍動の触知が難しくなるおそれもある。

  2. ○b.  ②

    手袋を着用したうえで、穿刺部位をアルコール綿などで消毒している。動脈穿刺は深部の血管に針を刺す侵襲的な手技であり、感染予防のために穿刺前に十分な消毒を行う必要がある。術者の手袋着用と穿刺部位の消毒という、正しい手順が示されている。

  3. ×c.  ③

    術者が素手で動脈を触知し、穿刺しようとしている。採血は患者の血液に曝露される可能性のある手技であり、標準予防策に従って手袋を着用しなければならない。手袋は術者の血液感染(B型・C型肝炎、HIVなど)を防ぐと同時に、患者への汚染を減らす役割もある。

  4. ×d.  ④

    採血後の止血を患者自身に任せ、しかも肘を曲げて綿を挟む形で押さえている。動脈は内圧が高いため静脈よりも出血しやすく、止血が不十分だと血腫を形成しやすい。動脈穿刺後は、医療者が穿刺部位を指で確実に圧迫し、少なくとも5分程度(抗凝固療法中などではさらに長く)止血を行い、出血や血腫がないことを確認する必要がある。肘を曲げた状態では圧迫点がずれやすく十分な圧迫が得られにくいので、肘を伸ばした状態で直接圧迫するのが望ましい。

  5. ×e.  ⑤

    使用済みの注射針にキャップをかぶせる(リキャップ)動作は、針刺し事故の主要な原因であり、原則として禁止されている。使用後の針はリキャップせず、その場で耐貫通性の専用廃棄容器に捨てる。血液ガス分析用の検体では、針を安全装置付きの器具などで外し、注射器の先端を専用キャップで密閉して空気の混入を防ぐ。

動脈血採血の穿刺部位

・橈骨動脈:表在性で触知しやすく、圧迫止血が容易。穿刺前に尺骨動脈からの側副血行を確認するアレンテスト(Allen test)を行うことがある。 ・上腕動脈:肘窩で触知する。近くに正中神経が走行するので注意する。 ・大腿動脈:鼠径部で触知する。太く穿刺しやすいため、病棟のベッドサイドや緊急時によく用いられる。近傍に大腿静脈・大腿神経がある。

手順の概要

①必要物品(ヘパリン加の血液ガス用シリンジ、消毒綿、手袋、廃棄容器など)を準備する。 ②手指衛生を行い、手袋を着用する。 ③動脈の拍動を触知して穿刺部位を決め、消毒する。 ④拍動を触れながら穿刺し、必要量を採取する。動脈血は内圧で自然にシリンジ内に流入してくることが多い。 ⑤抜針後、ただちに穿刺部を5分以上圧迫止血する。 ⑥針はリキャップせずに廃棄し、シリンジ内の気泡を除いて密閉する。 ⑦検体は速やかに分析する。すぐに測定できない場合は冷却して保存する(空気が混入したり時間がたったりすると、PaO2・PaCO2の値が変化する)。

標準予防策(スタンダードプリコーション)

すべての患者の血液、体液、分泌物、排泄物、傷のある皮膚、粘膜を感染の可能性があるものとして扱う考え方である。血液に触れる可能性がある処置では手袋を着用し、飛散のおそれがあればマスク・ゴーグル・ガウンも用いる。

針刺し事故の防止

リキャップの禁止、使用直後の専用容器への廃棄、安全装置付き器材の使用が基本である。針刺し事故が起きた場合は、ただちに流水で洗浄し、所定の報告と感染症(HBV、HCV、HIV)の検査・予防措置を受ける。

POINT

・動脈血採血では駆血帯は不要(静脈採血との違い)。 ・穿刺前に消毒し、術者は手袋を着用する(標準予防策)。 ・抜針後は医療者が5分以上しっかり圧迫止血する。患者任せにしない。 ・使用済みの針はリキャップ禁止。そのまま専用廃棄容器へ。 ・血液ガス検体は空気を除いて密閉し、速やかに測定する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。