StudyMed医師国家試験

遺伝か、環境か、その両方か―生活習慣病が「真ん中」に来る理由

第104回医師国家試験 B問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第104回 B問題 第4問

疾患の発症要因としての遺伝性因子と環境因子の関係の図を別に示す。  ※印に該当するのはどれか。3つ選べ。

第104回 B問題 第4問の問題画像
  1. a.糖尿病
  2. b.高血圧症
  3. c.交通外傷
  4. d.動脈硬化症
  5. e.家族性高脂血症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、病気の発症に遺伝性因子と環境因子がそれぞれどのくらい関わるかを示した図の問題だ。図は横軸に疾患を並べたもので、左端に行くほど遺伝性因子の関与が大きく、右端に行くほど環境因子の関与が大きくなる。※印はその中央、つまり両方がそれなりの割合で関わる疾患群を指している。まず、左端と右端にはどんな病気が来るか考えてみよう。
医学生医学生
左端は遺伝子で決まってしまう病気なので、血友病や染色体異常でしょうか。右端は外傷や中毒ですか。
ドクタードクター
その通り。左端は一つの遺伝子の変異で発症が決まる単一遺伝子疾患、いわゆるメンデル遺伝病や染色体異常。右端は外傷、中毒、多くの感染症など、主に外からの要因で起こるものだ。では中央には何が入るだろう。
医学生医学生
遺伝と環境の両方となると、生活習慣病のイメージです。糖尿病は家族歴が大事だと内科の講義で習いました。
ドクタードクター
いいね。糖尿病の大部分を占める2型糖尿病は、インスリン分泌が落ちやすい、あるいはインスリン抵抗性を生じやすい体質に、過食や運動不足、肥満、加齢などが重なって発症する。一卵性双生児で一致率が高いことは遺伝の関与を、食生活の欧米化とともに患者が増えたことは環境の関与を示している。典型的な多因子疾患だ。
医学生医学生
1型糖尿病はどうなりますか。自己免疫なので遺伝とは関係なさそうに思えます。
ドクタードクター
1型もHLAなどの遺伝的素因にウイルス感染などの環境因子が関わると考えられていて、やはり両方が関与する。だから「糖尿病」と書かれていれば中央と考えて問題ない。次に高血圧症はどうかな。
医学生医学生
減塩指導をよく聞くので環境の影響が大きいと思いますが、親が高血圧だと子どもも高血圧になりやすいとも聞きます。
ドクタードクター
まさに両面がある。高血圧の約90%は原因を特定できない本態性高血圧で、遺伝的素因の上に、食塩の過剰摂取、肥満、飲酒、運動不足、ストレスなどが加わって発症する。腎疾患や内分泌疾患による二次性高血圧は別に考えるけれど、全体としては多因子疾患と捉えていい。
医学生医学生
動脈硬化症は、高血圧や糖尿病、喫煙が重なって進むものなので、危険因子そのものが多因子疾患ということですね。
ドクタードクター
その通り。脂質異常症、高血圧、糖尿病、喫煙、肥満、加齢といった危険因子に遺伝と生活習慣の両方が関わっていて、家族歴も独立した危険因子とされる。病理実習で見た大動脈の粥腫は、何十年もの遺伝と環境の積み重ねの結果なんだ。
医学生医学生
交通外傷は右端で間違いないですね。事故の外力なので。
ドクタードクター
そう、発症要因はほぼすべて環境因子と考えられる。最後に家族性高脂血症はどうだろう。
医学生医学生
正直、迷いました。脂質異常症は生活習慣病なので中央に入りそうな気もします。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴だ。「家族性」が付くと話が変わる。家族性高コレステロール血症はLDL受容体遺伝子などの変異による常染色体顕性遺伝の単一遺伝子疾患で、生まれつきLDLコレステロールが非常に高い。食事で多少の影響は受けるけれど、発症そのものは遺伝子変異で決まるから、図では左端に入る。
医学生医学生
腱黄色腫やアキレス腱の肥厚、若いうちの冠動脈疾患が特徴でしたよね。循環器内科の実習で、40代で心筋梗塞を起こした患者さんが家族性高コレステロール血症だったのを思い出しました。
ドクタードクター
良い経験をしたね。若年で冠動脈疾患を起こした人を見たら、家族歴を聞いて家族性高コレステロール血症を疑い、家族のスクリーニングにもつなげることが大切だ。ここで多因子疾患の考え方も整理しておこう。多数の遺伝子の小さな効果の積み重ねに環境因子が加わり、ある閾値を超えると発症する、という多因子しきい値モデルで説明される。家族内に集まりやすいけれど、メンデルの法則のような明確な遺伝形式には従わない。
医学生医学生
口唇口蓋裂や先天性心疾患の一部も多因子疾患だと遺伝医学の講義で習いました。遺伝と環境の割合はどうやって調べるんですか。
ドクタードクター
代表的なのが双生児研究だ。遺伝情報がほぼ同じ一卵性双生児と、二卵性双生児とで疾患の一致率を比べる。ほかに養子研究や家系研究もある。そして公衆衛生として一番大事なのは、中央の疾患は遺伝的素因を変えられなくても、食事、運動、禁煙、節酒といった環境因子を改善すれば発症や進行を防げるという点だ。これが一次予防の根拠になっている。
医学生医学生
体質は変えられなくても生活は変えられる、だから生活習慣病は予防できる、ということですね。
ドクタードクター
その通り。患者さんに「親も糖尿病だから仕方ない」と言われたときこそ、この考え方で生活改善の意義を伝えてほしい。

まとめ

疾患の発症要因は、遺伝性因子がほぼすべてを決める単一遺伝子疾患・染色体異常、環境因子がほぼすべてを占める外傷・中毒、そして両者が関わる多因子疾患に大きく分けられます。2型糖尿病、本態性高血圧、動脈硬化症などの生活習慣病は、複数の遺伝子による素因に食事・運動・喫煙・飲酒などの環境因子が重なって発症する多因子疾患の代表です。一方、交通外傷はほぼ環境因子のみ、家族性高コレステロール血症はLDL受容体遺伝子などの変異による常染色体顕性遺伝の単一遺伝子疾患であり、「脂質異常症」でも「家族性」かどうかで位置づけが大きく変わります。多因子疾患は遺伝的素因を変えられなくても環境因子の改善で予防できるため、一次予防の根拠となります。遺伝と環境の関与を整理して理解することは、疾患予防や患者指導、家族への対応を考えるうえでの土台になります。

解答・解説

正解はa, b, dです

図の読み方

図は横軸に疾患を並べ、左の縦軸に遺伝性因子の関与の割合(0〜100%)、右の縦軸に環境因子の関与の割合(0〜100%)をとったものである。左端に近いほど遺伝性因子の寄与が大きく(左端では遺伝性因子がほぼ100%)、右端に近いほど環境因子の寄与が大きい(右端では環境因子がほぼ100%)。※印は図の中央部分で、遺伝性因子と環境因子の両方がそれなりの割合で発症に関わる疾患群を示している。

疾患の位置づけ

・左端(遺伝性因子がほぼすべて):単一遺伝子の変異で発症する単一遺伝子疾患(メンデル遺伝病)や染色体異常。例:家族性高コレステロール血症、血友病、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、フェニルケトン尿症など。 ・中央(※印:両者が関与):複数の遺伝子の小さな影響(遺伝的素因)に、食事・運動・喫煙・飲酒・ストレスなどの環境因子が重なって発症する多因子疾患。生活習慣病の多くがここに入る。例:2型糖尿病、本態性高血圧、動脈硬化症、脂質異常症の大部分、がん、痛風など。 ・右端(環境因子がほぼすべて):外傷、中毒、多くの感染症など、主に外的要因で生じるもの。

正解を導く考え方

選択肢の各疾患が「単一遺伝子で決まるのか」「外的要因だけで起こるのか」「遺伝的素因と生活習慣の両方が関わるのか」を判断すればよい。生活習慣病である糖尿病、高血圧症、動脈硬化症が※印に該当する。

選択肢考察

  1. ○a.  糖尿病

    ※印に該当する。糖尿病の大部分を占める2型糖尿病は、インスリン分泌能の低下やインスリン抵抗性を生じやすい体質(複数の遺伝子が関わる遺伝的素因)に、過食・高脂肪食、運動不足、肥満、加齢、ストレスなどの環境因子が加わって発症する典型的な多因子疾患である。一卵性双生児での一致率が高いこと、家族歴が危険因子であることは遺伝の関与を、生活習慣の欧米化とともに患者が増加したことは環境の関与を示している。なお1型糖尿病も、HLA(ヒト白血球抗原)などの遺伝的素因にウイルス感染などの環境因子が関与すると考えられている。

  2. ○b.  高血圧症

    ※印に該当する。高血圧症は、原因となる疾患を特定できない本態性高血圧と、腎疾患・内分泌疾患などによる二次性高血圧に分けられ、本態性高血圧が全体の約90%を占める。本態性高血圧は、両親が高血圧だと子の発症リスクが高いなど遺伝的素因がある一方で、食塩の過剰摂取、肥満、過度の飲酒、運動不足、ストレス、加齢などの環境因子が大きく関与する多因子疾患である。

  3. ×c.  交通外傷

    ※印には該当しない。交通外傷は、事故という外部からの物理的な力によって生じるもので、発症要因はほぼ100%環境因子と考えられる。図では右端に位置する。

  4. ○d.  動脈硬化症

    ※印に該当する。動脈硬化症(特に粥状動脈硬化)は、脂質異常症・高血圧・糖尿病・喫煙・肥満・加齢などの危険因子が重なって進行する。これらの危険因子自体に遺伝的素因と生活習慣の両方が関わっており、家族歴も独立した危険因子とされる。遺伝性因子と環境因子の双方が関与する多因子疾患の代表である。

  5. ×e.  家族性高脂血症

    ※印には該当しない。家族性高コレステロール血症(現在の標準的な呼称)は、主にLDL受容体遺伝子などの変異による常染色体顕性(優性)遺伝の単一遺伝子疾患である。生まれつき血中LDLコレステロールが著しく高く、腱黄色腫や若年性の冠動脈疾患を起こす。食事などの環境因子で多少の修飾は受けるものの、発症自体は遺伝子変異で決まるため、図では左端(遺伝性因子がほぼ100%)に位置する。

単一遺伝子疾患と多因子疾患

・単一遺伝子疾患:一つの遺伝子の変異が発症を決定する。遺伝形式(常染色体顕性・潜性、X連鎖など)に従って家系内に現れ、発症リスクを予測しやすい。 ・多因子疾患(多因子遺伝病):多数の遺伝子それぞれの小さな効果の積み重ねに環境因子が加わり、ある閾値を超えたときに発症すると考えられる(多因子しきい値モデル)。家族内集積はみられるが、明確な遺伝形式には従わない。生活習慣病のほか、口唇口蓋裂、先天性心疾患の一部、統合失調症なども多因子疾患とされる。

遺伝と環境の関与の評価方法

一卵性双生児(遺伝情報がほぼ同一)と二卵性双生児での疾患の一致率を比較する双生児研究や、養子研究、家系研究などにより、ある疾患の発症に遺伝要因と環境要因がどの程度関与するかが推定される。

公衆衛生上の意義

※印に位置する生活習慣病は、遺伝的素因を変えることはできなくても、環境因子(食事、運動、禁煙、節酒など)を改善することで発症や進行を予防できる。これが一次予防(健康増進・発症予防)の根拠となっている。

POINT

・図の中央(※印)は遺伝性因子と環境因子の両方が関与する多因子疾患で、2型糖尿病・本態性高血圧・動脈硬化症などの生活習慣病が代表。 ・遺伝性因子がほぼ100%:家族性高コレステロール血症、血友病などの単一遺伝子疾患や染色体異常。 ・環境因子がほぼ100%:外傷(交通外傷など)、中毒など。 ・多因子疾患は環境因子の改善による一次予防が有効である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。