その胸骨、針が抜けるかもしれない―骨髄腫疑いの骨髄穿刺は腸骨で
第104回医師国家試験 B問題 第12問
国試問題にチャレンジ
IgG型M蛋白血症の65歳女性に行う骨髄検査の適切な穿刺部位はどこか。
- a.胸骨正中第2肋間部
- b.胸骨正中第4肋間部
- c.上後腸骨棘
- d.下前腸骨棘
- e.脛骨近位部
対話形式の解説
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ドクターまとめ
IgG型M蛋白血症では多発性骨髄腫やMGUSの鑑別のため骨髄中の形質細胞割合を評価する骨髄検査が必須であり、その穿刺部位は成人では上後腸骨棘が第一選択です。腸骨は骨が厚く深部に重要臓器がないうえ、骨髄吸引と骨髄生検を同時に行えるため、浸潤の程度を組織学的に評価するのにも適しています。胸骨穿刺は第2〜3肋間の高さの正中で行いますが、溶骨性病変を生じる多発性骨髄腫や閉経後骨粗鬆症の高齢者では、針が貫通して心臓・大血管を損傷する危険があるため避けます。下前腸骨棘は骨幅が狭く股関節や大腿血管神経に近いため用いず、脛骨近位部は脂肪髄化していない乳幼児の部位です。疾患と患者背景から骨の状態を想像し、刺した先の解剖まで考えて部位を選ぶ姿勢は、あらゆる侵襲的手技の安全につながります。
解答・解説
正解はcです
本問は、骨髄検査の穿刺部位を、患者の年齢と想定される疾患に合わせて選べるかを問う問題である。
患者像の整理
M蛋白(単クローン性免疫グロブリン)は、一つの形質細胞クローンが増殖して同じ免疫グロブリンを大量に産生したときに血中に現れる。IgG型M蛋白血症の65歳女性では、多発性骨髄腫(MM: multiple myeloma)や意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症(MGUS: monoclonal gammopathy of undetermined significance)などを鑑別するため、骨髄中の形質細胞の割合や性状を調べる骨髄検査が必須となる。
穿刺部位を考えるうえでの問題点
多発性骨髄腫では、骨髄腫細胞が破骨細胞を活性化して骨を溶かすため、打ち抜き像(punched-out lesion)と呼ばれる溶骨性病変やびまん性の骨粗鬆化が生じる。加えて、65歳の女性は閉経後骨粗鬆症により骨がもろくなっている可能性が高い。 胸骨は薄い板状の骨で、すぐ裏側に心臓・大血管などの縦隔臓器がある。骨がもろい患者で胸骨を穿刺すると、針が骨を貫通して縦隔内に達し、心タンポナーデや大出血など致命的な合併症を起こす危険がある。 したがって本症例では胸骨穿刺を避け、骨が厚く背側に重要臓器のない腸骨、なかでも上後腸骨棘を選ぶのが適切である。腸骨からは骨髄吸引(穿刺)だけでなく、骨髄組織を円柱状に採取する骨髄生検も同時に行える点でも有利である。
選択肢考察
- ×a. 胸骨正中第2肋間部
胸骨で骨髄穿刺を行う場合の標準的な部位は、胸骨体の正中で第2〜3肋間の高さである。しかし、本症例は多発性骨髄腫による溶骨性変化と、高齢女性の骨粗鬆症が想定され、胸骨がもろくなっている可能性が高い。穿刺針が胸骨を貫いて背側の心臓や大血管を損傷する危険があるため、本症例では適切でない。また胸骨では骨髄生検が行えない。
- ×b. 胸骨正中第4肋間部
胸骨穿刺の標準部位(第2〜3肋間の高さ)より尾側であり、通常の穿刺部位ではない。胸骨の下部は薄く、剣状突起側には骨化の不完全な部分がありうるため、貫通の危険がより高い。さらに本症例では骨脆弱性が想定されるので、胸骨そのものを避けるべきである。
- ○c. 上後腸骨棘
上後腸骨棘は殿部の上方、仙腸関節の外側に触れる骨の突出部で、成人の骨髄穿刺・骨髄生検の第一選択部位である。腸骨は骨が厚く骨髄が豊富で、穿刺部位の深部に心臓や大血管などの重要臓器がないため、骨がもろい高齢者や多発性骨髄腫疑いの患者でも安全に行える。患者は腹臥位または側臥位とする。骨髄吸引に加えて骨髄生検も同時に行えるため、骨髄腫細胞の浸潤の程度を組織学的に評価するうえでも適している。
- ×d. 下前腸骨棘
下前腸骨棘は骨盤前面、股関節のすぐ上方にある小さな突起で、大腿直筋が付着する。骨の幅が狭く、周囲に股関節や大腿神経・大腿動静脈が近接するため、骨髄穿刺部位には用いない。腸骨の前方で穿刺する場合は、下前腸骨棘ではなく上前腸骨棘の後方の腸骨稜を用いる。
- ×e. 脛骨近位部
脛骨近位部は乳幼児(おおむね1〜2歳未満)の骨髄穿刺部位として用いられる。長管骨の骨髄は加齢とともに脂肪髄に置き換わり造血能を失うため、成人では検査部位として適さない。なお小児の救急では、静脈路が確保できないときに脛骨近位部から骨髄内輸液(骨髄路確保)を行うことがある。
骨髄穿刺・骨髄生検の部位
・腸骨(上後腸骨棘が第一選択、上前腸骨棘付近の腸骨稜も可): 成人の標準部位。骨髄吸引と生検の両方が可能で安全性が高い ・胸骨(胸骨体正中、第2〜3肋間の高さ): 吸引のみ可能。貫通による縦隔臓器損傷の危険があり、骨粗鬆症、多発性骨髄腫、小児では避ける ・脛骨近位部: 乳幼児で用いる 成人では造血を担う赤色髄は主に体幹骨(椎骨、胸骨、肋骨、骨盤)や長管骨の近位端に限られ、四肢の長管骨の骨幹部は脂肪髄になっている。
骨髄吸引と骨髄生検
・骨髄吸引(穿刺): 骨髄液を吸引して塗抹標本を作り、細胞の形態や比率(骨髄像)、染色体、表面マーカーなどを調べる。必要な骨髄液はごく少量である ・骨髄生検: 骨髄組織を円柱状に採取し、細胞密度や線維化、腫瘍細胞の浸潤を評価する。吸引で骨髄液が引けない(dry tap)とき、骨髄線維症や再生不良性貧血、悪性腫瘍の骨髄転移の評価などで特に重要である
M蛋白血症の鑑別
・MGUS: 血清M蛋白 3g/dL未満、骨髄のクローン性形質細胞 10%未満、臓器障害なし ・くすぶり型骨髄腫: M蛋白 3g/dL以上または骨髄形質細胞 10%以上だが、臓器障害なし ・多発性骨髄腫: 骨髄のクローン性形質細胞 10%以上(または形質細胞腫)に加え、臓器障害(CRAB: 高カルシウム血症、腎障害、貧血、骨病変)などの骨髄腫診断事象を伴う いずれも骨髄中の形質細胞の割合が診断の鍵となるため、骨髄検査は不可欠である。
POINT
・成人の骨髄穿刺・生検の第一選択は腸骨(上後腸骨棘) ・胸骨穿刺は第2〜3肋間の高さの正中で行うが、貫通による縦隔臓器損傷の危険がある ・多発性骨髄腫(溶骨性病変)や高齢者の骨粗鬆症では胸骨穿刺を避ける ・胸骨では骨髄生検はできない。脛骨近位部は乳幼児の穿刺部位
