鼻から流れる薄い血―頭部外傷のCTで「あるもの」と「ないもの」を見極める
第104回医師国家試験 A問題 第43問
国試問題にチャレンジ
72歳の男性。オートバイで走行中に乗用車と衝突したため搬入された。既往歴と家族歴とに特記すべきことはない。意識レベルはJCSⅡ-20。呼吸数16/分。脈拍64/分,整。血圧136/80 mmHg。全身の擦過傷と左前額部の皮下血腫とを認める。両鼻孔から淡血性の液体の流出があった。入院時の頭部単純CT(A)(B)(C)を別に示す。 この患者でみられないのはどれか。

- a.髄液漏
- b.気脳症
- c.水頭症
- d.硬膜外血腫
- e.くも膜下出血
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
前額部打撲後に両鼻孔から淡血性の液体が流れる場合は、前頭蓋底骨折による髄液鼻漏を疑い、硬膜が破れて頭蓋内と副鼻腔が交通していることを示す気脳症とセットで捉えます。CTではSylvius裂や脳槽の高吸収域が外傷性くも膜下出血、頭蓋骨内面に接する凸レンズ型の高吸収域が急性硬膜外血腫を示し、硬膜外血腫は縫合線を越えにくく直撃側に生じるのが特徴です。水頭症は脳室の拡大で判断するため、受傷直後のCTで脳室が拡大していなければ否定でき、外傷後の水頭症は脳室内出血などによる急性閉塞性か、くも膜下出血後の吸収障害による慢性期の交通性として生じます。頭蓋底骨折の部位ごとの症候や血腫の形の成り立ちを理解しておくと、救急外来での頭部外傷の評価と、退院後の合併症の見落とし防止に役立ちます。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・72歳男性、オートバイと乗用車の衝突という高エネルギー外傷である。 ・意識レベルはJCS(Japan Coma Scale)Ⅱ-20で、大きな声や体を揺さぶると開眼する程度の意識障害がある。 ・脈拍64/分、血圧136/80 mmHgで、現時点では頭蓋内圧亢進に伴うCushing現象(高血圧+徐脈)ははっきりしない。 ・左前額部に皮下血腫があり、打撲を受けた側(外力の加わった部位)は左前頭部と推定できる。 ・両鼻孔から淡血性の液体が流出している。鼻出血だけでは説明しにくい「薄い血性の水様液」は、血液に髄液が混じった髄液鼻漏を疑わせる所見である。
画像所見
・CT(A):Sylvius裂(シルビウス裂)や中脳周囲の脳槽に高吸収域があり、外傷性くも膜下出血を示す。頭蓋内に黒く抜ける空気像(気脳症)もみられる。 ・CT(B):頭蓋内に空気の低吸収域がみられ、気脳症を示す。 ・CT(C):打撲側(左)の頭蓋骨内面に接して凸レンズ型の高吸収域があり、急性硬膜外血腫である。血腫による圧排で正中構造が反対側(右)へ偏位している。 ・いずれのスライスでも側脳室・第三脳室の拡大はなく、脳室の大きさは正常範囲、むしろ圧排を受けている。
診断へのプロセス
前額部の打撲+髄液鼻漏+気脳症という組み合わせから、前頭蓋底骨折(篩板や前頭洞後壁の骨折)が存在し、硬膜が破れて副鼻腔・鼻腔と頭蓋内が交通していると考える。交通路を通って髄液が鼻へ漏れ出し、逆に空気が頭蓋内へ入り込む。これに加えて、打撲側の急性硬膜外血腫と外傷性くも膜下出血を合併している。
設問の考え方
本問は「みられないもの」を選ぶ否定型である。病歴とCTから確認できる病態(髄液漏・気脳症・硬膜外血腫・くも膜下出血)を一つずつ消去し、画像上の根拠がない水頭症を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 髄液漏
本患者でみられる。両鼻孔からの淡血性の液体は、血液に髄液が混じったものと考えられ、髄液鼻漏を示す。前頭蓋底骨折で硬膜が破綻し、鼻腔・副鼻腔と頭蓋内がつながったために生じる。気脳症が同時にみられることも、この交通路の存在を裏付ける。髄液が混じっていることは、ガーゼに滴下すると血液の周りに薄い輪ができる(ダブルリングサイン)ことや、液中の糖やβ2-トランスフェリンの検出で確認できる。
- ×b. 気脳症
本患者でみられる。CT(A)(B)で頭蓋内に空気を示す黒い低吸収域が確認できる。前頭蓋底骨折によって副鼻腔と頭蓋内が交通すると、鼻をかむ・いきむなどで空気が頭蓋内に流入する。気脳症は硬膜が破れた開放性の頭蓋底骨折を示唆する所見であり、髄膜炎のリスクにも注意が必要となる。
- ○c. 水頭症
本患者でみられない(正解)。水頭症であれば側脳室や第三脳室の拡大(側脳室下角の開大など)がCTで認められるはずだが、本症例の脳室サイズは正常で、むしろ硬膜外血腫の圧排により正中構造が右へ偏位している。外傷後に水頭症が問題になるのは、多量の脳室内出血や後頭蓋窩病変で髄液の通り道が急にふさがれた場合(急性閉塞性水頭症)や、外傷性くも膜下出血の後に髄液の吸収障害が起こって数週〜数か月後に生じる場合(慢性期の交通性水頭症)である。受傷直後の本症例ではいずれの所見もない。
- ×d. 硬膜外血腫
本患者でみられる。CT(C)で打撲側(左)の頭蓋骨内面に接する凸レンズ型の高吸収域がみられ、急性硬膜外血腫である。硬膜は頭蓋骨の縫合部で強く付着しているため、硬膜外の血腫は縫合線を越えて広がりにくく、凸レンズ型を呈する。多くは骨折線が中硬膜動脈などを損傷して生じ、外力が加わった側(直撃側)にできるのが特徴である。
- ×e. くも膜下出血
本患者でみられる。CT(A)でSylvius裂や中脳周囲の脳槽に高吸収域があり、外傷性くも膜下出血である。脳挫傷や脳表の小血管の損傷による出血がくも膜下腔に広がったものである。脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血とは原因が異なり、外傷性の場合は脳挫傷の近傍や脳表の溝に出血が分布することが多い。
頭蓋底骨折の部位と症候
・前頭蓋底骨折:髄液鼻漏、気脳症、眼窩周囲の皮下出血(ブラックアイ、パンダの目徴候)、嗅覚障害(嗅神経損傷)。 ・中頭蓋底骨折(側頭骨錐体部骨折):髄液耳漏、耳介後部の皮下出血(Battle徴候)、顔面神経麻痺、難聴。 ・頭蓋底骨折は単純X線やCTでも骨折線が描出しにくいことがあり、髄液漏や気脳症、皮下出血の分布などの間接所見が診断の手がかりとなる。 ・髄液漏の多くは安静(頭部挙上)で自然に止まるが、持続する場合や髄膜炎を繰り返す場合は硬膜修復術を考慮する。鼻をかむ、いきむなどの動作は避けるよう指導する。
急性硬膜外血腫と急性硬膜下血腫の比較
・硬膜外血腫:頭蓋骨と硬膜の間。凸レンズ型。縫合線を越えにくい。多くは骨折を伴い、中硬膜動脈などからの出血。直撃側に生じる。受傷直後は意識清明で、その後悪化する「意識清明期」がみられることがある。脳実質の損傷は比較的軽いことが多く、早期手術で予後は良好。 ・硬膜下血腫:硬膜とくも膜の間。三日月型。縫合線を越えて広がる。架橋静脈や脳挫傷からの出血。反衝側(外力と反対側)にも生じる。脳挫傷を伴うことが多く予後は不良になりやすい。
外傷後の水頭症
・急性期:脳室内出血や後頭蓋窩の血腫で中脳水道・第四脳室が閉塞されて起こる閉塞性水頭症。 ・慢性期:外傷性くも膜下出血後に髄液の吸収障害が生じ、数週〜数か月後に交通性水頭症をきたすことがある。歩行障害、認知機能低下、尿失禁などで気付かれる。
POINT
・淡血性の鼻漏+前額部打撲 → 前頭蓋底骨折による髄液鼻漏を考える。 ・髄液鼻漏と気脳症は、硬膜が破れて頭蓋内と副鼻腔が交通していることを示すセット所見である。 ・凸レンズ型の高吸収域は急性硬膜外血腫、三日月型は急性硬膜下血腫。 ・Sylvius裂や脳槽の高吸収域は(外傷性)くも膜下出血。 ・水頭症は脳室の拡大で判断する。受傷直後のCTで脳室が正常なら水頭症は否定できる。
