StudyMed医師国家試験

ブドウの房か、夏みかんか―IPMNの検査所見を「膵管の中の粘液」から読み解く

第104回医師国家試験 A問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第104回 A問題 第4問

膵管内乳頭粘液性腫瘍〈IPMN〉の検査所見で誤っているのはどれか。

  1. a.造影CT ―― 全体に肥厚した被膜
  2. b.内視鏡的逆行性胆管膵管造影〈ERCP〉 ―― 膵管の拡張
  3. c.磁気共鳴胆管膵管撮影〈MRCP〉 ―― ブドウの房状の形態
  4. d.十二指腸内視鏡検査 ―― Vater乳頭口開大
  5. e.膵管鏡検査 ―― イクラ状上皮

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は膵管内乳頭粘液性腫瘍、いわゆるIPMNの検査所見を問う問題だ。所見を丸暗記するより、この腫瘍が「膵管の中で発生し」「乳頭状に増殖し」「粘液を大量に出す」という3つの性質から、各検査で何が見えるかを導くのがコツだよ。そのうえで、誤っている組合せを一つ探そう。
医学生医学生
IPMNは消化器内科の講義で、MCNと対比して習った記憶があります。でも正直、どっちがどっちだったか混乱しがちです。
ドクタードクター
国家試験でも繰り返し問われる鑑別だから、ここで整理しよう。まず、粘液が膵管の中にたまると何が起こるかな。
医学生医学生
粘液で膵管が押し広げられて、拡張するはずです。だからERCPで膵管の拡張が見えるのは正しいですね。
ドクタードクター
その通り。ERCPは十二指腸内視鏡で乳頭から膵管に造影剤を入れて撮影する検査で、拡張した主膵管や分枝膵管が描出される。粘液塊が造影剤の欠損像として映ることもあるし、膵液を採って細胞診もできる。ただ膵炎のリスクがある侵襲的な検査なので、最初の精査ではMRCPや超音波内視鏡が優先されるんだ。
医学生医学生
MRCPのブドウの房状というのは、分枝膵管が拡張した姿でしょうか。
ドクタードクター
いい推論だね。分枝型IPMNでは、嚢胞状に拡張した分枝が寄り集まって、ブドウの房のような多房性嚢胞に見える。MRCPは造影剤なしで膵液を強調して描出できるから、嚢胞と主膵管がつながっている、つまり交通があることも確認しやすい。これがMCNとの鑑別に役立つんだ。
医学生医学生
十二指腸内視鏡でVater乳頭口が開大するのは、粘液が出てくるからですか。
ドクタードクター
そう。大量の粘液が主膵管を通って十二指腸に流れ出るので、乳頭の開口部が広がって粘液が排出される様子が見える。魚の口のようだということで「fish mouth」と表現され、主膵管型に特徴的な所見だ。
医学生医学生
膵管鏡のイクラ状上皮は、乳頭状増殖をそのまま見ているんですね。病理学の講義で乳頭状腫瘍のスケッチを描いたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさに。膵管鏡は細いスコープを膵管内に入れて内腔を直接観察する検査で、IPMNでは膵管が太いから挿入しやすい。粒状の隆起が密集した様子がイクラのように見え、病変の広がり評価や直視下生検にも使われる。ここまで4つはどれもIPMNの性質から説明できたね。
医学生医学生
残るのは造影CTでの全体に肥厚した被膜ですね。厚い被膜は……MCNの特徴だった気がします。
ドクタードクター
正解。IPMNの嚢胞は、粘液で拡張した膵管そのものだから、外側を厚い線維性の殻が取り囲むことはない。全体を覆う厚い被膜を持ち、内部に小嚢胞を抱えた「夏みかん状」「cyst in cyst」の形をとるのは粘液性嚢胞腫瘍、MCNだ。MCNは中年女性の膵体尾部に好発し、原則として膵管と交通せず、組織では卵巣様間質を伴う。
医学生医学生
整理すると、IPMNは高齢男性・膵頭部・膵管と交通あり・ブドウの房、MCNは中年女性・体尾部・交通なし・厚い被膜で夏みかん、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。ついでに漿液性嚢胞腫瘍は微小嚢胞が集まった蜂巣状で中心に星芒状瘢痕、充実性偽乳頭状腫瘍は若年女性に多く充実部と嚢胞部が混在する、と押さえておくと膵嚢胞性腫瘍の鑑別はほぼ網羅できる。
医学生医学生
IPMNは見つかったら全部手術するんですか。臨床実習の画像カンファで、経過観察中の方が多かった印象があります。
ドクタードクター
良いところに気づいたね。IPMNは良性から浸潤癌まで幅が広いので、画像で悪性度を評価して方針を決める。国際診療ガイドラインでは、閉塞性黄疸、造影される5mm以上の壁在結節、主膵管径10mm以上などが強く悪性を疑う所見で手術を考慮する。嚢胞径3cm以上、造影される嚢胞壁肥厚、主膵管径5〜9mmなどは悪性の可能性を示唆する所見として、超音波内視鏡などで精査するんだ。つまり造影CTでIPMNを見るときに注目すべきなのは、被膜ではなく主膵管径や壁在結節なんだよ。
医学生医学生
経過観察中は、IPMNそのものだけ見ていればよいのでしょうか。
ドクタードクター
そこが臨床での落とし穴だ。IPMNの患者さんでは、IPMNとは別の場所に通常型膵癌ができることがある。これを併存膵癌と呼ぶ。だからフォローの画像では、嚢胞だけでなく膵実質全体にも目を配る必要があるんだ。

まとめ

IPMNは膵管上皮から発生し、膵管内で乳頭状に増殖して大量の粘液を産生する腫瘍で、その性質から膵管拡張、分枝型でのブドウの房状多房性嚢胞、Vater乳頭口の開大と粘液排出、膵管鏡でのイクラ状上皮といった所見が導かれます。一方、全体を覆う厚い被膜やcyst in cyst(夏みかん状)の形態は、中年女性の膵体尾部に好発し膵管と交通しないMCNの特徴であり、IPMNの所見ではありません。IPMNは良性から浸潤癌まで幅広いため、壁在結節や主膵管径などの所見で悪性度を評価して手術か経過観察かを決め、併存膵癌にも注意します。腫瘍の発生部位と性質から画像所見を論理的に導く考え方は、膵嚢胞性腫瘍全体の鑑別を理解する土台になります。

解答・解説

正解はaです

膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm:IPMN)は、膵管の上皮から発生し、膵管の内腔に向かって乳頭状に増殖しながら大量の粘液を産生する腫瘍である。本問は、この「膵管の中で発生する」「粘液を大量に出す」「乳頭状に増殖する」という三つの性質から、各検査でどのような所見が得られるかを考えれば解ける。 ・粘液が膵管内にたまる → 主膵管や分枝膵管が拡張する(ERCP、MRCP、CT、超音波で確認) ・分枝膵管が嚢胞状に拡張し集簇する → ブドウの房のような多房性嚢胞にみえる(特に分枝型) ・粘液が乳頭から流れ出る → 十二指腸内視鏡でVater乳頭の開口部が開大し、粘液の排出がみえる ・腫瘍が乳頭状に増殖する → 膵管鏡で直接観察するとイクラ状の隆起としてみえる 一方、IPMNは拡張した膵管そのものであるため、厚い被膜(線維性の殻)はもたない。厚い被膜に覆われた嚢胞は、膵管と交通しない別の嚢胞性腫瘍である粘液性嚢胞腫瘍(mucinous cystic neoplasm:MCN)の特徴である。したがって誤っているのはaである。IPMNとMCNは、いずれも粘液を産生する膵嚢胞性腫瘍であり、国家試験でも両者の鑑別が繰り返し問われる。

選択肢考察

  1. ○a.  造影CT ―― 全体に肥厚した被膜

    IPMNの嚢胞は、粘液で拡張した膵管そのものであり、周囲を厚い被膜が取り囲むことはない。そのためIPMNの所見としては誤りである。全体を覆う厚い線維性被膜は、粘液性嚢胞腫瘍(MCN)の特徴である。MCNは中年女性の膵体尾部に好発し、厚い被膜の内部に小嚢胞を含む「夏みかん(オレンジ)状」「cyst in cyst」と表現される形態をとり、原則として膵管との交通がない。組織学的には卵巣様間質を伴う点も特徴である。なお、造影CTでIPMNに注目すべき所見は、主膵管径の拡張の程度、造影される壁在結節の有無・大きさ、嚢胞壁の肥厚や増強効果などで、これらは悪性化を疑う指標となる。

  2. ×b.  内視鏡的逆行性胆管膵管造影〈ERCP〉 ―― 膵管の拡張

    IPMNでは腫瘍が産生した粘液や腫瘍そのものによって膵管が拡張する。ERCP(十二指腸内視鏡を用いて乳頭から膵管に造影剤を注入し撮影する検査)では、拡張した主膵管や嚢胞状に拡張した分枝膵管が描出され、IPMNの所見として正しい。膵管内の粘液塊が造影剤の欠損像(透亮像)としてみえることもある。また、ERCPの際に膵液を採取して細胞診を行うことができる。ただし侵襲的で膵炎の合併リスクがあるため、現在は診断の第一段階ではMRCPや超音波内視鏡が優先される。

  3. ×c.  磁気共鳴胆管膵管撮影〈MRCP〉 ―― ブドウの房状の形態

    MRCPはMRIで水分(膵液・胆汁)を強調して描出する検査で、造影剤を使わずに非侵襲的に膵管・胆管の形を評価できる。IPMN、特に分枝膵管が拡張する分枝型では、拡張した分枝が多数集まってブドウの房のような多房性嚢胞として描出され、正しい所見である。さらに、嚢胞と主膵管との交通が確認できることは、膵管と交通しないMCNとの鑑別に役立つ。

  4. ×d.  十二指腸内視鏡検査 ―― Vater乳頭口開大

    IPMNで大量に産生された粘液は主膵管を通って十二指腸へ排出される。このため十二指腸内視鏡(側視鏡)で観察すると、Vater乳頭の開口部が開大し、そこから粘液が流れ出る所見がみられることがある。「魚の口(fish mouth)様」の開大と表現され、主膵管型IPMNに特徴的な正しい所見である。

  5. ×e.  膵管鏡検査 ―― イクラ状上皮

    膵管鏡は細い内視鏡を膵管内に挿入し、膵管の内腔を直接観察する検査である。IPMNでは主膵管が拡張しているため膵管鏡の挿入が比較的容易である。腫瘍は乳頭状に増殖するため、粒状の隆起が密集したイクラ状の上皮として観察され、正しい所見である。病変の広がりの評価や直視下での生検にも用いられる。

IPMNの分類

・主膵管型: 主膵管がびまん性または部分的に拡張する。悪性の頻度が高い。 ・分枝型: 分枝膵管が嚢胞状に拡張し、ブドウの房状の多房性嚢胞を形成する。膵頭部(特に鉤部)に多く、悪性の頻度は比較的低い。 ・混合型: 両者の特徴をもつ。

悪性を疑う所見(国際診療ガイドラインの考え方)

・強く悪性を疑う所見(high-risk stigmata): 閉塞性黄疸、造影される5mm以上の壁在結節、主膵管径10mm以上など → 手術を考慮 ・悪性の可能性を示唆する所見(worrisome features): 嚢胞径3cm以上、5mm未満の造影される壁在結節、造影される嚢胞壁肥厚、主膵管径5〜9mm、急な主膵管径の変化と末梢膵萎縮、嚢胞の急速な増大など → 超音波内視鏡などで精査 また、IPMNを有する患者では、IPMNとは別の場所に通常型膵癌が発生することがあり(併存膵癌)、経過観察の際はIPMN以外の膵実質にも注意を払う。

膵の主な嚢胞性腫瘍の鑑別

・IPMN: 高齢男性に多い、膵頭部に多い、膵管と交通あり、ブドウの房状、厚い被膜なし、乳頭口開大・粘液排出 ・MCN: 中年女性に多い、膵体尾部に多い、膵管と交通なし(原則)、厚い被膜、夏みかん状(cyst in cyst)、卵巣様間質 ・漿液性嚢胞腫瘍(SCN): 中高年女性に多い、微小な嚢胞が集まった蜂巣状(スポンジ状)、中心部に星芒状の瘢痕・石灰化、ほとんどが良性 ・充実性偽乳頭状腫瘍(SPN): 若年女性に多い、充実部分と嚢胞部分が混在、出血・壊死を伴う IPMNは画像診断の進歩により、無症状のうちに偶然発見される機会が増えた。良性から浸潤癌まで幅広い病変を含むため、画像所見から悪性度を評価して手術か経過観察かを決めることが重要である。

POINT

・IPMN=膵管内で乳頭状に増殖し、粘液を大量に産生する腫瘍 ・膵管拡張、ブドウの房状の多房性嚢胞(分枝型)、膵管との交通あり ・十二指腸内視鏡でVater乳頭の開大と粘液の排出 ・膵管鏡でイクラ状の乳頭状隆起 ・厚い被膜・cyst in cyst・膵管との交通なし・中年女性の膵体尾部 → MCNの特徴であり、IPMNではない

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。