骨盤に届かないガス―新生児の腹部膨満からHirschsprung病を「組織」と「機能」で確かめる
第104回医師国家試験 A問題 第21問
国試問題にチャレンジ
生後5日の新生児。38週5日,体重3,200 gで出生した。出生直後から腹部膨満に気付かれていたが,その後も症状が持続するため搬入された。腹部の写真(A)と腹部エックス線写真(B)とを別に示す。 確定診断に必要なのはどれか。2つ選べ。

- a.腹部造影CT
- b.直腸粘膜生検
- c.上部消化管造影
- d.腹部超音波検査
- e.直腸肛門内圧検査
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
正期産児で出生直後から腹部膨満が続き、腹部エックス線で小腸から大腸まで拡張したガス像と骨盤腔内のガス欠如を認めれば、下部の通過障害としてHirschsprung病を疑います。本症は肛門側の腸管で壁内神経叢の神経節細胞が連続して欠如し、弛緩できないことによる機能的な通過障害です。確定診断には、直腸粘膜生検でAChE陽性神経線維の増生や神経節細胞の欠如を示すことと、直腸肛門内圧検査で直腸肛門反射の消失を示すことが必要で、注腸造影のcaliber changeも診断の助けになります。造影CTや超音波、上部消化管造影では病気の本質を評価できません。病態を理解したうえで、それを直接証明できる検査を選ぶという考え方は、あらゆる疾患の診断に通じる基本です。
解答・解説
正解はb, eです
所見の整理
・在胎38週5日、出生体重3,200 gの正期産・成熟児(早産児に多い胎便関連の腸閉塞は考えにくい) ・出生直後から腹部膨満があり、生後5日まで持続 ・腹部の写真(A): 腹部全体の著明な膨満 ・腹部エックス線写真(B): 小腸・大腸とも拡張したガス像を広く認める一方、骨盤腔(直腸の位置)にはガスがみられない
鑑別診断
新生児期に腹部膨満をきたす下部消化管通過障害として、先天性小腸閉鎖症、先天性結腸閉鎖症、Hirschsprung病、胎便栓症候群、胎便性イレウスなどがある。拡張ガスが大腸まで及んでいることから閉塞部位は結腸より肛門側と推定され、小腸閉鎖症は否定的である。直腸付近で途絶する像を示すのは結腸閉鎖症(極めてまれ)とHirschsprung病であり、頻度と経過からHirschsprung病が最も考えやすい。
確定診断の考え方
Hirschsprung病は、腸管壁内神経叢(Auerbach神経叢・Meissner神経叢)の神経節細胞が肛門側から連続して欠如し、その部分が弛緩できず機能的な通過障害を起こす疾患である。したがって確定診断には、神経節細胞欠如に伴う病理学的変化を組織で示すこと(直腸粘膜生検)と、それによる機能異常を示すこと(直腸肛門内圧検査で直腸肛門反射の欠如)が必要である。注腸造影も狭小部(無神経節腸管)と口側拡張腸管の境界(caliber change)を示す有用な検査であるが、選択肢には含まれていない。
選択肢考察
- ×a. 腹部造影CT
誤り。造影CTで拡張腸管や通過障害の部位はある程度推定できるが、Hirschsprung病の本質である神経節細胞の欠如や直腸肛門反射の消失は評価できず、確定診断にはつながらない。新生児では放射線被曝や造影剤の負担もあり、本例で行う意義は乏しい。
- ○b. 直腸粘膜生検
正解。吸引生検などで直腸粘膜を採取し、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)染色を行うと、Hirschsprung病では粘膜固有層から粘膜筋板にかけてAChE陽性の太い神経線維が増生している。これは神経節細胞を欠く腸管に外来性の副交感神経線維が増えるためである。粘膜下層まで採取できれば神経節細胞の欠如も直接確認でき、さらに全層生検で筋層間神経叢の神経節細胞欠如を確かめれば最終的な病理診断となる。
- ×c. 上部消化管造影
誤り。上部消化管造影は食道・胃・十二指腸の通過障害や、腸回転異常症(十二指腸空腸曲の位置異常)の診断に用いる。本例は大腸まで拡張ガスが及ぶ下部消化管の通過障害であり、上部消化管造影は確定診断に役立たない。下部の病変を評価する造影検査なら注腸造影を行う。
- ×d. 腹部超音波検査
誤り。腹部超音波は腹腔内腫瘤や肥厚性幽門狭窄症、腸重積症などの診断に有用だが、本例のように腸管ガスが著明に充満していると観察が難しい。また神経節細胞の有無や直腸肛門反射を評価することはできず、Hirschsprung病の確定診断には用いない。
- ○e. 直腸肛門内圧検査
正解。直腸内でバルーンを膨らませて直腸を伸展させると、健常では内肛門括約筋が反射的に弛緩して肛門管内圧が低下する(直腸肛門反射)。この反射は壁内神経叢を介するため、神経節細胞が欠如するHirschsprung病では反射が消失する。機能面から診断を裏付ける検査である。ただし生後早期の新生児では健常でも反射が不明瞭なことがあり、生検と組み合わせて判断する。
Hirschsprung病の概要
・発生: 胎生期に神経堤由来の神経節細胞が消化管を口側から肛門側へ遊走する過程が途中で止まることで、肛門側の腸管に神経節細胞が欠如する。RET遺伝子などの異常が関与し、Down症候群に合併しやすい。約5,000出生に1人、男児に多い。 ・病型: 無神経節腸管が直腸〜S状結腸にとどまる短域型が約80%を占め、ほかに長域型、全結腸型、小腸型がある。 ・症状: 新生児期の胎便排泄遅延(生後24〜48時間以上)、腹部膨満、胆汁性嘔吐。直腸指診や浣腸で多量のガス・便が噴出する(explosive discharge)のが特徴。乳児期以降は難治性の便秘として発見されることもある。 ・合併症: Hirschsprung病関連腸炎は重症化すると敗血症から死亡しうるため注意する。
診断検査のまとめ
・腹部X線: 腸管拡張と骨盤腔内のガス欠如 ・注腸造影: 無神経節の狭小部と口側拡張部の境界(caliber change)。24時間後にもバリウムが残る排泄遅延 ・直腸肛門内圧検査: 直腸肛門反射の消失 ・直腸粘膜生検: AChE陽性神経線維の増生、神経節細胞の欠如
治療
浣腸や洗腸で減圧し、必要に応じて人工肛門を造設したうえで、無神経節腸管を切除して正常腸管を肛門へ引き下ろす根治術(Soave法、Duhamel法、Swenson法など。近年は経肛門的手術や腹腔鏡補助下手術が多い)を行う。
POINT
・正期産児で出生直後からの腹部膨満、腹部X線で骨盤腔内のガス欠如 → Hirschsprung病を疑う。 ・確定診断: 直腸粘膜生検(AChE陽性神経線維の増生、神経節細胞欠如)と直腸肛門内圧検査(直腸肛門反射の消失)。 ・注腸造影では caliber change がみられる。 ・上部消化管造影は腸回転異常症など上部の通過障害の検査であり、本症では使わない。
