StudyMed医師国家試験

「作る」中毒と「漏れる」中毒―無痛性甲状腺炎とBasedow病の共通点を見抜く

第103回医師国家試験 I問題 第37問

国試問題にチャレンジ

第103回 I問題 第37問

無痛性甲状腺炎とBasedow病の両方にみられるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.手指振戦
  2. b.頸部皮膚発赤
  3. c.頸部リンパ節腫
  4. d.前脛骨部粘液水腫
  5. e.びまん性甲状腺腫

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、甲状腺中毒症を起こす代表的な2つの疾患、無痛性甲状腺炎とBasedow病に「両方みられる所見」を選ぶ問題だ。ポイントは、ホルモンが過剰になる仕組みの違いと、それでも共通するものは何か、を整理すること。まず、2つの疾患の違いから考えてみよう。
医学生医学生
Basedow病はTRAbが甲状腺を刺激してホルモンを作りすぎる病気ですよね。無痛性甲状腺炎も同じように作りすぎるんでしょうか。
ドクタードクター
そこが大事な違いだ。Basedow病はTSH受容体に対する自己抗体が甲状腺を刺激し続けて、合成も分泌も増える甲状腺機能亢進症。一方、無痛性甲状腺炎は自己免疫性の炎症で濾胞が壊れ、蓄えてあったホルモンが血中に漏れ出す破壊性甲状腺中毒症なんだ。合成は増えていない。
医学生医学生
内分泌の講義で、機能亢進症と甲状腺中毒症は言葉として区別するように、と言われたのを思い出しました。
ドクタードクター
いい記憶だね。ただ、仕組みが違っても血中の甲状腺ホルモンが高いことは共通している。すると、どんな症状が両方に出るだろう。
医学生医学生
頻脈や動悸、発汗、体重減少……手指振戦もホルモン過剰による症状なので、両方に出そうです。
ドクタードクター
その通り。甲状腺ホルモンが過剰になると交感神経系の感受性が高まり、β受容体を介して指先に細かく速い振戦が起こる。ホルモンが作りすぎによるものでも漏れ出たものでも、血中濃度が高ければ同じように現れるから、手指振戦は共通所見だ。
医学生医学生
OSCEの練習で、両手を前に伸ばしてもらって紙を指の上にのせ、細かい震えを見る方法を教わりました。
ドクタードクター
実際の診察でも役に立つ手技だね。では甲状腺の腫れ方はどうだろう。
医学生医学生
Basedow病がびまん性に腫れるのは知っていますが、無痛性甲状腺炎は炎症なので、部分的に腫れるのかと思っていました。
ドクタードクター
よくある誤解だ。無痛性甲状腺炎は多くが橋本病を背景に起こり、炎症も甲状腺全体に及ぶので、びまん性の甲状腺腫を示すことが多い。腫大が目立たない例もあるけれどね。Basedow病はTRAbが甲状腺全体を刺激して濾胞細胞を増やすから、柔らかいびまん性腫大になる。どちらも結節性ではなく、びまん性という点が共通だ。
医学生医学生
では頸部の皮膚発赤はどうでしょう。炎症という名前がつく以上、無痛性甲状腺炎では赤くなりそうな気もします。
ドクタードクター
名前のとおり、無痛性甲状腺炎は痛みも発赤も伴わない。Basedow病でも発赤は出ない。頸部の皮膚発赤は、甲状腺やその周囲の強い炎症を示す所見で、代表は急性化膿性甲状腺炎だ。多くは下咽頭梨状窩瘻を介した細菌感染で、小児に多く左側に好発する。急速に増大する甲状腺未分化癌でもみられることがある。
医学生医学生
頸部リンパ節腫脹も、感染や癌の転移を考える所見ですね。
ドクタードクター
そう。反応性の腫大や、乳頭癌などのリンパ節転移を示唆する所見で、どちらの疾患にも診断の手がかりとして伴うものではない。最後に前脛骨部粘液水腫はどうかな。
医学生医学生
すねの前が硬く盛り上がる所見で、Basedow病に特有だったと思います。甲状腺機能低下症の粘液水腫と名前が似ていて混乱しやすいです。
ドクタードクター
まさにそこが注意点だ。前脛骨粘液水腫は真皮にヒアルロン酸などのグリコサミノグリカンが沈着した病変で、TRAbなどBasedow病特有の自己免疫が関わると考えられている。頻度は数%程度と低いが、Basedow病に特異的だ。眼症も同じく特有の所見で、ホルモン過剰そのものによる症状ではないから、無痛性甲状腺炎にはみられない。
医学生医学生
つまり両方にみられるのは、ホルモン過剰による手指振戦と、びまん性甲状腺腫の2つということですね。
ドクタードクター
正解。では臨床で両者をどう見分けるか、発展知識も押さえておこう。最も確実なのは放射性ヨウ素やテクネチウムの摂取率で、合成が増えるBasedow病では高値、濾胞が壊れているだけの無痛性甲状腺炎では低値になる。TRAbはBasedow病で陽性、無痛性では通常陰性。超音波の血流もBasedow病で著明に増加する。
医学生医学生
治療も変わりますか。抗甲状腺薬は無痛性甲状腺炎にも効くのでしょうか。
ドクタードクター
抗甲状腺薬はホルモン合成を抑える薬だから、合成が増えていない無痛性甲状腺炎には無効なんだ。無痛性甲状腺炎は一過性で、数週〜数か月で中毒期から一時的な機能低下期を経て回復することが多いから、原則は経過観察で、症状が強ければβ遮断薬を使う。出産後数か月の産後甲状腺炎として起こることも多いので、産後の動悸や振戦を見たら思い出してほしい。

まとめ

無痛性甲状腺炎は濾胞破壊によるホルモン漏出、Basedow病はTRAbによる合成亢進と、甲状腺中毒症の仕組みは異なりますが、血中甲状腺ホルモンが高い点は共通しているため、手指振戦などの中毒症状は両者にみられます。また、どちらも自己免疫を背景に甲状腺全体に病変が及ぶため、びまん性甲状腺腫が共通所見となります。一方、眼症や前脛骨粘液水腫はBasedow病特有の自己免疫による所見であり、頸部の皮膚発赤は急性化膿性甲状腺炎や未分化癌、頸部リンパ節腫脹は感染や癌の転移を考える所見です。両者の鑑別には放射性ヨウ素摂取率(Basedow病で高値、無痛性で低値)とTRAbが重要で、抗甲状腺薬が無痛性甲状腺炎に無効であることからも、病態の違いを理解することが適切な治療選択に直結します。

解答・解説

正解はa, eです

本問は、血中甲状腺ホルモンが過剰になる状態(甲状腺中毒症)を起こす代表的な2疾患、無痛性甲状腺炎とBasedow病(Graves病)の共通点と相違点を問う問題である。 両者の違いは、ホルモン過剰の仕組みにある。Basedow病では、TSH(甲状腺刺激ホルモン)受容体に対する自己抗体(TRAb)が甲状腺を刺激し続けるため、ホルモンの合成と分泌がともに増える(甲状腺機能亢進症)。一方、無痛性甲状腺炎では、自己免疫性の炎症で甲状腺濾胞が壊れ、蓄えられていたホルモンが血中へ漏れ出す(破壊性甲状腺中毒症)。合成は増えていない。 仕組みは違っても、血中の甲状腺ホルモンが高いことは共通である。そのため、頻脈・動悸、発汗過多、体重減少、手指振戦などの中毒症状は両者にみられる。また、どちらも自己免疫を背景として甲状腺全体に病変が広がるため、甲状腺はびまん性に腫大する。 逆に、Basedow病に特有の自己免疫現象である眼症や前脛骨粘液水腫は、TRAbが関わる病態なので無痛性甲状腺炎ではみられない。また、頸部の皮膚発赤やリンパ節腫脹は、細菌感染や悪性腫瘍を思わせる所見であり、どちらの疾患の特徴でもない。 以上から、「両方にみられる」のは甲状腺中毒症状である手指振戦と、びまん性甲状腺腫の2つになる。

選択肢考察

  1. ○a.  手指振戦

    甲状腺ホルモンが過剰になると交感神経系の感受性が高まり、β受容体を介して、指先に細かく速い震え(細かい振戦)が起こる。原因が合成亢進(Basedow病)でも濾胞破壊によるホルモン漏出(無痛性甲状腺炎)でも、血中ホルモンが高ければ同じように現れる。したがって両疾患に共通する所見である。

  2. ×b.  頸部皮膚発赤

    頸部の皮膚発赤は、甲状腺やその周囲に強い炎症が起きているときの所見である。代表は急性化膿性甲状腺炎(多くは下咽頭梨状窩瘻を介した細菌感染で、小児に多く左側に好発)で、急速に増大する甲状腺未分化癌でもみられることがある。無痛性甲状腺炎は名前のとおり痛みも発赤も伴わず、Basedow病でも発赤は生じない。

  3. ×c.  頸部リンパ節腫

    頸部リンパ節の腫大は、感染による反応性の腫大や、甲状腺癌(特に乳頭癌)などの悪性腫瘍のリンパ節転移を示唆する所見である。無痛性甲状腺炎とBasedow病はいずれも、診断の手がかりとして頸部リンパ節腫脹を伴う疾患ではない。

  4. ×d.  前脛骨部粘液水腫

    前脛骨粘液水腫は、すねの前面の皮膚が硬く盛り上がり、橙の皮のような外観になる病変である。真皮にグリコサミノグリカン(ヒアルロン酸など)が沈着して生じ、TRAbなどBasedow病に特有の自己免疫が関与すると考えられている。頻度は数%程度と低いが、Basedow病に特異的な所見である。無痛性甲状腺炎ではみられないため、両方にみられる所見ではない。なお、甲状腺機能低下症で全身にみられる「粘液水腫」とは別の病態である。

  5. ○e.  びまん性甲状腺腫

    Basedow病では、TRAbが甲状腺全体を刺激して濾胞細胞を増やすため、柔らかいびまん性の腫大が生じる。無痛性甲状腺炎は多くが慢性甲状腺炎(橋本病)を背景に起こり、炎症も甲状腺全体に及ぶため、びまん性の甲状腺腫を示すことが多い(腫大が目立たない例もある)。いずれも結節性ではなく、びまん性の腫大であることが共通点である。

甲状腺中毒症の2つの型

1. 甲状腺機能亢進症(合成亢進型): Basedow病、機能性甲状腺結節(Plummer病)、TSH産生下垂体腺腫など。 2. 破壊性甲状腺中毒症(漏出型): 無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎など。

Basedow病と無痛性甲状腺炎の鑑別

・放射性ヨウ素(またはテクネチウム)摂取率: Basedow病では高値、無痛性甲状腺炎では低値。これが最も確実な鑑別法である。 ・TRAb: Basedow病で陽性、無痛性甲状腺炎では通常陰性。 ・T3/T4比: 合成亢進型のBasedow病ではT3優位になりやすく、比が高い傾向がある。 ・甲状腺超音波での血流: Basedow病では著明に増加し、無痛性甲状腺炎では増加しない。 ・経過: 無痛性甲状腺炎は一過性で、数週〜数か月で中毒期から回復期へ移り、一時的に機能低下期を経て回復することが多い。治療は原則として経過観察で、症状が強ければβ遮断薬を用いる。抗甲状腺薬は合成を抑える薬なので無効である。 ・誘因: 無痛性甲状腺炎は出産後数か月(産後甲状腺炎)に多く、橋本病を背景に持つことが多い。

Basedow病に特有の所見

・甲状腺眼症(眼球突出、眼瞼後退など) ・前脛骨粘液水腫 ・甲状腺末端症(ばち指様の変化。まれ) いずれもTRAbなどBasedow病に特有の自己免疫が関わる病変であり、ホルモン過剰そのものによる症状ではない。

頸部の発赤・疼痛を伴う甲状腺疾患

・亜急性甲状腺炎: 移動する圧痛と発熱、赤沈亢進。発赤は通常目立たない。 ・急性化膿性甲状腺炎: 下咽頭梨状窩瘻が原因のことが多く、発赤・腫脹・疼痛・発熱を伴う。 ・甲状腺未分化癌: 急速に増大し、皮膚発赤や周囲への浸潤を伴うことがある。

POINT

・無痛性甲状腺炎とBasedow病はいずれも甲状腺中毒症であり、動悸・発汗・体重減少・手指振戦などの中毒症状とびまん性甲状腺腫が共通する。 ・眼症と前脛骨粘液水腫はBasedow病に特有で、無痛性甲状腺炎にはない。 ・両者の鑑別は、放射性ヨウ素摂取率(Basedow病で高値、無痛性で低値)とTRAbで行う。 ・頸部の皮膚発赤は急性化膿性甲状腺炎や未分化癌を考える所見である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。