StudyMed医師国家試験

「静かな」尿道炎―淋菌と比べて見えるクラミジアの素顔

第103回医師国家試験 I問題 第31問

国試問題にチャレンジ

第103回 I問題 第31問

クラミジア性尿道炎で正しいのはどれか。

  1. a.激しい排尿痛
  2. b.前立腺炎の併発
  3. c.抗菌薬への耐性化
  4. d.膿性の尿道分泌物
  5. e.1~3週間の潜伏期間

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はクラミジア性尿道炎の臨床像を問う問題だ。男性の尿道炎は淋菌性と非淋菌性に大きく分けられ、非淋菌性の原因で最も多いのがクラミジア・トラコマティス。この問題は、淋菌性尿道炎と対比しながら考えると一気に解けるよ。比較のポイントは「潜伏期間」「症状の強さ」「分泌物の性状」の3つだ。
医学生医学生
性感染症の尿道炎というと、激しく痛んで膿が出るイメージがあります。
ドクタードクター
そのイメージはまさに淋菌性尿道炎のものなんだ。淋菌は潜伏期間が2〜7日程度と短く、急に強い排尿痛が出て、黄白色の膿性分泌物が多量に出る。一方のクラミジアは、排尿時の軽い痛みやむずがゆさ程度で、男性でも半数近くが無症状とされる。
医学生医学生
じゃあ「激しい排尿痛」と「膿性の尿道分泌物」は淋菌の特徴なので、クラミジアには当てはまらないんですね。
ドクタードクター
その通り。クラミジアの分泌物は漿液性〜粘液性で、透明から白色のさらさらしたものが少量みられる程度だ。ただし分泌物の性状だけで確定はできないから、診断には初尿を使った核酸増幅検査で病原体を検出する。
医学生医学生
初尿というのは、出始めの尿ですよね。泌尿器科の実習で、中間尿じゃなくて初尿を採るように指導されたのが印象に残っています。
ドクタードクター
尿道にいる病原体を拾うには出始めの尿が一番だからね。では潜伏期間はどうだろう。
医学生医学生
微生物学の講義で、クラミジアは細胞の中でしか増えない偏性細胞内寄生菌だと習いました。増えるのに時間がかかるから、潜伏期間も長いということでしょうか。
ドクタードクター
いい推論だ。クラミジアは感染性の基本小体が細胞に入り込み、細胞内で増殖型の網様体に姿を変えて分裂する。この増殖サイクルが約48〜72時間とゆっくりなので、潜伏期間は1〜3週間と淋菌より長く、症状も穏やかになると考えられている。だから正解は「1〜3週間の潜伏期間」だ。性交渉から1週間以上たって出てきた軽い尿道炎なら、まずクラミジアを疑おう。
医学生医学生
抗菌薬への耐性化も、性感染症では問題になっていると聞きますが……。
ドクタードクター
耐性化が深刻なのは淋菌のほうなんだ。ペニシリン系、テトラサイクリン系、ニューキノロン系、経口セフェム系に対する耐性株が広がり、現在はセフトリアキソンの注射などが推奨されている。クラミジアにはマクロライド系やテトラサイクリン系が有効で、臨床上問題になるほどの耐性はまれだよ。
医学生医学生
でもクラミジアにはペニシリンが効かないと習いました。それは耐性とは違うんですか?
ドクタードクター
鋭い質問だね。クラミジアは細胞壁のペプチドグリカンが乏しいから、もともとβ-ラクタム系の効果が期待できない。これは獲得した耐性化ではなく、菌が本来持っている性質なんだ。区別して覚えておこう。
医学生医学生
前立腺炎の併発はどうでしょう。尿道から上がっていけば起こりそうな気もします。
ドクタードクター
上行感染という発想はいいけれど、クラミジアで重要なのは前立腺炎ではなく精巣上体炎だ。若年男性の急性精巣上体炎の原因として最も重要なのがクラミジアなんだ。急性細菌性前立腺炎の主な原因は大腸菌などのグラム陰性桿菌で、クラミジアが前立腺炎の原因になるかははっきりしていない。だから前立腺炎の併発をクラミジア性尿道炎の特徴とは言えないね。
医学生医学生
クラミジアは潜伏期間が長くて症状が軽い、淋菌は短くて激しい、と対にして覚えればいいんですね。
ドクタードクター
そうだね。最後に臨床で大事なことを。症状が軽いぶん受診が遅れ、気づかないうちにパートナーへ感染を広げやすい。日本で最も報告数の多い性感染症でもある。女性では子宮頸管炎が主体で無症状が多く、上行感染で骨盤内炎症性疾患や肝周囲炎、いわゆるFitz-Hugh-Curtis症候群を起こし、卵管障害による不妊症や異所性妊娠の原因になる。産道感染では新生児の封入体結膜炎や肺炎も起こしうる。
医学生医学生
本人だけでなく、パートナーや将来の妊娠、生まれてくる赤ちゃんにまで影響するんですね。
ドクタードクター
だからこそ、淋菌との重複感染も念頭に同時検査を行い、パートナーも一緒に検査・治療することが欠かせない。治療はアジスロマイシンの単回投与や、ドキシサイクリンなどの7日間投与が用いられる。「静かな感染症」だからこそ、見逃さない姿勢が大切なんだ。

まとめ

クラミジア性尿道炎は非淋菌性尿道炎の最多の原因で、潜伏期間は1〜3週間と長く、症状は軽い排尿痛やむずがゆさ程度、分泌物は漿液性〜粘液性で少量にとどまり、無症状例も多いのが特徴です。これに対し淋菌性尿道炎は潜伏期間2〜7日と短く、強い排尿痛と多量の膿性分泌物を呈し、多剤耐性化が問題となっています。クラミジアはβ-ラクタム系が本来無効で、マクロライド系やテトラサイクリン系で治療し、男性では前立腺炎ではなく若年者の精巣上体炎の主因として重要です。女性では骨盤内炎症性疾患やFitz-Hugh-Curtis症候群、不妊症・異所性妊娠につながるため、初尿などを用いた核酸増幅検査で確実に診断し、パートナーも含めて治療することが感染拡大を防ぐ鍵となります。

解答・解説

正解はeです

問われているテーマ

男性の尿道炎は性感染症(STI)の代表で、原因によって淋菌性尿道炎と非淋菌性尿道炎に大きく分けられる。非淋菌性尿道炎の原因として最も多いのがクラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis)で、ほかにマイコプラズマ・ジェニタリウム(Mycoplasma genitalium)なども原因となる。本問は、クラミジア性尿道炎の臨床像を淋菌性尿道炎と対比して理解しているかを問う。

正解を導く考え方

両者の違いは「潜伏期間」「症状の強さ」「分泌物の性状」でほぼ整理できる。 ・淋菌性:潜伏期間2〜7日程度と短い。排尿痛が強く、黄白色の膿性分泌物が多量に出る。急性に発症する。 ・クラミジア性:潜伏期間1〜3週間と長い。排尿時の軽い痛みやむずがゆさ(瘙痒感)程度の軽い症状で、分泌物は漿液性〜粘液性(透明〜白色でさらさら)で量も少ない。無症状のことも多い。 この対比から、選択肢a(激しい排尿痛)とd(膿性分泌物)は淋菌性の特徴であり、e(1〜3週間の潜伏期間)がクラミジア性の特徴として正しい。抗菌薬耐性が大きな問題となっているのも淋菌のほうである。

選択肢考察

  1. ×a.  激しい排尿痛

    誤り。クラミジア性尿道炎の自覚症状は、排尿時の軽い痛み、尿道の不快感やかゆみ程度にとどまることが多く、男性でも半数近くが無症状とされる。激しい排尿痛は淋菌性尿道炎の特徴である。症状が軽いため受診が遅れ、気づかないうちにパートナーへ感染を広げやすい点が公衆衛生上の問題となる。

  2. ×b.  前立腺炎の併発

    誤り。前立腺炎の併発はクラミジア性尿道炎の特徴として挙げられるものではない。急性細菌性前立腺炎の主な原因は大腸菌などのグラム陰性桿菌であり、クラミジアが前立腺炎の原因となるかは明確ではない。なお、クラミジアは尿道から上行して精巣上体炎を起こすことがあり、若年男性(おおむね35歳未満)の急性精巣上体炎の原因として最も重要である。前立腺炎と精巣上体炎を混同しないよう注意する。

  3. ×c.  抗菌薬への耐性化

    誤り。クラミジアに対しては、マクロライド系(アジスロマイシン)、テトラサイクリン系(ドキシサイクリン、ミノサイクリン)、一部のニューキノロン系が有効で、臨床上問題となるほどの耐性化はほとんど報告されていない。クラミジアは細胞壁のペプチドグリカンが乏しい偏性細胞内寄生菌のため、β-ラクタム系(ペニシリン系・セフェム系)は効果が期待できないが、これは耐性化ではなく本来の性質である。耐性化が深刻なのは淋菌で、ペニシリン系、テトラサイクリン系、ニューキノロン系、経口セフェム系に対する耐性株が広がり、現在はセフトリアキソンの注射などが推奨されている。

  4. ×d.  膿性の尿道分泌物

    誤り。クラミジア性尿道炎の分泌物は漿液性〜粘液性で、透明から白色のさらさらしたものが少量みられる程度である。黄白色で粘稠な膿性分泌物が多量に出るのは淋菌性尿道炎の特徴である。ただし分泌物の性状だけで確定はできず、診断には初尿(出始めの尿)を用いた核酸増幅検査(PCR法など)で病原体を検出する。

  5. ○e.  1~3週間の潜伏期間

    正しい。クラミジア性尿道炎の潜伏期間は感染後1〜3週間とされ、淋菌性尿道炎(2〜7日程度)より長い。クラミジアは宿主細胞内で基本小体から網様体へと形を変えて増殖し、その増殖サイクルが約48〜72時間と遅いことが、潜伏期間の長さや症状の穏やかさと関係している。「性交渉から1週間以上たって出てきた軽い尿道炎」はクラミジアをまず疑う。

クラミジア・トラコマティスの特徴

・偏性細胞内寄生性の細菌で、感染性をもつ基本小体が細胞に入り込み、細胞内で増殖型の網様体となって分裂する。 ・日本で最も報告数の多い性感染症である。 ・血清型により疾患が異なる:A〜C型はトラコーマ、D〜K型は性器感染症・封入体結膜炎・新生児肺炎、L1〜L3型は鼠径リンパ肉芽腫症。

男女別の病像

・男性:尿道炎、精巣上体炎。症状が軽く気づかれにくい。 ・女性:子宮頸管炎が主体で無症状が多い。上行感染により骨盤内炎症性疾患(PID)、肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)を起こし、卵管障害による不妊症や異所性妊娠の原因となる。 ・新生児:産道感染による封入体結膜炎、肺炎。

診断と治療

・診断:男性は初尿、女性は子宮頸管擦過物を用いた核酸増幅検査(PCR法、SDA法、TMA法など)が標準。淋菌との同時検査が行われることが多い(重複感染が少なくないため)。 ・治療:アジスロマイシン単回投与、ドキシサイクリンやミノサイクリンの7日間投与などが用いられる。パートナーの同時検査・治療が重要である。

淋菌性尿道炎との比較

・潜伏期間:淋菌 2〜7日/クラミジア 1〜3週間 ・症状:淋菌 強い排尿痛、急性発症/クラミジア 軽い排尿痛・瘙痒感、無症状も多い ・分泌物:淋菌 黄白色で膿性・多量/クラミジア 漿液性〜粘液性・少量 ・薬剤耐性:淋菌 多剤耐性が問題(セフトリアキソン注射が推奨)/クラミジア 臨床上問題となる耐性はまれ

POINT

・クラミジア性尿道炎:潜伏期間1〜3週間と長く、症状は軽く、分泌物は漿液性で少量。無症状例も多い。 ・淋菌性尿道炎:潜伏期間2〜7日と短く、強い排尿痛と膿性分泌物。薬剤耐性化が問題。 ・クラミジアは若年男性の精巣上体炎の主因。女性では不妊症や異所性妊娠、Fitz-Hugh-Curtis症候群の原因となる。 ・β-ラクタム系は無効。マクロライド系・テトラサイクリン系で治療し、パートナーも治療する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。