穴があいた腸に何を流す?―十二指腸潰瘍穿孔で選ぶべき検査と「やってはいけない」検査
第103回医師国家試験 I問題 第16問
国試問題にチャレンジ
十二指腸潰瘍穿孔が疑われた場合の検査として適切なのはどれか。
- a.上部消化管バリウム造影
- b.排泄性胆道造影
- c.内視鏡的逆行性胆管膵管造影〈ERCP〉
- d.腹部造影CT
- e.超音波内視鏡
対話形式の解説
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ドクターまとめ
十二指腸潰瘍穿孔を疑ったときは、腹腔内の遊離ガス(free air)を確認することが診断の要で、立位または左側臥位の単純エックス線に加え、少量のfree airや腹水、周囲の炎症まで鋭敏に描出できるCTが中心的な検査となります。造影CTでは急性膵炎、腸間膜虚血、大動脈解離など他の急性腹症との鑑別も同時に行えます。一方、バリウム造影は漏出したバリウムが腹膜炎を悪化させるため禁忌で、造影が必要なら水溶性造影剤を用い、送気を伴うERCPや超音波内視鏡も穿孔の診断目的では行いません。診断後は条件を満たせば絶食・胃管減圧・PPI・抗菌薬による保存的治療も選択肢となり、再発予防としてピロリ菌除菌やNSAIDs中止が重要です。「知りたい情報が得られるか」と「検査そのものが害にならないか」を両立させて検査を選ぶ姿勢は、急性腹症診療全般の基本です。
解答・解説
正解はdです
十二指腸潰瘍穿孔は、潰瘍が腸管壁を貫いて孔があき、消化管内の空気や胃液・十二指腸液が腹腔内に漏れ出る状態である。典型的には突然の激しい上腹部痛で発症し、腹膜刺激症状(筋性防御、反跳痛、板状硬)を伴う。 穿孔を疑ったときの画像検査の目的は次のとおりである。 1) 腹腔内の遊離ガス(free air)を確認して穿孔を診断する。 2) 穿孔部位の推定、腹水・膿瘍などの広がりを評価する。 3) 急性膵炎、胆嚢炎、腸間膜虚血、大動脈疾患など、似た症状の疾患を鑑別する。 最初に行いやすいのは立位(または左側臥位)の腹部・胸部単純エックス線で、横隔膜下の free air を探す。ただし free air が少量だと単純写真では見逃されやすく、十二指腸潰瘍穿孔でも一定の割合で描出されない。CTは少量の free air や腹水、穿孔部周囲の炎症まで描出でき、他疾患との鑑別も同時に行えるため、現在は穿孔が疑われる場合の中心的な検査である。 一方、消化管にバリウムを流す検査や、消化管内に送気する内視鏡系の検査は、穿孔部からの漏出を増やし腹膜炎を悪化させるおそれがあるため、この場面では選ばない。胆道・膵臓を対象とした検査は目的が異なる。
選択肢考察
- ×a. 上部消化管バリウム造影
不適切であり、消化管穿孔が疑われる場合は禁忌である。バリウム(硫酸バリウム)は吸収されない粒子で、穿孔部から腹腔内に漏れると強い化学的刺激となって腹膜炎を悪化させ、癒着や肉芽腫の原因にもなり、除去も困難である。造影で漏出の有無を確認する必要がある場合は、吸収されるヨード系の水溶性造影剤(ガストログラフィン)を用いる。
- ×b. 排泄性胆道造影
不適切である。ヨード造影剤を静脈内に投与し、肝臓から胆汁中へ排泄されたものを利用して胆嚢・胆管を描出する検査であり、胆石や胆管の異常を評価する目的で行う。十二指腸の穿孔部や腹腔内の遊離ガスを評価する検査ではない。現在は胆道の評価もMRCP(磁気共鳴胆管膵管撮影)やCTが中心で、施行される機会自体が少なくなっている。
- ×c. 内視鏡的逆行性胆管膵管造影〈ERCP〉
不適切である。十二指腸まで内視鏡を挿入し、十二指腸乳頭から胆管・膵管に造影剤を注入して撮影する検査で、胆道・膵疾患の診断や、胆管結石の除去・ステント留置などの処置に用いる。穿孔の診断には役立たず、さらに内視鏡挿入時の送気によって穿孔部からの漏出や気腹を増悪させる危険があるため、穿孔を疑う状況では行わない。
- ○d. 腹部造影CT
適切である。CTは単純エックス線では見えにくい少量の free air も鋭敏に検出でき、肺野条件(ウィンドウ幅を広げた表示)にすると肝表面や前腹壁直下、肝円索周囲などのわずかなガスも捉えやすい。さらに腹水の量と分布、穿孔部周囲の壁肥厚・脂肪織の炎症、膿瘍形成などを評価でき、穿孔部位の推定や、保存的治療か手術かの判断材料にもなる。造影を行うと腸管壁や他臓器の血流も評価でき、急性膵炎・腸間膜虚血・大動脈解離など他の急性腹症との鑑別に役立つ。なお free air の検出だけであれば単純CTでも可能である。
- ×e. 超音波内視鏡
不適切である。内視鏡の先端に超音波装置を付けた検査(EUS:endoscopic ultrasonography)で、消化管の癌の壁深達度診断、粘膜下腫瘍の評価、膵・胆道病変の精査や穿刺吸引などに用いる。穿孔の診断を目的とする検査ではなく、送気を伴う内視鏡操作は穿孔部を広げ腹膜炎を悪化させるおそれがある。
消化管穿孔の画像診断
・立位胸部・腹部単純エックス線:横隔膜下の free air(三日月状の透亮像)。立位が取れなければ左側臥位で撮影し、肝臓の外側に集まるガスを確認する。少量では検出できないことがある ・CT:少量の free air、腹水、穿孔部周囲の炎症、膿瘍を描出でき、最も有用。他疾患の鑑別も可能 ・腹部超音波:ベッドサイドで施行でき、腹水の評価に有用 ・水溶性造影剤(ガストログラフィン)による造影:穿孔部が被覆(閉鎖)されているかの確認に用いることがある。バリウムは禁忌
上部消化管穿孔の治療
胃・十二指腸潰瘍穿孔では、条件を満たせば保存的治療が選択されうる。目安は、発症から24時間以内、全身状態が安定、腹膜炎が上腹部に限局、腹水が少量、年齢がおおむね70歳未満、重篤な併存疾患がない、などである。保存的治療では絶食、経鼻胃管による持続吸引、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の投与、抗菌薬投与を行う。これらを満たさない場合や、保存的治療で改善しない場合は手術(大網充填術・大網被覆術による穿孔部閉鎖と腹腔内洗浄ドレナージ、腹腔鏡下手術を含む)を行う。穿孔後はヘリコバクター・ピロリ除菌やNSAIDsの中止など、再発予防も重要である。
free air をみる疾患・状態
消化管穿孔のほか、開腹・腹腔鏡手術後、腹膜透析、腸管嚢胞様気腫症などでもみられるため、病歴と併せて判断する。
POINT
・消化管穿孔を疑ったら、まず立位の単純エックス線とCTで free air を確認する ・CTは少量の free air、腹水、周囲の炎症を鋭敏に描出でき、他疾患の鑑別にも有用 ・穿孔が疑われる場合、バリウム造影は禁忌。造影が必要なら水溶性造影剤を用いる ・ERCP、超音波内視鏡など送気を伴う内視鏡検査は穿孔の診断目的では行わない ・十二指腸潰瘍穿孔は条件を満たせば保存的治療(絶食・胃管減圧・PPI・抗菌薬)も選択肢となる
