その扁桃炎にペニシリンは待った!―異型リンパ球が告げる伝染性単核症の落とし穴
第103回医師国家試験 G問題 第48問
国試問題にチャレンジ
21歳の女性。弛張熱と咽頭痛とを主訴に来院した。両側口蓋扁桃は発赤,腫脹し,硬口蓋粘膜に点状の出血斑を認める。両側頸部に腫大したリンパ節を複数個触知する。体温38.2℃。白血球9,600(リンパ球60%,異型リンパ球20%)。 この患者に投与すべきでない抗菌薬はどれか。
- a.セフェム系
- b.ペニシリン系
- c.マクロライド系
- d.ニューキノロン系
- e.テトラサイクリン系
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
若年者の発熱・咽頭痛・扁桃腫大に、両側性の頸部リンパ節腫大、口蓋の点状出血、リンパ球優位の白血球分画と異型リンパ球の増加がそろえば、EBウイルス初感染による伝染性単核症を考えます。異型リンパ球はEBウイルス感染B細胞を排除しようと活性化したT細胞です。伝染性単核症に抗菌薬は不要ですが、溶連菌性扁桃炎と誤認してアンピシリンやアモキシシリンなどのアミノペニシリンを投与すると高頻度に全身の発疹が出るため、ペニシリン系は投与すべきでありません。確定診断にはVCA-IgM陽性・EBNA抗体陰性といった抗体検査を用い、脾腫がある時期は脾破裂予防のため激しい運動を控えさせます。溶連菌の第一選択薬がペニシリン系であるからこそ、両者を見分ける力が安全な処方に直結します。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・21歳の若年成人 ・弛張熱(1日の体温差が1℃以上あり、最低体温が37℃を下回らない熱型)と咽頭痛 ・両側口蓋扁桃の発赤・腫脹 ・硬口蓋粘膜の点状出血斑(口蓋点状出血) ・両側頸部の多発リンパ節腫大 ・白血球9,600/μLでリンパ球60%、異型リンパ球20%
診断へのプロセス
若年者の発熱・咽頭痛・扁桃腫大では、まずA群β溶血性レンサ球菌(溶連菌)などによる細菌性扁桃炎と、伝染性単核症(伝染性単核球症、infectious mononucleosis:IM)を鑑別する。 本症例で細菌性扁桃炎よりもIMを強く示唆するのは次の点である。 ①白血球分画でリンパ球が優位(60%、絶対数にして約5,800/μL)であり、細菌感染で典型的な好中球優位ではない。 ②異型リンパ球(ウイルス抗原に反応して活性化・幼若化したT細胞)が20%と多い。IMでは10%以上の出現が診断の目安となる。 ③頸部リンパ節腫大が両側性・多発性である(後頸部リンパ節の腫大が特徴的)。 ④硬口蓋の点状出血はIMでしばしばみられる所見である。 以上から、Epstein-Barr(EB)ウイルスの初感染によるIMと診断する。
設問への考え方
IMはウイルス感染症であり、そもそも抗菌薬は治療として必要ない。ただし臨床の現場では、細菌性扁桃炎と区別がつかないまま抗菌薬が処方されることがある。問題は、IMの患者にアミノペニシリン(アンピシリン、アモキシシリン)を投与すると高頻度に全身性の発疹(斑状丘疹状の薬疹様皮疹)が出現することである。したがって、投与すべきでない抗菌薬としてペニシリン系を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. セフェム系
セフェム系でもIM患者で皮疹が出た報告はあるが、その頻度はアミノペニシリンより明らかに低く、IMで特に避けるべき薬剤としては扱われない。本症例は細菌感染を示す根拠に乏しく抗菌薬の適応自体がないものの、「投与すべきでない」代表薬として選ぶ対象ではない。
- ○b. ペニシリン系
IM患者にアンピシリンやアモキシシリンなどのアミノペニシリンを投与すると、投与数日後に全身に斑状丘疹状の発疹が高頻度で出現する(古い報告では70〜100%、近年の報告では約3割程度とされる)。EBウイルス感染によるB細胞・T細胞の活性化で、薬剤に対する免疫反応が一時的に起こりやすくなることが関与すると考えられている。この皮疹は多くの場合一過性で、IM回復後に同じ薬剤を使っても再発しないことが多く、真のペニシリンアレルギーとは区別される。ただし患者に不要な苦痛を与え、薬疹との鑑別も難しくするため、IMが疑われる患者には投与すべきでない。咽頭痛・扁桃腫大を溶連菌感染と誤認してペニシリン系を処方する場面で特に問題となる。
- ×c. マクロライド系
マクロライド系(エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど)はIMで皮疹を誘発しやすいという特別な注意喚起はない。ペニシリンアレルギー患者の溶連菌感染などで代替薬として用いられることもある。ただしIMそのものには抗菌薬は無効である。
- ×d. ニューキノロン系
ニューキノロン系(レボフロキサシンなど)についても、IMで皮疹が増えるという関連は知られていない。IMに対して使う理由はないが、本問で禁忌的に避けるべき薬剤として挙げられるものではない。
- ×e. テトラサイクリン系
テトラサイクリン系(ミノサイクリン、ドキシサイクリンなど)もIMでの皮疹誘発との関連は知られていない。テトラサイクリン系は歯の着色やエナメル質形成不全のため8歳未満の小児や妊婦では原則避けるが、本症例は21歳の女性であり、この点も該当しない。
伝染性単核症(IM)の概要
・原因:主にEBウイルス(ヘルペスウイルス科)の初感染。唾液を介して感染し、思春期〜若年成人に多い(キス病とも呼ばれる)。日本では乳幼児期に不顕性感染する人が多いが、近年は思春期以降の初感染が増えている。 ・病態:EBウイルスはB細胞に感染し、これを排除しようとする細胞傷害性T細胞が増殖する。この活性化T細胞が末梢血中に異型リンパ球として現れる。 ・症状の三主徴:発熱、咽頭痛(扁桃に白苔を伴うこともある)、頸部リンパ節腫大(特に後頸部)。そのほか肝脾腫、眼瞼浮腫、口蓋の点状出血などがみられる。 ・検査:リンパ球増加、異型リンパ球(10%以上)、AST・ALTの上昇(肝機能障害)。確定にはEBウイルス抗体を用いる。初感染ではVCA-IgM抗体が陽性、EBNA抗体(回復期以降に陽性化)が陰性となる。異好抗体(Paul-Bunnell反応)も補助的に用いられる。 ・治療:対症療法(安静、解熱鎮痛薬)が基本。抗菌薬・抗ウイルス薬は通常不要。気道閉塞をきたすほどの扁桃腫大などでは副腎皮質ステロイドを用いることがある。 ・注意点:脾腫がある時期は脾破裂の危険があるため、発症後数週間は激しい運動や接触スポーツを避ける。
IM様症状を呈する疾患(伝染性単核症様症候群)
サイトメガロウイルス、HIV急性感染、トキソプラズマ、アデノウイルス、急性肝炎ウイルス感染などで類似の症状がみられるため鑑別が必要である。症状が長期化する場合は、白血病や悪性リンパ腫、慢性活動性EBウイルス感染症などの血液疾患も考慮する。
細菌性扁桃炎との鑑別
溶連菌性扁桃炎は好中球優位の白血球増加、前頸部リンパ節腫大、咳がないことなどが特徴で、迅速抗原検査や咽頭培養で確認する。治療の第一選択はペニシリン系(アモキシシリン)であるため、IMとの鑑別を誤るとペニシリン疹を招くことになる。
POINT
・若年者の発熱+咽頭痛+両側頸部リンパ節腫大+リンパ球増加・異型リンパ球 → 伝染性単核症(EBウイルス初感染) ・IMにアミノペニシリン(アンピシリン、アモキシシリン)を投与すると高頻度に発疹が出現する → 投与を避ける ・IM自体に抗菌薬は不要で、治療は対症療法が中心 ・脾腫があれば脾破裂予防のため激しい運動を控える ・溶連菌性扁桃炎との鑑別が重要(溶連菌の第一選択薬がペニシリン系であるため)
