体重だけが置いていかれる―成長曲線が教える「母乳不足」のサイン
第103回医師国家試験 G問題 第45問
国試問題にチャレンジ
4か月の女児。健康診査のために来院した。在胎39週,体重3,400g,Apgarスコア8点(1分)で出生した。身長60cm,体重5.3kg,頭囲40cm。母乳栄養である。首はすわっており,あやすと笑う。寝返りとお座りとはしない。体重増加曲線を別に示す。 考えられるのはどれか。

- a.脱水
- b.先天異常
- c.母乳不足
- d.脳性麻痺
- e.成長ホルモン分泌不全
対話形式の解説
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ドクターまとめ
乳児の成長は一時点の値ではなく成長曲線上の推移で評価し、パーセンタイル曲線を横切って下降していれば体重増加不良として原因を考えます。体重だけが低く身長・頭囲・精神運動発達が保たれている場合は、栄養摂取不足、特に母乳栄養児では母乳不足(哺乳量不足)をまず疑います。脱水は急激な体重減少と脱水徴候を、先天異常は低出生体重や奇形徴候を、脳性麻痺は定頸の遅れや筋緊張異常を伴い、成長ホルモン分泌不全では身長の伸びが主に障害される点で区別できます。体重は3〜4か月で出生時の約2倍、1歳で約3倍という目安と、定頸・寝返り・お座りの時期をあわせて覚えておくと、健診での判断に役立ちます。母乳不足の評価は母親の印象ではなく児の体重増加・活気・排尿回数で行い、必要なら人工乳の補足を検討するという流れは、乳児健診の実践に直結する知識です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・出生時: 在胎39週の正期産、出生体重3,400g、Apgarスコア(皮膚色・心拍数・反射・筋緊張・呼吸の5項目で出生直後の状態を評価する指標)1分値8点で、周産期に大きな問題はない。 ・現在(4か月): 身長60cm、頭囲40cmは4か月女児としてほぼ標準的な範囲にある。一方、体重5.3kgは少なく、出生から4か月間の増加は1,900g(1日あたり平均約16g)にとどまる。健康な乳児では生後3か月ころまでは1日25〜30g程度増え、生後3〜4か月で出生体重のほぼ2倍(本児なら約6.8kg)に達するのが目安であるが、本児は約1.6倍にすぎない。 ・体重増加曲線: 出生時は50〜75パーセンタイル付近にあったが、その後の増加が緩やかで、月を追うごとにパーセンタイル曲線を横切って下方へずれ、4か月では3〜10パーセンタイル付近まで落ちている。急な体重減少ではなく、出生直後から持続的に増え方が足りない経過である。 ・発達: 首がすわり、あやすと笑う(社会的微笑)。定頸はおおむね3〜4か月、社会的微笑は2〜3か月で獲得されるので、年齢相応である。寝返り(5〜6か月ころ)とお座り(6〜7か月ころ)はまだできなくて当然である。 ・母乳栄養である。
診断へのプロセス
本児の問題は「体重だけが増えない」ことに集約される。身長・頭囲は保たれ、精神運動発達も正常で、特定の疾患を示唆する症状(呼吸器・循環器症状、嘔吐・下痢、奇形徴候など)の記載もない。 栄養摂取が不足すると、まず体重の増加が鈍り、不足が長引いてはじめて身長、さらに頭囲の伸びが障害される。本児のように体重のみが相対的に低く、身長・頭囲が保たれているパターンは、エネルギー摂取不足(栄養不足)を最も示唆する。一方、内分泌疾患(成長ホルモン分泌不全、甲状腺機能低下症など)では身長の伸びが先に障害され、体重は相対的に保たれることが多い。 母乳栄養児で、器質的疾患を疑う所見がなく、出生直後から緩やかに体重増加が不十分であることから、最も考えられるのは母乳不足(哺乳量不足)である。実際の診療では、哺乳回数・1回の哺乳時間、授乳前後の体重差(哺乳量測定)、尿・便の回数、母親の乳房の状態などを確認し、必要に応じて人工乳の補足を検討する。
選択肢考察
- ×a. 脱水
脱水は嘔吐・下痢・発熱などを契機に比較的急に水分が失われる病態で、急激な体重減少のほか、大泉門の陥凹、皮膚ツルゴールの低下、口腔粘膜の乾燥、尿量減少、活気低下などを伴う。本児は4か月にわたって緩やかに体重増加が不十分な経過であり、脱水を示す症状・徴候の記載もなく、あやすと笑うなど活気も保たれているため合致しない。
- ×b. 先天異常
先天異常(染色体異常、先天性心疾患、先天性代謝異常症など)による体重増加不良であれば、子宮内発育遅延による低出生体重、特徴的な顔貌や外表奇形、心雑音・多呼吸・哺乳時の易疲労、嘔吐、発達の遅れなどの随伴所見がみられることが多い。本児は正期産・正常体重で出生し、発達も正常で、先天異常を示唆する記載はない。
- ○c. 母乳不足
正常な周産期歴、年齢相応の身長・頭囲と精神運動発達、特定疾患を示唆する症状の欠如という条件のもとで、出生直後から体重増加だけが持続的に不十分で、体重増加曲線がパーセンタイル曲線を横切って下降している。栄養不足ではまず体重が影響を受けるので、この経過に最もよく合う。母乳栄養児であることから、母乳分泌量や哺乳量の不足が最も考えられる。
- ×d. 脳性麻痺
脳性麻痺は、受胎から新生児期までに生じた脳の非進行性病変による運動と姿勢の異常である。乳児期には定頸の遅れ、筋緊張の低下または亢進、反り返り、原始反射の残存などで気づかれ、哺乳障害を伴えば体重増加不良をきたすこともある。本児は4か月で首がすわっており、運動発達の遅れや筋緊張異常を示す所見がないため否定的である。寝返り・お座りができないのは4か月では正常である。
- ×e. 成長ホルモン分泌不全
成長ホルモン分泌不全性低身長症では、身長の伸びが障害されるのが主体で、体重は相対的に保たれるため、身長に比べて太った体型になりやすい。また乳児期の成長は栄養や甲状腺ホルモンへの依存が大きく、成長ホルモンの影響が目立つのは主に乳児期後半以降である(新生児・乳児期には低血糖や男児の小陰茎で気づかれることがある)。本児は身長60cmと標準的で、体重だけが低いため合致しない。
乳児の体重増加の目安
・生後数日は生理的体重減少(出生体重の5〜10%程度)があり、生後1〜2週で出生体重に戻る。 ・1日あたりの体重増加: 0〜3か月で約25〜30g、3〜6か月で約15〜20g、6〜12か月で約10g前後。 ・体重は生後3〜4か月で出生時の約2倍、1歳で約3倍になる。身長は1歳で出生時(約50cm)の約1.5倍(約75cm)、頭囲は出生時約33cmから1歳で約45cmになる。
成長曲線の読み方
・一時点の値よりも、経時的な推移(どのパーセンタイル曲線に沿っているか)が重要である。 ・主要なパーセンタイル曲線を2本以上横切って下降する場合は体重増加不良(成長障害)として原因検索を行う。 ・体重・身長・頭囲のどれが先に障害されているかで原因を推定する。 体重<身長・頭囲(体重が主に障害): 栄養不足(摂取不足・吸収障害・消費亢進) 身長が主に障害、体重は相対的に保たれる: 内分泌疾患(成長ホルモン分泌不全、甲状腺機能低下症、Cushing症候群など) 体重・身長・頭囲がそろって小さい: 染色体異常・先天異常症候群、子宮内発育遅延など
体重増加不良(failure to thrive)の原因
・非器質性: 母乳不足・調乳の誤り、養育環境の問題(ネグレクトを含む)など。乳児では最も多い。 ・器質性: 先天性心疾患(心不全による哺乳力低下・消費亢進)、慢性呼吸器疾患、消化器疾患(胃食道逆流症、肥厚性幽門狭窄症、吸収不良症候群)、腎疾患(腎尿細管性アシドーシスなど)、先天性代謝異常症、中枢神経疾患(哺乳障害)など。
母乳不足の判断
母親は「乳房が張らない」「授乳時間が短い」「すぐ泣く」などから母乳不足を心配しやすいが、判断は児の体重増加、活気、皮膚の張り、排尿回数(1日6回以上が目安)などで行う。体重増加がやや少なくても、元気で皮膚に張りがあり、基礎疾患がなければ経過観察でよい場合も多い。授乳前後の体重測定で1回哺乳量を把握することも有用である。
4か月前後の運動・精神発達の目安
社会的微笑2〜3か月、定頸3〜4か月、寝返り5〜6か月、お座り6〜7か月、はいはい8〜9か月、つかまり立ち9〜10か月、ひとり歩き12〜15か月。
POINT
・成長曲線はパーセンタイル曲線に沿っているかどうか(推移)で評価する。曲線を横切って下降していれば体重増加不良。 ・体重だけが低く身長・頭囲・発達が正常 → 栄養不足(母乳不足など)をまず考える。 ・身長が主に低く体重が保たれる → 成長ホルモン分泌不全などの内分泌疾患を考える。 ・体重は3〜4か月で出生時の約2倍、1歳で約3倍。0〜3か月の体重増加は1日25〜30g。 ・定頸3〜4か月、寝返り5〜6か月、お座り6〜7か月。
