StudyMed医師国家試験

横になると苦しい、寝ていると止まる―心不全が呼吸に刻むサイン

第103回医師国家試験 G問題 第24問

国試問題にチャレンジ

第103回 G問題 第24問

心不全でみられる異常呼吸はどれか。2つ選べ。

  1. a.Cheyne-Stokes呼吸
  2. b.Kussmaul呼吸
  3. c.口すぼめ呼吸
  4. d.Biot呼吸
  5. e.起坐呼吸

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、異常呼吸のパターンと、それが起こる病態を結びつける問題だ。異常呼吸は丸暗記すると混乱しやすいから、「なぜその呼吸になるのか」という機序から整理していこう。特に心不全では、肺うっ血と循環の遅れという2つの視点がカギになる。
医学生医学生
心不全の呼吸というと、まず起坐呼吸が浮かびます。循環器内科の実習で、ベッドを起こして座っている患者さんを何人も見ました。
ドクタードクター
いい観察だね。では、なぜ座ると楽になるのか説明できるかな。
医学生医学生
座ると肺の血液が減るから……でしょうか。
ドクタードクター
方向性は合っている。左心不全では左房圧の上昇が肺静脈を通じて肺毛細血管に伝わり、肺うっ血が起こる。仰臥位では下半身からの静脈還流が増えて、弱った左心が処理しきれずに肺うっ血が悪化する。坐位になると重力で血液が下半身にたまって静脈還流が減り、横隔膜も下がって肺が広がりやすくなる。だから患者さんは上体を起こした姿勢を好むんだ。
医学生医学生
起坐呼吸の前に、発作性夜間呼吸困難という段階もありましたよね。
ドクタードクター
その通り。左心不全の呼吸困難は、一般に労作時呼吸困難、発作性夜間呼吸困難、起坐呼吸の順に重くなる。夜間の発作は、横になってしばらくすると静脈還流の増加や浮腫液の血管内への戻りで肺うっ血が進み、苦しくて目が覚める状態だ。ではもう一つ、心不全でみられる呼吸パターンは何だろう。
医学生医学生
Cheyne-Stokes呼吸とBiot呼吸で迷いました。どちらも無呼吸が入るので。
ドクタードクター
そこが区別のポイントだね。Cheyne-Stokes呼吸は、呼吸がだんだん深くなってからだんだん浅くなり、そのあと無呼吸が来る、という漸増・漸減のサイクルを規則的に繰り返す。心不全で起こるのがこちらだ。
医学生医学生
心臓の病気なのに、どうして呼吸のリズムが乱れるんですか。
ドクタードクター
いい疑問だ。心拍出量が落ちると、肺で変化した血液ガスが脳の呼吸中枢や頸動脈の化学受容体に届くまでの循環時間が延びる。さらに心不全ではCO2に対する化学受容体の感受性が高まっていることが多い。だからPaCO2が少し上がると過剰に換気して下げすぎ、無呼吸になるとまたPaCO2が上がって過換気になる。調節の遅れと行き過ぎが重なって、周期的な呼吸になるんだ。
医学生医学生
エアコンの温度調節が遅れて、暑すぎと寒すぎを繰り返すようなイメージですね。
ドクタードクター
うまいたとえだ。睡眠中に目立ち、中枢性睡眠時無呼吸の一型として扱われる。脳血管障害や高地滞在でもみられることがある。一方のBiot呼吸は、深さもリズムもばらばらな呼吸と、突然始まって突然終わる無呼吸が不規則に繰り返されるもので、漸増・漸減の規則性がない。髄膜炎や脳腫瘍、頭部外傷などで延髄を中心とした脳幹が障害されたときにみられ、予後不良のサインとされる。
医学生医学生
Kussmaul呼吸は、生理学で代謝性アシドーシスの呼吸性代償として習いました。
ドクタードクター
そう。深く大きい規則的な呼吸で、糖尿病性ケトアシドーシスや尿毒症でみられる。H+の増加が化学受容体を刺激し、CO2を多く吐き出してpHの低下を和らげようとしているんだ。心不全に特徴的なものではない。
医学生医学生
口すぼめ呼吸はCOPDですよね。呼吸器内科で、患者さんが息を細く長く吐いていたのを覚えています。
ドクタードクター
その通り。COPDでは肺の弾性収縮力が落ちていて、呼気時に末梢気道がつぶれやすい。口をすぼめて呼気に抵抗をかけると気道内圧が保たれ、虚脱を防げる。呼吸リハビリでも指導される呼吸法だ。
医学生医学生
整理すると、心不全でみられるのはCheyne-Stokes呼吸と起坐呼吸の2つ。Kussmaulは代謝性アシドーシス、口すぼめはCOPD、Biotは脳幹障害ですね。
ドクタードクター
完璧だ。最後に臨床での注意点を。喘息の大発作やCOPDの急性増悪でも患者さんは横になれず座りたがるけれど、こちらは前かがみで両腕を膝やテーブルについて体を支える姿勢が多い。上肢を固定すると呼吸補助筋が使いやすくなるからだ。姿勢だけで決めつけず、病歴や聴診所見とあわせて判断しよう。
医学生医学生
夜間の呼吸の様子は、病棟では看護師さんの記録も大事な情報になりそうですね。
ドクタードクター
まさにそう。心不全ではCheyne-Stokes呼吸を伴う中枢性睡眠時無呼吸が高頻度に合併し、予後の悪化と関連する。治療の基本はまず心不全そのものの治療を最適化すること。寝ている患者さんの呼吸を観察するのも立派な診察だよ。

まとめ

左心不全では肺うっ血が仰臥位で悪化し坐位で軽減するため起坐呼吸が生じ、呼吸困難は労作時呼吸困難から発作性夜間呼吸困難、起坐呼吸へと進行します。また、心拍出量低下による循環時間の延長とCO2に対する化学受容体の感受性亢進により換気調節が遅れと行き過ぎを繰り返し、漸増・漸減と無呼吸が周期的に現れるCheyne-Stokes呼吸がみられます。これに対し、Kussmaul呼吸は代謝性アシドーシスの代償、口すぼめ呼吸はCOPDでの気道虚脱の防止、Biot呼吸は脳幹障害による不規則な呼吸であり、心不全に特徴的なものではありません。異常呼吸を機序から理解しておくと、ベッドサイドで患者の呼吸や姿勢を見ただけで背景にある病態を推測する力が身につきます。

解答・解説

正解はa, eです

本問は、代表的な異常呼吸(呼吸パターンの異常や呼吸時の姿勢・動作の異常)と、それが生じる病態との対応を問う問題である。 異常呼吸は、次のように病態ごとに整理すると覚えやすい。 ・呼吸調節系(呼吸中枢や化学受容体による換気の調節)の異常:Cheyne-Stokes呼吸、Biot呼吸など ・代謝性アシドーシスに対する代償:Kussmaul呼吸 ・気道の閉塞・虚脱への対処:口すぼめ呼吸(COPD) ・肺うっ血の体位による変化:起坐呼吸、発作性夜間呼吸困難(心不全) 心不全、とくに左心不全では、左房圧の上昇が肺静脈を介して肺毛細血管に伝わり、肺うっ血が生じる。肺うっ血は仰臥位で悪化し坐位で軽減するため、患者は横になると息苦しく、上体を起こした姿勢を好むようになる(起坐呼吸)。また、心拍出量の低下により血液が肺から脳の呼吸中枢や頸動脈の化学受容体に届くまでの時間(循環時間)が延長し、さらに二酸化炭素に対する化学受容体の反応性が亢進していることが加わって、換気の調節が行き過ぎと遅れを繰り返すようになる。その結果として生じる周期性呼吸がCheyne-Stokes呼吸である。 したがって、心不全でみられる異常呼吸はCheyne-Stokes呼吸と起坐呼吸である。

選択肢考察

  1. ○a.  Cheyne-Stokes呼吸

    Cheyne-Stokes呼吸は、呼吸の深さ(1回換気量)が徐々に増大してから徐々に減少し(漸増・漸減)、その後に無呼吸が続くというサイクルを周期的に繰り返す呼吸である。心不全では循環時間の延長により、血液ガスの変化が呼吸中枢や化学受容体に伝わるのが遅れる。加えて、心不全患者では動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)の変化に対する化学受容体の感受性が亢進していることが多く、PaCO2が少し上がると過剰に換気して無呼吸の閾値を下回るまでPaCO2を下げてしまい、無呼吸になると今度はPaCO2が上昇して再び過換気となる。このように調節のずれと過剰反応が重なって周期性の呼吸が生じる。睡眠中に目立ち、中枢性睡眠時無呼吸の一型として扱われる。心不全のほか、脳血管障害などの中枢神経疾患や、健康な人でも高地滞在時にみられることがある。

  2. ×b.  Kussmaul呼吸

    Kussmaul呼吸は、深く大きい規則的な呼吸で、しばしば呼吸数も増加する。糖尿病性ケトアシドーシスや尿毒症(腎不全)など、代謝性アシドーシスでみられる。血液中のH+増加が化学受容体を刺激して換気を増やし、二酸化炭素を多く排出することでpHの低下を代償しようとする呼吸性代償の表れである。心不全に特徴的な異常呼吸ではない。

  3. ×c.  口すぼめ呼吸

    口すぼめ呼吸は、口をすぼめて細く長く息を吐く呼吸法で、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者にみられる。COPDでは肺の弾性収縮力が低下しているため、呼気時に胸腔内圧が上がると末梢気道がつぶれやすい。口をすぼめて呼気に抵抗をかけると気道内圧が高く保たれ、気道の虚脱が防がれて呼出がしやすくなる。呼吸リハビリテーションでも指導される呼吸法であり、心不全に特徴的な異常呼吸ではない。

  4. ×d.  Biot呼吸

    Biot呼吸は、深さやリズムが一定しない呼吸と、突然始まり突然終わる無呼吸とが、不規則に繰り返される呼吸である。Cheyne-Stokes呼吸のような漸増・漸減の規則的な周期性がない点で区別される。髄膜炎や脳腫瘍、頭部外傷などによる延髄を中心とした脳幹の障害でみられ、呼吸中枢そのものが障害されていることを示すため予後不良の徴候とされる。心不全に特徴的な異常呼吸ではない。

  5. ○e.  起坐呼吸

    起坐呼吸とは、仰臥位で呼吸困難が増強し、上体を起こして坐位をとると楽になるため、患者が坐位や上体を起こした姿勢で呼吸する状態をいう。仰臥位では下半身からの静脈還流が増え、機能の低下した左心がそれを処理しきれずに肺静脈圧が上がり、肺うっ血が悪化する。坐位では重力により血液が下半身に貯留して静脈還流が減り、肺うっ血が軽くなる。さらに横隔膜が下がって肺が広がりやすくなることも呼吸を楽にする。左心不全の重要な症候である。

主な異常呼吸と原因

・Cheyne-Stokes呼吸:漸増・漸減の換気と無呼吸の周期的反復。心不全、脳血管障害、高地など ・Biot呼吸:不規則な呼吸と突然の無呼吸の反復。髄膜炎、脳腫瘍、頭部外傷など脳幹(延髄)障害 ・Kussmaul呼吸:深く大きい規則的な呼吸。糖尿病性ケトアシドーシス、尿毒症などの代謝性アシドーシス ・口すぼめ呼吸:COPD。呼気時の気道虚脱を防ぐ ・起坐呼吸:左心不全(肺うっ血) ・下顎呼吸:死戦期など、呼吸停止が切迫した状態

心不全の呼吸困難の進み方

左心不全の呼吸困難は、一般に労作時呼吸困難 → 発作性夜間呼吸困難 → 起坐呼吸の順に重症化する。発作性夜間呼吸困難は、就寝後しばらくして仰臥位による静脈還流増加や末梢の浮腫液が血管内に戻ることで肺うっ血が悪化し、呼吸困難で目が覚める状態である。

起坐呼吸と前傾姿勢

起坐呼吸は心不全に特徴的な症候であるが、気管支喘息の大発作やCOPDの急性増悪でも患者は臥位をとれず坐位を好む。これらの閉塞性疾患では、坐位で前かがみになり両腕を膝やテーブルについて体を支える姿勢をとることが多い。上肢を固定すると大胸筋などの呼吸補助筋が働きやすくなり、横隔膜も効率よく動けるため、呼吸困難が和らぐ。

心不全に伴う睡眠時無呼吸

心不全では、Cheyne-Stokes呼吸を伴う中枢性睡眠時無呼吸が高頻度に合併し、予後の悪化と関連する。治療にはまず心不全そのものの治療を最適化することが基本となる。

POINT

・心不全でみられる異常呼吸:Cheyne-Stokes呼吸、起坐呼吸(発作性夜間呼吸困難も) ・Cheyne-Stokes呼吸:漸増・漸減と無呼吸の周期的反復。循環時間延長とCO2に対する化学受容体の反応性亢進が背景 ・起坐呼吸:仰臥位で静脈還流が増え肺うっ血が悪化するため、坐位で楽になる ・Kussmaul呼吸は代謝性アシドーシス、口すぼめ呼吸はCOPD、Biot呼吸は脳幹障害・髄膜炎

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。