StudyMed医師国家試験

泣かせたら負け?―乳児診察は「静かな診察から、嫌がる診察は最後に」

第103回医師国家試験 F問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第103回 F問題 第3問

乳児の診察で最後に診るのはどれか。

  1. a.大泉門
  2. b.咽頭
  3. c.心音
  4. d.肝
  5. e.深部反射

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は乳児を診察するときの順序を問う問題だ。疾患の知識ではなく、診察の組み立て方が問われている。考えるヒントは「乳児が泣いたら、どの所見がとれなくなるか」。ここに注目しよう。
医学生医学生
成人のOSCEでは頭から足先へ順番に診るように習ったので、最後は深部反射かなと思ったんですが……。
ドクタードクター
成人ならその流れが基本だね。でも乳児は診察の意味がわからないから、一度泣き出すとなかなか泣き止まない。そうなると聴診も触診も正確にできなくなる。だから乳児の場合は部位の順番より、「泣かせない診察を先に、泣かせる診察を後に」という原則で組み立てるんだ。
医学生医学生
なるほど。じゃあ、一番泣かせやすいのはどれかを考えればいいんですね。
ドクタードクター
その通り。まず心音から考えてみよう。泣くとどうなるかな。
医学生医学生
泣き声で心音がかき消されますし、心拍数も上がって雑音の評価が難しくなりそうです。
ドクタードクター
そうだね。乳児の心拍数はもともと120〜140/分前後と速い。泣くとさらに上がり、心雑音や呼吸音の左右差なんてまず聞き取れなくなる。だから聴診は乳児が静かなうちに、できれば最初のほうに済ませる。眠っていたら起こさないうちに聴くのがコツだよ。
医学生医学生
小児科の実習で、指導医の先生が聴診器を手で温めてから当てていたのを思い出しました。
ドクタードクター
いい場面を見ているね。冷たい聴診器だけで泣いてしまう子もいるから、小さな工夫が大切なんだ。次は肝臓の触診。泣くと何が困る?
医学生医学生
お腹に力が入って、腹壁が硬くなりそうです。
ドクタードクター
正解。腹筋が緊張すると肝臓の辺縁や腫瘤が触れにくくなる。乳児では肝臓が肋骨弓下に少し触れるのは珍しくないけれど、何cm触れるかを正確に評価するには、リラックスしている必要がある。深部反射も同じで、体に力が入っていると亢進なのか減弱なのか判断しにくい。
医学生医学生
大泉門はどうでしょう。触るだけなので、最後でもいい気がしました。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいポイントだね。大泉門は膨隆していれば髄膜炎や水頭症などの頭蓋内圧亢進、陥凹していれば脱水を示唆する大事な所見だ。ところが、激しく泣くと正常でも大泉門は緊張して膨らんでしまう。だから泣いた後では頭蓋内圧亢進との区別が難しくなるんだ。
医学生医学生
泣いた後だと、髄膜炎を見逃したり、逆に過剰に疑ったりしてしまうんですね。
ドクタードクター
そういうこと。安静時に触るのが鉄則だ。では残ったのは咽頭。乳児の咽頭はどうやって診る?
医学生医学生
自分で口を開けてくれないので、舌圧子を使うしかないですね。あれは大人でも嫌です。
ドクタードクター
まさにそこ。舌圧子を舌に押し当てると不快感や嘔吐反射が起きて、乳児はほぼ確実に泣き出す。だから咽頭の視診は最後に回す。正解は咽頭だ。耳鏡で鼓膜を見るのも嫌がるので、同じく最後のグループに入れておこう。
医学生医学生
静かさが必要な聴診・触診・反射を先に済ませて、嫌がる咽頭や耳は最後、と整理できました。
ドクタードクター
完璧だ。実際の流れとしては、入室時に顔色や機嫌、活気、呼吸の様子を触れずに観察し、保護者から哺乳の状態などを聞く。それから大泉門、胸部の聴診、腹部の触診、神経学的診察と進めて、最後に咽頭と鼓膜を診る。細かな順序は医師によって多少違うけれど、原則は共通だよ。
医学生医学生
保護者に抱っこしてもらったまま診察してもいいんですか。
ドクタードクター
むしろ推奨されることが多いね。保護者の膝の上なら安心して泣きにくいし、玩具で注意をそらしながら診察するのも有効だ。もう一つ臨床で大事なのは、入室時の観察を軽視しないこと。機嫌がよくて哺乳できているか、ぐったりしていないかという全体的な印象は、重症感を判断するうえで検査値に劣らない情報になる。小児診療では、子どもと保護者に安心してもらうことも診察技術の一部なんだ。

まとめ

乳児は診察に協力できず、一度泣き出すと心音・呼吸音の聴診、腹部触診、腱反射、大泉門の評価が正確にできなくなるため、「泣かせない診察を先に、泣かせる診察を後に」行うのが原則です。特に大泉門は泣くだけで正常でも緊張・膨隆し、頭蓋内圧亢進との区別が難しくなるので、安静時に評価する必要があります。舌圧子を用いる咽頭の視診は不快感と嘔吐反射を伴い、ほぼ確実に泣かせるため、耳鏡による鼓膜の観察とともに診察の最後に行います。保護者に抱いてもらう、聴診器を温める、入室時に触れずに全身状態を観察するといった工夫も含め、診察の順序を意識することが小児の所見を正確にとるための基本になります。

解答・解説

正解はbです

【テーマ】乳児を診察するときの順序の原則を問う問題である。

考え方

乳児は診察の意味を理解できず、いったん泣き出すと心音・呼吸音の聴診、腹部の触診、神経学的診察などの所見が正確にとれなくなる。そこで乳児の診察では、次の原則で順序を組み立てる。 ①まず、触れずにできる観察(顔色、機嫌、活気、呼吸の様子、姿勢、皮膚の色など)を行う。 ②次に、静かな状態が必要な診察(心音・呼吸音の聴診、腹部の触診、腱反射など)を、泣き出す前に済ませる。保護者に抱いてもらったままでもよい。 ③最後に、苦痛や不快感を与えて泣かせやすい診察(舌圧子を用いた咽頭の視診、耳鏡による鼓膜の観察など)を行う。 選択肢のうち、舌圧子を口に入れる必要があり、乳児が最も嫌がって泣きやすいのは咽頭の診察であるから、これを最後に行う。

選択肢考察

  1. ×a.  大泉門

    大泉門は触診で大きさ・緊張・膨隆や陥凹の有無を評価する。膨隆は髄膜炎や水頭症などの頭蓋内圧亢進、陥凹は脱水を示唆する。ただし、激しく泣くと正常でも大泉門は緊張・膨隆するため、泣いた後では頭蓋内圧亢進との区別が難しくなる。安静時に評価する必要があり、泣かせる診察より前に行う。

  2. ○b.  咽頭

    乳児は自分から口を大きく開けて協力することができないため、咽頭の視診には多くの場合舌圧子を用いる。舌圧子を舌に押し当てると不快感や嘔吐反射が生じ、乳児はほぼ確実に泣き出す。泣いた後は聴診・触診・反射の評価が困難になるため、咽頭の診察は耳鏡による鼓膜の観察などとともに診察の最後に行う。

  3. ×c.  心音

    乳児の心拍数はもともと120~140/分前後と速く、泣くとさらに増加するうえ、泣き声で心音や心雑音が聞き取れなくなる。呼吸音の聴診も同様である。正確に評価するには乳児が静かなうちに行う必要があり、診察の早い段階で行う。

  4. ×d.  肝

    肝臓の大きさ(肋骨弓下で何cm触れるか)や硬さは腹部の触診で評価する。泣くと腹筋が緊張して腹壁が硬くなり、肝臓の辺縁や腫瘤を触れにくくなるため、泣かせる前に行う。一般に胸部の聴診に続けて腹部の視診・聴診・触診を行う。

  5. ×e.  深部反射

    深部腱反射(膝蓋腱反射など)は、筋肉の力が抜けてリラックスした状態でないと正しく評価できない。泣いて体に力が入っていると反射の亢進・減弱を判断しにくくなるため、泣かせるような診察より前に行う。

乳児診察の一般的な流れ

①入室時の観察:表情、機嫌、活気、顔色、呼吸の様子(多呼吸、陥没呼吸、呻吟の有無)、姿勢や自発運動。 ②問診:保護者から、発熱や哺乳状態などの全身症状と、咳・嘔吐・下痢などの臓器ごとの症状を分けて聴取すると整理しやすい。 ③身体診察(静かな状態が必要なものから):大泉門の触診、胸部の聴診(心音・呼吸音)、腹部の聴診・触診(肝・脾の大きさ)、頸部リンパ節の触診、結膜の観察、神経学的診察(腱反射、原始反射、筋緊張)など。細かな順序は医師により多少異なる。 ④最後に行うもの:舌圧子を用いた咽頭・口腔の視診、耳鏡による鼓膜の観察など、苦痛を伴い泣かせやすい手技。

乳児を泣かせない工夫

・保護者に抱いてもらったまま、あるいは膝の上で診察する。 ・聴診器は手で温めてから当てる。 ・玩具などで注意をそらしながら診察する。 ・眠っている場合は、起こさないうちに聴診を済ませる。

関連知識

・大泉門は通常1歳6か月ごろまでに閉鎖する。 ・乳児の正常心拍数はおよそ120~140/分、呼吸数はおよそ30~40/分で、年長児や成人より速い。

POINT

・乳児の診察は「泣かせない診察を先に、泣かせる診察を後に」が原則である。 ・聴診(心音・呼吸音)、腹部触診、大泉門の触診、腱反射は泣く前に行う。 ・舌圧子を使う咽頭の視診や耳鏡による鼓膜の観察は最後に行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。