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「同意をもらう」だけではない―インフォームドコンセントと医療安全・治験の基本用語

第103回医師国家試験 F問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第103回 F問題 第12問

正しいのはどれか。

  1. a.医療事故では医療側にのみ過失がある。
  2. b.臨床試験では治験審査委員会を施設外に設ける。
  3. c.インシデントレポートの提出は医療過誤に限られる。
  4. d.インフォームドコンセントは自己決定権行使の前提となる。
  5. e.GCP〈good clinical practice〉とは治療成績が良好な治療のことである。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、医療安全と臨床試験に関わる基本用語の定義を問う問題だ。医療事故と医療過誤の違い、インシデントレポートの対象、治験審査委員会、GCP、そしてインフォームドコンセント。どれも言葉は聞き慣れているけれど、正確な意味を押さえているかが試される。
医学生医学生
どれも医療倫理や医療安全の講義で出てきた言葉ですが、正直なんとなくでしか覚えていません。
ドクタードクター
ではひとつずつ整理しよう。まず医療事故。医療事故が起きたら、必ず医療側に過失があると思うかな。
医学生医学生
事故というくらいなので、医療者のミスがあったということではないんですか。
ドクタードクター
そこがよくある誤解なんだ。医療事故は、医療の過程で起きた人身事故の総称で、過失の有無を問わない。たとえば患者さん自身の不注意による院内での転倒や、予見や回避が難しい合併症も含まれる。そのうち医療者側に過失、つまり注意義務違反があるものを特に医療過誤と呼んで区別する。
医学生医学生
医療事故の中に医療過誤が含まれる、という包含関係なんですね。だから「医療側にのみ過失がある」は誤りだと。
ドクタードクター
その通り。次はインシデントレポートだ。これは医療過誤のときだけ出すものだろうか。
医学生医学生
臨床実習で病棟を回ったとき、看護師さんが「点滴を取り違えかけたけど直前に気づいた」とレポートを書いていました。だから過誤に限らないと思います。
ドクタードクター
いい経験をしているね。インシデントレポートは、患者さんに被害が及ぶ前に気づいたヒヤリ・ハットも含めて、事故につながりうる出来事を広く報告するものだ。多くの施設では、実際に影響が出たアクシデントも影響度別に分類して集めている。目的は個人の責任追及ではなく、事例を集めて分析し、組織としてシステムを改善することにある。
医学生医学生
ハインリッヒの法則で、1件の重大事故の背後に29件の軽微な事故と300件のヒヤリ・ハットがある、という話ですね。
ドクタードクター
まさにそれがインシデントを集める根拠だ。では臨床試験のほうへ。治験審査委員会、IRBは施設外に設けるものかな。
医学生医学生
公平性のために外部に置くべき、というイメージがありました。
ドクタードクター
そう考えたくなるけれど、基本は治験を実施する医療機関の長が設置するもので、施設内に置かれることが多い。GCP省令の改正で、外部の治験審査委員会に審査を依頼することも認められているけれど、「施設外に設ける」と一律に決まっているわけではない。公平性は、専門外の委員や利害関係のない委員を加える構成で担保しているんだ。
医学生医学生
GCPは、名前からすると良い治療の基準のように見えますが……。
ドクタードクター
そこはひっかけだね。GCPは「医薬品の臨床試験の実施の基準」で、厚生労働省令として定められている。治験が被験者の人権・安全に配慮した倫理的な方法で、科学的に適正に行われ、データの信頼性が確保されることを目的とする。文書による説明と同意、IRBによる審査、モニタリングや監査などが規定されていて、治療成績の良し悪しを表す言葉ではない。
医学生医学生
そうすると正しいのは、インフォームドコンセントが自己決定権行使の前提になる、という記述ですね。
ドクタードクター
正解。患者さんが自分の受ける医療を自分で決める権利が自己決定権だ。でも、病状や治療の選択肢、それぞれの利益と危険性、治療を受けない場合の見通しを知らなければ、実際には選びようがない。医療者が十分に説明し、患者さんが理解したうえで自発的に同意あるいは選択・拒否する、この過程があってはじめて自己決定権が実質的に行使できるんだ。
医学生医学生
OSCEの医療面接で、説明の最後に「何かご不明な点はありますか」と確認するよう指導されたのも、理解を確かめるためなんですね。
ドクタードクター
その通り。インフォームドコンセントは署名をもらう手続きではなく、情報提供・理解・自発的な同意の3つがそろって成立する。判断能力が不十分な場合は代諾者の同意が必要になるし、主治医の説明だけに偏らないよう、セカンドオピニオンも患者さんの自己決定を支える仕組みとして位置づけられている。臨床では、相手の理解度に合わせて言葉を選ぶこと、そして同意後も撤回できることを伝えることが大切だよ。

まとめ

インフォームドコンセントは、医療者による十分な情報提供、患者の理解、強制のない自発的な同意によって成立し、患者の自己決定権を実質的に行使するための前提となります。医療事故は過失の有無を問わない総称で、医療者側に過失のあるものが医療過誤です。インシデントレポートは医療過誤に限らずヒヤリ・ハットを含めて広く報告し、個人の責任追及ではなくシステム改善に役立てるものです。治験審査委員会は実施医療機関の長が設置するのが基本で外部への審査依頼も可能であり、GCPは「医薬品の臨床試験の実施の基準」を定めた厚生労働省令です。これらの用語の正確な理解は、患者の権利を守り、安全な医療と信頼できる臨床研究を実践するための土台となります。

解答・解説

正解はdです

医療安全と臨床試験に関する基本用語の定義を問う問題である。各選択肢に登場する用語を正しく理解していれば解ける。

押さえるべき用語

・医療事故: 医療の過程で発生した人身事故の総称である。医療側の過失の有無を問わず、患者自身の行為や不可抗力による事故も含む。 ・医療過誤: 医療事故のうち、医療従事者側に過失(注意義務違反)があるものを指す。 ・インシデント: 誤った医療行為などが行われかけた、あるいは行われたが、患者に被害が及ばなかった(または軽微であった)事例。いわゆるヒヤリ・ハットを含み、その報告がインシデントレポートである。 ・治験審査委員会(IRB: institutional review board): 治験の倫理性・科学的妥当性や被験者の人権・安全の確保を審査する委員会。 ・GCP(good clinical practice): 医薬品の臨床試験の実施の基準であり、厚生労働省令で定められている。 ・インフォームドコンセント: 十分な説明を受け、理解したうえでの患者の自発的な同意。

考え方

患者が自分の受ける医療を自分で決める権利(自己決定権)は、医学的知識の乏しい患者が、病状・治療の選択肢・それぞれの利益と危険性などについて十分な情報を得て理解していなければ、実質的に行使することができない。医療者が適切な情報を提供し、患者が理解したうえで同意・選択するというインフォームドコンセントの過程が、自己決定権行使の前提となる。したがって正しいのは「インフォームドコンセントは自己決定権行使の前提となる」である。

選択肢考察

  1. ×a.  医療事故では医療側にのみ過失がある。

    医療事故は、医療の場で患者に生じた事故全般を指す広い概念であり、医療側に過失がない場合も含まれる。たとえば患者自身の不注意による院内での転倒、予見・回避が困難な合併症なども医療事故に含まれる。医療事故のうち医療者側に過失があるものを特に医療過誤と呼んで区別する。したがって「医療側にのみ過失がある」という記述は誤りである。

  2. ×b.  臨床試験では治験審査委員会を施設外に設ける。

    治験審査委員会は、治験を実施する医療機関の長が設置するのが基本であり、施設外に設けることが原則とされているわけではない。治験を実施する医療機関内に置かれることが多いが、GCP省令の改正により、他の医療機関の長や学術団体などが設置した外部の治験審査委員会に審査を依頼することも認められている。いずれにしても「施設外に設ける」と一律に定める記述は誤りである。なお、治験以外の臨床研究は、倫理審査委員会や、臨床研究法に基づく認定臨床研究審査委員会が審査を担う。

  3. ×c.  インシデントレポートの提出は医療過誤に限られる。

    インシデントレポートの対象は医療過誤に限られない。患者に被害が及ぶ前に誤りに気づいた事例、実施されたが患者に影響がなかった事例(ヒヤリ・ハット)など、事故につながりうるできごとを広く報告するものであり、原因が医療者の過誤かどうかも問わない。多くの施設では、患者に影響が及んだ事例(アクシデント)も含めて影響度別に分類して報告を集めている。報告の目的は個人の責任追及ではなく、事例を集積・分析して組織としてシステムを改善し、重大事故を未然に防ぐことにある。したがって誤りである。

  4. ○d.  インフォームドコンセントは自己決定権行使の前提となる。

    インフォームドコンセントとは、医療者が病名・病状、検査や治療の目的・方法、期待される効果、危険性や副作用、他の選択肢、治療を受けない場合の見通しなどを説明し、患者がそれを理解したうえで自発的に同意(あるいは選択・拒否)することである。医学的知識をもたない患者は、このような情報提供と理解の過程がなければ自らの意思に基づく判断を下すことができない。すなわちインフォームドコンセントは、患者の自己決定権を実質的に保障し、その行使を可能にする前提である。したがって正しい。

  5. ×e.  GCP〈good clinical practice〉とは治療成績が良好な治療のことである。

    GCPは「医薬品の臨床試験の実施の基準」であり、治療成績の良し悪しを表す言葉ではない。医薬品医療機器等法(旧薬事法)に基づく厚生労働省令として定められ、治験が被験者の人権・安全・福祉に配慮した倫理的な方法で、かつ科学的に適正に実施され、得られたデータの信頼性が確保されることを目的としている。文書による説明と同意の取得、治験審査委員会による審査、モニタリングや監査などが規定されている。したがって誤りである。

医療事故・医療過誤・インシデントの関係

・医療事故: 医療にかかわる場所で、医療の全過程において発生する人身事故の総称。過失の有無を問わない。医療従事者が被害者となる事故(針刺し事故など)を含める考え方もある。 ・医療過誤: 医療事故のうち、医療従事者の過失によって生じたもの。 ・インシデント(ヒヤリ・ハット): 患者に被害を及ぼすには至らなかったが、ひやりとしたり、はっとしたりした事例。 ・ハインリッヒの法則: 1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故と300件の事故に至らなかった事例があるとされ、インシデントを収集・分析する意義の根拠とされる。

インフォームドコンセントの成立要件

・医療者による十分な情報提供 ・患者の理解(説明の仕方への配慮、患者の判断能力) ・強制のない自発的な同意 患者の判断能力が不十分な場合は代諾者の同意が必要となる。また、情報が主治医の説明に偏ることを補うため、別の医師の意見を求めるセカンドオピニオンが、患者の自己決定を支える仕組みとして位置づけられている。

治験とGCP

・治験: 医薬品などの製造販売承認を得るために行う臨床試験。 ・GCPは1990年代後半に国際的な基準(ICH-GCP)に沿って省令化され、以後の日本の治験の基本ルールとなっている。 ・治験審査委員会は、医学・薬学の専門家に加え、専門外の委員や、実施医療機関・設置者と利害関係のない委員を含めて構成し、治験の実施の可否や継続の適否を審査する。

POINT

・医療事故は過失の有無を問わない総称、医療過誤は医療者側に過失があるもの。 ・インシデントレポートは医療過誤に限らず、ヒヤリ・ハットを含めて広く報告し、システム改善に役立てる。 ・治験審査委員会は実施医療機関の長が設置するのが基本(外部委員会への依頼も可能)。 ・GCPは「医薬品の臨床試験の実施の基準」(厚生労働省令)。 ・インフォームドコンセントは患者の自己決定権行使の前提である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。