StudyMed医師国家試験

工場に近いほど増える中皮腫―距離が語る「量-反応関係」と標準化死亡比

第103回医師国家試験 E問題 第50問

国試問題にチャレンジ

第103回 E問題 第50問

石綿を使用していた工場の周辺住民における中皮腫死亡率の調査を行った。死亡率は,全国の一般男性住民と比較して,半径300m未満の男性居住者で14倍,300~600mで6倍,600~900mで2倍であった。  正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.石綿曝露に関する症例対照研究である。
  2. b.石綿曝露による中皮腫の標準化死亡比が算出できる。
  3. c.石綿曝露による中皮腫死亡のオッズ比は7である。
  4. d.石綿曝露による中皮腫死亡の寄与危険度は12である。
  5. e.石綿曝露と中皮腫死亡率との間には量-反応関係が推察される。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は石綿工場の周辺住民を対象にした疫学調査の読み解きだ。ポイントは3つ。この調査がどんな研究デザインか、示された「何倍」という数字がどの指標にあたるか、そして距離ごとの数字の並びから何が言えるか。まずデザインから考えてみよう。
医学生医学生
中皮腫というまれな病気を扱っているので、症例対照研究かなと思ったのですが。
ドクタードクター
まれな疾患=症例対照研究、という連想は自然だけど、研究の「向き」で判断しよう。症例対照研究は、まず中皮腫で亡くなった人とそうでない人を集めて、過去に工場の近くに住んでいたかを振り返って比べる。つまり結果から曝露へさかのぼる方向だ。
医学生医学生
今回は工場の周辺住民という集団を先に決めて、その中で死亡がどれだけ起きたかを見ていますね。方向が逆です。
ドクタードクター
その通り。曝露のありそうな集団を出発点に結果を数えているから、症例対照研究ではない。住民集団の死亡状況を場所の観点から記述した記述疫学的な調査で、過去にさかのぼって追った後ろ向きコホート研究に近い形とも言える。
医学生医学生
では「全国と比べて何倍」という数字は何なのでしょう。公衆衛生の講義で年齢調整の話があった気がします。
ドクタードクター
いいところを覚えているね。中皮腫は高齢になるほど増えるから、地域の年齢構成が違うと単純比較はできない。そこで全国の年齢階級別死亡率を周辺住民の年齢別人口に当てはめて「全国並みなら何人亡くなるはずか」という期待死亡数を出し、実際の観察死亡数を割る。これが標準化死亡比、SMRだ。
医学生医学生
間接法の年齢調整ですね。14倍、6倍、2倍は、SMRがそれぞれ14、6、2という意味に読めるわけですか。
ドクタードクター
そう読むのが自然で、SMRは算出できる。1なら全国と同程度、1を大きく超えれば過剰死亡ということになる。次はオッズ比が7という記述。どう思う?
医学生医学生
14と6と2を平均すると7くらいになるので、それっぽく見えました……。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。単純平均しても約7.3で7にもならないし、そもそも距離ごとに違う比を平均することに意味はない。オッズ比は主に症例対照研究で、症例群と対照群それぞれの曝露あり・なしの人数、つまり2×2表から求める。その人数が示されていないから計算できないんだ。
医学生医学生
寄与危険度が12というのも、14から2を引いた数字っぽいですね。
ドクタードクター
鋭い。寄与危険度は曝露群の発生率から非曝露群の発生率を引いた「差」で、単位は人口10万人あたり年間何人、のような率になる。必要なのは実際の死亡率の値で、比同士を引いても寄与危険度にはならない。今回は比しか示されていないから求められない。
医学生医学生
比の指標と差の指標を区別するのが大事なんですね。CBTの過去問でも相対危険度と寄与危険度の計算で混乱した覚えがあります。
ドクタードクター
多くの人がつまずくところだよ。相対危険度は割り算、寄与危険度は引き算、と覚えておこう。では最後に、14倍、6倍、2倍という並びから何が読み取れるかな。
医学生医学生
工場に近いほど死亡率が高いので、吸い込む石綿の量が多いほど中皮腫が増える、ということでしょうか。
ドクタードクター
その通り。曝露量が増えるほど影響が強くなる関係を量-反応関係といい、Hillの因果関係判断基準の一つだ。ほかにも関連の強さ、一致性、時間的関係、生物学的妥当性などがある。今回は距離を曝露量の代わりとして段階的な増加が見えるから、因果関係を支持する根拠になる。
医学生医学生
だから正解は、SMRが算出できることと、量-反応関係が推察されることの2つですね。
ドクタードクター
正解。最後に石綿そのものについても触れておこう。石綿は中皮腫のほか、肺癌、石綿肺、良性石綿胸水、胸膜プラークの原因になる。中皮腫は曝露から発症まで30〜50年程度と潜伏期が非常に長いのが特徴だ。
医学生医学生
呼吸器内科の実習で、胸膜プラークのある患者さんに職歴を詳しく聞くよう指導されました。
ドクタードクター
大切な姿勢だね。職業曝露だけでなく、工場周辺住民の環境曝露や、作業着を洗濯した家族の曝露でも発症しうることが分かってきた。わが国では石綿健康被害救済法による救済制度があるから、職歴や居住歴の聴取が患者さんの救済にもつながるんだ。

まとめ

石綿工場周辺の住民集団を出発点に、中皮腫死亡を全国と比較した本調査は、曝露から結果へ向かう方向の記述疫学的調査(後ろ向きコホート研究に近い形)であり、症例対照研究ではありません。年齢構成の違いを調整するため、全国の年齢階級別死亡率から期待死亡数を求めて観察死亡数と比べる標準化死亡比(SMR)が用いられ、「14倍・6倍・2倍」はその値と読めます。オッズ比には症例・対照の2×2表の人数が、寄与危険度には実際の発生率の「差」が必要で、比の値だけからは求められません。工場に近いほど死亡率が段階的に高くなる所見は量-反応関係を示し、Hillの基準に照らして因果関係を支持する根拠となります。研究デザインと指標の対応を正しく押さえることは、論文を読む力の基礎であり、石綿のように潜伏期の長い環境曝露を見逃さない臨床姿勢にもつながります。

解答・解説

正解はb, eです

問題の整理

石綿(アスベスト)を使っていた工場の周囲に住む男性について、中皮腫による死亡率を全国の一般男性と比べた調査である。工場からの距離ごとに、全国と比べた死亡率の比が示されている。 ・300m未満:14倍 ・300〜600m:6倍 ・600〜900m:2倍

どのような研究か

本調査は、「工場周辺に住んでいた(石綿に曝露した可能性がある)集団」を出発点として、その集団で中皮腫による死亡がどれだけ起こったかを数え、全国の死亡率から期待される値と比較している。つまり曝露の有無・程度で集団を分け、その後の結果(死亡)を比べるという、曝露から結果へ向かう方向の観察研究である。性質としては、住民集団の死亡状況を人・場所の観点から記述する記述疫学的な調査であり、過去にさかのぼって追跡した後ろ向きコホート研究に近い形でもある。一方、症例対照研究は、病気になった人(症例)と病気でない人(対照)を先に選び、過去の曝露歴を比べる研究であり、本調査とは方向が逆である。

示されている数値の意味

中皮腫は高齢になるほど起こりやすく、地域ごとに年齢構成は異なる。そこで、年齢構成の違いを調整したうえで「全国と同じ死亡率だったとしたら何人死亡するはずか(期待死亡数)」を計算し、実際の死亡数(観察死亡数)と比べる。これが標準化死亡比(SMR)で、「14倍」「6倍」「2倍」といった値はこの形で示される比として理解できる。

設問の考え方

①研究デザインを見分ける(曝露→結果の方向か、結果→曝露の方向か)、②各指標(SMR、オッズ比、寄与危険度)がどのデザインで、どのような数値から求められるかを知っている、③工場に近いほど死亡率が高いという傾向を因果関係の判断基準に照らして読み取る、の3点がポイントである。

選択肢考察

  1. ×a.  石綿曝露に関する症例対照研究である。

    症例対照研究は、中皮腫で死亡した人(症例)と、そうでない人(対照)をまず集め、両者の過去の石綿曝露(例えば工場の近くに住んでいたか)の割合を比べる研究である。本調査は逆に、工場周辺の住民という曝露集団を定め、その集団における死亡率を全国の一般住民と比べている。曝露から結果へ向かう方向であり、人口集団の死亡状況を記述・比較する記述疫学的調査(あるいは後ろ向きコホート研究に近いもの)にあたる。症例対照研究ではない。

  2. ○b.  石綿曝露による中皮腫の標準化死亡比が算出できる。

    標準化死亡比(SMR)は、基準集団(ここでは全国の一般男性)の年齢階級別死亡率を観察集団(工場周辺の男性住民)の年齢階級別人口に当てはめて期待死亡数を求め、観察死亡数÷期待死亡数で表す指標である(間接法による年齢調整)。本調査は全国と比べた死亡率の比を求めており、そのためには周辺住民の年齢別人口と中皮腫死亡数、全国の年齢別中皮腫死亡率が必要で、これらがそろっていればSMRが算出できる。問題文の「14倍」「6倍」「2倍」は、SMRがそれぞれ14、6、2であることを表していると読むのが自然である(SMR 1であれば全国と同程度)。したがって正しい。

  3. ×c.  石綿曝露による中皮腫死亡のオッズ比は7である。

    オッズ比は主に症例対照研究で用いる指標で、「症例群での曝露ありのオッズ(曝露あり人数÷曝露なし人数)」と「対照群での曝露ありのオッズ」の比として求める。求めるには、症例・対照それぞれの曝露あり・なしの人数(2×2表)が必要だが、本問ではこれらの人数が示されておらず、計算できない。また、死亡率の比は距離によって14倍、6倍、2倍と異なっており、それらを単純に平均しても意味のある値にはならない(単純平均でも約7.3であり、7にもならない)。誤りである。

  4. ×d.  石綿曝露による中皮腫死亡の寄与危険度は12である。

    寄与危険度(危険差)は、曝露群の発生率(死亡率)から非曝露群の発生率を引いた「差」であり、曝露によって上乗せされた発生率を示す。単位は「人口10万人あたり年間○人」のような率になり、求めるには両群の実際の死亡率の値が必要である。本問には死亡率の比(何倍か)しか示されておらず、差を計算することはできない。例えば「14倍−2倍=12」のように比同士を引いても寄与危険度にはならない。誤りである。

  5. ○e.  石綿曝露と中皮腫死亡率との間には量-反応関係が推察される。

    工場に近いほど、大気中に飛散した石綿を吸い込む量が多いと考えられる。実際、中皮腫の死亡率比は300m未満で14倍、300〜600mで6倍、600〜900mで2倍と、距離が近い(曝露量が多いと推定される)ほど段階的に高くなっている。曝露量が増えるほど影響が強くなる関係を量-反応関係(用量-反応関係)といい、因果関係を判断する根拠の一つとなる。したがって正しい。

主な疫学研究デザイン

・記述疫学:疾病の頻度や分布を人(年齢・性・職業)・場所・時間の観点から記述し、原因についての仮説を立てる。 ・生態学的研究:個人ではなく集団(地域・国)を単位として、曝露と疾病の関連を調べる。 ・症例対照研究:疾病のある群とない群を選び、過去の曝露を比較する。まれな疾患に適し、指標はオッズ比。 ・コホート研究:曝露の有無で分けた集団を追跡し、疾病の発生を比較する。前向きと後ろ向き(歴史的コホート)がある。相対危険度と寄与危険度が直接求められる。 ・介入研究(ランダム化比較試験など):研究者が介入を割り付けて効果を比べる。

主な指標

・相対危険度(リスク比)=曝露群の発生率÷非曝露群の発生率 ・寄与危険度(危険差)=曝露群の発生率−非曝露群の発生率 ・寄与危険割合=寄与危険度÷曝露群の発生率(曝露群の発生のうち、曝露による割合) ・オッズ比=(症例群の曝露オッズ)÷(対照群の曝露オッズ)。疾患がまれな場合は相対危険度の近似値となる。 ・標準化死亡比(SMR)=観察死亡数÷期待死亡数。期待死亡数は基準集団の年齢階級別死亡率×観察集団の年齢階級別人口の総和。例えば基準集団の年齢別死亡率が0.02、0.01、0.03で、観察集団の該当年齢人口が1,000人、2,000人、500人なら、期待死亡数=20+20+15=55人。観察死亡数が60人ならSMR=60÷55≒1.09となる。

因果関係の判断基準(Hillの基準など)

関連の強さ、一致性、特異性、時間的関係(原因が結果より先)、量-反応関係、生物学的妥当性、整合性、実験的証拠、類似性。

石綿と中皮腫

石綿はビルの断熱材・建材などに広く用いられた繊維状の鉱物で、吸入すると胸膜・腹膜の中皮腫、肺癌、石綿肺(じん肺の一種)、良性石綿胸水、胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)を引き起こす。中皮腫は曝露から発症まで30〜50年程度と潜伏期が非常に長い。職業曝露だけでなく、工場周辺住民の環境曝露や、作業着を洗濯した家族の曝露でも発生しうることが明らかになり、わが国では石綿健康被害救済法(2006年施行)による救済制度が設けられている。現在、石綿含有製品の製造・使用は原則禁止されている。

POINT

・曝露集団を出発点に結果(死亡)を比べる調査は症例対照研究ではない ・SMR=観察死亡数÷期待死亡数(年齢構成の違いを調整する間接法) ・オッズ比は2×2表の人数、寄与危険度は実際の発生率の「差」が必要。比の値だけからは求められない ・曝露量が多いほど影響が大きい → 量-反応関係 → 因果関係を支持する根拠 ・石綿:中皮腫、肺癌、石綿肺、胸膜プラーク。潜伏期は長く、周辺住民の環境曝露でも起こる

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。