陣痛3分おきで来院―最初に確かめるのは「赤ちゃんの声」
第103回医師国家試験 E問題 第49問
国試問題にチャレンジ
28歳の初産婦。妊娠39週時に少量の性器出血と下腹部痛とを主訴に来院した。陣痛間欠は3分で,発作は40秒である。 最初に行うのはどれか。
- a.尿検査
- b.血圧測定
- c.血球検査
- d.胎向診断
- e.胎児心拍確認
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
陣痛周期が10分以内、または1時間に6回以上となった時点が陣痛発来であり、分娩開始とみなされます。分娩開始で来院した産婦には、まずCTGで胎児心拍を確認し、陣痛のストレスに胎児が耐えられているかを評価するのが最優先です。妊娠後期の性器出血では産徴だけでなく常位胎盤早期剝離や前置胎盤を常に鑑別に置き、早剝は胎児心拍異常として現れやすいこと、ショック徴候があれば母体の循環評価が最優先となること、前置胎盤が否定できなければ内診を避けることも押さえておきましょう。尿検査や血算、胎向の確認も入院時に行いますが、結果に時間がかかる、あるいは方針を左右しにくい情報です。「その場で分かり、命にかかわる情報から先に確認する」という優先順位の考え方は、産科に限らず救急診療全般に通じる基本です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・28歳の初産婦、妊娠39週。正期産(妊娠37週0日〜41週6日)に入っている。 ・少量の性器出血と下腹部痛を訴えて来院した。 ・子宮収縮は3分ごと(陣痛間欠3分)に起こり、1回の収縮は40秒続いている(陣痛発作40秒)。
状況の判断
日本産科婦人科学会の定義では、陣痛の周期が10分以内、あるいは1時間に6回以上の頻度となった時点を陣痛発来とし、これを分娩開始とみなす。本例は3分間隔の規則的な陣痛があるため、すでに分娩が始まっていると判断できる。分娩開始前後に子宮頸管が開き始めると、頸管の小血管が破れて少量の血性の粘液が出ることがあり、これを産徴(いわゆる「おしるし」)という。本例の少量出血はこれにあたる可能性が高い。 ただし、出血と腹痛がある以上、常位胎盤早期剝離(胎児が生まれる前に胎盤が子宮壁から剝がれる状態)や前置胎盤など、母児に危険の大きい疾患を念頭に置く必要がある。とくに常位胎盤早期剝離では、外に出てくる出血が少なくても胎児の状態が急速に悪化することがある。
設問の考え方
陣痛発来で来院した産婦に最初に行うべきことは、胎児が元気かどうか(胎児の健常性、well-being)の確認である。陣痛による子宮収縮のたびに胎盤への血流は一時的に減るため、胎児の予備能が低いと心拍数に異常が現れる。実際には胎児心拍数陣痛図(CTG:胎児心拍数と子宮収縮を同時に連続記録する装置)を装着し、胎児心拍の有無、基線、変動、一過性徐脈の有無と陣痛との関係を評価する。胎児心拍数に異常(遅発一過性徐脈、高度変動一過性徐脈、基線細変動の消失など)があれば、早期剝離などを疑って緊急対応に移る。尿検査・血圧測定・血液検査・Leopold触診なども入院時に行う診察・検査だが、優先順位は胎児心拍の確認より下である。
選択肢考察
- ×a. 尿検査
尿蛋白・尿糖の確認は、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病のスクリーニングとして妊婦健診や分娩入院時に行う検査である。しかし採尿や結果判定には時間を要し、しかも目の前の胎児の状態を知ることはできない。陣痛発来・出血で来院した産婦に最初に行う検査ではない。
- ×b. 血圧測定
血圧は入院時のバイタルサインとして必ず測定し、妊娠高血圧症候群の有無や、大量出血によるショックの評価に役立つ。もし大量出血や顔面蒼白、頻脈などショックを疑わせる所見があれば、母体の循環評価が最優先になる。しかし本例の出血は少量で、状況は通常の分娩開始と考えられるため、まず確認すべきは胎児の状態であり、血圧測定は最初に行うものではない。
- ×c. 血球検査
血算(赤血球数・ヘモグロビン・血小板数など)は、貧血の程度や分娩時出血への備え、播種性血管内凝固(DIC)の評価に用いる入院時検査の一つである。ただし採血から結果が出るまで時間がかかり、胎児の状態を直接反映しない。最初に行う検査としては適切でない。
- ×d. 胎向診断
胎向とは、児背(頭位では後頭部)が母体の左右どちらを向いているかを示すもので、左側なら第1胎向、右側なら第2胎向という。入院時にはLeopold触診法などで胎位(頭位か骨盤位か)・胎向・胎勢を確認するが、頭位であれば第1胎向か第2胎向かによって分娩の方針が変わることはほとんどない。胎児の生命にかかわる情報ではないため、最初に行うことではない。
- ○e. 胎児心拍確認
陣痛が始まった産婦で最も優先されるのは、胎児が生存しており、陣痛のストレスに耐えられているかを確かめることである。CTGを装着すれば、胎児心拍数の基線(正常110〜160bpm)、基線細変動、一過性頻脈・一過性徐脈と子宮収縮との関係を同時に評価でき、胎児機能不全(胎児が低酸素などで危うい状態)を早期に発見できる。本例のように性器出血を伴う場合、常位胎盤早期剝離が隠れていれば胎児心拍の異常(遅発一過性徐脈や徐脈、細変動の減少など)として現れることが多く、その発見にも直結する。同時に陣痛の間隔・持続時間も記録されるため、分娩開始の確認にも役立つ。最初に行うべき対応として最も適切である。
分娩開始と産徴
・陣痛発来:陣痛周期が10分以内、または1時間に6回以上となった時点。これをもって分娩開始とする。 ・前駆陣痛:分娩前にみられる不規則で弱い子宮収縮。間隔も強さも一定せず、分娩開始とはみなさない。 ・産徴:子宮頸管の開大に伴う少量の血性粘液の排出。分娩が近い、あるいは始まったことを示す生理的な出血である。
妊娠後期の性器出血で鑑別すべきもの
・常位胎盤早期剝離:持続的な強い腹痛、子宮の板状硬、外出血の量に比べて重い母体症状(ショック)、胎児心拍異常、DICの合併が特徴。妊娠高血圧症候群や外傷が危険因子。 ・前置胎盤:痛みを伴わない出血(警告出血)が典型。内診は大出血を招くため禁忌で、経腟超音波で胎盤の位置を確認する。 ・産徴:少量の血性粘液で、規則的な陣痛を伴い、胎児心拍は正常。
胎児心拍数陣痛図(CTG)の基本
・胎児心拍数基線:正常110〜160bpm。 ・基線細変動:心拍数の細かい揺れ。6〜25bpmが正常で、消失・減少は胎児の低酸素やアシドーシスを示唆する。 ・一過性頻脈:胎動などに伴う一時的な心拍上昇で、胎児が元気であることを示す。 ・一過性徐脈:早発一過性徐脈(児頭圧迫によるもので通常は心配ない)、遅発一過性徐脈(子宮胎盤循環不全を示唆)、変動一過性徐脈(臍帯圧迫による)、遷延一過性徐脈に分けられる。
入院時に行う診察の流れ(目安)
胎児心拍の確認(CTG装着)→母体のバイタルサイン(血圧・脈拍・体温)→Leopold触診で胎位・胎向の確認→内診で子宮口開大度・展退度・児頭の位置・破水の有無を確認(前置胎盤が否定できない場合は内診を控え、超音波で確認)→尿検査・血液検査。
POINT
・陣痛周期10分以内(または1時間6回以上)=陣痛発来=分娩開始 ・陣痛発来で来院した産婦には、まずCTGで胎児心拍を確認し胎児の健常性を評価する ・妊娠後期の出血では常位胎盤早期剝離・前置胎盤を常に鑑別に置く。早剝は胎児心拍異常として現れやすい ・母体にショック徴候があれば母体の循環評価が最優先になる ・胎向(第1・第2)は頭位分娩の方針にほとんど影響しない
