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顔面神経はどこを通る?―走行ルートで解く末梢性顔面神経麻痺

第103回医師国家試験 E問題 第32問

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第103回 E問題 第32問

末梢性顔面神経麻痺を生じないのはどれか。

  1. a.帯状疱疹
  2. b.耳下腺癌
  3. c.側頭骨骨折
  4. d.真珠腫性中耳炎
  5. e.頸静脈孔症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、末梢性顔面神経麻痺を起こさない疾患を選ぶ問題だ。疾患名を一つずつ暗記するより、顔面神経が頭の中をどう走っているかを思い浮かべるのが近道だよ。その道筋の上に病変がある疾患なら麻痺が起こり、道から外れていれば起こらない。まず「末梢性」とはどういう意味か、確認しておこうか。
医学生医学生
神経内科の講義で習いました。顔面神経核より末梢の障害で、おでこのしわ寄せもできなくなるのが末梢性ですよね。
ドクタードクター
その通り。脳梗塞のように核より上の障害なら、前額部は両側の大脳から支配を受けているので、しわ寄せが保たれやすい。末梢性では障害側の顔の上半分も下半分もまとめて動かなくなる。では、顔面神経が橋を出てからの走行を言えるかな。
医学生医学生
えっと、内耳道に入って、側頭骨の中の顔面神経管を通って……茎乳突孔から出る、でしたっけ。
ドクタードクター
正解。膝神経節、鼓室部、乳突部と側頭骨の中を長く走り、茎乳突孔から頭蓋の外へ出たあと、耳下腺の中を貫いて枝分かれし、表情筋に分布する。この経路を頭に置いて選択肢を見ていこう。まず帯状疱疹はどうだろう。
医学生医学生
膝神経節に潜んでいた水痘・帯状疱疹ウイルスが再活性化するRamsay Hunt症候群ですね。耳介の水疱、顔面神経麻痺、難聴やめまいが三主徴です。
ドクタードクター
よく覚えているね。Bell麻痺より麻痺が重く、回復しにくい傾向があるので、抗ウイルス薬とステロイドを併用するのが基本だ。次は耳下腺癌。
医学生医学生
耳下腺の中を顔面神経が通るので、癌が浸潤すれば麻痺しそうです。でも耳鼻科の実習で見た多形腺腫の患者さんは、顔は普通に動いていました。
ドクタードクター
いい観察だ。良性腫瘍は神経を圧排しても浸潤しないので、通常は麻痺を起こさない。だから耳下腺腫瘍に顔面神経麻痺を伴えば、悪性を強く疑う所見になる。耳下腺手術の合併症として麻痺が問題になるのも、同じ解剖が理由だよ。では側頭骨骨折は?
医学生医学生
顔面神経管が側頭骨の中を長く走っているので、骨折で神経が切れたり圧迫されたりしますね。
ドクタードクター
そう。骨折線が錐体の長軸に直交する横骨折では高い頻度で麻痺が起こり、長軸に沿う縦骨折では頻度はより低いとされる。受傷直後からの完全麻痺なら神経断裂を疑い、手術を検討する。続いて真珠腫性中耳炎だ。
医学生医学生
真珠腫は骨を壊しながら広がるので、中耳の内側壁にある顔面神経管まで届けば麻痺しそうです。
ドクタードクター
その通り。鼓室部の顔面神経管は骨壁が薄く、もともと骨が欠けている人もいる。真珠腫では伝音難聴、半規管瘻孔によるめまい、さらに髄膜炎や脳膿瘍などの頭蓋内合併症も起こりうるので、手術の適応になる。では最後の頸静脈孔症候群は?
医学生医学生
頸静脈孔を通るのは……舌咽神経、迷走神経、副神経でしたよね。あれ、顔面神経は入っていません。
ドクタードクター
そこが答えだね。頸静脈孔症候群、別名Vernet症候群は、第Ⅸ・Ⅹ・Ⅺ脳神経が片側でまとめて障害される病態だ。咽頭の知覚低下や舌後1/3の味覚障害、カーテン徴候や嗄声、嚥下障害、胸鎖乳突筋と僧帽筋の筋力低下が出るけれど、顔面神経は内耳道から茎乳突孔へ抜けるルートなので巻き込まれない。だから麻痺を起こさないのはこれだ。
医学生医学生
CBTの頃は頭蓋底の孔と通る神経の対応を丸暗記していましたが、こうやって臨床につながるんですね。
ドクタードクター
まさにそう。舌下神経管の第Ⅻ脳神経まで加わればCollet-Sicard症候群、さらに頸部交感神経の障害によるHorner症候群が加わればVillaret症候群と呼ばれる。原因はグロムス腫瘍や神経鞘腫、頭蓋底骨折などだ。
医学生医学生
顔面神経麻痺そのものの部位診断もできるんでしょうか。
ドクタードクター
できるよ。顔面神経には表情筋を動かす線維だけでなく、涙腺の分泌線維、アブミ骨筋神経、舌前2/3の味覚を伝える鼓索神経も含まれている。側頭骨の中で膝神経節から大錐体神経、乳突部からアブミ骨筋神経と鼓索神経が順に分かれるので、Schirmer試験、アブミ骨筋反射、味覚検査を組み合わせると、どの高さで障害されたかを推定できるんだ。
医学生医学生
なるほど。最多の原因はBell麻痺でしたよね。
ドクタードクター
そう、特発性のBell麻痺が最も多く、単純ヘルペスウイルス1型の再活性化が主な原因と考えられている。ほかにGuillain-Barré症候群、サルコイドーシスによるHeerfordt症候群なども原因になる。臨床では「Bell麻痺だろう」と決めつける前に、耳介の水疱、耳の中の所見、耳下腺の腫瘤を必ず確認してほしい。

まとめ

顔面神経は橋を出たあと、内耳道、側頭骨内の顔面神経管、茎乳突孔を経て耳下腺内で分岐し表情筋に至るため、この経路上の病変であるRamsay Hunt症候群、真珠腫性中耳炎、側頭骨骨折、耳下腺癌はいずれも末梢性顔面神経麻痺の原因となります。一方、頸静脈孔を通るのは舌咽・迷走・副神経であり、頸静脈孔症候群(Vernet症候群)では顔面神経は障害されません。耳下腺腫瘍に麻痺を伴えば悪性を疑うこと、Ramsay Hunt症候群の三主徴、Schirmer試験・アブミ骨筋反射・味覚検査による部位診断もあわせて押さえておきたいポイントです。神経の走行と頭蓋底の孔を立体的に理解しておけば、脳神経障害の局在診断が暗記に頼らず推論できるようになります。

解答・解説

正解はeです

本問は、顔面神経(第Ⅶ脳神経)の走行経路のどこかで神経が障害される疾患かどうかを問うている。

末梢性顔面神経麻痺とは

顔面神経核(橋)またはそれより末梢の神経線維が障害されて起こる麻痺を末梢性という。障害側の顔面の上半分(前額のしわ寄せ、閉眼)と下半分(口角挙上)の両方が麻痺するのが特徴である。これに対し、大脳皮質から顔面神経核までの上位運動ニューロンの障害(脳梗塞など)による中枢性麻痺では、前額部は両側の大脳から支配を受けるため、しわ寄せが保たれやすい。

考え方

顔面神経は橋から出たのち、①内耳道に入り、②側頭骨内の顔面神経管(膝神経節、鼓室部、乳突部)を通り、③茎乳突孔から頭蓋外へ出て、④耳下腺の中を貫いて枝分かれし表情筋に分布する。したがって、この経路上に病変を起こす疾患(側頭骨内の炎症・外傷・腫瘍、耳下腺腫瘍、ウイルスによる神経炎など)はいずれも末梢性顔面神経麻痺の原因となる。 一方、頸静脈孔を通るのは舌咽神経(Ⅸ)・迷走神経(Ⅹ)・副神経(Ⅺ)と内頸静脈であり、顔面神経はここを通らない。よって頸静脈孔症候群は顔面神経麻痺を生じない。

選択肢考察

  1. ×a.  帯状疱疹

    誤り(顔面神経麻痺を生じる)。水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)が膝神経節などに潜伏し、再活性化すると顔面神経炎を起こす。これをRamsay Hunt(ハント)症候群と呼び、耳介・外耳道の疱疹、末梢性顔面神経麻痺、第Ⅷ脳神経症状(難聴、耳鳴、めまい)が三主徴である。Bell麻痺より麻痺が重く、回復しにくい傾向がある。治療は抗ウイルス薬と副腎皮質ステロイドの併用が基本である。

  2. ×b.  耳下腺癌

    誤り(顔面神経麻痺を生じる)。顔面神経は茎乳突孔を出たあと耳下腺の実質内を貫いて走行し、そこで側頭顔面枝と頸顔面枝などに分かれる。耳下腺の悪性腫瘍は神経に浸潤しやすく、顔面神経麻痺を伴うことは悪性を強く疑う所見である(良性の多形腺腫などでは通常麻痺は起こらない)。また耳下腺手術の合併症としても顔面神経麻痺が問題となる。

  3. ×c.  側頭骨骨折

    誤り(顔面神経麻痺を生じる)。顔面神経は側頭骨内の顔面神経管を長く走行するため、側頭骨骨折で神経が断裂・圧迫・浮腫を受けて麻痺を起こす。骨折線が錐体の長軸に直交する横骨折では高頻度(約半数)に麻痺を生じ、長軸に沿う縦骨折では頻度はより低い(約2割)とされる。受傷直後からの完全麻痺は神経断裂を疑い、減荷術などの手術を検討する。

  4. ×d.  真珠腫性中耳炎

    誤り(顔面神経麻痺を生じる)。真珠腫は角化上皮が中耳腔内に増殖した病変で、周囲の骨を破壊しながら進展する。顔面神経管の鼓室部は中耳腔の内側壁を走り、骨壁が薄いため、真珠腫による骨破壊や炎症の波及で神経が障害され麻痺を生じる。ほかに耳小骨破壊による伝音難聴、外側半規管瘻孔によるめまい、頭蓋内合併症(髄膜炎、脳膿瘍)などを起こしうるため、手術適応となる。急性中耳炎でも顔面神経管の骨欠損部から炎症が及び麻痺を生じることがある。

  5. ○e.  頸静脈孔症候群

    正解(顔面神経麻痺を生じない)。頸静脈孔症候群(Vernet症候群)は、頸静脈孔を通る舌咽神経(Ⅸ)、迷走神経(Ⅹ)、副神経(Ⅺ)が一側性に障害される病態である。症状は、患側の咽頭後壁の知覚低下と舌後1/3の味覚障害(Ⅸ)、軟口蓋麻痺によるカーテン徴候・嗄声・嚥下障害(Ⅹ)、胸鎖乳突筋・僧帽筋の筋力低下(Ⅺ)である。原因として頸静脈孔の腫瘍(グロムス腫瘍、神経鞘腫など)や頭蓋底骨折などがある。顔面神経は内耳道から顔面神経管を経て茎乳突孔を出るため、頸静脈孔の病変では障害されない。

顔面神経の走行と部位診断

顔面神経は運動線維のほか、中間神経として涙腺・顎下腺・舌下腺への分泌線維、舌前2/3の味覚線維を含み、アブミ骨筋神経も分岐する。側頭骨内では、膝神経節で大錐体神経(涙腺分泌)を、乳突部でアブミ骨筋神経と鼓索神経(味覚・唾液分泌)を分岐する。このため、流涙検査(Schirmer試験)、アブミ骨筋反射、味覚検査を組み合わせると障害部位を推定できる(部位診断)。

末梢性顔面神経麻痺の主な原因

・特発性:Bell麻痺(最多。単純ヘルペスウイルス1型の再活性化が主因と考えられている) ・感染症:Ramsay Hunt症候群(VZV)、急性・慢性中耳炎、真珠腫性中耳炎、ライム病など ・外傷:側頭骨骨折、手術(中耳・耳下腺手術) ・腫瘍:耳下腺癌、顔面神経鞘腫、聴神経腫瘍など ・その他:Guillain-Barré症候群(両側性のこともある)、サルコイドーシス(Heerfordt症候群:ぶどう膜炎・耳下腺腫脹・顔面神経麻痺)、糖尿病、Melkersson-Rosenthal症候群

頭蓋底の孔と通過する脳神経

・内耳道:顔面神経(Ⅶ)、内耳神経(Ⅷ) ・頸静脈孔:舌咽神経(Ⅸ)、迷走神経(Ⅹ)、副神経(Ⅺ)、内頸静脈 ・舌下神経管:舌下神経(Ⅻ) 頸静脈孔の障害にⅫが加わるとCollet-Sicard症候群、さらに頸部交感神経(Horner症候群)が加わるとVillaret症候群と呼ばれる。

POINT

・顔面神経は内耳道→側頭骨内の顔面神経管→茎乳突孔→耳下腺内を走行し、この経路上の病変(Ramsay Hunt症候群、中耳炎・真珠腫、側頭骨骨折、耳下腺癌など)で末梢性顔面神経麻痺を生じる。 ・頸静脈孔を通るのはⅨ・Ⅹ・Ⅺであり、頸静脈孔症候群(Vernet症候群)では顔面神経麻痺は起こらない。 ・Ramsay Hunt症候群の三主徴:耳介の帯状疱疹、顔面神経麻痺、第Ⅷ脳神経症状。 ・耳下腺腫瘍に顔面神経麻痺を伴えば悪性を疑う。 ・末梢性では前額のしわ寄せも障害されるが、中枢性では保たれやすい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。