血は薄まり、圧は下がり、腎はよく働く―妊娠がつくる母体の新しい基準値
第103回医師国家試験 E問題 第29問
国試問題にチャレンジ
正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.妊娠反応は尿中hPLの高値を反映したものである。
- b.妊娠中の血圧は上昇する。
- c.妊娠中のヘモグロビン濃度は上昇する。
- d.妊娠中の血中クレアチニン濃度は低下する。
- e.赤色悪露に引き続き褐色悪露がみられる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
妊娠中は循環血液量が非妊時の約1.4〜1.5倍に増えますが、血漿量の増加が赤血球量の増加を上回るためヘモグロビン濃度は低下し(生理的貧血)、血管拡張で末梢血管抵抗が下がるため血圧は中期に最低となります。腎ではGFRが約1.5倍に増え、血清クレアチニン・BUN・尿酸は低下するため、非妊時の基準範囲内でも妊婦では腎機能低下を示す場合があります。妊娠反応は尿中hCGを検出するもので、hPLは妊娠後期に増えてインスリン抵抗性に関わるホルモンです。産褥期の悪露は赤色→褐色→黄色→白色と変化し、その推移は子宮復古の指標となります。妊婦の検査値を非妊時の基準で判断しないという視点は、産科診療で異常を見逃さないための基本です。
解答・解説
正解はd, eです
テーマ
妊娠に伴う母体の生理的変化と、産褥期の悪露の変化を問う問題である。
考え方の軸
妊娠中の母体変化の多くは「循環血液量の増加」と「プロゲステロンなど胎盤由来ホルモンの作用」で説明できる。 ・循環血液量は妊娠初期から増え、妊娠30〜34週ごろに非妊時の約1.4〜1.5倍に達する。このとき血漿量の増加(約40〜50%)が赤血球量の増加(約20〜30%)を上回るため、血液は相対的に薄まる(水血症、妊娠性の生理的貧血)。 ・心拍出量は増加するが、プロゲステロンなどの血管拡張作用により末梢血管抵抗が大きく低下するため、血圧は上がらず、むしろ妊娠中期に低下する。 ・腎血漿流量と糸球体濾過量(GFR)が約50%増えるため、腎から排泄される物質の血中濃度は下がる。 これらを押さえれば、血圧・ヘモグロビン・クレアチニンの増減は迷わず判断できる。 妊娠反応の原理(hCGの検出)と、分娩後の悪露の色調変化(赤色→褐色→黄色→白色)も頻出の基本事項である。
選択肢考察
- ×a. 妊娠反応は尿中hPLの高値を反映したものである。
誤りである。市販の妊娠検査薬や外来の妊娠反応は、尿中のhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)を免疫学的に検出するものである。hCGは受精卵の着床後まもなく絨毛(合胞体栄養膜細胞)から分泌され、妊娠8〜10週ごろに最高値となるため、妊娠のごく早期から陽性となる。一方、hPL(ヒト胎盤性ラクトーゲン)は胎盤の発育に伴って妊娠後期にかけて増加するホルモンで、インスリン抵抗性を高めて胎児へのブドウ糖供給を増やす働きをもつが、妊娠の診断には用いない。
- ×b. 妊娠中の血圧は上昇する。
誤りである。妊娠中は心拍出量が30〜50%程度増えるものの、プロゲステロンやプロスタグランジン、一酸化窒素などによる血管拡張で末梢血管抵抗が低下し、さらに胎盤という低抵抗の血管床が加わる。その結果、血圧は妊娠初期から下がり始め、妊娠中期(20週前後)に最も低くなり、その後妊娠末期にかけて非妊時の値に戻っていく。妊娠中に血圧が140/90mmHg以上に上昇するのは生理的変化ではなく、妊娠高血圧症候群などの病的状態を考える。
- ×c. 妊娠中のヘモグロビン濃度は上昇する。
誤りである。赤血球量も増加するが、それ以上に血漿量が増えるため、血液が希釈されてヘモグロビン濃度やヘマトクリット値は低下する(妊娠性の生理的貧血)。加えて胎児・胎盤への鉄供給により鉄欠乏性貧血も起こりやすい。妊娠中の貧血の目安は、ヘモグロビン11g/dL未満またはヘマトクリット33%未満とされる。
- ○d. 妊娠中の血中クレアチニン濃度は低下する。
正しい。妊娠中は循環血液量と心拍出量の増加に伴い腎血漿流量が増え、GFRは妊娠初期から上昇して非妊時の約1.5倍になる。クレアチニンや尿素窒素(BUN)は主に糸球体で濾過されて排泄されるため、GFRが増えると血中濃度は下がる。したがって妊婦の血清クレアチニンは非妊時より低い値(おおむね0.4〜0.6mg/dL程度)になり、非妊時の基準範囲内であっても妊婦としては高値で腎機能低下を示している場合がある点に注意する。また、GFRの増加で尿細管へのブドウ糖の流入が再吸収能を上回りやすく、妊娠中は尿糖が出やすい。
- ○e. 赤色悪露に引き続き褐色悪露がみられる。
正しい。悪露(おろ)とは、分娩後に子宮内腔や産道の創面から排出される分泌物で、血液・脱落膜・白血球などからなる。子宮の復古と創傷治癒が進むにつれて血液成分が減り、色調は赤色悪露(産褥2〜3日ごろまで、血液が主体)→褐色悪露(産褥1週前後まで、ヘモグロビンが変性して褐色となる)→黄色悪露(産褥2〜3週ごろ、白血球が主体)→白色悪露(産褥4〜6週ごろまで)の順に変化し、やがて消失する。赤色悪露が長く続く場合は、子宮復古不全や胎盤・卵膜の遺残を考える。
妊娠中の主な母体変化(非妊時との比較)
・循環系:循環血液量↑(約1.4〜1.5倍)、心拍出量↑、心拍数↑(10〜15/分程度)、末梢血管抵抗↓、血圧は中期に↓。妊娠後期の仰臥位では増大した子宮が下大静脈を圧迫し、静脈還流が減って血圧が下がることがある(仰臥位低血圧症候群)。 ・血液:Hb・Ht↓(希釈)、白血球↑、血小板は不変〜軽度↓、フィブリノゲンなど凝固因子↑(凝固能亢進で血栓症のリスク↑)、赤沈↑。 ・腎:腎血漿流量↑、GFR↑、血清クレアチニン・BUN・尿酸↓、尿糖が出やすい。プロゲステロンによる平滑筋弛緩で尿管が拡張し、水腎症様変化(特に右側)や腎盂腎炎が起こりやすい。 ・呼吸:プロゲステロンが呼吸中枢を刺激し分時換気量↑、PaCO2↓(呼吸性アルカローシス傾向、腎での代償あり)。子宮増大により横隔膜は挙上し機能的残気量↓。 ・代謝:妊娠後半はhPLなどによりインスリン抵抗性↑(妊娠糖尿病の背景)。総コレステロール・中性脂肪↑、血清アルブミン↓。 ・内分泌:hCGは妊娠8〜10週でピーク、その後低下。hPL・エストロゲン・プロゲステロンは妊娠末期に向けて増加。
産褥期のポイント
子宮は分娩直後に臍の高さ付近まで収縮し、その後日ごとに下降して、産褥6〜8週ごろに非妊時の大きさへ戻る(子宮復古)。悪露の色と量の推移は子宮復古の指標となる。
POINT
・妊娠反応は尿中hCGを検出する(hPLではない)。 ・循環血液量↑、心拍出量↑、末梢血管抵抗↓、血圧は妊娠中期に最低。 ・血漿量の増加が赤血球量を上回るため、Hb・Htは低下(生理的貧血)。 ・GFR↑により血清クレアチニン・BUN・尿酸は低下。 ・悪露:赤色→褐色→黄色→白色の順に変化し、産褥4〜6週ごろ消失。
