とさか状のいぼと細胞診異常―妊婦の尖圭コンジローマで「型」を見分ける
第103回医師国家試験 D問題 第42問
国試問題にチャレンジ
24歳の初妊婦。妊娠14週。子宮頸部細胞診の異常と外陰部腫瘤とを指摘され来院した。細胞診はクラスⅢa。視診では,腟壁と外陰部とに鶏冠状外観を呈する腫瘤を認める。外陰部の写真を別に示す。 正しいのはどれか。3つ選べ。

- a.妊娠の継続は可能である。
- b.子宮頸癌発症リスクが高い。
- c.新生児産道感染は起こらない。
- d.コルポスコピィ検査が必要である。
- e.ヒト乳頭腫〈human papilloma〉ウイルス6または11型感染である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
外陰・腟の鶏冠状疣贅は尖圭コンジローマの典型像で、原因の大部分は低リスク型のHPV 6型・11型であり、これらは子宮頸癌の原因にはほとんどなりません。一方、子宮頸部細胞診の異常は高リスク型HPVの同時感染によるCINの可能性を示すため、妊娠中でも安全に行えるコルポスコピー下狙い生検で組織診断を行います。妊娠中のCINは浸潤癌を否定できれば経過観察とし、妊娠継続は可能で、治療は原則分娩後です。HPVは産道感染で児に再発性喉頭乳頭腫を起こしうるため分娩前の病変治療が望まれますが、コンジローマのみでは帝王切開の適応になりません。HPVの型と疾患の対応を押さえることは、妊婦管理だけでなくワクチンの意義を理解する土台にもなります。
解答・解説
正解はa, d, eです
所見の整理
・24歳の初妊婦、妊娠14週(妊娠初期の終わりから中期の入り口)。 ・腟壁と外陰部に、先端がとがった乳頭状の突起が集まった鶏冠状(ニワトリのとさか状)の腫瘤が多発している。これは尖圭コンジローマに典型的な外観である。 ・子宮頸部細胞診はクラスⅢa。日母分類(日本母性保護医協会による従来の分類)でクラスⅢaは「軽度〜中等度異形成を想定する」段階であり、浸潤癌を疑う所見ではない。
診断に至るプロセス
外陰・腟の鶏冠状疣贅から尖圭コンジローマと診断する。尖圭コンジローマはヒトパピローマウイルス(HPV)の性行為による感染症(性感染症〈STI〉)であり、原因の大部分は低リスク型のHPV 6型・11型である。鑑別として、第2期梅毒の扁平コンジローマ(表面が平らで湿潤した丘疹、梅毒血清反応陽性)、外陰上皮内腫瘍(VIN)や外陰癌、Bowen様丘疹症(高リスク型HPVが関与)が挙がる。 一方、子宮頸部細胞診の異常は、頸部にもHPV感染による変化(異形成)があることを示す。HPVは複数の型が同時に感染していることが珍しくなく、高リスク型HPVによる子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)の合併を否定する必要がある。
設問の考え方
本問は「尖圭コンジローマ合併妊娠」と「子宮頸部細胞診異常合併妊娠」の管理を問うている。押さえるべきは、(1)原因ウイルスの型と発癌性の関係、(2)細胞診異常に対する精査の手順(コルポスコピー下の狙い生検)、(3)妊娠継続の可否、(4)分娩時の母子感染(産道感染)の可能性である。
選択肢考察
- ○a. 妊娠の継続は可能である。
尖圭コンジローマは良性の疣贅であり、それ自体は妊娠継続の妨げにならない。子宮頸部細胞診もクラスⅢaで、浸潤癌を示唆する段階ではない。子宮頸部の異形成(CIN)は妊娠中に浸潤癌へ進展することはまれで、分娩後に自然消退することも多いため、妊娠中は浸潤癌の除外を主眼に経過観察し、CINの治療は原則として分娩後に行う。したがって妊娠の継続は可能である。ただし妊娠中は免疫の変化や外陰部の血流増加によりコンジローマが増大しやすいので、分娩までに病変を治療しておくことが望ましい。
- ×b. 子宮頸癌発症リスクが高い。
尖圭コンジローマの原因となるHPV 6型・11型(ほかに42、43、44型など)は低リスク型に分類され、細胞の癌化にかかわるウイルス蛋白E6・E7の作用が弱いため、子宮頸癌の原因になることはほとんどない。子宮頸癌の発生に関与するのは16型、18型をはじめ31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、68型などの高リスク型である。したがって、尖圭コンジローマがあること自体は子宮頸癌の高リスクを意味しない。なお、HPVは複数の型に同時感染していることがあるため、本例のように細胞診異常がある場合は高リスク型の合併を念頭に精査を行う(選択肢dを参照)。
- ×c. 新生児産道感染は起こらない。
経腟分娩の際、産道の病変に存在するHPVが新生児に感染することがある。まれではあるが、その結果として乳幼児期に再発性の喉頭乳頭腫(多発性の乳頭腫が喉頭にでき、嗄声や気道閉塞をきたす)や、外陰・肛門周囲の尖圭コンジローマを発症しうる。このため、分娩までに外陰・腟の病変を治療しておくことが望ましい。なお、帝王切開で喉頭乳頭腫の発生を確実に予防できるとは示されていないため、コンジローマがあるだけでは帝王切開の適応とはならない。病変が大きく産道を塞ぐ場合や、分娩時に大量出血が予想される場合などに帝王切開が検討される。
- ○d. コルポスコピィ検査が必要である。
細胞診は病変を拾い上げるためのスクリーニング検査にすぎず、確定診断には組織診が必要である。細胞診で異常がみられた場合は、子宮頸部を拡大して観察するコルポスコピー(腟拡大鏡診)を行い、酢酸加工で白色に変化する部分や異常血管像など最も異常の強い部位から狙い生検を行って、CINの程度や浸潤癌の有無を組織学的に評価する。あわせてHPVの型判定を行うこともある。コルポスコピーと狙い生検は妊娠中でも安全に行うことができ、浸潤癌を見落とさないためにも必要である。一方、円錐切除術は出血や流早産のリスクが高いため、妊娠中は浸潤癌が強く疑われる場合に限られる。
- ○e. ヒト乳頭腫〈human papilloma〉ウイルス6または11型感染である。
尖圭コンジローマの原因の約9割はHPV 6型または11型であり、本例の鶏冠状疣贅もこれらの低リスク型HPV感染によるものと考えられる。HPVは皮膚や粘膜の微小な傷から基底細胞に感染し、上皮細胞を増殖させて乳頭状の病変をつくる。感染から病変が見えるようになるまでの潜伏期間は数週〜数か月と長い。4価・9価HPVワクチンは6型・11型も対象に含んでおり、尖圭コンジローマの予防効果もある。
尖圭コンジローマ
HPV(主に6型・11型)による性感染症である。外陰部、腟入口部、会陰、肛門周囲、陰茎、尿道口などに、先端がとがった乳頭状〜鶏冠状、あるいはカリフラワー状の疣贅が多発する。腟壁や子宮腟部では平坦な病変となることもある。自覚症状に乏しく、かゆみや違和感程度のことが多い。診断は典型例では視診で可能であるが、非典型例や治療抵抗例では生検を行い、悪性病変(VIN、外陰癌など)との鑑別を行う。自然消退することもあるが、再発しやすい。 治療:外科的切除、液体窒素による凍結療法、電気焼灼、炭酸ガスレーザー蒸散、イミキモド5%クリーム(局所の免疫を賦活する外用薬)など。妊娠中はイミキモドの安全性が確立していないため、凍結療法や切除・レーザーなどの物理的治療を選ぶ。パートナーの診察・治療も考慮する。
HPVの型と疾患
・低リスク型(6、11型など):尖圭コンジローマ、再発性呼吸器乳頭腫症(喉頭乳頭腫) ・高リスク型(16、18、31、33、45、52、58型など):子宮頸癌とその前癌病変(CIN)、腟癌、外陰癌の一部、肛門癌、中咽頭癌など。日本の子宮頸癌では16型・18型が多く、52型・58型も比較的多い。 ・HPVワクチン:2価(16/18型)、4価(6/11/16/18型)、9価(4価の型に31/33/45/52/58型を追加)がある。4価と9価は尖圭コンジローマの予防にも有効である。
子宮頸部細胞診の分類
・日母分類(従来法):クラスⅠ(正常)、Ⅱ(良性異型)、Ⅲa(軽度〜中等度異形成を想定)、Ⅲb(高度異形成を想定)、Ⅳ(上皮内癌を想定)、Ⅴ(浸潤癌を想定)。 ・現在はベセスダシステムが用いられ、NILM(陰性)、ASC-US、ASC-H、LSIL、HSIL、SCCなどで報告される。クラスⅢaはおおむねLSIL(軽度扁平上皮内病変)〜一部のHSILに相当する。 ・細胞診異常 → コルポスコピー下狙い生検(必要に応じてHPV検査)→ 組織診でCINの程度を判定、という流れで精査する。
妊娠中の子宮頸部病変の管理
妊娠中は浸潤癌の除外が最大の目的である。CINと確定した場合は、妊娠中は定期的な細胞診・コルポスコピーで経過観察し、治療は分娩後に再評価してから行う。CINは産後に消退することも少なくない。浸潤癌が疑われる場合に限り、妊娠中でも円錐切除術を検討する。
POINT
・外陰・腟の鶏冠状疣贅 → 尖圭コンジローマ(HPV 6・11型、低リスク型)。 ・子宮頸癌の原因は高リスク型HPV(16・18型など)であり、6・11型は癌化にほとんど関与しない。 ・細胞診異常 → コルポスコピー下の狙い生検で組織診断。妊娠中でも施行可能。 ・妊娠中のCINは浸潤癌を否定できれば経過観察とし、妊娠継続は可能。治療は分娩後。 ・産道感染で児に喉頭乳頭腫や尖圭コンジローマを生じうる。コンジローマの存在だけでは帝王切開の適応とならない。
