わきの下のざらざらした黒ずみ―皮膚が先に告げる胃癌のサイン
第103回医師国家試験 B問題 第46問
国試問題にチャレンジ
66歳の男性。間擦部の色素斑を主訴に来院した。1か月前から腋窩と鼠径部とに自覚症状のない褐色斑が出現した。次第に色調が濃くなり,表面がざらざらするようになってきた。3週前から上腹部不快感があり,上部消化管内視鏡検査で胃癌を指摘された。 考えられるのはどれか。
- a.魚鱗癬
- b.Addison病
- c.黒色真菌症
- d.黒色表皮腫
- e.Leser-Trélat徴候
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
腋窩・鼠径部・頸部などの間擦部に褐色〜黒褐色の色素沈着とビロード状・乳頭状のざらざらした角化を認めれば黒色表皮腫を考え、その色調は主に角質の肥厚によるものです。高齢者に急速に出現した場合は悪性型を疑い、胃癌をはじめとする腺癌の検索が必要で、腫瘍由来のTGF-αなどが表皮増殖に関与すると考えられています。同じく胃癌に伴うLeser-Trélat徴候は脂漏性角化症の急速な多発、Addison病は粘膜や手掌のしわに目立つびまん性の色素沈着、後天性魚鱗癬は広範な乾燥と鱗屑であり、皮疹の形と分布で区別します。頻度が最も高いのは肥満・インスリン抵抗性に伴う仮性型であることも押さえておきましょう。皮膚の変化から内臓悪性腫瘍を見抜くデルマドロームの知識は、癌の早期発見につながる実践的な力になります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・66歳男性 ・腋窩と鼠径部という間擦部(皮膚どうしがこすれ合うしわの部位)に、自覚症状のない褐色斑が1か月前から出現 ・色調が次第に濃くなり、表面がざらざらしてきた(角質の増殖を示す) ・上腹部不快感があり、上部消化管内視鏡検査で胃癌が見つかった
診断へのプロセス
「間擦部」「褐色〜黒褐色の色素沈着」「表面のざらざら(ビロード状・乳頭状の角化)」という3つの特徴がそろえば、黒色表皮腫をまず考える。さらに、高齢者に短期間で急速に出現・増悪していること、胃癌が併存していることから、内臓悪性腫瘍に伴って現れる悪性型の黒色表皮腫と判断できる。 このように内臓の病気を反映して皮膚に現れる病変をデルマドロームという。内臓悪性腫瘍に関連するデルマドロームには黒色表皮腫のほかにLeser-Trélat徴候、後天性魚鱗癬、皮膚筋炎などがあり、選択肢にはこれらが紛れ込んでいる。それぞれの皮疹の形と分布を区別できるかが問われている。
選択肢考察
- ×a. 魚鱗癬
魚鱗癬は皮膚が乾燥し、魚のうろこのような鱗屑(皮膚表面から剝がれ落ちる角質)が広範囲に付着する角化異常症である。尋常性魚鱗癬、X連鎖性(伴性遺伝性)魚鱗癬などの先天性のものが多いが、成人以降に新たに生じる後天性魚鱗癬は、悪性リンパ腫(特にHodgkinリンパ腫)などの内臓悪性腫瘍に伴うことがある。ただし、皮疹は四肢伸側や体幹に広く分布する乾燥・鱗屑が主体であり、間擦部に限局する色素沈着とざらざらした角化という本例の所見とは合わない。
- ×b. Addison病
Addison病(原発性の慢性副腎皮質機能低下症)では、コルチゾール低下によるネガティブフィードバックの消失でACTH(副腎皮質刺激ホルモン)とその前駆体由来のMSH(メラノサイト刺激ホルモン)様作用が増え、色素沈着が生じる。色素沈着は全身にびまん性にみられ、特に日光露出部、手掌の皺、肘・膝などの摩擦部、歯肉・口腔粘膜に目立つ。しかし、皮膚表面がざらざらと角化・肥厚することはなく、全身倦怠感、体重減少、低血圧、低Na血症・高K血症なども本例では示されていない。胃癌との関連も乏しく、本例には当てはまらない。
- ×c. 黒色真菌症
黒色真菌症(クロモミコーシス)は、Fonsecaea pedrosoiなどの黒色真菌が外傷部から皮膚に入り込んで起こる深在性皮膚真菌症である。四肢や顔面などの露出部に、ゆっくり拡大する紅色の結節や疣状の局面をつくり、病理組織で褐色の厚い壁をもつ菌要素(sclerotic cell)を認める。間擦部に左右対称に生じる色素斑ではなく、悪性腫瘍との関連もないため否定的である。
- ○d. 黒色表皮腫
黒色表皮腫は、腋窩・鼠径部・頸部・乳房下などの間擦部に、褐色〜黒褐色の色素沈着と、ビロード状あるいは乳頭状の角質増殖を生じる疾患である。病理では表皮の乳頭状増殖と角質増殖が主体で、色調は主に角質の肥厚によるものである。悪性型は内臓悪性腫瘍に合併し、その多くは腺癌で、中でも胃癌が最も多い。高齢者で急速に出現・拡大し、口腔粘膜や手掌(手掌の皺が目立つ tripe palms)にも病変が及ぶことがある。腫瘍が産生するTGF-α(トランスフォーミング増殖因子α)などの増殖因子が表皮細胞を刺激することが機序として考えられている。本例は間擦部の褐色斑が短期間で濃くなり表面がざらざらし、胃癌が見つかっており、悪性型黒色表皮腫に合致する。
- ×e. Leser-Trélat徴候
Leser-Trélat徴候は、短期間のうちに脂漏性角化症(老人性疣贅)が体幹などに急激に多発し、しばしばかゆみを伴うものをいう。胃癌をはじめとする内臓悪性腫瘍を合併することが多いデルマドロームであり、黒色表皮腫と併存することもある。しかし、皮疹は境界明瞭な褐色〜黒色の扁平隆起性の小結節(いぼ状の病変)が多数散在するもので、間擦部に限局してびまん性に広がる色素沈着とざらざらした角化という本例の所見とは異なる。
黒色表皮腫の病型
・悪性型: 内臓悪性腫瘍(主に腺癌、特に胃癌)に合併する。中高年に急速に発症し、皮疹が高度で広範囲に及びやすい。悪性腫瘍の発見に先行して、あるいは同時に出現することが多く、腫瘍の治療により皮疹が軽快し、再発時に再燃することがある。 ・良性型: 遺伝性で小児期から思春期に発症する。先天異常症候群や内分泌異常を伴うことがある。 ・仮性型: 肥満者にみられ、頻度としては最も多い。インスリン抵抗性・高インスリン血症が関与し、インスリンがIGF-1(インスリン様成長因子1)受容体を介して表皮細胞を増殖させると考えられている。減量で改善する。 ・そのほか、ニコチン酸、ステロイドなどの薬剤によるものも知られる。
内臓悪性腫瘍と関連する主なデルマドローム
・黒色表皮腫(悪性型): 胃癌などの腺癌 ・Leser-Trélat徴候: 胃癌などの内臓悪性腫瘍 ・皮膚筋炎: 成人例では悪性腫瘍の合併が多い(特に抗TIF1-γ抗体陽性例) ・後天性魚鱗癬: 悪性リンパ腫など ・Bazex症候群(腫瘍随伴性末端角化症): 上気道・上部消化管の癌 ・遊走性壊死性紅斑: グルカゴノーマ ・匐行性迂回状紅斑: 肺癌など ・Trousseau症候群(遊走性血栓性静脈炎): 膵癌など
色素沈着をきたす疾患の見分け方
・間擦部に限局し表面がざらざら: 黒色表皮腫 ・全身びまん性で粘膜・手掌の皺・摩擦部に強い: Addison病 ・いぼ状の小結節が急速に多発: Leser-Trélat徴候(脂漏性角化症の多発)
POINT
・間擦部(腋窩・鼠径部・頸部)の褐色〜黒褐色の色素沈着+ビロード状・乳頭状のざらざらした角化は黒色表皮腫。 ・高齢者で急速に出現した黒色表皮腫は悪性型を疑い、内臓悪性腫瘍(特に胃癌などの腺癌)を検索する。 ・頻度が最も高いのは肥満・インスリン抵抗性に伴う仮性型である。 ・Leser-Trélat徴候(脂漏性角化症の急速多発)も胃癌などに伴うデルマドロームであり、皮疹の形で区別する。
