StudyMed医師国家試験

保健センターはどの法律の住人か―健康増進法の「守備範囲」を見極める

第103回医師国家試験 B問題 第37問

国試問題にチャレンジ

第103回 B問題 第37問

健康増進法で規定されていないのはどれか。

  1. a.がん登録
  2. b.受動喫煙の防止
  3. c.健康手帳の交付
  4. d.市町村保健センターの設置
  5. e.国民健康・栄養調査の実施

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、公衆衛生の事業や施設がどの法律を根拠にしているかを問う問題だ。「健康増進法に書かれていないもの」を探すので、選択肢ごとに「この仕組みの根拠法は何か」を思い浮かべるのがコツだよ。まず、健康増進法がどんな法律か説明できるかな。
医学生医学生
衛生学の講義で、健康日本21の根拠になっている法律だと習いました。でも中身は正直ぼんやりしています。
ドクタードクター
それが出発点として十分だよ。健康増進法は2002年に制定された法律で、前身は栄養改善法。高齢化と生活習慣病の増加を背景に、国民の健康づくりを総合的に進めるための法律だ。厚生労働大臣の基本方針、都道府県や市町村の健康増進計画、国民健康・栄養調査、市町村の健康増進事業、特定給食施設、栄養表示、そして受動喫煙の防止――このあたりが柱になっている。
医学生医学生
前身が栄養改善法ということは、国民健康・栄養調査が入っているのは自然ですね。
ドクタードクター
その通り。もとは国民栄養調査で、2003年から今の名前になった。厚生労働大臣が毎年実施し、身長・体重・血圧・血液検査といった身体状況、栄養摂取状況、喫煙や飲酒などの生活習慣を調べて、健康日本21の評価にも使われる。
医学生医学生
受動喫煙の防止も健康増進法ですよね。ニュースで「改正健康増進法」とよく聞きました。
ドクタードクター
よく覚えているね。制定当初は施設管理者の努力義務だったけれど、2018年の改正で義務化された。学校・病院・行政機関などは敷地内禁煙、その他の多くの人が利用する施設は原則屋内禁煙となり、2020年4月に全面施行されたんだ。
医学生医学生
健康手帳はどうでしょう。母子健康手帳と混同しそうです。
ドクタードクター
そこは要注意ポイントだね。母子健康手帳は母子保健法。一方、健康手帳は健康増進法に基づき市町村が行う健康増進事業の一つで、主に40歳以上が対象だ。もともとは老人保健法の保健事業だったけれど、2008年の制度改正で健康増進法へ移された。健康教育、健康相談、がん検診、歯周疾患検診、骨粗鬆症検診、肝炎ウイルス検診も同じ枠組みだよ。
医学生医学生
がん登録は「がん登録推進法」という別の法律があったと思うので、これが答えかと思ったんですが……。
ドクタードクター
鋭い引っかかりだね。現在は2013年成立のがん登録推進法に基づき、2016年から全国がん登録が行われていて、全ての病院に届出が義務づけられている。ただ、この問題が出題された当時は、健康増進法の「生活習慣病の発生状況の把握」という規定を主な根拠に、都道府県単位の地域がん登録が行われていた。だからこの問題では健康増進法に規定されている事項として扱われるんだ。
医学生医学生
出題時期によって根拠法が変わることがあるんですね。そうなると残るのは市町村保健センターですか。
ドクタードクター
正解。市町村保健センターは、保健所と同じく地域保健法に規定されている。地域保健法は、地域保健対策の基本指針、保健所の設置と業務、そして市町村保健センターの設置を定める法律だ。「地域保健の拠点施設は地域保健法」とまとめて覚えるといい。
医学生医学生
保健所と保健センターの違いも、地域医療の実習で保健所見学に行ったときに説明されたはずなんですが、整理できていません。
ドクタードクター
ここで整理しよう。保健所は都道府県・指定都市・中核市・特別区などが設置し、食品衛生、環境衛生、感染症対策、精神保健、難病対策など、専門的・広域的な業務を担う。所長は原則として医師だ。一方の市町村保健センターは市町村が設置できる施設で、設置は任意。健康相談、保健指導、乳幼児健診、予防接種など、住民に身近な対人保健サービスの拠点で、医師の所長必置規定はない。
医学生医学生
保健所は専門的・広域的、保健センターは身近な対人サービス、ということですね。
ドクタードクター
その理解でばっちり。関連して、特定健康診査・特定保健指導は健康増進法ではなく高齢者の医療の確保に関する法律に基づき、医療保険者が40〜74歳の加入者に行うものだ。がん検診は健康増進法、特定健診は高齢者医療確保法、と区別しておこう。
医学生医学生
健診ひとつとっても根拠法がばらばらなんですね。臨床に出たら患者さんにどこで受けられるか聞かれそうです。
ドクタードクター
まさにそこが実務で役立つところ。根拠法が分かれば、実施主体や費用負担、対象者が見えてくる。患者さんを適切な制度につなぐためにも、法律と事業の対応は押さえておきたいね。

まとめ

健康増進法は栄養改善法を引き継いで2002年に制定され、基本方針(健康日本21)、健康増進計画、国民健康・栄養調査、市町村の健康増進事業(健康手帳の交付、健康教育、がん検診など)、特定給食施設、受動喫煙の防止などを規定しています。一方、市町村保健センターは保健所と同じく地域保健法に規定される施設であり、健康増進法の規定事項ではありません。保健所が専門的・広域的業務を担い所長が原則医師であるのに対し、市町村保健センターは任意設置で住民に身近な対人保健サービスを提供します。がん登録は現在がん登録推進法に基づく全国がん登録として行われ、特定健診は高齢者の医療の確保に関する法律、母子健康手帳は母子保健法と、事業ごとに根拠法が異なる点も整理しておきましょう。根拠法を押さえることは、実施主体や対象者を理解し、患者を適切な制度につなぐ実践力の基礎になります。

解答・解説

正解はdです

問われていること

公衆衛生に関わる各種の事業・施設が、どの法律を根拠としているかを問う問題である。「規定されていないのはどれか」なので、健康増進法以外の法律に根拠をもつものを選ぶ。

健康増進法の概要

健康増進法は2002(平成14)年に制定され、翌2003年に施行された。それまでの栄養改善法を引き継いで発展させた法律であり、高齢化の進展と生活習慣病中心の疾病構造への変化を背景に、国民の健康づくりを総合的に推進することを目的とする。主な内容は次のとおりである。 ・国民の責務(自らの健康状態を自覚し、生涯にわたり健康の増進に努める)と、国・地方公共団体・健康増進事業実施者の責務 ・厚生労働大臣による基本方針の策定(これに基づく国民運動が「健康日本21」)、都道府県健康増進計画(策定義務)・市町村健康増進計画(努力義務) ・健康診査の実施等に関する指針 ・国民健康・栄養調査の実施、生活習慣病の発生状況の把握 ・市町村による健康増進事業(健康手帳の交付、健康教育、健康相談、がん検診・歯周疾患検診・骨粗鬆症検診・肝炎ウイルス検診など) ・特定給食施設の栄養管理、特別用途表示・栄養表示 ・受動喫煙の防止

考え方

市町村保健センターは保健所と並ぶ地域保健の拠点施設であり、保健所と同様に地域保健法で規定されている。したがって、健康増進法に規定されていないのは市町村保健センターの設置である。

選択肢考察

  1. ×a.  がん登録

    健康増進法は、国および地方公共団体に対し、がん・循環器病などの生活習慣病の発生状況の把握に努めるよう求めており、本問出題当時の地域がん登録(都道府県単位で行われていたがん登録)はこの規定を主な根拠として実施されていた。したがって本問では健康増進法に規定されている事項として扱われる。なお現在は、2013(平成25)年に成立した「がん登録等の推進に関する法律」(がん登録推進法)に基づき、2016(平成28)年から全国がん登録が行われており、全ての病院にがん患者の情報の届出が義務づけられている。また、がん検診は健康増進法に基づく市町村の健康増進事業として行われる点もあわせて覚えておきたい。

  2. ×b.  受動喫煙の防止

    受動喫煙の防止は健康増進法に規定されている。制定当初は、学校・病院・官公庁施設・飲食店など多数の者が利用する施設の管理者に対し、受動喫煙防止措置を講ずる努力義務を課すにとどまっていた。その後、2018(平成30)年の改正で望まない受動喫煙の防止が義務化され、学校・病院・児童福祉施設・行政機関などは敷地内禁煙(屋外に一定の要件を満たす喫煙場所の設置は可)、その他の多数の者が利用する施設は原則屋内禁煙とされ、2020(令和2)年4月に全面施行された。

  3. ×c.  健康手帳の交付

    健康手帳の交付は、健康増進法に基づき市町村が行う健康増進事業の一つである。健康手帳は、特定健康診査・特定保健指導や健康診査の記録など、自らの健康管理に必要な事項を記載するためのもので、主に40歳以上の者を対象に交付される。かつては老人保健法に基づく保健事業として行われていたが、2008(平成20)年の同法改正(高齢者の医療の確保に関する法律への改称)に伴い健康増進法へ移された。

  4. ○d.  市町村保健センターの設置

    市町村保健センターの設置は健康増進法ではなく地域保健法(第18条)に規定されている。市町村保健センターは、住民に対して健康相談、保健指導、健康診査など、住民に身近な対人保健サービスを行う施設であり、市町村が設置することができる(設置は任意)。保健所長のような医師の所長必置規定はない。一方、保健所は同じく地域保健法に基づき、都道府県・指定都市・中核市・その他政令で定める市・特別区が設置し、専門的・広域的な業務を担う。

  5. ×e.  国民健康・栄養調査の実施

    国民健康・栄養調査は健康増進法(第10条)に基づき、厚生労働大臣が毎年実施する調査である。都道府県知事(保健所設置市・特別区ではその長)が調査世帯を指定し、指定された世帯は調査に協力するよう努めなければならない。身体状況(身長・体重・血圧・血液検査など)、栄養摂取状況、生活習慣(喫煙・飲酒・運動など)を把握し、健康日本21の評価などに用いられる。前身は栄養改善法に基づく国民栄養調査であり、2003(平成15)年から現在の名称となった。

地域保健に関わる主な法律と規定事項

・健康増進法:基本方針(健康日本21)、健康増進計画、国民健康・栄養調査、健康診査の指針、健康増進事業(健康手帳・健康教育・健康相談・がん検診・歯周疾患検診・骨粗鬆症検診・肝炎ウイルス検診など)、特定給食施設、特別用途表示・栄養表示、受動喫煙の防止 ・地域保健法:地域保健対策の基本指針、保健所の設置と業務、市町村保健センターの設置 ・高齢者の医療の確保に関する法律:特定健康診査・特定保健指導(医療保険者が40〜74歳の加入者に実施) ・がん対策基本法:がん対策推進基本計画など、がん対策の基本理念 ・がん登録等の推進に関する法律:全国がん登録 ・母子保健法:母子健康手帳の交付、乳幼児健康診査、妊産婦の保健指導など

保健所と市町村保健センターの比較

保健所は、食品衛生・環境衛生・感染症対策・精神保健・難病対策など専門的・技術的・広域的な業務を担い、所長は原則として医師である。市町村保健センターは、健康相談・保健指導・乳幼児健診・予防接種など、住民に身近で頻度の高い対人保健サービスを提供する拠点である。

POINT

・市町村保健センターは、保健所と同じく地域保健法に規定される。 ・健康増進法には、国民健康・栄養調査、健康増進事業(健康手帳の交付・がん検診など)、受動喫煙の防止、特定給食施設などが規定されている。 ・受動喫煙防止は2018年改正で努力義務から義務へ強化された。 ・がん登録は現在、がん登録推進法に基づく全国がん登録(2016年開始)として行われている。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。