交感神経の長い旅路をたどれ―Horner症候群を起こす場所はどこか
第103回医師国家試験 B問題 第28問
国試問題にチャレンジ
Horner症候群をきたす病変部位はどれか。2つ選べ。
- a.脳梁
- b.内包
- c.松果体
- d.延髄
- e.頸髄
対話形式の解説
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ドクターまとめ
Horner症候群は、視床下部から脳幹外側・頸髄を下行し、C8〜T2側角から肺尖部・上頸神経節を経て内頸動脈周囲を上る眼の交感神経路の障害で生じ、縮瞳・軽度の眼瞼下垂・眼裂狭小(見かけ上の眼球陥凹)、病変側の顔面発汗低下を示します。延髄外側症候群(Wallenberg症候群)や頸髄病変は経路上の障害として同側にHorner症候群を起こし、脳梁・内包・松果体は経路上にないため原因になりません。ほかにPancoast腫瘍や内頸動脈解離も重要な原因で、縮瞳と散瞳の違いから動眼神経麻痺と区別できます。「経路をたどって病変部位を推定する」考え方は、神経症候学全般の局在診断の基本となります。
解答・解説
正解はd, eです
Horner症候群は、眼と顔面に向かう交感神経の経路がどこかで途切れたときに生じる症候群である。したがって本問は「眼の交感神経路が通過する部位はどこか」を問うている。
眼の交感神経路(3つのニューロン)
第1ニューロン(中枢性): 視床下部から始まり、脳幹(中脳・橋・延髄の外側部)を下行し、頸髄の側索を通って、下位頸髄〜上位胸髄(C8〜T2付近)の側角にある毛様体脊髄中枢(Budge中枢)に至る。 第2ニューロン(節前線維): 毛様体脊髄中枢から前根を経て脊髄を出て、肺尖部の近くを通り、交感神経幹を上行して上頸神経節に至る。 第3ニューロン(節後線維): 上頸神経節から内頸動脈の周囲を上行し、海綿静脈洞を経て瞳孔散大筋・瞼板筋(Müller筋)へ、また顔面の汗腺へ分布する。 この経路は大脳半球の深部や正中構造(脳梁・内包・松果体)を通らない。脳幹から脊髄にかけて下行する経路であるため、延髄外側や頸髄の病変で障害される。「経路をたどって、その上にある部位を選ぶ」という考え方で解けばよい。
選択肢考察
- ×a. 脳梁
脳梁は左右の大脳半球を結ぶ大きな交連線維の束である。障害されると左右半球間の情報伝達が断たれ、離断症候群(左手の失行・失書、拮抗失行など)を起こす。交感神経の下行路は脳梁を通らないため、Horner症候群は生じない。
- ×b. 内包
内包は大脳皮質と脳幹・脊髄を結ぶ投射線維が密集する部位である。後脚には錐体路(皮質脊髄路)と感覚路(視床皮質路)が通る。内包の病変(ラクナ梗塞や被殻出血の進展など)では対側の片麻痺や感覚障害が生じるが、眼の交感神経路は通っていないため、Horner症候群の原因にはならない。
- ×c. 松果体
松果体は第三脳室の後部にあり、視床上部に属する内分泌器官で、メラトニンを分泌して概日リズムに関わる。松果体部の腫瘍(胚細胞腫など)は中脳背側を圧迫して上方注視麻痺や対光反射と輻輳反射の解離を示すParinaud症候群を起こし、中脳水道の閉塞による水頭症も起こしやすい。しかし交感神経路の障害によるHorner症候群は典型的な症状ではない。
- ○d. 延髄
視床下部から下行する交感神経の第1ニューロンは延髄の外側部を通る。このため、椎骨動脈や後下小脳動脈(PICA)の閉塞による延髄外側症候群(Wallenberg症候群)では、病変と同じ側にHorner症候群が現れる。Wallenberg症候群ではこのほか、同側顔面の温痛覚障害、対側頸部以下の温痛覚障害、嚥下障害・嗄声(疑核障害)、同側の小脳性運動失調、めまい・眼振などを伴う。
- ○e. 頸髄
頸髄の側索には第1ニューロン(視床下部脊髄路)が下行しており、さらに下位頸髄〜上位胸髄(C8〜T2付近)の側角には第2ニューロンの細胞体がある毛様体脊髄中枢が存在する。したがって頸髄の外傷・腫瘍・脊髄空洞症などで、病変側にHorner症候群が生じうる。なお、脊髄を出た第2ニューロン(節前線維)は肺尖部の近くを通るため、肺尖部の腫瘍(Pancoast腫瘍)でもHorner症候群が起こる。
Horner症候群の症候
・縮瞳: 瞳孔散大筋の麻痺による。暗所で左右差(瞳孔不同)が目立つ。対光反射は保たれる。 ・眼瞼下垂: 瞼板筋(Müller筋)の麻痺による軽度の下垂である。動眼神経麻痺による高度な下垂とは程度が異なる。下眼瞼もわずかに挙上し、眼裂が狭くなる。 ・眼球陥凹: 古典的な三主徴の一つとされるが、実際には眼裂が狭くなって奥に引っ込んだように見える「見かけ上の陥凹」であることが多い。 ・顔面の発汗低下(無汗症): 病変が上頸神経節より近位(第1・第2ニューロン)にあるとき顔面半側に目立つ。汗腺への線維は外頸動脈に沿って分布するため、内頸動脈周囲の第3ニューロン病変では発汗障害はほとんどない。
障害部位ごとの代表的原因
・第1ニューロン(中枢性): 延髄外側症候群(Wallenberg症候群)、脳幹の腫瘍・脱髄、頸髄の外傷・脊髄空洞症など。 ・第2ニューロン(節前性): 肺尖部腫瘍(Pancoast腫瘍)、頸部リンパ節腫大・甲状腺腫瘍、頸部手術、腕神経叢下部の損傷など。 ・第3ニューロン(節後性): 内頸動脈解離、海綿静脈洞病変、群発頭痛など。
動眼神経麻痺との区別
動眼神経麻痺では、副交感神経の障害で散瞳が起こり、眼瞼挙筋の麻痺で高度な眼瞼下垂と眼球運動障害を伴う。Horner症候群は縮瞳と軽度の下垂であり、眼球運動は正常である。
POINT
・Horner症候群は眼への交感神経路の障害で生じ、三主徴は縮瞳・眼瞼下垂・眼球陥凹(実際は眼裂狭小)。病変側の顔面発汗低下を伴うことがある。 ・交感神経路は視床下部→脳幹外側(延髄外側)→頸髄→C8〜T2側角→肺尖部→上頸神経節→内頸動脈周囲→眼と経由する。 ・延髄外側症候群(Wallenberg症候群)、頸髄病変、Pancoast腫瘍、内頸動脈解離が代表的な原因。 ・脳梁・内包・松果体は交感神経路の上にないためHorner症候群の原因にならない。
