StudyMed医師国家試験

「休みたい」だけでは守れない?―働く妊婦を支える法律の線引き

第103回医師国家試験 B問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第103回 B問題 第13問

仕事を持つ妊婦の保護のために法制度上認められているのはどれか。

  1. a.産後8週間の休業
  2. b.喫煙可能な職場からの異動
  3. c.タクシーを利用しての通勤
  4. d.1週間以内の有給休暇の追加
  5. e.自己申告による休憩時間の延長

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生の分野から、働く妊婦さんを守るために法律で何が保障されているかを問う問題だ。ポイントは「配慮として望ましいこと」と「法制度として権利が定められていること」をきちんと区別すること。どの選択肢も一見やさしい配慮に見えるから、根拠になる法律を思い浮かべながら考えていこう。
医学生医学生
正直、どれも妊婦さんには必要そうに見えて迷います。公衆衛生の講義で労働基準法の母性保護をやった記憶はあるんですが……。
ドクタードクター
そこがまさにこの問題の狙いなんだ。まず母性保護の柱になる法律は2つある。1つは労働基準法で、産前産後休業や時間外労働の制限など、労働条件の最低基準として母性を守る。もう1つは男女雇用機会均等法で、事業主に健診の時間を確保させたり、医師の指導を守れるような措置をとらせたりする。
医学生医学生
じゃあ、産後8週間の休業は労働基準法の産後休業そのものですね。
ドクタードクター
その通り、これが正解だ。労働基準法第65条で、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならないと定められている。ここで大事なのは、産前と産後で性格が違うことなんだ。
医学生医学生
産前は確か6週間でしたよね。そっちも強制的に休むんですか。
ドクタードクター
いい質問だね。産前休業は出産予定日の6週間前、多胎妊娠なら14週間前から、本人が請求すれば休める制度。つまり働き続けたい人は働ける。一方、産後休業は本人が希望しても働かせてはいけない強制的な休業なんだ。ただし産後6週間を過ぎて本人が請求し、医師が支障なしと認めた業務なら例外的に就業できる。
医学生医学生
産褥期の体の回復を考えると、産後のほうが強く守られているのは納得です。産婦人科の実習で、産褥1か月健診まで子宮復古や悪露を見ていたのを思い出しました。
ドクタードクター
臨床の感覚とつながっていていいね。では、喫煙可能な職場からの異動はどうだろう。
医学生医学生
受動喫煙は胎児発育不全のリスクになるので、法律で守られていてもおかしくない気がします。
ドクタードクター
医学的には望ましいし、そう考えるのは自然だよ。実際、健康増進法の改正で多数の人が利用する施設の屋内喫煙は原則禁止になり、労働安全衛生法でも事業者に職場の受動喫煙防止の努力義務がある。でもこれは職場全体の環境対策であって、妊婦個人が異動する権利を定めた規定はないんだ。
医学生医学生
タクシー通勤はどうですか。通勤緩和という言葉を聞いたことがあるので、それかなと思ったんですが。
ドクタードクター
鋭いけれど、そこが引っかけだね。男女雇用機会均等法第13条の通勤緩和は、医師などの指導を受けた妊婦に対して、時差通勤や勤務時間の短縮で混雑を避けられるようにする措置なんだ。交通手段を指定したり、タクシー代を事業主に負担させたりする規定ではない。
医学生医学生
なるほど、時間をずらすのであって手段の話ではないんですね。休憩時間の延長も均等法の措置に入っていた気がしますが、なぜ誤りなんでしょう。
ドクタードクター
そこが一番の落とし穴だ。休憩時間の延長や回数の増加は確かに第13条の措置に含まれる。ただしそれは、医師または助産師から指導を受けた場合に、その指導事項を守れるよう事業主が講じるもの。本人の自己申告だけで法的に認められるわけではないんだ。医師の指導内容を事業主に伝える道具として「母性健康管理指導事項連絡カード」がある。
医学生医学生
そのカード、妊婦健診の外来で見かけた気がします。医師が書く書類だったんですね。残りの有給休暇の追加は……妊娠で有給が増える制度は聞いたことがないです。
ドクタードクター
その通り、そういう上乗せの制度はない。年次有給休暇は勤続年数と出勤率で付与されるもので、産前産後休業の期間が出勤率の計算上「出勤したもの」とみなされる、という配慮があるだけだ。ちなみに産前産後休業中の賃金は法律上義務づけられておらず、健康保険の被保険者には出産手当金が支給される。
医学生医学生
整理すると、法律で直接定められた権利なのは産後休業で、休憩延長や通勤緩和は医師の指導が前提、異動やタクシーや有給追加はそもそも規定がない、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展としてほかの規定も押さえておこう。労働基準法では、妊娠中に請求すれば軽易な業務へ転換できるし、妊産婦が請求すれば時間外労働・休日労働・深夜業をさせてはならない。1歳未満の子を育てる女性は1日2回、各30分以上の育児時間を請求できる。重量物や有害ガスを扱う業務への就業制限、産前産後休業中とその後30日間の解雇制限もある。均等法では、妊娠・出産を理由とした不利益な取扱いも禁止されている。
医学生医学生
臨床で医師として関わるのは、やっぱり指導事項連絡カードを書く場面でしょうか。
ドクタードクター
そうだね。つわりや切迫早産、妊娠高血圧症候群などで勤務の調整が必要なとき、医師がカードに具体的な措置を書くことで、事業主が法的に対応すべき内容が明確になる。医師の一筆が妊婦さんを守る実効性につながる、ということを覚えておいてほしい。

まとめ

働く妊婦を守る法制度の柱は、労働基準法と男女雇用機会均等法の2つです。労働基準法は産前休業(6週間、多胎14週間、本人請求)と産後休業(8週間、原則就業禁止で6週間経過後は本人請求と医師の許可で就業可)を定め、ほかに軽易業務への転換、時間外・深夜業の制限、育児時間、解雇制限などを規定しています。男女雇用機会均等法は健診時間の確保と、医師等の指導事項を守るための通勤緩和(時差通勤など)や休憩延長などの措置を事業主に義務づけていますが、これらは医師等の指導が前提で、自己申告や交通手段の指定は含まれません。医師は母性健康管理指導事項連絡カードを通じてこの制度を動かす立場にあり、「望ましい配慮」と「法的な権利」を区別して理解することが、妊婦への適切な支援につながります。

解答・解説

正解はaです

本問は、働く女性の妊娠・出産に関して、どのような保護が法律で定められているかを問うものである。 母性保護の中心となる法律は二つある。 ・労働基準法:産前産後休業(第65条第1項・第2項)、妊娠中の軽易な業務への転換(第65条第3項)、時間外労働・休日労働・深夜業の制限(第66条)、育児時間(第67条)、危険有害業務の就業制限(第64条の3)など、労働条件の最低基準として母性を保護する。 ・男女雇用機会均等法(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律):事業主に対し、妊産婦が保健指導・健康診査を受けるための時間の確保(第12条)と、医師などから受けた指導事項を守れるようにするための措置(時差通勤、勤務時間の短縮、休憩時間の延長・回数増加、作業の制限、休業など)を講じること(第13条)を義務づけている。 選択肢の中でこれらの規定にそのまま当てはまるのは、労働基準法第65条に定める「産後8週間の休業」である。他の選択肢は、似た内容の規定はあっても、そのままの形では法制度上の権利として定められていない。とくに、休憩時間の延長や通勤緩和は「医師等の指導に基づく措置」であって、自己申告だけで認められるものではない点、通勤緩和は時差出勤などを指し交通手段の指定ではない点に注意する。

選択肢考察

  1. ○a.  産後8週間の休業

    労働基準法第65条第2項により、使用者は産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。産前休業(出産予定日の6週間前、多胎妊娠では14週間前から)が本人の請求によって与えられるのに対し、産後休業は本人が希望しなくても就業させてはならない強制的な休業である点が特徴である。ただし、産後6週間を過ぎた女性が請求し、医師が支障ないと認めた業務に就かせることは例外的に認められる。法制度上認められている保護そのものであり、正しい。

  2. ×b.  喫煙可能な職場からの異動

    受動喫煙の防止については、健康増進法(2018年改正、2020年全面施行)により多数の者が利用する施設での屋内喫煙が原則禁止となり、労働安全衛生法でも事業者に職場の受動喫煙防止の努力義務が課されている。しかし、これらは職場全体の環境対策であり、妊婦が喫煙可能な職場から異動することを個別の権利として定めた規定はない。妊婦への配慮としては望ましいが、法制度上の保護措置としては誤りである。

  3. ×c.  タクシーを利用しての通勤

    男女雇用機会均等法第13条に基づく措置として、医師などから通勤緩和の指導を受けた妊婦に対し、事業主は時差通勤や勤務時間の短縮などを講じなければならない。これは混雑した時間帯を避けるための勤務時間の調整であり、タクシーなど特定の交通手段での通勤を認めたり、その費用を負担させたりする規定ではない。誤りである。

  4. ×d.  1週間以内の有給休暇の追加

    妊娠を理由に有給休暇を上乗せする制度は法律に定められていない。年次有給休暇は労働基準法第39条に基づき勤続年数と出勤率に応じて付与されるもので、産前産後休業の期間は出勤率の計算上「出勤したもの」とみなされる、という配慮があるにとどまる。なお、産前産後休業そのものは賃金の支払いが義務づけられておらず、健康保険の被保険者には出産手当金が支給される。誤りである。

  5. ×e.  自己申告による休憩時間の延長

    休憩時間の延長や休憩回数の増加は、男女雇用機会均等法第13条に基づく措置に含まれる。しかしこれは、医師または助産師から妊娠中・出産後の健康管理に関する指導を受けた場合に、その指導事項を守れるよう事業主が講じる措置である。本人の自己申告だけで休憩の延長が法的に認められるわけではないため、誤りである。医師等の指導内容を事業主に正確に伝える手段として「母性健康管理指導事項連絡カード」が用いられる。

労働基準法による母性保護の主な規定

・産前休業:出産予定日の6週間前(多胎妊娠は14週間前)から、本人の請求により休業できる(第65条第1項)。 ・産後休業:産後8週間は就業禁止。産後6週間経過後は、本人の請求と医師の許可があれば就業可(第65条第2項)。 ・軽易業務への転換:妊娠中の女性が請求した場合、他の軽易な業務に転換させなければならない(第65条第3項)。 ・労働時間の制限:妊産婦(妊娠中および産後1年を経過しない女性)が請求した場合、時間外労働・休日労働・深夜業をさせてはならず、変形労働時間制でも1日・1週の法定労働時間を超えて働かせてはならない(第66条)。 ・育児時間:生後1歳に満たない子を育てる女性は、休憩時間のほかに1日2回、各少なくとも30分の育児時間を請求できる(第67条)。 ・危険有害業務の就業制限:重量物を扱う業務や有害ガスを発散する場所での業務などに妊産婦を就かせてはならない(第64条の3)。 ・解雇制限:産前産後休業の期間とその後30日間は解雇できない(第19条)。

男女雇用機会均等法による母性健康管理

・第12条:妊産婦が母子保健法に基づく保健指導・健康診査を受けるために必要な時間を確保する。 ・第13条:医師等の指導事項を守れるよう、通勤緩和(時差通勤、勤務時間の短縮など)、休憩に関する措置(休憩時間の延長、回数の増加など)、症状に応じた作業の制限・勤務時間の短縮・休業などを講じる。 ・妊娠・出産・産前産後休業の取得などを理由とする解雇その他の不利益な取扱いは禁止されている(第9条)。

関連する制度

・育児・介護休業法:原則として子が1歳(一定の場合は最長2歳)になるまでの育児休業。 ・健康保険法:出産手当金(産前産後休業中の所得保障)、出産育児一時金。

POINT

・産前休業は6週間(多胎14週間)で本人の請求による。産後休業は8週間で原則就業禁止(6週間経過後は本人請求+医師の許可で就業可)。 ・通勤緩和や休憩時間の延長は「医師等の指導」に基づいて事業主が講じる措置であり、自己申告だけでは法的に認められない。 ・母性保護の根拠法は労働基準法(休業・時間制限・育児時間など)と男女雇用機会均等法(健診時間の確保・指導事項を守るための措置)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。