100%酸素でも消えないチアノーゼ―胸に入り込んだ腸管が奪うもの、先天性横隔膜ヘルニアと肺低形成
第103回医師国家試験 A問題 第51問
国試問題にチャレンジ
出生直後の新生児。在胎37週,体重3,120gで出生した。啼泣と自発呼吸とは弱々しく,マスクで酸素を投与したが全身チアノーゼが強いため気管挿管された。挿管後100%酸素を投与してもチアノーゼは改善しない。胸腹部エックス線写真(臥位)を別に示す。 最も合併しやすいのはどれか。

- a.脳奇形
- b.肺低形成
- c.先天性心疾患
- d.消化管閉鎖
- e.腎無形成
対話形式の解説
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ドクターまとめ
出生直後からの重症呼吸障害に、胸腔内の腸管ガス像と縦隔の健側偏位がみられれば先天性横隔膜ヘルニアを考え、その多くは左側のBochdalek孔ヘルニアです。胎児期に脱出臓器が胸腔を占拠するため肺低形成がほぼ必発し、肺血管床の減少と肺動脈壁の肥厚から新生児遷延性肺高血圧症を起こして、100%酸素でも改善しないチアノーゼを呈します。先天性心疾患や腸回転異常、染色体異常も合併しうるものの頻度は一部にとどまり、腎無形成による肺低形成は羊水過少が原因のPotter症候群として区別します。出生直後はマスク換気を避けて挿管・胃管減圧を行い、愛護的換気やNO吸入で安定させてから待機的に手術します。予後を決めるのは肺低形成の程度であり、病態の理解が初期対応と重症度評価に直結します。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・在胎37週、出生体重3,120g:正期産で体格も正常な新生児であり、早産児の呼吸窮迫症候群などは考えにくい。 ・出生直後から啼泣・自発呼吸が弱く、全身チアノーゼが強い:生まれた直後から重い呼吸・循環の異常が存在する。 ・気管挿管して100%酸素を投与してもチアノーゼが改善しない:単なる換気不足ではなく、肺そのもののガス交換能力の著しい不足、あるいは肺血管抵抗が高いままで右左短絡(静脈血が肺を通らずに体循環へ流れること)が続いている状態を示唆する。 ・胸腹部エックス線写真(臥位):左胸腔内に多数の蜂巣状・ループ状の腸管ガス像が入り込み、左肺野の含気がほとんど見えない。縦隔・心陰影は右側へ偏位している。腹部の腸管ガスは相対的に少ない。
診断へのプロセス
出生直後からの重症呼吸障害に加えて、胸腔内に腸管ガス像が存在し縦隔が対側へ押されていることから、先天性横隔膜ヘルニア(腹部臓器が横隔膜の欠損部を通って胸腔内へ脱出した状態)と診断できる。左側で後外側の欠損であることから、最も頻度の高いBochdalek孔ヘルニア(胸腹裂孔ヘルニア)と考えられる。診察上は、腹部臓器が胸腔へ移動しているため腹部が平坦〜陥凹(舟状腹)し、患側の呼吸音減弱や胸部での腸雑音聴取がみられることが多い。
設問の考え方
胎児期に腸管などが胸腔内に入り込むと、発育途中の肺が圧迫されて十分に成長できない。そのため先天性横隔膜ヘルニアでは、患側を中心に(しばしば対側にも)肺低形成がほぼ必発する。肺低形成では肺胞の数や肺血管床が少なく、肺動脈の筋層も厚いため、出生後に肺血管抵抗が下がらず新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)を起こしやすい。本例で高濃度酸素を与えてもチアノーゼが改善しないのは、この肺低形成とPPHNによる右左短絡で説明できる。肺低形成の程度こそが本症の生命予後を最も強く左右する因子である。
選択肢考察
- ×a. 脳奇形
誤り。先天性横隔膜ヘルニアに中枢神経系の奇形(神経管閉鎖不全など)が合併することはあるが、頻度は高くない。染色体異常や症候群の一部として合併する場合に限られ、本症の病態そのものから必然的に生じるものではない。本例の強いチアノーゼも脳奇形では説明できない。
- ○b. 肺低形成
正しい。胎児期に脱出した腹部臓器が胸腔を占拠することで肺の発育が妨げられ、肺低形成がほぼ全例に生じる。気管支の分岐数・肺胞数・肺血管床がいずれも減少し、肺動脈の中膜も肥厚するため、ガス交換障害に加えて肺高血圧(新生児遷延性肺高血圧症)を起こしやすい。本例の「挿管して100%酸素を投与してもチアノーゼが改善しない」という経過は、肺低形成とそれに伴う肺高血圧の重さを反映している。肺低形成の程度は本症の予後を決める最大の因子であり、胎児期には超音波検査やMRIで肺の大きさ(肺頭比〈LHR〉など)を評価して重症度を予測する。
- ×c. 先天性心疾患
誤り。先天性心疾患は、先天性横隔膜ヘルニアに合併する他臓器奇形の中では比較的多いもの(心室中隔欠損、ファロー四徴症、左心低形成など)であり、合併すると予後が悪化するため心エコー検査での評価は必須である。しかし合併するのは一部の症例にとどまり、ほぼ全例にみられる肺低形成と比べれば頻度ははるかに低い。「最も合併しやすい」ものには当たらない。
- ×d. 消化管閉鎖
誤り。先天性横隔膜ヘルニアでは、腸管が胸腔へ脱出するため腸間膜の固定が不完全になりやすく、消化管の異常としては腸回転異常の合併が多い。そのほかMeckel憩室などがみられることもあるが、食道閉鎖や十二指腸閉鎖などの消化管閉鎖を特に高頻度に合併するわけではない。
- ×e. 腎無形成
誤り。両側腎無形成では胎児尿が作られず羊水過少となり、胸郭が外から圧迫されて両側の肺低形成、特有の顔貌(Potter顔貌)、四肢の変形を生じる(Potter症候群、Potter sequence)。肺低形成を起こす点は共通するが、原因は羊水過少であり、横隔膜ヘルニアに腎無形成が合併しやすいわけではない。
先天性横隔膜ヘルニアの概要
・定義:胎生期の横隔膜形成不全により横隔膜に欠損孔が残り、腹部臓器(小腸・大腸・胃・脾・肝など)が胸腔内へ脱出する疾患である。出生数千人に1人程度の頻度でみられる。 ・分類:後外側の胸腹裂孔に生じるBochdalek孔ヘルニアが大部分を占め、その多く(約8〜9割)は左側である。右側は肝臓がふたをする形になるため起こりにくい。前方の胸骨後部に生じるMorgagni孔ヘルニアはまれで、症状が軽く年長になって偶然見つかることが多い。
臨床像
・出生直後からの呼吸困難、チアノーゼ ・舟状腹(腹部の陥凹)、患側胸部の呼吸音減弱、胸部での腸雑音聴取 ・心音が健側(左側ヘルニアでは右側)へ偏位して聴取される ・胸部エックス線写真:患側胸腔内の腸管ガス像、縦隔の健側への偏位、腹部腸管ガスの減少。胃管を入れると先端が胸腔内に位置することがある。
病態の中心:肺低形成と新生児遷延性肺高血圧症
肺低形成では肺血管床が少なく肺動脈の壁も厚いため、出生後に肺血管抵抗が十分に下がらない。その結果、動脈管や卵円孔を介した右左短絡が持続し、高濃度酸素でも改善しないチアノーゼを呈する(新生児遷延性肺高血圧症、PPHN)。動脈管より上流の右手と下流の下肢でSpO2に差(上下肢差)が出ることがある。
合併奇形
肺低形成はほぼ必発である。それ以外の合併奇形としては、先天性心疾患、腸回転異常、染色体異常(18トリソミーなど)、各種症候群などがあり、他臓器奇形を伴う例は予後が悪い。
出生前診断と治療
・現在は妊婦健診の胎児超音波検査で多くが出生前に診断され、新生児集中治療と小児外科治療が可能な施設での計画的な分娩が行われる。 ・出生直後の対応:バッグ・マスク換気は消化管にガスを送り込み、胸腔内の腸管を膨らませて肺をさらに圧迫するため避け、速やかに気管挿管する。胃管を挿入して消化管の減圧を行う。 ・呼吸循環管理:肺損傷を避けるため圧を上げすぎない愛護的な人工換気(gentle ventilation)を行い、必要に応じて高頻度振動換気(HFO)を用いる。鎮静・筋弛緩を行い、刺激を最小限にする(minimal handling)。PPHNに対しては一酸化窒素(NO)吸入療法、動脈管を開存させて右心負荷を軽減するプロスタグランジンE1投与などを行い、これらで改善しない重症例では体外式膜型人工肺(ECMO)を用いる。 ・手術:呼吸・循環状態が安定してから待機的に行う。脱出臓器を腹腔内へ戻し、欠損孔を直接縫合するか、大きい場合は人工膜(パッチ)で閉鎖する。 ・胎児治療:重症例に対し、胎児鏡を用いて胎児の気管内にバルーンを留置して一時的に閉塞させ、肺内に肺液を貯留させて肺の成長を促す胎児鏡下気管閉塞術(FETO)が行われている。
予後
出生前診断例や出生直後から重い呼吸障害を示す例は予後が悪い。一方、生後しばらくしてから軽い症状や偶然の検査で見つかる例は、肺低形成が軽く予後が良い。
POINT
・出生直後からの重症呼吸障害+胸腔内の腸管ガス像+縦隔の対側偏位 → 先天性横隔膜ヘルニア(多くは左側Bochdalek孔ヘルニア)。 ・最も高頻度に合併し、予後を最も左右するのは肺低形成である。 ・肺低形成に伴う新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)のため、100%酸素でもチアノーゼが改善しない。 ・出生直後はバッグ・マスク換気を避けて気管挿管し、胃管で消化管を減圧する。 ・手術は呼吸循環が安定してからの待機手術。PPHNにはNO吸入、HFO、ECMOなどで対応する。 ・腎無形成による肺低形成はPotter症候群(羊水過少が原因)であり、横隔膜ヘルニアとは別の病態である。
