むくみ取りの利尿薬が招いたK 2.1―低カリウム血症の「症状」と「背景」を読み解く
第103回医師国家試験 A問題 第45問
国試問題にチャレンジ
28歳の女性。1か月前からの立ちくらみを主訴に来院した。2年前から浮腫を訴え,近医で利尿薬の投与を受けていた。脈拍84/分,整。血圧92/54mmHg。血液生化学所見:Na 142 mEq/L,K 2.1mEq/L,Cl 92mEq/L。 みられるのはどれか。2つ選べ。
- a.高張尿
- b.筋力低下
- c.心電図上U波出現
- d.代謝性アシドーシス
- e.血漿レニン活性低下
対話形式の解説
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ドクターまとめ
利尿薬の長期使用では、循環血漿量減少によりRAA系が活性化し、低カリウム血症、低クロール性代謝性アルカローシス、高レニン・高アルドステロン、正常〜低血圧がそろう偽性Bartter症候群の状態になります。高度の低カリウム血症では、静止膜電位の過分極による筋力低下(近位筋優位)や、心電図のT波平低化・ST低下・U波出現がみられ、重症では不整脈や呼吸筋麻痺にも注意が必要です。一方で尿濃縮力は障害されて低張尿・多尿となり、レニン低値と高血圧を伴うのは原発性アルドステロン症、低K血症に代謝性アシドーシスを伴うのは尿細管性アシドーシスや下痢などです。血圧・レニン・酸塩基平衡を組み合わせて低K血症の原因を絞り込む考え方は、電解質異常の診療全般に通じる基本となります。
解答・解説
正解はb, cです
所見の整理
・28歳の女性。2年前から浮腫を訴え、利尿薬を長期に服用している。 ・1か月前からの立ちくらみ、血圧92/54mmHgと低め:利尿による細胞外液量(循環血漿量)の減少を示唆する。 ・Na 142mEq/L(基準約135〜145):正常。 ・K 2.1mEq/L(基準約3.5〜5.0):高度の低カリウム血症。 ・Cl 92mEq/L(基準約98〜108):低クロール血症。NaとClの差が50と開いており、HCO3-の増加(代謝性アルカローシス)が推測される。
病態の考え方
若年女性が、はっきりした原因のない浮腫に対して利尿薬を長く使い続けている。ループ利尿薬やサイアザイド系利尿薬は、腎尿細管でのNa・Clの再吸収を抑えて尿量を増やすが、その結果、以下の連鎖が起こる。 ①Na・水の喪失で循環血漿量が減る → 立ちくらみ・低血圧。 ②循環血漿量減少により腎の傍糸球体装置からレニンが分泌され、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAA系)が活性化する(続発性アルドステロン症)。 ③遠位尿細管・集合管に届くNa量が増えることと、アルドステロンの作用が加わることで、KとH+の尿中排泄が増える → 低カリウム血症と代謝性アルカローシス(Clも失われるため低クロール性)。 このように、利尿薬の長期使用や乱用で、遺伝性のBartter症候群とよく似た検査所見(低K血症、代謝性アルカローシス、高レニン・高アルドステロン、正常〜低血圧)を示す状態を偽性Bartter症候群とよぶ。
設問の考え方
設問は「この患者でみられるもの」を問うている。K 2.1mEq/Lという高度の低カリウム血症で生じる症状・所見(筋力低下、心電図変化、尿濃縮力障害)と、利尿薬による二次性の変化(代謝性アルカローシス、レニン高値)を一つずつ当てはめて判断する。
選択肢考察
- ×a. 高張尿
尿は濃縮されにくく、低張尿になりやすい。高度の低カリウム血症が続くと、集合管が抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)に反応しにくくなり(アクアポリン2の発現低下)、さらに腎髄質の浸透圧勾配も保たれにくくなるため、腎性尿崩症に似た尿濃縮力障害(低カリウム性腎症)が起こり、多尿・低張尿となる。加えて、ループ利尿薬はHenleループ上行脚でのNaCl再吸収を妨げて髄質の高浸透圧形成を阻害するため、それ自体でも尿濃縮を妨げる。
- ○b. 筋力低下
細胞内外のK濃度比は静止膜電位を決める主要因である。血清Kが低下すると静止膜電位がより深く(過分極)なり、骨格筋が興奮しにくくなるため、脱力・筋力低下が起こる。四肢、特に近位筋優位に出やすく、一般に血清Kが2.5〜3.0mEq/Lを下回ると目立つ。重症では呼吸筋麻痺や横紋筋融解症をきたすことがある。平滑筋も障害され、腸管蠕動低下による便秘・麻痺性イレウスもみられる。K 2.1mEq/Lの本例では十分に起こりうる所見である。
- ○c. 心電図上U波出現
低カリウム血症では心室の再分極が遅れ、心電図でT波の平低化、ST低下、U波の出現・増高がみられる(U波はT波の後に続く小さな陽性波で、V2〜V3など胸部誘導で見やすい)。T波とU波が癒合すると見かけ上QT(正確にはQU)が延長する。重症では期外収縮、心室頻拍、torsades de pointesなどの不整脈の危険が高まり、ジギタリス服用中では中毒が起こりやすくなる。
- ×d. 代謝性アシドーシス
本例でみられるのは代謝性アルカローシスである。機序は、①低K血症で細胞内のKが細胞外へ出る代わりにH+が細胞内へ移動する、②アルドステロン作用と遠位尿細管へのNa到達増加で集合管からのH+分泌が増える、③Clの喪失と細胞外液量の減少(濃縮性アルカローシス)でHCO3-が相対的に増え、腎での再吸収も亢進する、などである。本例の低クロール血症(Cl 92mEq/L)もこれに合致する。なお、代謝性アシドーシスと低K血症が併存するのは、遠位尿細管性アシドーシスや下痢、アセタゾラミド(炭酸脱水酵素阻害薬)使用などの場合である。
- ×e. 血漿レニン活性低下
利尿薬で循環血漿量が減ると、腎灌流圧の低下と緻密斑へのCl到達の変化などを介してレニン分泌が促進されるため、血漿レニン活性は上昇する。続いてアンジオテンシンII、アルドステロンも上昇する(続発性アルドステロン症)。血漿レニン活性が低下し、アルドステロンが高値となるのは原発性アルドステロン症であり、この場合は高血圧を伴う点で本例(低血圧)とは異なる。
偽性Bartter症候群
利尿薬(ループ利尿薬、サイアザイド系)の長期使用・乱用、下剤の乱用、自己誘発性嘔吐(神経性やせ症・過食症など)などによって、Bartter症候群と同様の所見(低K血症、代謝性アルカローシス、高レニン・高アルドステロン、血圧は正常〜低値)を呈する状態である。若年女性に多く、体重を減らしたい、むくみを取りたいという目的で薬を乱用している例が少なくない。いわゆる特発性浮腫に対して利尿薬を使い続けると、RAA系が活性化して、中止時にかえって浮腫が悪化し、さらに利尿薬を手放せなくなる悪循環も知られている。 ・鑑別の手がかり:嘔吐による場合は尿中Clが低値(通常20mEq/L未満)、利尿薬使用中やBartter/Gitelman症候群では尿中Clが高値となる。利尿薬の尿中検出も有用である。 ・治療:原因薬剤の中止、K補充、背景にある心理的問題への対応。
Bartter症候群とGitelman症候群
いずれも尿細管のNaCl輸送体などの遺伝子異常による先天性疾患である。Bartter症候群はHenleループ太い上行脚(ループ利尿薬の作用部位)の障害で、高カルシウム尿を伴い、乳幼児期に発症しやすい。Gitelman症候群は遠位曲尿細管のNa-Cl共輸送体(サイアザイドの作用部位)の障害で、低カルシウム尿と低マグネシウム血症を伴い、比較的年長で発症する。
低カリウム血症の主な症状・所見
・神経筋:脱力、筋力低下(近位筋優位)、周期性四肢麻痺、横紋筋融解症、呼吸筋麻痺。 ・消化管:便秘、麻痺性イレウス。 ・心臓:T波平低化、ST低下、U波出現、QT(QU)延長様所見、不整脈、ジギタリス中毒の誘発。 ・腎:尿濃縮力障害による多尿・多飲(腎性尿崩症様)、長期では尿細管の空胞変性。 ・代謝:インスリン分泌低下による耐糖能悪化。 ・酸塩基:代謝性アルカローシスを伴いやすい。
低カリウム血症と酸塩基平衡・レニンの組み合わせ
・代謝性アルカローシス+高血圧+レニン低値:原発性アルドステロン症、Liddle症候群、甘草(偽性アルドステロン症)など。 ・代謝性アルカローシス+高血圧+レニン高値:腎血管性高血圧、レニン産生腫瘍など。 ・代謝性アルカローシス+正常〜低血圧+レニン高値:利尿薬、嘔吐、Bartter/Gitelman症候群。 ・代謝性アシドーシス:尿細管性アシドーシス(1型・2型)、下痢、炭酸脱水酵素阻害薬など。
POINT
・利尿薬の長期使用で、低K血症・代謝性アルカローシス・高レニン・高アルドステロン・低血圧傾向がそろう(偽性Bartter症候群)。 ・低K血症の症状:筋力低下(近位筋優位)、便秘・麻痺性イレウス、心電図のT波平低化・ST低下・U波、不整脈、尿濃縮力障害(多尿・低張尿)。 ・低K血症は通常、代謝性アルカローシスを伴う(例外:尿細管性アシドーシス、下痢など)。 ・レニンが低下して高血圧を伴うのは原発性アルドステロン症。利尿薬ではレニンは上昇する。
