「かぜで発作」は「感染型」ではない―小児喘息の素顔はアトピーにあり
第103回医師国家試験 A問題 第18問
国試問題にチャレンジ
小児気管支喘息で誤っているのはどれか。
- a.最も多い原因抗原はハウスダストである。
- b.アトピー型よりも感染型が多い。
- c.発作時には呼気の延長がみられる。
- d.重症発作では呼吸音は減弱する。
- e.副腎皮質ステロイド吸入が有効である。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
小児気管支喘息はおおむね9割以上がアトピー型で、最も重要な原因抗原はダニを主体とするハウスダストです。かぜなどのウイルス感染は発作の最も多い誘因ですが、それは発作のきっかけであって「感染型」が多いわけではなく、非アトピー型の割合が高まるのは成人発症の喘息です。発作時は気道狭窄による呼気延長と呼気性喘鳴がみられ、重症になると空気の出入りが減って呼吸音や喘鳴がかえって減弱するsilent chestとなるため、危険な徴候として扱います。長期管理の中心は吸入ステロイドで、急性発作の第一選択は短時間作用性β2刺激薬の吸入と、役割を区別して理解しておきましょう。誘因と病型、喘鳴の大きさと重症度を混同しないことが、小児喘息の正しい評価と安全な診療につながります。
解答・解説
正解はbです
小児気管支喘息の病型・原因抗原・発作時の所見・長期管理薬について、基本事項を確認する問題である。「誤っているのはどれか」を選ぶ点に注意する。 気管支喘息は、気道の慢性炎症を本態とし、発作性に気道が狭くなる(可逆性の気流制限)ことで、喘鳴・咳嗽・呼吸困難を繰り返す疾患である。気道は刺激に対して過敏になっている(気道過敏性の亢進)。 病型は、環境中のアレルゲン(抗原)に対する特異的IgE抗体が関与するアトピー型(アレルギー型)と、それが証明されない非アトピー型に分けられる。小児の喘息はアトピー型が大多数(おおむね9割以上)を占め、主な抗原はダニを主体とするハウスダストである。成人、特に中高年発症例では非アトピー型の割合が高くなる点と対比して覚える。 かぜなどの呼吸器ウイルス感染は小児喘息の発作の重要な誘因ではあるが、それは発作の「きっかけ」であって、病型としてはアトピー型が基盤にあることが多い。したがって「アトピー型よりも感染型が多い」という記述が誤りとなる。 発作時の身体所見(呼気延長、重症での呼吸音減弱)と、長期管理の中心となる吸入ステロイドの位置づけも、あわせて整理しておく。
選択肢考察
- ×a. 最も多い原因抗原はハウスダストである。
正しい記述である。小児喘息で最も重要な吸入抗原はハウスダスト(室内塵)であり、その主要なアレルゲンはチリダニ類のヤケヒョウダニとコナヒョウダニである。ほかにスギ・シラカンバ・カモガヤなどの花粉、イヌ・ネコの皮屑(ふけ)、真菌(カビ)、ゴキブリなども原因となる。年齢による違いもあり、乳児期には卵・牛乳・小麦などの食物抗原への感作が目立ち、幼児期以降にダニなどの吸入抗原への感作が増えてくる(アレルギーマーチ)。このため、寝具の掃除・防ダニカバーの使用など、ダニを減らす環境整備が治療の基本の一つとなる。
- ○b. アトピー型よりも感染型が多い。
誤った記述であり、これが正解である。小児喘息の大多数(おおむね9割以上)はアトピー型であり、ダニなどの環境抗原に対する特異的IgE抗体が陽性となる。アトピー素因(IgE抗体を作りやすい体質)があり、アトピー性皮膚炎や食物アレルギー、アレルギー性鼻炎を合併・先行することも多い。RSウイルスやライノウイルスなどの呼吸器ウイルス感染は、小児の喘息発作の最も多い誘因であり、乳幼児期のウイルス性下気道感染が喘息発症に関わることも知られているが、それは発作・発症の引き金としての役割であり、「感染型」がアトピー型より多いという意味ではない。非アトピー型の割合が増えるのは成人発症の喘息である。
- ×c. 発作時には呼気の延長がみられる。
正しい記述である。喘息発作では、気管支平滑筋の収縮、気道粘膜の浮腫、粘稠な分泌物(痰)によって気道が狭くなる。呼気時には胸腔内圧が上がって気道がさらに狭くなるため、息を吐き出すのに時間がかかり、呼気が延長する。聴診では呼気性の笛のような音(wheezes、笛音)を聴取する。中発作以上になると、陥没呼吸(肋間・鎖骨上窩・胸骨上窩が吸気時にへこむ)、鼻翼呼吸、肩呼吸、起坐呼吸などの努力呼吸の所見も加わる。
- ×d. 重症発作では呼吸音は減弱する。
正しい記述である。発作が重くなって気道閉塞が高度になると、空気の出入りそのものが少なくなるため、呼吸音が減弱し、それまで聞こえていた喘鳴もかえって小さくなる、あるいは聞こえなくなる(silent chest)。喘鳴が弱くなったことを改善と誤認してはならず、きわめて危険な徴候として扱う。ほかに意識障害(興奮・意識低下)、会話困難、チアノーゼ、SpO2の著明な低下(おおむね91%以下)、PaCO2の上昇(換気の破綻)などがみられれば、大発作から呼吸不全への進行を考え、集中治療の準備を行う。
- ×e. 副腎皮質ステロイド吸入が有効である。
正しい記述である。喘息の本態は気道の慢性炎症であり、吸入ステロイド薬(ICS:inhaled corticosteroid)はこの炎症を抑える最も効果的な長期管理薬(コントローラー)である。発作の頻度と重症度を減らし、呼吸機能の悪化を防ぐ。吸入薬は気道に直接届くため全身性の副作用が少なく、小児でも長期に使用できる(ただし成長速度への影響に配慮し、必要最小量を用いる)。わが国の小児喘息ガイドラインでは、軽症の段階から選択肢の一つとして位置づけられ、中等症以上では基本治療となる。口腔カンジダ症などの局所副作用を防ぐため、吸入後のうがいを指導する。なお、急性発作の治療の中心は短時間作用性β2刺激薬の吸入であり、中発作以上では全身性ステロイド薬の投与も行われる。
小児気管支喘息の特徴(成人との比較)
・病型:小児はアトピー型が大多数。成人(特に中高年発症)では非アトピー型の割合が高い ・性差:小児では男児に多く、思春期以降に男女差が縮まる ・経過:小児期発症例の多くは思春期までに寛解する(アウトグロー)が、一部は成人まで持続・再発する ・発作の誘因:ウイルス感染(RSウイルス、ライノウイルスなど)、アレルゲン曝露、運動(運動誘発喘息)、気象の変化、受動喫煙、心理的ストレスなど
発作強度の評価の目安
・小発作:軽い喘鳴、陥没呼吸は軽度、会話・睡眠は普通にできる ・中発作:明らかな喘鳴と呼気延長、陥没呼吸、会話は句で区切る、睡眠が障害される ・大発作:著明な陥没呼吸、起坐呼吸、会話は一語区切り、SpO2低下 ・呼吸不全:呼吸音の減弱・消失、チアノーゼ、意識障害、PaCO2上昇
治療の概要
急性発作 ・短時間作用性β2刺激薬(SABA)の吸入が第一選択 ・中発作以上では酸素投与、全身性ステロイド薬の投与 ・重症例ではアミノフィリン持続点滴やイソプロテレノール持続吸入、人工呼吸管理を考慮する 長期管理 ・吸入ステロイド薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬を中心に、重症度に応じて長時間作用性β2刺激薬との配合剤などを追加する ・難治例では生物学的製剤(抗IgE抗体など)も選択肢となる ・環境整備(ダニ・ペット・受動喫煙の対策)と患者・家族教育が治療の基本
POINT
・小児喘息の大多数(約9割以上)はアトピー型で、最多の原因抗原はハウスダスト(ダニ) ・ウイルス感染は発作の誘因として重要だが、病型としての「感染型」が多いわけではない ・発作時は呼気延長と呼気性喘鳴、中発作以上で陥没呼吸・起坐呼吸 ・重症発作では呼吸音・喘鳴がかえって減弱する(silent chest)→危険な徴候 ・長期管理の中心は吸入ステロイド、急性発作の第一選択は短時間作用性β2刺激薬の吸入
