胎盤を越えるか、産道で出会うか―母子感染は「時期と経路」で解き分ける
第103回医師国家試験 A問題 第19問
国試問題にチャレンジ
産道感染が問題とならないのはどれか。
- a.淋菌
- b.B群レンサ球菌〈GBS〉
- c.風疹ウイルス
- d.B型肝炎ウイルス
- e.単純ヘルペスウイルス
対話形式の解説
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ドクターまとめ
母子感染は経胎盤感染、産道感染、経母乳感染の3経路に分けて整理すると理解しやすくなります。淋菌は新生児膿漏眼、GBSは新生児の敗血症や髄膜炎、HBVは新生児期のキャリア化、単純ヘルペスウイルスは重症の新生児ヘルペスを起こし、いずれも分娩時の産道感染が主な問題となります。一方、風疹ウイルスは妊娠初期の母体初感染から胎盤を通過して先天性風疹症候群(白内障・先天性心疾患・感音難聴)を起こすため、問題は経胎盤感染であり産道感染ではありません。HSVのようにTORCHに含まれていても主な経路が産道感染である病原体もあるため、「病原体が母体のどこにいるか」「児に何が起こるか」から経路を推論する姿勢が大切です。経路がわかれば、GBSスクリーニングと分娩時抗菌薬、HBIGとHBワクチン、帝王切開の選択、妊娠前の風疹ワクチン接種といった予防策の意味も自然に理解できます。
解答・解説
正解はcです
母子感染(垂直感染)は、病原体が母体から児へ移る時期と経路によって、次の3つに分けて整理する。 ①経胎盤感染(胎内感染・子宮内感染): 妊娠中に母体血中の病原体が胎盤を通過して胎児に感染する。 ②産道感染(分娩時感染): 分娩の際、児が産道を通過するときに、腟・頸管の分泌物や母体血に接触して感染する。 ③経母乳感染(出生後の感染): 授乳を介して感染する。 本問は「産道感染が問題とならない」病原体を選ぶ問題である。淋菌、B群レンサ球菌(GBS)、B型肝炎ウイルス(HBV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)はいずれも分娩時に児が産道で曝露されることが主な感染経路であり、分娩前後の管理(スクリーニング、予防投与、帝王切開の選択など)が重要となる。一方、風疹ウイルスは妊娠中の母体初感染によるウイルス血症から胎盤を経由して胎児に感染し、先天性風疹症候群を起こす。つまり風疹で問題になるのは経胎盤感染であり、産道感染は臨床的に問題とならない。 解き方としては、各病原体について「母体のどこに病原体が存在するか(血中か、腟・頸管か、外陰の病変か)」「児に何が起こるか(先天奇形か、出生後の感染症か)」を考えるとよい。先天奇形を起こすものは胎内での感染、出生後数日〜数週で発症する感染症や新生児期のキャリア化は分娩時の感染を示唆する。
選択肢考察
- ×a. 淋菌
淋菌(Neisseria gonorrhoeae)は母体の子宮頸管などに感染し、分娩時に産道を通過する児の眼に付着して新生児結膜炎を起こす。膿性の眼脂を大量に伴う化膿性結膜炎であるため「新生児膿漏眼」と呼ばれ、通常生後2〜5日ころに発症する。放置すると角膜潰瘍や角膜穿孔から失明に至りうる。産道感染が問題となる代表的な病原体であり、出生後の点眼による予防が行われてきたのはこのためである。
- ×b. B群レンサ球菌〈GBS〉
B群レンサ球菌(group B Streptococcus: GBS、Streptococcus agalactiae)は妊婦の腟・直腸に無症候性に常在していることが多く(保菌率は約10〜30%)、分娩時に児へ伝播する。新生児では敗血症、肺炎、髄膜炎を起こし、特に生後7日未満の早発型は重症化しやすい。産道感染が問題となるため、妊娠35〜37週ころに腟・肛門周囲の培養でスクリーニングし、陽性者には分娩時にペニシリン系抗菌薬(アンピシリンなど)を静注して予防する。
- ○c. 風疹ウイルス
風疹ウイルスは、妊娠中に母体が初感染してウイルス血症を起こしたときに胎盤を通過して胎児に感染する(経胎盤感染)。器官形成期にあたる妊娠初期、とくに妊娠12週までの感染では高率に先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome: CRS)を生じ、白内障、先天性心疾患(動脈管開存症など)、感音難聴が三主徴として知られる。そのほか小頭症、網膜症、肝脾腫、血小板減少なども起こりうる。問題となるのは胎内での感染であり、分娩時の産道感染は臨床上問題とされない。したがって本肢が正解である。
- ×d. B型肝炎ウイルス
B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus: HBV)の母子感染は、大部分が分娩時に母体血液に児が曝露されることによる産道感染であり、経胎盤感染はまれである。新生児期に感染すると免疫が未熟なため高率に持続感染(キャリア化)し、将来の慢性肝炎・肝硬変・肝細胞癌の原因となる。特にHBe抗原陽性の母体からの感染率が高い。このため、HBs抗原陽性の母体から生まれた児には、出生直後(12時間以内が目安)に抗HBsヒト免疫グロブリン(HBIG)とHBワクチンを投与し、その後もワクチンを追加接種して感染を防ぐ。
- ×e. 単純ヘルペスウイルス
単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus: HSV)の母子感染は、大部分が分娩時に性器ヘルペスの病変や分泌物に児が接触することによる産道感染である。新生児ヘルペスは、皮膚・眼・口腔に限局する型、中枢神経型、全身型(播種型)があり、全身型では死亡率が高い。母体が妊娠末期に初感染した場合は児への伝播率が特に高い。分娩時に外陰部に病変がある場合などには帝王切開が選択される。なお、まれに子宮内感染による先天性ヘルペス感染症(小頭症、皮膚病変、眼病変など)もあるが、臨床上重要なのは産道感染である。
母子感染の主な経路と代表的な病原体
経胎盤感染(胎内感染)が主に問題となるもの: 風疹ウイルス、サイトメガロウイルス、トキソプラズマ、梅毒トレポネーマ、パルボウイルスB19(胎児水腫)、水痘・帯状疱疹ウイルス(先天性水痘症候群)など。 産道感染が主に問題となるもの: B群レンサ球菌、淋菌、クラミジア・トラコマティス(新生児結膜炎・肺炎)、単純ヘルペスウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、HIVなど。 経母乳感染が問題となるもの: ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)、HIV、サイトメガロウイルスなど。 なお、HIVは経胎盤・産道・母乳のいずれの経路でも感染しうる。サイトメガロウイルスも複数の経路をとるが、臨床的に重要なのは経胎盤感染による先天性感染(難聴、小頭症、脳室周囲石灰化など)である。
TORCH症候群
胎内感染で先天異常を起こす病原体の頭文字をとった総称である。T: トキソプラズマ、O: others(梅毒、パルボウイルスB19、水痘・帯状疱疹ウイルスなど)、R: 風疹、C: サイトメガロウイルス、H: 単純ヘルペスウイルス。単純ヘルペスウイルスはTORCHに含まれるが、実際には多くが産道感染である点に注意する。
風疹の予防
妊娠中は生ワクチンである風疹ワクチンを接種できない。そのため妊娠前に抗体価を確認し、抗体が低ければ妊娠前に接種しておく(接種後約2か月は避妊)。妊娠中に抗体陰性・低抗体価と判明した場合は、人混みを避けるなど感染機会を減らし、分娩後早期にワクチンを接種する。
POINT
・産道感染が問題となる代表: GBS、淋菌、クラミジア、単純ヘルペスウイルス、B型肝炎ウイルス。 ・風疹ウイルスは経胎盤感染で先天性風疹症候群(白内障・先天性心疾患〔動脈管開存症〕・感音難聴)を起こし、産道感染は問題とならない。 ・経胎盤感染が中心の病原体: 風疹、サイトメガロウイルス、トキソプラズマ、梅毒、パルボウイルスB19。 ・経母乳感染の代表はHTLV-1。 ・GBSは妊娠後期のスクリーニングと分娩時の抗菌薬予防、HBVは出生直後のHBIGとHBワクチンで予防する。
