熱が出た当日か、治りかけか―インフルエンザが脳を襲う2つのかたち
第103回医師国家試験 A問題 第15問
国試問題にチャレンジ
インフルエンザにみられる合併症はどれか。2つ選べ。
- a.脳症
- b.髄膜炎
- c.Reye症候群
- d.亜急性硬化性全脳炎〈SSPE〉
- e.Guillain-Barré症候群
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
インフルエンザの中枢神経合併症として重要なのは、インフルエンザ脳症とReye症候群です。脳症は5歳以下の乳幼児で発熱早期にけいれんや意識障害、異常行動として発症し、サイトカインの過剰産生が病態の中心と考えられています。Reye症候群は回復期に嘔吐から意識障害へ進み、小滴性脂肪肝、高アンモニア血症、低血糖を伴い、アスピリンとの関連から小児の解熱にはアセトアミノフェンを用います。細菌性髄膜炎の起炎菌であるインフルエンザ菌(Hib)はインフルエンザウイルスとは別物であり、SSPEは麻疹、Guillain-Barré症候群はCampylobacterなどの先行感染と対応させて整理しましょう。発症時期と病原体の対応関係を押さえておくことは、発熱した小児の急変を見逃さない臨床判断にも直結します。
解答・解説
正解はa, cです
インフルエンザの合併症のうち、特に中枢神経系に関わるものを問う問題である。 インフルエンザの合併症は、ウイルス自体(またはそれに対する宿主の過剰な反応)によって起こる一次性のものと、細菌の二次感染による二次性のものに大きく分けられる。中枢神経系の一次性合併症として重要なのが、インフルエンザ脳症とReye(ライ)症候群である。どちらも頻度は高くないが、小児に多く、死亡や重い後遺症につながるため、国家試験でも臨床でも最重要事項とされる。 一方、選択肢には「別の病原体と結びつけて覚えるべき疾患」が並べられている。髄膜炎は名前の似た「インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)」との混同を誘う選択肢であり、亜急性硬化性全脳炎〈SSPE〉は麻疹ウイルス、Guillain-Barré症候群はCampylobacter jejuniやサイトメガロウイルスなどの先行感染と結びつけて整理しておくとよい。「インフルエンザに特徴的な合併症」として代表的なものを2つ選ぶと、脳症とReye症候群になる。
選択肢考察
- ○a. 脳症
インフルエンザ脳症はインフルエンザの代表的な中枢神経合併症である。主に5歳以下の乳幼児に多く、発熱後きわめて早期(多くは発熱当日〜翌日)に、けいれん、意識障害、異常言動・異常行動などで発症する。脳内でウイルスが増殖する「脳炎」とは異なり、サイトカインの過剰産生(サイトカインストーム)による脳浮腫や血管内皮障害が主な病態と考えられている。致死率は低下してきたものの現在でも一定の割合で死亡例があり、生存しても知的障害やてんかんなどの後遺症を残すことがある。わが国で特に多く報告されている点も特徴である。
- ×b. 髄膜炎
インフルエンザウイルスは髄膜炎の原因として一般的ではない。ウイルス性(無菌性)髄膜炎の原因の大部分はエンテロウイルス(エコーウイルス、コクサッキーウイルスなど)で、夏季に流行し予後は比較的良好である。細菌性髄膜炎の起炎菌として重要な「インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae、特にb型:Hib)」は、名前こそ似ているがインフルエンザウイルスとはまったく別の細菌である(インフルエンザの原因菌と誤認されたことが名前の由来)。この名称の混同を狙った選択肢である。なお、Hibワクチンの定期接種化により、わが国の小児Hib髄膜炎は激減している。
- ○c. Reye症候群
Reye症候群は、インフルエンザや水痘などのウイルス感染に続いて、急性脳症と肝臓の脂肪変性(小滴性脂肪肝)を来す疾患である。上気道炎症状が治まりかけた回復期に、反復する嘔吐で始まり、急速に意識障害・けいれんへ進行する。検査ではAST・ALTの上昇、高アンモニア血症、低血糖、プロトロンビン時間の延長などがみられ、黄疸は目立たないことが多い。病態にはミトコンドリア機能障害が関与するとされる。小児のウイルス感染時のアスピリン(サリチル酸系薬)内服との関連が疫学的に示され、小児へのアスピリン投与を控えるようになってから患者数は著しく減少した。このため、インフルエンザや水痘の小児の解熱にはアセトアミノフェンを用いる。
- ×d. 亜急性硬化性全脳炎〈SSPE〉
亜急性硬化性全脳炎〈SSPE:subacute sclerosing panencephalitis〉は麻疹の合併症である。麻疹に罹患してから数年〜十数年の潜伏期を経て、脳内に持続感染した変異麻疹ウイルスによって発症する遅発性ウイルス感染症(スローウイルス感染症)である。性格変化や学力低下で始まり、ミオクローヌス、知能低下を経て除脳硬直・無動無言状態へ数年かけて進行し、予後はきわめて不良である。髄液の麻疹抗体価上昇や、脳波の周期性同期性放電(PSD)が診断の手がかりになる。2歳未満など低年齢での麻疹罹患がリスクとなる。インフルエンザとは関係しない。
- ×e. Guillain-Barré症候群
Guillain-Barré症候群は、先行感染の病原体に対する免疫反応が、分子相同性によって末梢神経(髄鞘や軸索の糖脂質など)を誤って攻撃する自己免疫性の多発神経炎である。先行感染の病原体としてはCampylobacter jejuni(下痢症の後。軸索型が多く、抗GM1抗体などが関与)、サイトメガロウイルス、EBウイルス、Mycoplasma pneumoniaeなどが代表的である。インフルエンザ罹患後やインフルエンザワクチン接種後の発症も報告はあるが、頻度は低く、インフルエンザに特徴的な合併症とはいえない。本問では、より典型的で重要な脳症とReye症候群が正解となる。
インフルエンザの主な合併症
一次性(ウイルス自体・宿主反応による) ・インフルエンザ脳症:乳幼児、発熱早期に発症。けいれん・意識障害・異常行動 ・Reye症候群:回復期に嘔吐・意識障害。肝の脂肪変性、低血糖、高アンモニア血症。アスピリンとの関連 ・ウイルス性(原発性)肺炎:発症後も高熱・咳が続き、呼吸困難・チアノーゼが進行する ・心筋炎・心膜炎:心不全や不整脈で急激に悪化し致死的となりうるが、初期には診断しにくい ・良性急性筋炎:小児で回復期に下腿(腓腹筋・ヒラメ筋)の痛みを訴え歩行を嫌がる。CK上昇。多くは数日で自然軽快するが、まれに横紋筋融解からミオグロビン尿・急性腎障害を来す ・その他:中耳炎、副鼻腔炎、胃腸症状など 二次性(細菌の二次感染による) ・細菌性肺炎・気管支炎:肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、インフルエンザ菌などが原因となる。いったん解熱・軽快した後に再び発熱、咳嗽、膿性痰、呼吸困難がみられるのが典型的な経過である。高齢者や基礎疾患のある人では、インフルエンザ関連死亡の大部分を肺炎が占める
インフルエンザ脳症とReye症候群の比較
・発症時期:脳症は発熱早期(当日〜翌日が多い)、Reye症候群は回復期 ・好発年齢:脳症は5歳以下の乳幼児、Reye症候群は学童を含む小児 ・肝障害:Reye症候群で顕著(脂肪肝、高アンモニア血症、低血糖) ・薬剤:Reye症候群はアスピリン、脳症の重症化には一部の非ステロイド性抗炎症薬(ジクロフェナクナトリウム、メフェナム酸)の関与が指摘され、小児インフルエンザでの使用は避ける
まぎらわしい病原体と疾患の対応
・インフルエンザ菌(Hib):細菌性髄膜炎、急性喉頭蓋炎 ・麻疹ウイルス:SSPE、肺炎、脳炎 ・Campylobacter jejuni:Guillain-Barré症候群(軸索型) ・エンテロウイルス:夏季の無菌性髄膜炎
POINT
・インフルエンザの中枢神経合併症として重要なのはインフルエンザ脳症とReye症候群 ・インフルエンザ脳症は乳幼児の発熱早期、Reye症候群は回復期に発症する ・Reye症候群はアスピリンとの関連があり、小児の解熱にはアセトアミノフェンを使う ・インフルエンザ菌(Hib)はインフルエンザウイルスとは別物であり、細菌性髄膜炎の起炎菌 ・SSPEは麻疹、Guillain-Barré症候群はCampylobacterなどの先行感染と対応させる
