StudyMed医師国家試験

「やっぱりやめます」は言っていい―撤回の自由から読み解くインフォームドコンセント

第102回医師国家試験 H問題 第20問

国試問題にチャレンジ

第102回 H問題 第20問

インフォームドコンセントで正しいのはどれか。

  1. a.医師法で定められている。
  2. b.同意は無条件で撤回できる。
  3. c.時間をかけて説得が行われる。
  4. d.本人と家族の同意が必須である。
  5. e.治療法の予後の説明は割愛できる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はインフォームドコンセントの基本を問う問題だ。単なる言葉の暗記ではなく、「何のための手続きなのか」という目的から考えると、選択肢の正誤が自然に見えてくる。まず、インフォームドコンセントを一言で説明するとどうなるかな。
医学生医学生
「説明と同意」ですよね。医師が説明して、患者さんから同意書にサインをもらうこと、というイメージです。
ドクタードクター
半分正解かな。大事なのはサインという形式ではなく中身だ。医療者が病状や治療の目的、効果、危険性、ほかの選択肢、予後などを十分に説明し、患者がそれを理解したうえで、自分の自由な意思で同意あるいは拒否する。その根っこにあるのは患者の自己決定権、生命倫理の4原則でいえば自律尊重原則なんだ。
医学生医学生
医療倫理の講義で、昔のパターナリズムへの反省から生まれた考え方だと習いました。
ドクタードクター
そうだね。医師が最善と考えることを決めて患者は従う、という形から、患者が自分で選ぶ形に変わった。この「自己決定を保障する」という目的を軸に選択肢を見ていこう。正解は、同意は無条件で撤回できる、というものだ。
医学生医学生
でも一度同意したのに理由もなく撤回できるとなると、手術の準備をしていた側は困りませんか。
ドクタードクター
現場の感覚としてはそう思うよね。でも逆に考えてみて。もし撤回できないなら、患者は「一度うなずいたら後戻りできない」というプレッシャーの中で同意することになる。それは本当に自由な意思とはいえない。だから同意はいつでも理由なく撤回でき、撤回したことで診療上の不利益を受けてはならないんだ。
医学生医学生
臨床研究の同意説明文書にも、「途中でやめても不利益はありません」と必ず書いてありました。
ドクタードクター
よく見ているね。まさにそれが撤回の自由の明文化だ。では、医師法で定められている、という選択肢はどうかな。
医学生医学生
医師の義務だから医師法かと思ったんですが、違うんですか。
ドクタードクター
ひっかけポイントだね。インフォームドコンセントの考え方が法律に盛り込まれたのは1997年の医療法改正で、医療の担い手は適切な説明を行い理解を得るよう努める、という努力義務として規定されている。医師法に定められているのは応招義務や診断書の交付義務、保健指導を行う義務などだ。
医学生医学生
時間をかけて説得する、というのは丁寧な対応に聞こえてしまいます。
ドクタードクター
時間をかけて分かりやすく説明し、質問に答えるのは大切だよ。ただ「説得」となると話が違う。医師が望む結論に同意するまで説き伏せるのは、患者の自発的な判断をゆがめてしまう。インフォームドコンセントは同意を取りつける手続きではなく、患者が自ら選ぶための情報提供と意思確認の過程なんだ。
医学生医学生
本人と家族の同意が必須、というのも、実習先の病棟では家族同席で説明していることが多かったので迷いました。
ドクタードクター
家族が同席して本人の意向を支えるのは望ましいことだ。でも同意の主体は本人で、判断能力のある成人なら本人の同意だけで成立する。家族の意見が本人の意思より優先されることはない。一方、未成年者や意識障害、重度の認知症などで判断能力が十分でない場合は、親権者や家族などの代諾者の同意が必要になる。
医学生医学生
小児科で、子ども本人にも分かる言葉で説明して納得してもらうインフォームドアセントを教わりました。
ドクタードクター
そう、法的な同意能力がなくても、理解力に応じて本人の賛意を得る努力をするんだ。最後の、治療法の予後の説明は割愛できる、はどうだろう。
医学生医学生
治療したらどうなるか、しなかったらどうなるかが分からないと選びようがないので、省略はできないですね。
ドクタードクター
その通り。予後は確率でしか言えないことが多いけれど、その不確実性も含めて伝える必要がある。説明すべき内容としては、病名と病状、検査や治療の目的と方法、効果、危険性や合併症、治療しない選択を含む代替案、予後、そして同意しなくても撤回しても不利益がないこと、をセットで覚えておこう。
医学生医学生
逆に、説明と同意を省略してよい場面もあるんでしょうか。
ドクタードクター
例外はある。生命に関わる緊急時で本人の意思が確認できず代諾者にも連絡がつかない場合、患者自身が説明を受けることをはっきり拒否した場合、つまり知らないでいる権利だね。それから感染症法による入院勧告や精神保健福祉法の措置入院のような法律に基づく措置だ。最近は、医師と患者が医学的根拠と患者の価値観を共有して一緒に方針を決めるシェアードディシジョンメイキングや、セカンドオピニオンの活用も、自己決定を支える仕組みとして重視されているよ。
医学生医学生
同意書を取ることがゴールではなくて、患者さんが納得して選べるように支えることがゴールなんですね。
ドクタードクター
その理解があれば、どんな聞かれ方をしても迷わないはずだ。

まとめ

インフォームドコンセントは、医療者が病状、治療の目的・効果・危険性、代替案(治療しない選択を含む)、予後などを十分に説明し、患者が理解したうえで自由な意思により同意・拒否する過程であり、自律尊重原則に基づく患者の自己決定権の保障を目的とします。そのため同意はいつでも理由なく撤回でき、撤回によって不利益を受けてはなりません。法的には1997年の医療法改正で努力義務として規定されたもので医師法ではなく、判断能力のある成人では本人の同意のみで成立し、家族の同意は必須ではありません。説得して同意を取りつけることや予後の説明を省くことは自己決定を損なうため不適切です。緊急時などの例外、インフォームドアセントやシェアードディシジョンメイキングとあわせて理解しておくことが、患者と信頼関係を築く臨床の土台になります。

解答・解説

正解はbです

インフォームドコンセント(informed consent;説明と同意)の基本的な考え方を問う問題である。 インフォームドコンセントとは、医療者が病状、検査・治療の目的と内容、期待される効果、危険性や副作用、他に取りうる選択肢(何もしない場合を含む)、予後などを十分に説明し、患者がそれを理解したうえで、自由な意思に基づいて医療行為に同意(あるいは拒否)することをいう。その根底にあるのは患者の自己決定権(自分の身体に何をするかを自分で決める権利)と、生命倫理の4原則のうちの自律尊重原則である。かつての「医師が患者にとって最善と考えることを決め、患者はそれに従う」というパターナリズム(父権主義)への反省から、米国で発展して世界に広まった。 選択肢を判断するときは、次の要素に照らすとよい。 ・十分な情報提供(予後を含む)がなされているか ・患者が理解できているか、判断能力があるか ・同意が強制や誘導によらず自発的であるか(説得して同意させるものではない) ・同意はいつでも撤回でき、撤回しても不利益を受けないか ・同意の主体は判断能力のある本人であるか これらに照らすと、「同意は無条件で撤回できる」とする b が正しい。

選択肢考察

  1. ×a.  医師法で定められている。

    インフォームドコンセントの考え方が法律に初めて盛り込まれたのは、1997年の医療法改正である。医療法第1条の4第2項に「医師等は医療を提供するに当たり適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない」という趣旨の規定があり、努力義務として位置づけられている。医師法に定められているわけではない。なお、医師法には応招義務、診断書交付義務、保健指導を行う義務などが定められている。

  2. ○b.  同意は無条件で撤回できる。

    インフォームドコンセントの目的は患者の自己決定権を保障することにある。いったん同意しても、患者は理由を示すことなくいつでも同意を撤回でき、撤回したことによって診療上の不利益を受けてはならない。自由に撤回できることが保障されていなければ、同意が本当に患者の意思に基づくものとはいえないからである。臨床研究の同意説明文書にも撤回の自由が必ず記載される。

  3. ×c.  時間をかけて説得が行われる。

    患者が理解できるよう、分かりやすい言葉で時間をかけて説明し、質問に答えることは大切である。しかし、医師が望む結論に同意するまで説得を続けることは、患者の自発的な意思決定を妨げ、自律尊重の原則に反する。インフォームドコンセントは患者を納得させて同意を取りつける手続きではなく、患者が自ら選択するための情報提供と意思確認の過程である。

  4. ×d.  本人と家族の同意が必須である。

    同意の主体は患者本人であり、判断能力のある成人であれば本人の同意だけで成立する。家族の同意は法的に必須ではない。家族が患者の意向を理解し支持していることは望ましいが、家族の意見が本人の意思より優先されることはない。一方、未成年者や意識障害・重度認知症などで判断能力が十分でない患者では、親権者や家族などの代諾者の同意が必要となる(未成年者でも可能な範囲で本人の理解と賛意=インフォームドアセントを得ることが望ましい)。

  5. ×e.  治療法の予後の説明は割愛できる。

    その治療を行った場合にどのような経過・結果が予想されるか、治療を受けない場合や他の治療法を選んだ場合にどうなるかは、患者が治療法を選ぶうえで最も重要な情報の一つであり、省略できない。予後は確率でしか示せないことが多いが、その不確実性も含めて説明する必要がある。

インフォームドコンセントで説明すべき主な内容

・病名と病状 ・提案する検査・治療の目的、方法、期待される効果 ・危険性、副作用、合併症とその頻度 ・代替となる治療法(治療しないという選択を含む)と、それぞれの利点・欠点 ・予後(治療した場合・しない場合の見通し) ・同意しなくても、また撤回しても不利益を受けないこと

インフォームドコンセントの例外

・生命に関わる緊急事態で本人の意思を確認できず、代諾者にも連絡がつかない場合 ・患者自身が説明を受けることを明確に拒否した場合(知らないでいる権利) ・法律に基づく強制的な医療措置(感染症法による入院勧告、精神保健福祉法による措置入院など)

関連する概念

・生命倫理の4原則:自律尊重、善行(与益)、無危害、公正(正義) ・インフォームドアセント:小児など法的な同意能力のない者から、理解力に応じた説明のうえで得る賛意 ・セカンドオピニオン:主治医以外の医師に意見を求めること。患者がより納得した自己決定を行う助けとなる。 ・シェアードディシジョンメイキング(共同意思決定):医師と患者が医学的根拠と患者の価値観を共有しながら一緒に方針を決める考え方

限界と課題

どこまで説明すれば十分かを事前に判断することは難しい。また、医学的情報は集団での確率として示されるのに対し、患者は自分自身がどうなるかを知りたいという食い違いがある。病気の不安の中で常に冷静な判断ができるとは限らないことや、自己決定が家族や文化の影響を受けることにも配慮し、信頼関係のもとで支援する姿勢が求められる。

POINT

・インフォームドコンセントは患者の自己決定権(自律尊重原則)を保障するための手続きである。 ・同意はいつでも理由なく撤回でき、撤回による不利益があってはならない。 ・法的根拠は医療法(1997年改正で努力義務として規定)であり、医師法ではない。 ・判断能力のある成人では本人の同意のみで足り、家族の同意は必須ではない。 ・説得して同意させるものではなく、予後や代替治療を含めた十分な説明が必要である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。