手首に立てた針は何を狙う?―写真で見抜く橈骨動脈穿刺
第102回医師国家試験 H問題 第10問
国試問題にチャレンジ
写真は何をしているところか。

- a.動脈血採血
- b.動脈圧測定
- c.静脈内注射
- d.静脈血採血
- e.静脈路確保
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
手関節掌側の母指側で、示指と中指で橈骨動脈の拍動を確かめ、その間に立てた角度で針を刺していれば橈骨動脈穿刺と判断できます。注射器で1回刺して採血するのが動脈血採血、カテーテルを留置して血圧を連続測定するのが観血的動脈圧測定であり、器具の違いで両者を区別します。静脈穿刺は駆血帯で静脈を怒張させ、肘窩などに浅い角度で刺すのが基本で、部位・手の使い方・角度のいずれも異なります。動脈血ガス分析の検体はヘパリンで抗凝固して気泡を除いて密封し、抜針後は静脈より長めに圧迫止血することが重要です。写真から手技を読み解く力は、実際の臨床現場で検査や処置の意味を理解し、安全に実施するための基礎となります。
解答・解説
正解はaです
写真から手技を特定する問題である。読み取るべき点は次の3つである。
写真の所見
1. 穿刺部位:手関節の手のひら側(掌側)で、母指側(橈側)に針を刺している。ここは橈骨動脈の拍動を最も触れやすい場所であり、前腕の掌側・母指側には採血や点滴に使えるような太い皮静脈はほとんど走っていない。 2. 術者の手の使い方:患者の手関節を手の甲側へ反らせて(背屈させて)動脈を皮膚の表面近くに持ち上げ、利き手と反対の手の示指(第2指)と中指(第3指)で拍動を触れて動脈の走行を確かめている。針はその2本の指の間に刺している。静脈穿刺では駆血帯で静脈を怒張させるのが普通だが、そのような操作は見られない。 3. 針の角度と器具:針を皮膚に対して60°前後と比較的立てた角度で刺している。これは静脈穿刺(通常15~30°程度の浅い角度)とははっきり異なる。また使っているのは注射器と針だけで、カテーテル(血管内に留置する細い管)を入れようとしている様子はない。
考え方
1と2から「動脈」を穿刺していると判断できる。次に、動脈穿刺の目的には「1回だけ刺して血液を採る(動脈血採血)」と「カテーテルを留置して血圧を連続的に測る(観血的動脈圧測定)」がある。3のとおりカテーテル留置ではなく注射器で直接刺しているため、1回穿刺による動脈血採血、つまり動脈血ガス分析などのための橈骨動脈穿刺と判断する。
選択肢考察
- ○a. 動脈血採血
手関節掌側の母指側で、示指と中指の間に橈骨動脈の拍動を確かめて固定し、その間に60°前後の角度で針を刺している。これは典型的な橈骨動脈穿刺の姿勢である。カテーテルは使っておらず注射器で直接刺しているため、1回穿刺による動脈血採血とわかる。動脈に入れば、鮮やかな赤色の血液が動脈圧で内筒を押し上げるように注射器内に入ってくる。
- ×b. 動脈圧測定
血圧を1拍ごとに連続して測る観血的動脈圧測定では、橈骨動脈などにカテーテル(動脈ライン)を留置し、圧トランスデューサ(圧を電気信号に変える装置)につなぐ必要がある。写真は注射器で直接刺しているだけで、カテーテルを留置する操作ではないので当てはまらない。
- ×c. 静脈内注射
静脈内注射は静脈を穿刺して薬液を注入する手技である。通常は駆血帯で静脈を怒張させ、肘窩の正中皮静脈などに浅い角度(15~30°程度)で刺す。写真の部位(手関節掌側の母指側)には注射に適した太い静脈がなく、指で拍動を触れながら急な角度で刺している点も動脈穿刺の特徴であり、静脈内注射ではない。
- ×d. 静脈血採血
静脈血採血も、駆血帯を巻いて肘窩などの皮静脈を浮き上がらせ、浅い角度で刺すのが基本である。写真では駆血をせず、2本の指で動脈の拍動を確かめて、その間に立てた角度で刺しているため、静脈血採血ではない。
- ×e. 静脈路確保
静脈路確保は、輸液や薬剤投与のために静脈へ留置針(外筒がプラスチックのカテーテルになった針)を入れて留置する手技である。前腕の背側や手背の静脈などを浅い角度で穿刺するのが普通である。写真は拍動を触れる動脈を注射器で直接刺しており、留置針も使っていないので該当しない。
動脈穿刺の2つの方法
・1回穿刺法:注射器で動脈を1回刺して血液を採る。動脈血ガス分析(PaO2:動脈血酸素分圧、PaCO2:動脈血二酸化炭素分圧、pH、HCO3-など)が主な目的である。 ・経皮的動脈内カテーテル留置法(動脈ライン):カテーテルを動脈内に留置し、観血的に血圧を連続測定する。頻回の血液ガス測定にも使える。手術中や集中治療室での重症患者管理に用いられ、橈骨動脈が第一選択となることが多い。
主な穿刺部位
・橈骨動脈:手関節掌側の母指側。表在性で圧迫止血しやすく、尺骨動脈からの側副血行があるため最もよく用いられる。穿刺前に、尺骨動脈からの血流が十分かを確かめるAllen(アレン)テストを行うことがある。 ・上腕動脈:肘窩の中央よりやや小指側(内側)。近くを正中神経が走る。 ・大腿動脈:鼠径靱帯の中点付近のやや下で、拍動を最も強く触れる部位。太いためショックなど拍動の弱いときでも刺しやすい。内側から大腿静脈(Vein)・大腿動脈(Artery)・大腿神経(Nerve)の順に並ぶので「VAN」と覚える。針は皮膚に対してほぼ垂直に近い角度で刺すことが多い。
動脈血採血の手順と注意点
1. ヘパリン(抗凝固薬)で内腔を満たした、または処理済みの専用注射器を準備する。 2. 利き手と反対側の示指と中指で拍動を触れて動脈の走行を確かめ、その間を穿刺する。 3. 動脈に入ると、鮮紅色の血液が拍動に合わせて内筒を押し上げるように流入する。 4. 採血後は気泡をすぐに抜いて密封する。空気が混入すると、空気との間でガスが移動してPaO2やPaCO2の値が変わってしまう。すぐに測定できないときは冷却する。 5. 抜針後は、静脈より圧が高く出血・血腫をつくりやすいため、5分程度以上しっかり圧迫止血する(抗凝固療法中の患者ではより長く)。
抗凝固薬の使い分け
・ヘパリン:pHや電解質の測定に与える影響が小さく、血液ガス分析に適する。 ・EDTA(エチレンジアミン四酢酸):カルシウムと結合して凝固を防ぐ。血球の形態が保たれやすく、血算(血球数算定)用の採血管に用いられる。カルシウムと結合するため血液ガス・電解質測定には向かない。 ・クエン酸ナトリウム:凝固検査(PT、APTTなど)や赤沈に用いられる。
POINT
・手関節掌側の母指側で、2本の指で拍動を確かめてその間に立てた角度で刺していれば橈骨動脈穿刺である。 ・カテーテルを使わず注射器で1回刺すのは動脈血採血、カテーテルを留置して連続的に血圧を測るのが観血的動脈圧測定である。 ・静脈穿刺は駆血帯を用い、肘窩などの静脈に浅い角度(15~30°程度)で刺す。 ・動脈血ガス分析の検体はヘパリンで抗凝固し、気泡を除いて密封する。抜針後は十分に圧迫止血する。
