StudyMed医師国家試験

「物忘れ」の裏に治る病気が隠れている―認知症診断で頭部MRIが欠かせない理由

第102回医師国家試験 G問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第102回 G問題 第9問

認知症の診断に必要なのはどれか。

  1. a.眼底検査
  2. b.肺機能検査
  3. c.心機能検査
  4. d.排尿機能検査
  5. e.頭部単純MRI

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、認知症の診断に必須の検査はどれかを問う問題だ。ポイントは、認知症の診断が「認知機能が本当に落ちているかを確かめる段階」と「その原因を突き止める段階」の2段階でできていること。それぞれで何が必要かを考えてみよう。
医学生医学生
第一段階は改訂長谷川式やMMSEのような神経心理検査ですよね。OSCEの医療面接の練習でも、物忘れの訴えには生活への影響を聞くように言われました。
ドクタードクター
その通り。認知症とは、一度正常に発達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたした状態のことだ。だから点数だけでなく、家族からの病歴聴取で生活上の支障を確認することが大切なんだ。では第二段階、原因の特定には何が要るかな。
医学生医学生
原因というと、Alzheimer型か血管性か、といった病型の区別でしょうか。
ドクタードクター
それも一つ。でも、もっと優先したいのは「治療で改善しうる認知機能障害」、いわゆるtreatable dementiaを見逃さないことなんだ。どんなものが思い浮かぶ?
医学生医学生
慢性硬膜下血腫と正常圧水頭症は、脳神経外科の臨床実習で見ました。血腫除去やシャント術のあとに物忘れが良くなった患者さんがいました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。そうした病気や脳腫瘍は、頭の中を画像で見なければ診断できない。だから頭部MRI、あるいはCTによる形態画像検査が、認知症の診断過程で必須の検査になる。これが今回の正解だ。
医学生医学生
MRIでは病型の手がかりも得られるんですよね。
ドクタードクター
そう。Alzheimer型認知症では海馬や側頭葉内側の萎縮、前頭側頭型認知症では前頭葉と側頭葉前部の限局性萎縮、血管性認知症では多発性脳梗塞や白質病変がみられる。正常圧水頭症なら脳室の拡大が目立つ。萎縮や病変のパターンを読むことで、病型をかなり推定できるんだ。
医学生医学生
眼底検査も、動脈硬化が分かるなら血管性認知症の診断に使えそうな気がしたのですが。
ドクタードクター
鋭いね。確かに高血圧性網膜症や糖尿病網膜症から、血管障害の危険因子を推測する手がかりにはなる。ただ、それは認知症があるかどうか、何が原因かを決める検査ではない。だから「必要」とまでは言えないんだ。
医学生医学生
心機能検査はどうでしょう。Lewy小体型認知症でMIBG心筋シンチグラフィの取り込みが落ちると講義で習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。Lewy小体型認知症では心臓交感神経の障害を反映して取り込みが低下するから、病型鑑別の補助に使われる。ただしそれは特定の病型を疑ったときの補助検査で、認知症全般に必須ではない。心電図や心エコーも、心原性脳塞栓症の原因検索や全身評価には役立つけれど、認知症の診断そのものには直結しないね。
医学生医学生
排尿機能検査は、正常圧水頭症の三徴に尿失禁があるので少し迷いました。
ドクタードクター
歩行障害・認知障害・尿失禁の三徴だね。症状の評価に排尿機能検査を使うことはあるけれど、原因疾患を確定する検査ではない。正常圧水頭症を疑う決め手は、やはり画像での脳室拡大などだ。肺機能検査は換気障害を評価する検査で、脳の病変を明らかにするものではない。
医学生医学生
つまり、認知機能低下の確認は神経心理検査、原因の特定と治療可能な疾患の除外は頭部画像、という役割分担ですね。
ドクタードクター
その通り。付け加えると、treatable dementiaには甲状腺機能低下症、ビタミンB1・B12欠乏症、神経梅毒、薬剤性の認知機能障害など、血液検査や服薬歴の確認で見つかるものもある。画像検査と血液検査はセットで行うと覚えておこう。
医学生医学生
せん妄やうつ病による仮性認知症との区別も必要だと、精神科の講義で聞きました。
ドクタードクター
大事な点だ。意識障害であるせん妄や、うつ病による見かけ上の認知機能低下は、認知症とは対応がまったく違う。また必要に応じて、脳血流SPECTなどで脳の機能を見る方法もある。Alzheimer型では頭頂葉や後部帯状回・楔前部、Lewy小体型では後頭葉の血流低下がみられることが多い。「年のせい」と決めつけず、治せる原因を一つずつ除外していく姿勢が、臨床では何より重要だよ。

まとめ

認知症の診断は、神経心理検査や家族からの病歴聴取で認知機能低下と生活上の支障を確認する段階と、その原因疾患を特定する段階からなります。後者では、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、脳腫瘍など治療で改善しうる疾患の除外と、海馬萎縮、前頭葉・側頭葉の限局性萎縮、多発性梗塞といった病型ごとの所見の評価のために、頭部MRI(またはCT)が必須です。眼底、肺機能、心機能、排尿機能の検査は合併症評価や症状評価、病型鑑別の補助にとどまり、Lewy小体型認知症でのMIBG心筋シンチグラフィもあくまで補助検査です。甲状腺機能低下症やビタミン欠乏などを除外する血液検査とあわせ、「治せる認知症を見逃さない」という視点は日常診療の基本となります。

解答・解説

正解はeです

認知症の診断は、大きく二つの段階に分けて考える。第一に、記憶障害などの認知機能低下が存在し、それによって日常生活・社会生活に支障が生じていることを確認する段階である(問診、家族からの病歴聴取、改訂長谷川式簡易知能評価スケール〈HDS-R〉やMini-Mental State Examination〈MMSE〉などの神経心理検査)。第二に、その原因疾患を特定する段階である。 第二の段階で特に重要なのが、治療によって改善しうる認知機能障害(treatable dementia)を見逃さないことである。慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、脳腫瘍などの器質的疾患は、頭部の画像検査を行わなければ診断できない。また、Alzheimer型認知症における海馬・側頭葉内側の萎縮、前頭側頭型認知症における前頭葉・側頭葉前部の限局性萎縮、血管性認知症における多発性脳梗塞や白質病変など、病型ごとに特徴的な形態変化を確認できる。したがって、頭部MRI(あるいはCT)による形態画像検査は、認知症の診断過程で必須の検査と位置づけられる。 一方、眼底・肺機能・心機能・排尿機能の各検査は、合併症や自律神経障害の評価などで補助的に行われることはあっても、認知症の診断そのものに必要な検査ではない。

選択肢考察

  1. ×a.  眼底検査

    眼底検査は高血圧性網膜症や糖尿病網膜症などの評価に用いられ、動脈硬化の程度から血管性認知症の危険因子を推測する手がかりにはなりうる。しかし、認知症の存在や病型を診断するための検査ではなく、診断に必要とはいえない。

  2. ×b.  肺機能検査

    肺機能検査(スパイロメトリーなど)は換気障害の評価に用いる検査である。認知機能障害の有無や、その原因となる脳の病変を明らかにするものではないため、認知症の診断に必要な検査ではない。

  3. ×c.  心機能検査

    心電図や心エコーなどの心機能検査は、心原性脳塞栓症の原因検索や全身状態の把握には役立つ。また、Lewy小体型認知症〈DLB〉では心臓交感神経の障害を反映してMIBG心筋シンチグラフィで取り込み低下がみられ、病型鑑別の補助に用いられる。しかしこれは特定の病型を疑った場合の補助検査であり、認知症一般の診断に必要な検査とはいえない。

  4. ×d.  排尿機能検査

    尿失禁は正常圧水頭症(歩行障害・認知障害・尿失禁が三徴)やDLBなどの自律神経障害で認められ、排尿機能検査が症状評価に用いられることはある。しかし認知症の有無や原因疾患を確定する検査ではなく、診断に必要とはいえない。

  5. ○e.  頭部単純MRI

    頭部MRIでは、Alzheimer型認知症の海馬・側頭葉内側の萎縮、前頭側頭型認知症の前頭葉・側頭葉前部の萎縮、血管性認知症の多発性梗塞・白質病変など、病型を推定する手がかりとなる形態変化を捉えられる。さらに、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症(脳室拡大)、脳腫瘍など治療可能な器質的疾患を除外できる。このため、認知症の診断に必要な検査である。

認知症の定義

一度正常に発達した認知機能が、後天的な脳の障害によって持続的に低下し、日常生活・社会生活に支障をきたした状態をいう。意識障害(せん妄)やうつ病による見かけ上の認知機能低下(仮性認知症)との区別が必要である。

認知症診断で行う主な検査

1. 神経心理検査:HDS-R(30点満点、20点以下で認知症の疑い)、MMSE(30点満点、23点以下で認知症の疑いとされることが多い)など。 2. 血液検査:甲状腺機能低下症、ビタミンB1・B12欠乏、梅毒(神経梅毒)、肝・腎機能障害、電解質異常など、治療可能な原因の除外。 3. 形態画像検査:頭部CT・MRI。萎縮のパターンや血管病変の評価、器質的疾患の除外。VSRAD(MRIを用いて海馬傍回の萎縮度を統計的に評価するソフトウェア)が補助的に用いられる。 4. 機能画像検査:脳血流SPECTやFDG-PETなど。Alzheimer型認知症では頭頂葉・後部帯状回・楔前部の血流低下、DLBでは後頭葉の血流低下がみられる。 5. 病型鑑別の補助検査:DLBではMIBG心筋シンチグラフィでの取り込み低下、ドパミントランスポーターSPECT(DaTscan)での線条体の集積低下が参考になる。

治療可能な認知症(treatable dementia)の例

慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、脳腫瘍、甲状腺機能低下症、ビタミンB1・B12欠乏症、神経梅毒、薬剤性の認知機能障害など。これらを除外するために、画像検査と血液検査は欠かせない。

POINT

・認知症の診断では、認知機能低下の確認(神経心理検査)と原因疾患の特定の両方が必要である。 ・頭部MRI(またはCT)は、病型に特徴的な萎縮・血管病変の評価と、慢性硬膜下血腫・正常圧水頭症・脳腫瘍など治療可能な疾患の除外のために必須である。 ・眼底、肺機能、心機能、排尿機能の検査は認知症診断に必須の検査ではない(DLBのMIBG心筋シンチグラフィなどは病型鑑別の補助検査)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。