真夜中に目覚める息苦しさ―「どこに血が滞るか」で解く急性左心不全
第102回医師国家試験 G問題 第8問
国試問題にチャレンジ
急性左心不全に特徴的な徴候はどれか。
- a.胸痛
- b.腹水
- c.顔面浮腫
- d.夜間呼吸困難
- e.Kussmaul徴候
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
心不全の症状は、弱った心室の上流にうっ血が生じるという視点で整理すると理解しやすくなります。左心不全では肺うっ血により労作時呼吸困難、起坐呼吸、発作性夜間呼吸困難、湿性ラ音などの呼吸器症状が中心となり、右心不全では体静脈うっ血により頸静脈怒張、肝腫大、下腿浮腫、腹水がみられます。発作性夜間呼吸困難は臥位で静脈還流が増えて肺うっ血が悪化することで起こり、重症では心臓喘息を呈します。顔面浮腫は腎性浮腫や上大静脈症候群、Kussmaul徴候は収縮性心膜炎など右心系の拡張障害、胸痛は原因疾患の症状と整理しておくと選択肢を正確に見分けられます。うっ血の部位から症状を導く考え方は、急性心不全の初期評価や治療方針の決定にも直結する重要な基礎です。
解答・解説
正解はdです
心不全の症状・徴候は、どちらの心室の機能が落ちたかによって、血液が「どこに滞るか(うっ血)」から考えると整理しやすい。
左心不全
左心室が十分に血液を送り出せないと、その上流である左心房から肺静脈、肺毛細血管へと圧が上がり、肺うっ血が起こる。肺毛細血管圧が高くなると血液中の水分が肺の間質や肺胞に漏れ出し(肺水腫)、ガス交換が障害される。そのため、労作時呼吸困難、起坐呼吸、発作性夜間呼吸困難、咳嗽、泡沫状(ピンク色)の痰、肺野の湿性ラ音(水泡音)などの呼吸器症状が前面に出る。加えて、心拍出量低下による易疲労感、四肢冷感、血圧低下や乏尿(低灌流所見)もみられる。
右心不全
右心室の上流は体循環の静脈系であるため、体静脈圧が上昇し、頸静脈怒張、肝腫大、下腿浮腫、腹水、胸水、消化管うっ血による食欲不振などをきたす。 本問では、選択肢のうち肺うっ血を反映する徴候である夜間呼吸困難が、急性左心不全に特徴的なものとなる。
選択肢考察
- ×a. 胸痛
胸痛は、急性冠症候群(急性心筋梗塞・不安定狭心症)、大動脈解離、急性肺血栓塞栓症、急性心膜炎、大動脈弁狭窄症、肥大型心筋症などの心血管疾患のほか、気胸・胸膜炎などの呼吸器疾患、逆流性食道炎などの消化器疾患、肋間神経痛や筋骨格系の痛みでも生じる。急性心筋梗塞が原因で急性左心不全を起こした場合には胸痛を伴いうるが、それは原因疾患の症状であり、左心不全そのものの徴候ではない。
- ×b. 腹水
腹水は、右心不全で体静脈圧が上がり、肝臓や門脈系・腹膜の毛細血管から水分が漏れ出すことで生じる。すなわち体循環のうっ血を示す右心不全の徴候である。このほか、肝硬変(門脈圧亢進、低アルブミン血症)、ネフローゼ症候群、癌性腹膜炎などでもみられる。
- ×c. 顔面浮腫
心不全、特に右心不全による浮腫は体静脈圧の上昇による浮腫であり、重力の影響を受けて下腿や足背、臥床患者では背部・仙骨部など体の低い部位に出やすい。顔面(特に眼瞼)の浮腫は、急性糸球体腎炎やネフローゼ症候群などの腎性浮腫、上大静脈症候群、甲状腺機能低下症(粘液水腫)、血管性浮腫などで目立つ所見であり、左心不全の徴候ではない。
- ○d. 夜間呼吸困難
発作性夜間呼吸困難は、就寝して数時間後に急な息苦しさで目が覚め、起き上がって座ったり立ったりすると次第に楽になる症状で、左心不全による肺うっ血を反映する特徴的な徴候である。機序として、①臥位になると下肢などの間質にたまっていた体液が血管内に戻って静脈還流量(前負荷)が増え、弱った左心室で処理しきれずに肺うっ血が悪化すること、②睡眠中は呼吸中枢の感受性や交感神経の活動が低下して、肺うっ血の進行に気づくのが遅れ、症状が進んでから覚醒すること、などが挙げられる。重症では喘鳴を伴い、気管支喘息に似た発作となることがあり、心臓喘息と呼ばれる。
- ×e. Kussmaul徴候
正常では、吸気時に胸腔内圧が下がると静脈血が右心系へ引き込まれ、頸静脈圧は低下する。Kussmaul徴候とは、逆に吸気時に頸静脈圧が上昇し、頸静脈怒張が強まる現象である。右心室が硬くて広がれず、増えた静脈還流を受け入れられない状態で生じ、収縮性心膜炎が代表的である。そのほか拘束型心筋症、右室梗塞などでもみられる。右心系の拡張障害を示す所見であり、左心不全の徴候ではない。なお、心タンポナーデでは吸気時に右心への流入が保たれることが多く、Kussmaul徴候はむしろ出にくい(心タンポナーデに特徴的なのは奇脈である)。
左心不全と右心不全の比較
・左心不全(肺うっ血・低心拍出) 症状:労作時呼吸困難、起坐呼吸、発作性夜間呼吸困難、咳嗽、泡沫状血性痰、易疲労感 所見:湿性ラ音(水泡音)、III音(奔馬調律)、頻脈、交互脈、四肢冷感、チアノーゼ 胸部X線:心拡大、肺血管陰影の増強、Kerley B線、蝶形陰影(butterfly shadow)、胸水 ・右心不全(体静脈うっ血) 頸静脈怒張、肝腫大、肝頸静脈逆流、下腿浮腫、腹水、胸水、食欲不振・腹部膨満感、体重増加 左心不全が続くと肺高血圧を介して右心不全を合併し、両心不全となることが多い。
起坐呼吸
臥位で呼吸困難が強まり、上半身を起こすと楽になる状態である。座位では下半身に血液がたまって静脈還流が減り、肺うっ血が軽くなるうえ、横隔膜が下がって肺が広がりやすくなるためである。
心不全の重症度評価
・NYHA心機能分類:自覚症状による分類(I:身体活動に制限なし ~ IV:安静時にも症状あり) ・Nohria-Stevenson分類:うっ血の有無(wet/dry)と低灌流の有無(cold/warm)で4群に分け、急性心不全の治療方針の決定に用いる。 ・Killip分類:急性心筋梗塞に伴う心不全の重症度を、肺ラ音の範囲やショックの有無で分類する。
Kussmaul徴候とKussmaul呼吸
名前が似ているが別物である。Kussmaul呼吸は糖尿病ケトアシドーシスなどの代謝性アシドーシスでみられる深く速い規則的な呼吸である。
POINT
・左心不全は肺うっ血による呼吸器症状(労作時呼吸困難、起坐呼吸、発作性夜間呼吸困難、湿性ラ音)が中心。 ・右心不全は体静脈うっ血による所見(頸静脈怒張、肝腫大、下腿浮腫、腹水)が中心。 ・発作性夜間呼吸困難は、臥位での静脈還流増加により肺うっ血が悪化して起こる。 ・Kussmaul徴候(吸気時の頸静脈怒張増強)は収縮性心膜炎など右心系の拡張障害でみられる。
