離婚話のたびに起こる発作―薬では止まらない「心のけいれん」
第102回医師国家試験 G問題 第60問
国試問題にチャレンジ
32歳の女性。1年前に夫婦げんかの最中に動悸がひどくなり,息が苦しくなり,気が遠くなり,体が弓なりの緊張状態となって近医で処置を受けた。その後,同様の発作の頻度と持続時間とが増加した。最近では夫婦仲も冷えて離婚話も出てきたが,その話が出るたびに発作を繰り返し,外来受診をしていた。身体的異常はない。 治療として適切なのはどれか。
- a.精神療法
- b.抗精神病薬投与
- c.電気けいれん療法
- d.抗けいれん薬投与
- e.生活技能訓練[social skills training〈SST〉]
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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ドクターまとめ
明らかな心理的葛藤を契機に繰り返し、身体的異常を伴わない弓なりの発作は、解離性(転換性)障害、いわゆる心因性非てんかん性発作を考えます。本人に意図はなく、葛藤が無意識のうちに身体症状へ置き換わっている点で、詐病や作為症とは区別されます。治療の中心は、受容的に話を聴いて安心させる支持的精神療法と、症状と葛藤の関係への気づきを促す洞察的アプローチ、さらに家族面接などの環境調整です。抗けいれん薬は無効で、てんかんとの鑑別が重要であり、抗精神病薬・電気けいれん療法・SSTはそれぞれ精神病症状、重症うつ病や緊張病、統合失調症の社会復帰などが主な対象です。疾病利得を強めないよう発作に冷静に対応する姿勢は、救急や一般外来でも役立つ大切な臨床スキルです。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・32歳女性。 ・最初の発作は夫婦げんかの最中に起こった。動悸、息苦しさ、意識が遠のく感じに続き、体を弓なりに反らせる緊張状態(後弓反張様の姿勢、いわゆるヒステリー弓)を示した。 ・その後、発作の頻度と持続時間が増え、離婚話が出るたびに発作が繰り返されている。 ・身体的な異常は認められない。
診断へのプロセス
発作が夫婦間の葛藤という明らかな心理的ストレスと時間的に強く結びついており、身体的異常が見つからないことから、心因によって起こる非てんかん性の発作と考えられる。従来「ヒステリー」と呼ばれた病態で、ICD-10では解離性(転換性)障害の一つである解離性けいれん、DSM-5では変換症/転換性障害(機能性神経症状症)に分類される。心因性非てんかん性発作(PNES:psychogenic non-epileptic seizures)とも呼ばれる。本人が意識的に症状を作っているのではなく、耐えがたい葛藤や不安が無意識のうちに身体症状へと置き換わっている点が、詐病や作為症との違いである。 てんかん発作との鑑別が重要である。心因性の発作では、ストレス状況や人前で起こりやすい、弓なりの反り返りや左右非対称で不規則な動き・首を振る動作がみられる、閉眼していて開眼に抵抗する、発作が長く続く、舌咬傷・失禁・外傷が少ない、発作中の脳波にてんかん性の異常がない、などの特徴がある。本症例では「身体的異常はない」とされ、てんかんなどの器質的疾患は否定されていると読む。
治療の考え方
症状の背景には夫婦関係の葛藤という心理的問題があるため、治療の中心は精神療法である。薬で発作そのものを抑える治療は根本的な解決にならない。
選択肢考察
- ○a. 精神療法
解離性(転換性)障害は心理的葛藤が身体症状として現れる病態であり、治療の基本は精神療法である。まず受容的な態度で話を聴き、生命に関わる病気ではないことを説明して安心させる(支持的精神療法)。そのうえで、発作が夫婦間の葛藤と関連していることを本人が少しずつ理解できるよう導き(洞察的アプローチ)、ストレスへの別の対処法を身につけられるよう援助する。夫婦関係という環境要因への介入(家族面接・環境調整)も有用である。症状に周囲の注目や関心が集まりすぎると、症状によって葛藤を回避できるという「疾病利得」が生じ、症状が固定・悪化しやすいので、発作時には冷静に対応することも大切である。
- ×b. 抗精神病薬投与
抗精神病薬は、統合失調症などでみられる幻覚・妄想や強い興奮を抑える薬である。本症例には精神病症状はなく、解離性(転換性)障害の根本治療にはならない。体重増加や錐体外路症状などの副作用の不利益も考えると、適応とはいえない。
- ×c. 電気けいれん療法
電気けいれん療法(ECT)は、頭部に通電して人工的にけいれん発作を起こす治療で、自殺の危険が切迫した重症うつ病、昏迷状態、薬物治療に反応しない統合失調症や緊張病などに用いられる。心因性の発作である本症例には適応がない。
- ×d. 抗けいれん薬投与
抗けいれん薬(抗てんかん薬)は、てんかん発作を予防する薬である。本症例の発作は脳の異常な電気的興奮によるものではなく心因性であり、抗けいれん薬は効かない。心因性非てんかん性発作をてんかんと誤診して抗てんかん薬を使い続けると、効果がないまま副作用だけを受けることになるため、両者の鑑別が重要である。
- ×e. 生活技能訓練[social skills training〈SST〉]
SSTは、対人関係や日常生活に必要な技能を、ロールプレイ(役割演技)などを通じて練習する認知行動療法的なリハビリテーションで、主に統合失調症の社会復帰を目的として行われる。本症例の問題は社会生活技能の不足ではなく、心理的葛藤が身体症状に置き換わっていることにあるため、最も適切な治療とはいえない。
ヒステリーから解離症・変換症へ
かつて「ヒステリー」と呼ばれた病態は、現在は次のように整理されている。 ・解離症(解離性障害):意識・記憶・自己同一性などのまとまりが一時的に失われる状態。解離性健忘、解離性同一症(いわゆる多重人格)、離人感・現実感消失症など。 ・変換症/転換性障害(機能性神経症状症):運動や感覚の障害(麻痺、失立失歩、失声、けいれん様発作、感覚脱失など)が現れるが、神経学的な疾患では説明できないもの。 ICD-10ではこれらをまとめて「解離性(転換性)障害」として扱っている。
特徴
・若い女性に多い。 ・心理的葛藤やストレスをきっかけに発症・増悪する。 ・症状によって葛藤から逃れられる(一次疾病利得)、周囲の同情・関心を得たり責任を免れたりする(二次疾病利得)といった利得が関係する。 ・重い症状があるわりに本人がそれほど深刻に悩んでいないようにみえることがある(満ち足りた無関心)。 ・本人が意図的に症状を作っているわけではない点で、詐病(金銭など外的利益のための意図的な偽装)や作為症(病人の役割を得るための意図的な偽装)とは区別される。
精神療法の主な種類
・支持的精神療法:話を受容的に聴き、安心感を与え、環境を調整して負担を減らす。 ・表現的精神療法:抑え込んでいた感情を自由に表現させ、緊張を解き放つ。 ・洞察的精神療法:自分の問題への反応の仕方や、その背景にある心の動きに気づかせ、自ら適応の仕方を変えるよう導く。 ・訓練療法・行動療法:望ましい適応の仕方を繰り返し練習させる。
その他の治療法の主な適応
・抗精神病薬:統合失調症、双極性障害の躁状態など。 ・電気けいれん療法:重症・難治性のうつ病、緊張病、自殺の危険が高い場合など。 ・抗てんかん薬:てんかん。 ・SST:統合失調症などの社会復帰支援。
POINT
・明らかな心理的葛藤を契機に繰り返す、身体的異常のない弓なりの発作は、解離性(転換性)障害(心因性非てんかん性発作)を考える。 ・治療の中心は精神療法(支持的・洞察的アプローチ、環境調整)であり、薬物療法は補助的である。 ・てんかん発作との鑑別が重要で、心因性の発作に抗てんかん薬は無効である。 ・疾病利得を強めないよう、発作への過度の注目を避けて対応する。
