ショックで運ばれた吐血―出血性胃潰瘍を「挟む」「注す」で止める内視鏡止血
第102回医師国家試験 G問題 第56問
国試問題にチャレンジ
45歳の男性。吐血のため搬入された。今朝から吐血を2回認めた。意識は清明。体温36.7℃。脈拍120/分,整。血圧76/42 mmHg。眼瞼結膜に軽度の貧血を認める。心窩部に軽度の圧痛を認める。筋性防御を認めない。緊急で行った胃内視鏡写真を別に示す。 内視鏡治療として適切なのはどれか。2つ選べ。

- a.結紮
- b.硬化療法
- c.粘膜切除
- d.クリッピング
- e.エタノール局注
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
吐血に頻脈・低血圧を伴う場合は出血性ショックであり、急性期のヘモグロビン値や貧血所見は出血量を過小評価しやすいため、バイタルサインに基づいて輸液・輸血で循環を安定させつつ緊急内視鏡を行います。辺縁整の類円形潰瘍に露出血管を認める出血性胃潰瘍はForrest分類で再出血リスクが高く、クリップで機械的に挟むクリッピングや、純エタノール・HSEの局注、熱凝固法などで内視鏡的止血を行います。結紮(EVL)と硬化療法(EIS)は静脈瘤、粘膜切除(EMR・ESD)は早期胃癌などの腫瘍に対する治療であり、病変と治療法を正しく対応させることが重要です。止血後はPPI投与、ピロリ菌除菌、NSAIDs中止で再発を防ぎ、内視鏡で止血困難ならIVRや手術を検討するという流れは、上部消化管出血の診療全体の基本となります。
解答・解説
正解はd, eです
所見の整理
・45歳男性、今朝から2回の吐血。 ・脈拍120/分、血圧76/42 mmHg:頻脈と低血圧があり、ショック指数(心拍数÷収縮期血圧)は約1.6と高く、出血による循環血液量減少性ショックの状態である。意識は保たれている。 ・眼瞼結膜の軽度貧血:急性出血直後は血液が濃縮されたまま失われるため、貧血所見やヘモグロビン値は実際の出血量より軽く見えやすい。 ・心窩部の軽度圧痛はあるが筋性防御はなく、穿孔による腹膜炎を示す所見はない。
内視鏡所見
反転観察で胃体部小弯側に、辺縁が比較的整った類円形の潰瘍があり、潰瘍底は白苔で覆われている。潰瘍底には黒赤色の隆起(露出血管〜付着凝血塊)がみられ、周囲の粘膜にも血液が付着している。胃内には黒色の凝血・血液が貯留している。潰瘍の形が整っていて周堤を伴わないことから良性の胃潰瘍と考えられ、出血源となる露出血管をもつ出血性胃潰瘍と診断できる。
設問への考え方
吐血の原因として食道静脈瘤、Mallory-Weiss症候群、急性胃粘膜病変、胃・十二指腸潰瘍、胃癌などが挙がるが、内視鏡所見から出血性胃潰瘍である。まず輸液・輸血で循環動態の安定化を図りつつ、緊急内視鏡で止血を行う。露出血管のある潰瘍は内視鏡治療をしないと再出血率が高く、止血処置の適応となる。潰瘍出血に対する代表的な内視鏡的止血法は、クリップで血管を機械的に挟むクリッピングと、薬剤を局所注射して止血する局注法(エタノール、高張ナトリウム・エピネフリン液など)であり、これらが選択肢の中で適切である。結紮と硬化療法は静脈瘤、粘膜切除は腫瘍に対する治療である。
選択肢考察
- ×a. 結紮
内視鏡的結紮術(EVL:endoscopic variceal ligation)は、静脈瘤を内視鏡先端のデバイスに吸引し、小さなゴム製のOリングをかけて縛り、血流を途絶させて壊死・脱落させる治療である。主に食道静脈瘤に用いる。平坦な胃潰瘍の潰瘍底にある露出血管は吸引して縛るような構造ではなく、潰瘍出血の標準的な止血法ではない。
- ×b. 硬化療法
内視鏡的硬化療法(EIS:endoscopic injection sclerotherapy)は、エタノールアミンオレイン酸塩などの硬化剤を静脈瘤内やその周囲に注入し、血栓化・線維化させて閉塞させる治療で、食道・胃静脈瘤に対して行う。潰瘍出血に対する治療ではない。
- ×c. 粘膜切除
内視鏡的粘膜切除術(EMR:endoscopic mucosal resection)は、リンパ節転移の可能性が極めて低い早期胃癌や腺腫などの粘膜病変を切除する治療である(現在は内視鏡的粘膜下層剝離術=ESDも広く行われる)。出血中の潰瘍に対する止血法ではなく、行えばかえって出血や穿孔を招く。
- ○d. クリッピング
内視鏡的クリップ止血法は、金属製の小さなクリップで露出血管やその周囲の組織を挟み、出血点を機械的に閉じる方法である。組織を傷めにくく、露出血管を直接確実に止血できるため、潰瘍出血に対する代表的な内視鏡的止血法である。本例のように潰瘍底に露出血管がある場合によい適応となる。潰瘍底が硬く線維化している場合や、接線方向になって正面視しにくい部位ではかかりにくいことがあり、その際は他法と組み合わせる。
- ○e. エタノール局注
純エタノール局注法は、露出血管の周囲に少量の純エタノールを注射し、その脱水・固定作用によって血管壁を変性・収縮させ、血管内に血栓を形成させて止血する方法である。局注止血法の一つで、潰瘍出血に対して有効である。注入量が多すぎると組織壊死が広がり潰瘍の深掘れや穿孔を来しうるため、少量ずつ注入する。同じ局注法として、高張ナトリウム・エピネフリン液(HSE)局注もある。
上部消化管出血の初期対応
・まずバイタルサインを評価し、太い静脈路を確保して細胞外液輸液、必要に応じ輸血を行い循環動態を安定させる。 ・ショック指数(心拍数÷収縮期血圧)が1で約1L、1.5で約1.5L程度の出血が推定される目安とされる。 ・吐血・下血のある上部消化管出血では、全身状態を安定させたうえで緊急内視鏡を行い、出血源の診断と止血を同時に行う。
潰瘍出血の内視鏡所見(Forrest分類)
・Ia:噴出性出血、Ib:湧出性出血(活動性出血) ・IIa:露出血管あり、IIb:凝血塊付着、IIc:黒色の平坦な色素斑 ・III:きれいな潰瘍底(出血の痕跡なし) Ia〜IIa(および凝血塊を除去して露出血管がみられるIIb)は再出血の危険が高く、内視鏡的止血の適応となる。
潰瘍出血に対する主な内視鏡的止血法
・機械的止血法:クリップ法 ・局注法:純エタノール局注、高張ナトリウム・エピネフリン液(HSE)局注 ・熱凝固法:ヒータープローブ法、高周波凝固(止血鉗子など)、アルゴンプラズマ凝固法(APC)、レーザー ・薬剤散布法:トロンビン、エピネフリン(アドレナリン)希釈液などの散布 単独でも有効だが、エピネフリン局注単独は再出血が多いため、クリップや熱凝固と併用することが勧められる。 ・止血後は、プロトンポンプ阻害薬(PPI)などの酸分泌抑制薬を投与し、Helicobacter pylori感染があれば除菌を行う。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の服用歴も確認する。 ・内視鏡的止血が困難な場合は、経カテーテル動脈塞栓術(IVR)や外科手術を検討する。
静脈瘤・腫瘍に対する内視鏡治療との区別
・食道静脈瘤:内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)、内視鏡的硬化療法(EIS) ・早期胃癌・腺腫:内視鏡的粘膜切除術(EMR)、内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)
POINT
・吐血+頻脈・低血圧 → 出血性ショック。輸液・輸血で安定化しつつ緊急内視鏡を行う。 ・露出血管のある出血性胃潰瘍 → クリップ法、局注法(エタノール、HSE)、熱凝固法などで内視鏡的止血。 ・結紮(EVL)と硬化療法(EIS)は食道静脈瘤、粘膜切除(EMR)は早期胃癌の治療。 ・止血後はPPI投与、H. pylori除菌、NSAIDs中止を検討する。
