カプノグラムが語る3つの物語―「作る・運ぶ・出す」で読み解く呼気CO2
第102回医師国家試験 G問題 第21問
国試問題にチャレンジ
呼吸ガスモニター上,呼気二酸化炭素濃度が上昇するのはどれか。
- a.体温低下
- b.肺塞栓症
- c.肺胞低換気
- d.食道内挿管
- e.出血性ショック
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
呼気二酸化炭素濃度(EtCO2)は、CO2の「産生(代謝)」「運搬(肺血流)」「排出(換気)」の3要素で決まると考えると理解しやすくなります。肺胞低換気ではCO2の排出が減って肺胞内に貯留するためEtCO2は上昇し、悪性高熱症や発熱などの代謝亢進、ソーダライム劣化などによる再呼吸でも上昇します。一方、低体温では産生が減り、肺塞栓症や出血性ショックでは肺血流が減って低下し、肺塞栓症ではPaCO2との較差が開くのが特徴です。食道内挿管や回路の外れではCO2波形が消失するため、持続的なCO2波形の検出は気管挿管の確認法として最も信頼できます。この3要素の枠組みは、術中のモニター変化から原因を素早く推定する臨床判断の基礎になります。
解答・解説
正解はcです
全身麻酔中や人工呼吸管理中には、呼吸ガスモニター(カプノメータ)で呼気中の二酸化炭素(CO2)濃度を連続的に測定する。呼気終末の値を呼気終末二酸化炭素分圧(EtCO2:end-tidal CO2)と呼び、正常ではおおむね35〜45 mmHg 程度で、動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)より数 mmHg 低い値を示す。 EtCO2 は次の3つの要素で決まると考えると整理しやすい。 1)CO2 の産生量(代謝):組織の代謝で CO2 がどれだけ作られるか。 2)CO2 の運搬(循環・肺血流):作られた CO2 が静脈血に乗って肺まで運ばれるか。 3)CO2 の排出(換気):肺胞に届いた CO2 が呼気として外に出ていくか。 呼気 CO2 濃度が上昇するのは、産生が増える(悪性高熱症、発熱、甲状腺クリーゼなど)か、換気が減って肺胞内に CO2 がたまる(肺胞低換気)場合である。一方、産生の低下(低体温)、肺血流の低下(肺塞栓症、ショック、心停止)、あるいは CO2 が回路に出てこない状態(食道挿管、回路の外れ)では低下・消失する。 選択肢のうち、肺胞内に CO2 が貯留して呼気 CO2 濃度が上がるのは肺胞低換気である。
選択肢考察
- ×a. 体温低下
体温が下がると全身の代謝率が低下する(体温が1℃下がるごとに代謝はおよそ7〜8%低下するとされる)。その結果、組織で作られる CO2 の量が減るため、換気量が一定なら呼気 CO2 濃度は低下する。逆に発熱や悪性高熱症のような代謝亢進状態では上昇する。
- ×b. 肺塞栓症
肺動脈が塞栓で閉塞すると、その領域の肺胞には換気はあっても血流が来ない(死腔換気の増加)。血流のない肺胞には CO2 が運ばれてこないため、その肺胞から出る呼気は CO2 をほとんど含まず、全体としての呼気 CO2 濃度は低下する。一方で血液側からは CO2 が十分に排出されないため、PaCO2 と EtCO2 の差(a-EtCO2 較差)が開くのが特徴である。術中に EtCO2 が急に低下したときは肺塞栓症(空気塞栓も含む)を疑う。
- ○c. 肺胞低換気
肺胞低換気とは、肺胞に出入りする空気の量が代謝に必要な量に比べて不足する状態である。CO2 の排出量は肺胞換気量に依存するため、換気が減ると CO2 が体内と肺胞内にたまり、PaCO2 が上昇する。肺胞気の CO2 分圧も上がるので、呼気 CO2 濃度(EtCO2)も上昇する。麻酔中では、麻酔薬やオピオイドによる呼吸抑制、人工呼吸器の設定不足(1回換気量や呼吸回数の不足)などが原因となる。
- ×d. 食道内挿管
気管チューブが誤って食道に入ると、換気は胃に送り込まれるだけで肺胞からの呼気は回路に戻らない。胃内には CO2 がほとんどないため、カプノグラムは検出されないか、最初の数呼吸にわずかに出ても(胃内の空気や炭酸飲料由来)すぐに消失する。このため、挿管直後にカプノグラムで CO2 波形が持続して検出されることは、気管挿管の確認法として最も信頼性が高いとされる。
- ×e. 出血性ショック
出血性ショックでは循環血液量が減って心拍出量が低下し、肺血流量が減る。肺に運ばれる CO2 の量が減るうえ、血流の乏しい肺胞が増えて死腔換気が増大するため、呼気 CO2 濃度は低下する。循環が悪い状態では EtCO2 は心拍出量の指標としても用いられ、心肺蘇生中に EtCO2 が低いままなら有効な胸骨圧迫ができていない可能性が、急上昇すれば自己心拍再開(ROSC)の可能性が考えられる。
EtCO2 の変化とその原因
上昇する場合 ・CO2 産生の増加:悪性高熱症(急激な上昇が特徴的)、発熱・敗血症、甲状腺クリーゼ、炭酸水素ナトリウム投与、腹腔鏡手術での CO2 気腹による吸収、ターニケット解除後など ・CO2 排出の減少:肺胞低換気(呼吸抑制、換気設定不足) ・再呼吸:CO2 吸収剤(ソーダライム)の劣化、呼気弁の故障(吸気相の基線が0に戻らなくなる) 低下・消失する場合 ・CO2 産生の減少:低体温、深麻酔 ・肺血流の減少:肺塞栓症(血栓・空気・脂肪)、出血性ショック、心拍出量低下、心停止 ・過換気 ・CO2 が回路に出てこない:食道挿管、回路の外れ、チューブ閉塞、事故抜管
カプノグラムの基本形
正常波形は、吸気相で基線が0、呼気開始とともに急峻に上昇し、肺胞気が出ている間はほぼ平坦なプラトー(肺胞相)を示す。プラトーの終末値が EtCO2 である。気管支喘息発作や COPD のように気道が狭い場合は、プラトーが右上がりのなだらかな形(シャークフィン型)となる。
PaCO2 と EtCO2 の関係
健常肺では EtCO2 は PaCO2 より2〜5 mmHg 程度低い。死腔換気が増える病態(肺塞栓症、低心拍出量、COPD など)ではこの差が拡大するため、EtCO2 が低くても PaCO2 は高いことがある点に注意する。
POINT
・EtCO2 は「産生(代謝)」「運搬(肺血流)」「排出(換気)」の3要素で決まる。 ・上昇:肺胞低換気、悪性高熱症・発熱などの代謝亢進、CO2 再呼吸。 ・低下:低体温、肺塞栓症、ショック・心停止、過換気。 ・消失:食道挿管、回路外れ、心停止。 ・肺塞栓症では PaCO2 と EtCO2 の較差が開く。 ・挿管位置の確認にはカプノグラムでの CO2 波形の持続的検出が最も信頼できる。
