膵機能検査なのに肝臓や腎臓でも引っかかる?―BT-PABA試験の「4つの関門」
第102回医師国家試験 G問題 第18問
国試問題にチャレンジ
BT-PABA試験で異常値とならないのはどれか。
- a.慢性腎不全
- b.Crohn病
- c.肝硬変
- d.胆嚢癌
- e.慢性膵炎
対話形式の解説
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ドクターまとめ
BT-PABA試験は、経口投与したBT-PABAが膵液中のキモトリプシンで分解されてPABAとなり、小腸で吸収、肝臓で抱合、腎臓から尿中に排泄される割合を測る膵外分泌機能検査です。本来の標的は分解の段階であり慢性膵炎で低値となりますが、吸収障害をきたすCrohn病、抱合能が低下する肝硬変、排泄能が落ちる慢性腎不全でも低値となります。一方、胆嚢はこれら4つの過程のいずれにも関与しないため、胆嚢癌では異常値となりません。本試験は簡便な反面、感度・特異度に限界があり、膵外分泌機能の評価は便中エラスターゼなど他の間接法も含めて理解しておく必要があります。検査値が生まれるまでの経路をたどって干渉要因を考える姿勢は、あらゆる検査結果を正しく解釈するための基本になります。
解答・解説
正解はdです
BT-PABA試験とは
BT-PABA(N-ベンゾイル-L-チロシル-p-アミノ安息香酸)試験は、膵外分泌機能を調べる検査で、試薬名からPFD(pancreatic function diagnostant)試験とも呼ばれる。BT-PABAを経口投与し、一定時間(通常6時間)の蓄尿中に排泄されたPABA(p-アミノ安息香酸)の割合(尿中PABA排泄率)を測定する。
PABAが尿に出るまでの4段階
(1) 分解:十二指腸〜小腸で、膵液中のキモトリプシンがBT-PABAを加水分解し、PABAを遊離させる。 (2) 吸収:遊離したPABAが小腸粘膜から吸収される。 (3) 抱合:吸収されたPABAは門脈を経て肝臓でグリシン抱合やアセチル化を受ける。 (4) 排泄:抱合体を含むPABAが腎臓から尿中に排泄される。
考え方
本来の目的は(1)、すなわち膵からのキモトリプシン分泌を評価することにあるが、実際の測定値は(2)〜(4)のどこが障害されても低下する。つまり、膵疾患だけでなく、吸収不良をきたす腸疾患、肝疾患、腎疾患でも「偽陽性」的に異常低値となる。したがって、この4つの過程のいずれにも関与しない疾患を選べばよい。胆嚢はBT-PABAの分解・吸収・抱合・排泄のいずれの経路にも関わらない。
選択肢考察
- ×a. 慢性腎不全
PABAは最終的に腎臓から尿中に排泄される。慢性腎不全で腎からの排泄能が低下すると、膵機能が正常でも決められた時間内に尿へ出るPABA量が減るため、尿中PABA排泄率は低値となる。PSP(フェノールスルホンフタレイン)試験15分値が10%以下程度の腎障害では影響が出るとされる。
- ×b. Crohn病
Crohn病は口腔から肛門までの消化管に非連続性の全層性炎症を起こす疾患で、好発部位は回腸末端〜回盲部だが小腸広範に病変が及ぶこともある。小腸粘膜の障害や広範切除後の短腸により吸収不良をきたすと、キモトリプシンで遊離したPABAが十分に吸収されず、尿中排泄率は低下する。
- ×c. 肝硬変
吸収されたPABAは肝臓で抱合を受けてから尿中に排泄される。肝硬変で肝の代謝(抱合)能が低下すると、この過程が滞り尿中PABA排泄率が低下する。目安としてICG(インドシアニングリーン)15分停滞率が20%以上の肝障害では結果に影響するとされる。
- ○d. 胆嚢癌
胆嚢は胆汁を濃縮・貯留する臓器であり、BT-PABAの分解に必要なキモトリプシン(膵液)の分泌にも、PABAの小腸吸収・肝での抱合・腎からの排泄にも関与しない。このため胆嚢癌そのものは本試験の結果に影響せず、異常値とならない。
- ×e. 慢性膵炎
慢性膵炎が進行して膵実質が線維化・脱落すると、膵外分泌能が低下してキモトリプシンの分泌が減る。その結果BT-PABAが十分に加水分解されず、PABAの遊離量が減って尿中排泄率が低下する。本試験が本来標的としている病態であり、明らかな低下の反復は膵外分泌障害の所見として慢性膵炎の診断に用いられてきた。
BT-PABA試験の実際
・BT-PABA(PFD)を経口投与し、6時間蓄尿中のPABA排泄率を測定する。おおむね70%未満を低値(膵外分泌機能低下)と判定する。 ・利点:経口投与と蓄尿だけで行える簡便な非侵襲的検査である。 ・欠点:軽度の膵外分泌障害では低下しにくく感度が低い。また分解以外の過程(吸収・抱合・排泄)の影響を受けるため特異度にも限界があり、吸収不良、肝障害、腎障害、高齢者で低値となりうる。膵酵素製剤やPABAを含む薬剤、利尿薬なども結果に影響する。 ・近年は試薬の製造中止により実施できなくなっており、膵外分泌機能の評価は便中エラスターゼ測定や13C呼気試験などが用いられる方向にある。
膵外分泌機能検査の整理
・直接法:セクレチン試験など。十二指腸に管を留置し、刺激後の膵液量・重炭酸濃度・酵素量を直接測定する。精度は高いが侵襲的で煩雑。 ・間接法:BT-PABA試験、便中脂肪定量、便中キモトリプシン・エラスターゼ測定、13C標識基質呼気試験など。簡便だが感度・特異度は劣る。
慢性膵炎の概要
長期間の飲酒などを原因に、膵に炎症と線維化が進行し、膵外分泌機能(消化酵素分泌)と内分泌機能(インスリン分泌)が不可逆的に低下する疾患である。病期が進むと脂肪便・体重減少(外分泌不全)や膵性糖尿病(内分泌不全)を呈する。画像では膵石灰化・主膵管の不整拡張が特徴的である。
POINT
・BT-PABA試験は「キモトリプシンによる分解 → 小腸での吸収 → 肝での抱合 → 腎からの排泄」の4段階を経て尿中PABA排泄率を測る。 ・膵外分泌不全(慢性膵炎、膵癌など)だけでなく、吸収不良(Crohn病、短腸症候群など)、肝障害(肝硬変)、腎障害(慢性腎不全)でも低値となる。 ・胆嚢はこの経路に関与しないため、胆嚢疾患では異常とならない。
