父の40歳の突然死が語るもの―家族性高コレステロール血症を見抜く3つの手がかり
第102回医師国家試験 E問題 第53問
国試問題にチャレンジ
32歳の男性。会社の健康診断で血清脂質異常を指摘されて来院した。父は40歳で突然死した。姉に高コレステロール血症がある。身長170cm,体重61kg。右上眼瞼内側に黄色い皮腫を認める。健康診断時の血清総コレステロール320mg/dL,トリグリセリド120 mg/dL。 この疾患にみられるのはどれか。2つ選べ。
- a.白内障の合併
- b.Ⅰ型脂質異常症
- c.常染色体優性遺伝
- d.HDLレセプター欠損
- e.虚血性心疾患の合併
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
若年・非肥満で、トリグリセリドが正常なのにコレステロールが著しく高く、高コレステロール血症や若年突然死の家族歴、黄色腫を伴う場合は家族性高コレステロール血症(FH)を考えます。FHはLDL受容体(ほかにアポB、PCSK9)の遺伝子異常による常染色体優性遺伝の疾患で、ヘテロ接合体は約300人に1人と頻度が高く、表現型は主にⅡa型です。著しい高LDLコレステロール血症、腱黄色腫、早発性冠動脈疾患が三主徴であり、HDL受容体の異常やⅠ型脂質異常症、白内障はFHの特徴ではありません。診断にはLDLコレステロール値とアキレス腱肥厚の評価、家族歴が重要で、スタチンを中心とした早期治療と血縁者のスクリーニングにより冠動脈疾患を予防できます。家族歴から遺伝性疾患を読み解く視点は、脂質異常症に限らず予防医療の土台になります。
解答・解説
正解はc, eです
所見の整理
・32歳の男性。健康診断で脂質異常を指摘された。 ・家族歴:父が40歳で突然死(若年での急性心筋梗塞や致死性不整脈などの冠動脈疾患が疑われる)、姉に高コレステロール血症がある。 ・身長170cm、体重61kgでBMIは約21.1であり、肥満はない(生活習慣による脂質異常とは考えにくい)。 ・右上眼瞼の内側に黄色腫(眼瞼黄色腫)がある。 ・総コレステロール(TC)320mg/dLと著明に高いが、トリグリセリド(TG)は120mg/dLで基準範囲(空腹時150mg/dL未満)にある。
診断へのプロセス
①TGが正常でTCだけが著しく高いので、増えているのは主にLDL(低比重リポ蛋白)コレステロールと考えられる。リポ蛋白の表現型分類では、LDLだけが増えるⅡa型に当たる。HDLコレステロールの値は示されていないが、HDLが極端に高くない限り、LDLコレステロールは200mg/dL以上と推定される。 ②若いやせ型の男性で、姉にも高コレステロール血症があり、父は40歳で突然死している。家族内に高コレステロール血症と若年性の冠動脈疾患が集積しており、遺伝性の疾患が強く疑われる。 ③眼瞼黄色腫は、脂質値が正常な人にもみられるため特異的な所見ではないが、若年者の高LDLコレステロール血症に伴っていれば、家族性高コレステロール血症(FH:familial hypercholesterolemia)を疑う手がかりとなる。 以上から、ヘテロ接合体のFHが最も考えられる。確定診断のためには、LDLコレステロール値の実測(または計算)、アキレス腱の肥厚など腱黄色腫の評価、家族歴のより詳しい聴取を行う。
設問の考え方
FHの病態を問う問題である。FHは、LDLを肝臓に取り込むLDL受容体(またはその働きに関わる蛋白)の遺伝子異常によって血中LDLコレステロールが生まれつき高く、若年から動脈硬化が進む疾患である。遺伝形式、原因分子、表現型、合併症を正しく押さえておけば答えられる。
選択肢考察
- ×a. 白内障の合併
誤り。FHでは白内障の合併は特にみられない。FHで問題になる合併症は動脈硬化性疾患(冠動脈疾患、大動脈弁上狭窄、大動脈弁狭窄など)であり、眼の所見としては角膜の縁が白く濁る角膜輪(若年でみられるものは若年性角膜輪と呼ばれ、FHを疑う所見)がある。白内障は加齢のほか、糖尿病、副腎皮質ステロイドの長期使用、アトピー性皮膚炎などでみられる。なお、腱黄色腫と若年性白内障を併せ持つ疾患としては、脳腱黄色腫症(胆汁酸を合成する酵素の欠損によってコレスタノールがたまる、まれな常染色体劣性遺伝の疾患)があるが、血清コレステロールは通常正常であり、本例とは合わない。
- ×b. Ⅰ型脂質異常症
誤り。Ⅰ型は、リポ蛋白リパーゼ(LPL)やその活性化因子(アポC-Ⅱ)の欠損などによってカイロミクロン(食事の脂肪を運ぶリポ蛋白)が分解されずにたまる病型である。TGが1,000mg/dLを超えるほどに著しく上昇し、急性膵炎、発疹性黄色腫(背部・殿部などに多発する小さな黄色丘疹)、網膜脂血症、肝脾腫などがみられる。本例はTGが正常でコレステロールが高いので、LDLが増えるⅡa型であり、Ⅰ型には当たらない。FHの表現型は通常Ⅱa型であり、Ⅱb型をとることもある。
- ○c. 常染色体優性遺伝
正しい。FHは常染色体優性(顕性)遺伝の形式をとる。病的な遺伝子を片方の親からだけ受け継いだヘテロ接合体でも発症し、本例のように父と姉弟など複数の世代・きょうだいに患者がみられる。子には1/2の確率で遺伝する。ヘテロ接合体は日本では約300人に1人と、遺伝性疾患の中でも非常に頻度が高い。両親の双方から病的な遺伝子を受け継いだホモ接合体はまれで、LDLコレステロールが500mg/dLを超えることが多く、小児期から黄色腫や冠動脈疾患を発症する重症型となる。原因遺伝子はLDL受容体遺伝子が大部分で、ほかにアポB遺伝子、PCSK9遺伝子(LDL受容体の分解を促す蛋白の働きが強まる変異)がある。
- ×d. HDLレセプター欠損
誤り。FHの本態はLDL受容体の異常である。LDL受容体は主に肝細胞の表面にあり、血中のLDLを取り込んで分解する。この受容体の数が減ったり働きが悪くなったりすると、LDLが血中から除かれにくくなり、LDLコレステロールが上昇する。HDLの受容体(スカベンジャー受容体クラスB タイプⅠ:SR-BI)の異常はFHの原因ではない。HDLが関係する遺伝性の脂質異常症としては、コレステリルエステル転送蛋白(CETP)欠損症(HDLが著明に高くなる)や、Tangier病(ABCA1の異常によりHDLが著明に低くなる)などがある。
- ○e. 虚血性心疾患の合併
正しい。FHでは生まれた時からLDLコレステロールが高い状態が続くため、冠動脈の粥状動脈硬化が若いうちから進み、早発性の冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)を起こしやすい。未治療のヘテロ接合体では、男性は30〜50歳代、女性はそれより10年ほど遅れて発症することが多い。本例の父の40歳での突然死も、FHによる若年性の心筋梗塞などが疑われる。著しい高LDLコレステロール血症、腱黄色腫、早発性冠動脈疾患はFHの三主徴とされる。早期に診断し、スタチンなどで十分にLDLコレステロールを下げることで、冠動脈疾患を予防できる。
家族性高コレステロール血症(FH)の概要
・病態:LDL受容体、アポB、PCSK9などの遺伝子異常 → 肝臓でのLDLの取り込みが低下 → 血中LDLコレステロールの著明な上昇 → 若年から動脈硬化が進む。 ・遺伝形式:常染色体優性(顕性)遺伝。ヘテロ接合体は約300人に1人、ホモ接合体はまれ(数十万人に1人程度)。 ・三主徴:①著しい高LDLコレステロール血症、②腱黄色腫(特にアキレス腱の肥厚、手背・肘・膝の伸側の黄色腫)、③早発性冠動脈疾患。 ・その他の所見:皮膚結節性黄色腫、若年性角膜輪、眼瞼黄色腫(ただし眼瞼黄色腫は特異的でない)。
成人(15歳以上)のFHヘテロ接合体の診断基準(日本動脈硬化学会)
①未治療時のLDLコレステロールが180mg/dL以上 ②腱黄色腫(手背、肘、膝などの腱黄色腫またはアキレス腱の肥厚)あるいは皮膚結節性黄色腫 ③FHまたは早発性冠動脈疾患の家族歴(2親等以内) ※早発性冠動脈疾患:男性55歳未満、女性65歳未満で発症したもの → 2項目以上を満たせばFHと診断する。FHの病的遺伝子変異が確認された場合もFHと診断する。 アキレス腱の肥厚は、X線撮影や超音波検査で厚さを測って評価する(判定の基準値は性別と測定方法によって異なる)。本例は③の家族歴(姉の高コレステロール血症と父の若年突然死)を有し、LDLコレステロール値とアキレス腱の評価で診断が確定する。
治療
・生活習慣の改善に加え、スタチンを第一選択とし、効果が不十分ならエゼチミブ、PCSK9阻害薬などを併用する。 ・ホモ接合体や薬物に抵抗する重症例では、LDLアフェレシス(血液からLDLを直接取り除く治療)などを行う。 ・家族の中に患者が見つかりやすいため、血縁者のスクリーニング(カスケードスクリーニング)が重要である。
脂質異常症の表現型分類(Fredrickson分類をWHOが改変したもの)
・Ⅰ型:カイロミクロン増加(TG著増、急性膵炎、発疹性黄色腫) ・Ⅱa型:LDL増加(コレステロール上昇、TG正常)… FHの典型 ・Ⅱb型:LDLとVLDLの増加(コレステロール・TGともに上昇)… 家族性複合型高脂血症に多い ・Ⅲ型:IDL(レムナント)増加(手掌線状黄色腫、アポE2/E2と関連) ・Ⅳ型:VLDL増加(TG上昇、生活習慣と関連が深い) ・Ⅴ型:カイロミクロンとVLDLの増加
鑑別:家族性複合型高脂血症
同じく常染色体優性遺伝で早発性冠動脈疾患を起こすが、表現型はⅡb型が多く(Ⅱa型やⅣ型をとることもある)、同じ家系内や同じ人でも時期によって表現型が変わる。腱黄色腫はみられない。
POINT
・若年、非肥満、TGは正常でコレステロールが著しく高い、家族に高コレステロール血症と若年性突然死(冠動脈疾患)、黄色腫 → 家族性高コレステロール血症(FH)。 ・FHは常染色体優性遺伝。ヘテロ接合体は約300人に1人と頻度が高い。 ・原因はLDL受容体(ほかにアポB、PCSK9)の遺伝子異常であり、HDL受容体ではない。 ・表現型は主にⅡa型。Ⅰ型はカイロミクロンが増える別の病態(急性膵炎、発疹性黄色腫)。 ・三主徴:高LDLコレステロール血症、腱黄色腫(アキレス腱の肥厚)、早発性冠動脈疾患。 ・白内障はFHの合併症ではない。
