「突然始まり、脈がバラバラ」―高齢者の動悸発作は脈をとれば見えてくる
第102回医師国家試験 E問題 第47問
国試問題にチャレンジ
78歳の男性。動悸発作を主訴に来院した。発作は2か月前から週3,4回の頻度で起こり,強い動悸が誘因なく突然始まり10分から2時間ほど持続する。めまいと失神とはない。来院時,脈拍は100/分,不整。 考えられるのはどれか。
- a.完全右脚ブロック
- b.完全房室ブロック
- c.発作性上室性頻拍
- d.発作性心房細動
- e.心室細動
対話形式の解説
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ドクターまとめ
誘因なく突然始まり数分〜数時間で自然に治まる動悸発作を繰り返し、脈が不整で失神を伴わない高齢者では、発作性心房細動をまず考えます。心房細動は心房の無秩序な興奮が不規則に心室へ伝わるため絶対性不整脈となり、心室拍数は正常〜頻拍までさまざまです。発作性上室性頻拍は150〜250/分程度の規則正しい頻拍、完全房室ブロックは失神を起こしうる徐脈、心室細動は即座に意識消失をきたす心停止、完全右脚ブロックは単独では症状を起こさない伝導障害であり、脈の速さ・規則性・失神の有無で区別できます。心房細動と診断したら、CHADS2スコアなどで脳塞栓症のリスクを評価し、抗凝固療法の要否を必ず検討することが臨床上きわめて重要です。脈診だけで不整脈を推定する力は、心電図がすぐとれない場面でも役立つ基本的な臨床能力です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・78歳男性(高齢) ・2か月前から週3〜4回の動悸発作 ・誘因なく突然始まり、10分〜2時間で自然に治まる ・めまい・失神はない ・来院時の脈拍は100/分で不整
診断へのプロセス
心電図の情報はないが、不整脈は「始まり方・持続・脈拍数・規則性・血行動態への影響」の組み合わせからかなり絞り込める。 ①突然始まり一定時間で自然に止まる発作性の動悸であることから、発作性の頻脈性不整脈(発作性心房細動、発作性心房粗動、発作性上室性頻拍など)が考えられる。 ②めまいや失神を伴わないことから、発作中も心拍出量は保たれており、心室細動のような致死的不整脈や、高度の徐脈で脳血流が低下する病態(アダムス・ストークス発作)は考えにくい。 ③脈拍が不整であることが決め手となる。発作性上室性頻拍や心房粗動(伝導比が一定の場合)は規則正しい脈(整脈)となるのに対し、心房細動では房室結節を通過する興奮が不規則なため、脈の間隔も強さもばらばらな「絶対性不整脈」となる。 ④脈拍100/分は、150〜250/分程度の高頻度で整脈となる発作性上室性頻拍とは合わない。 加えて、心房細動は加齢とともに有病率が上昇し、高齢者の動悸の原因として最も頻度の高い不整脈の一つである。以上より発作性心房細動が最も考えられる。確定には発作時の12誘導心電図やホルター心電図などで、P波の消失、f波(細動波)、RR間隔の絶対的不整を確認する。
選択肢考察
- ×a. 完全右脚ブロック
完全右脚ブロックは右脚の伝導が途絶え、右室の興奮が遅れて起こる伝導障害であり、心電図上はQRS幅の延長(0.12秒以上)やV1誘導のrsR'型を示す。リズム自体は洞調律のままなので脈は整で、脈拍数も変化しない。健常者にもみられることがあり、単独では症状を起こさないため、発作性の動悸や不整脈の説明にはならない。
- ×b. 完全房室ブロック
完全房室ブロック(III度房室ブロック)では心房からの興奮が心室にまったく伝わらず、心室は下位の補充調律で拍動する。そのため脈拍は40/分前後以下の徐脈となり、補充調律によって脈は規則的なことが多い。心拍出量の低下からめまい・失神(アダムス・ストークス発作)や心不全を起こしやすい。頻脈・不整脈で失神のない本例とは合わない。
- ×c. 発作性上室性頻拍
発作性上室性頻拍(PSVT)は、房室結節リエントリー性頻拍や副伝導路を介した房室リエントリー性頻拍などによる頻拍で、突然始まり突然止まる点は本例と共通する。しかしリエントリー回路を一定の速さで旋回するため、心拍数はおおむね150〜250/分と速く、しかも規則正しい整脈となる。脈拍100/分・不整という所見とは合わない。
- ○d. 発作性心房細動
心房細動は心房が毎分350〜600回程度の無秩序な興奮を起こし、そのうち房室結節を通過したものだけが不規則に心室へ伝わる不整脈である。脈拍は間隔も大きさも不規則な絶対性不整脈となり、心室拍数は房室結節の伝導性により正常〜頻拍までさまざまである。発症後7日以内に自然停止するものを発作性心房細動という。突然始まり数分〜数時間で自然に治まる動悸、脈拍100/分の不整、失神がないこと、高齢であることのいずれとも合致する。診断後は、脳梗塞予防の抗凝固療法の要否(CHADS2スコアなどで評価)を検討する必要がある。
- ×e. 心室細動
心室細動は心室筋が無秩序に細かく震えるだけで、有効な心拍出がまったく得られない状態であり、実質的に心停止である。発症すると数秒〜十数秒で意識を失い、直ちに除細動を行わなければ死に至る。10分〜2時間の動悸が意識を保ったまま繰り返されることはありえず、脈拍が触知できる本例とは合わない。
脈拍所見からみた主な不整脈の整理
・洞性頻脈:100〜150/分程度、整。徐々に始まり徐々に治まる。発熱・貧血・甲状腺機能亢進症などの原因がある。 ・発作性上室性頻拍:150〜250/分程度、整。突然始まり突然止まる。迷走神経刺激(バルサルバ手技など)で停止することがある。 ・心房粗動:心房は約300/分の規則的な興奮。2:1伝導なら約150/分、4:1伝導なら約75/分で、伝導比が一定なら整。 ・心房細動:心室拍数はさまざま、絶対性不整。脈拍数が心拍数より少なくなる脈拍欠損がみられることがある。 ・完全房室ブロック:40/分前後以下の徐脈。失神の原因となる。 ・心室頻拍・心室細動:血行動態が破綻しやすく、特に心室細動は即座に意識消失・心停止となる。
心房細動の分類(持続時間による)
・発作性:発症後7日以内に自然に、または治療により洞調律に戻る ・持続性:7日を超えて持続する ・長期持続性:1年以上持続する ・永続性:洞調律への復帰を目指さない(できない)もの 発作性から持続性・永続性へと進行することが多い。
心房細動の臨床的重要性
心房内、特に左心耳に血栓ができやすく、心原性脳塞栓症の主要な原因となる。脳梗塞リスクはCHADS2スコア(心不全、高血圧、75歳以上、糖尿病、脳卒中・一過性脳虚血発作の既往〔2点〕)などで評価し、抗凝固療法(直接経口抗凝固薬〔DOAC〕やワルファリン)を検討する。本例は78歳であり年齢だけで1点となる。症状や心機能を踏まえ、心拍数調節(β遮断薬など)やリズム調節(抗不整脈薬、カテーテルアブレーション)を選択する。
POINT
・「突然始まり自然に治まる動悸」+「脈不整」+「失神なし」→発作性心房細動を考える。 ・発作性上室性頻拍は150〜250/分の規則正しい頻拍。 ・完全房室ブロックは徐脈、心室細動は即座に意識消失・心停止となる。 ・完全右脚ブロックは伝導障害であり、それ自体で動悸発作を起こさない。 ・心房細動では脳塞栓症予防のため抗凝固療法の適応を必ず評価する。
