仙骨部の赤みは最初のSOS―初期褥瘡に「まずやるべきこと」
第102回医師国家試験 E問題 第45問
国試問題にチャレンジ
70歳の男性。2か月前から脳梗塞のため入院し寝たきりになっている。清拭時,仙骨部に境界明瞭な紅斑がみられた。 まず行う処置はどれか。2つ選べ。
- a.消毒
- b.体位変換
- c.切開処置
- d.除圧処置
- e.抗菌薬投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
寝たきり患者の仙骨部など骨突出部にみられる、圧迫を除いても消えない紅斑は、褥瘡の初期段階(NPUAP/EPUAP分類ステージ1、DESIGN-R 2020のd1)と考えます。褥瘡は持続的な圧迫による組織の虚血が本態であるため、まず行うべきは体位変換と体圧分散寝具などによる除圧で、原因そのものを取り除くことが予防・治療の出発点です。皮膚欠損や感染徴候のない段階では消毒・切開・抗菌薬は不要であり、発赤部へのマッサージも避けます。あわせて、ずれ・摩擦や湿潤への対策、栄養管理、ブレーデンスケールによるリスク評価を含めた多職種での対応が重要です。紅斑の段階で気づいて対処できるかどうかが重症化を防ぐ鍵であり、病棟での日々の皮膚観察の意義を理解するうえで欠かせないテーマです。
解答・解説
正解はb, dです
所見の整理
・70歳の男性。脳梗塞のため2か月間入院し、寝たきり状態が続いている。 ・清拭の際に、仙骨部(仰臥位で体重がかかる骨突出部)に境界明瞭な紅斑を認めた。 ・水疱、びらん、潰瘍などの皮膚欠損や、熱感・腫脹・膿・悪臭といった感染徴候の記載はない。
診断へのプロセス
自力で体位を変えられない寝たきりの高齢者で、骨が突出して圧迫を受けやすい仙骨部に限局した紅斑がみられることから、褥瘡(床ずれ)の初期段階と考えられる。褥瘡は、骨と寝具などの間で皮膚・皮下組織が持続的に圧迫され、血流が途絶えて組織が虚血・壊死に陥ることで生じる。本例は皮膚欠損を伴わない紅斑のみの段階であり、NPUAP/EPUAP分類のステージ1(消退しない発赤)、Shea分類のⅠ度、DESIGN-R 2020の深さ分類ではd1(持続する発赤)に相当する。 なお、骨突出部の発赤が圧迫を除いても消えない(指で押したり透明な板で圧迫したりしても色が消えない)場合は褥瘡、消える場合は一時的な反応性充血と判断するのが原則であり、実際の臨床ではこの確認を行う。
設問の考え方
褥瘡の予防と治療の出発点は「原因である圧迫を取り除くこと」である。圧迫が続けば紅斑の段階から短期間で皮膚欠損・深い潰瘍へ進行するため、まず行うべきは体位変換と、体圧分散寝具などによる除圧である。感染や壊死組織のない初期の褥瘡に、消毒・切開・抗菌薬といった処置は必要ない。
選択肢考察
- ×a. 消毒
皮膚欠損のない紅斑の段階であり、感染徴候もないため消毒の必要はない。消毒薬は細菌だけでなく創傷治癒に関わる正常な細胞にも障害を与えうるため、褥瘡でも明らかな感染がない限り日常的な消毒は行わず、皮膚欠損がある場合も創部は生理食塩水や微温湯での洗浄が基本となる。
- ○b. 体位変換
同じ部位に圧迫がかかり続けることが褥瘡の原因であり、定期的に体の向きを変えて圧迫部位を移すことが予防・悪化防止の基本である。一般的には2時間ごとを目安に行い、体圧分散マットレスを使用している場合は4時間を超えない範囲で間隔を延ばすことも可能とされる。側臥位は骨突出部(大転子部など)を避けるため30度程度傾けた姿勢が推奨され、ずれを防ぐため頭側挙上は30度以下にとどめる。
- ×c. 切開処置
切開が必要になるのは、深部に膿がたまった感染褥瘡(膿瘍形成)や、皮下にポケット(皮膚の下に広がった空洞)を形成して排膿・壊死組織除去が必要な場合である。本例は紅斑のみの初期段階で、感染もないため切開は不要であり、かえって組織を傷つけることになる。
- ○d. 除圧処置
エアマットレスなどの体圧分散寝具や、クッション・ピローを用いて仙骨部などの骨突出部にかかる圧を分散・軽減することで、局所の血流を回復させ褥瘡の進行を防ぐ。紅斑が生じた部位はそれ以上圧迫しないようにする。発赤部へのマッサージは組織を傷つけるため行わない。皮膚保護のためポリウレタンフィルムを貼付し、摩擦やずれを減らすことも有用である。
- ×e. 抗菌薬投与
感染徴候(局所の発赤の拡大、熱感、腫脹、膿、悪臭など)や全身症状(発熱など)がみられないため、抗菌薬の適応はない。抗菌薬の全身投与は、蜂窩織炎や骨髄炎、敗血症など感染が周囲や全身に広がっている場合に検討する。
褥瘡の発生要因
・局所要因:圧迫(強さと持続時間)、ずれ・摩擦、湿潤(失禁・発汗)。 ・全身要因:低栄養(低アルブミン血症)、やせ(骨突出)、知覚・運動障害(脳血管障害、脊髄損傷など)、意識障害、加齢、浮腫。 ・好発部位:仰臥位では仙骨部が最多で、踵部、後頭部、肩甲骨部、側臥位では大転子部、腸骨部、座位では坐骨結節部。 ・リスク評価にはブレーデンスケール(知覚の認知、湿潤、活動性、可動性、栄養状態、摩擦とずれの6項目、点数が低いほど高リスク)などが用いられる。
深達度分類
・NPUAP/EPUAP分類:ステージ1=皮膚欠損のない消退しない発赤、ステージ2=真皮までの部分欠損(水疱・浅い潰瘍)、ステージ3=皮下脂肪組織に達する全層欠損、ステージ4=筋・腱・骨に達する全層欠損。そのほか判定不能(壊死組織で深さが分からないもの)、深部組織損傷(DTI)疑いがある。 ・DESIGN-R 2020(日本褥瘡学会):深さ(Depth)、滲出液(Exudate)、大きさ(Size)、炎症/感染(Inflammation/Infection)、肉芽組織(Granulation)、壊死組織(Necrotic tissue)、ポケット(Pocket)を評価する。深さはd0(皮膚損傷・発赤なし)、d1(持続する発赤)、d2(真皮までの損傷)、D3〜D5(皮下組織〜関節腔・体腔に至る損傷)、DDTI(深部損傷褥瘡疑い)、DU(深さ判定不能)に分けられる。 ・Shea分類:Ⅰ度(発赤、表皮にとどまる)〜Ⅳ度(骨・関節に達する)の4段階。
段階に応じた対応
・全段階に共通:体位変換、体圧分散寝具による除圧、ずれ・摩擦の防止、スキンケア(失禁対策と保湿)、栄養管理(エネルギー・蛋白質の補給)。 ・発赤(ステージ1):圧迫の除去と皮膚保護が中心。ポリウレタンフィルムなどのドレッシング材で保護し、発赤部のマッサージは避ける。 ・浅い潰瘍(ステージ2):感染がなければ洗浄後にドレッシング材で創を湿潤環境に保つ(湿潤療法)。 ・深い潰瘍(ステージ3〜4):壊死組織の除去(デブリドマン)、感染の制御、ポケットの切開、肉芽形成を促す外用薬、陰圧閉鎖療法、場合により皮弁術などの外科的治療。 ・感染を伴う場合:洗浄に加えて必要に応じて消毒、膿瘍の切開排膿、全身性の感染があれば抗菌薬の全身投与。
POINT
・寝たきり患者の骨突出部(仙骨部など)の紅斑 → 初期褥瘡(NPUAP/EPUAPステージ1、DESIGN-R 2020のd1)。 ・圧迫を除いても消えない発赤が褥瘡(消える発赤は反応性充血)。 ・まず行うのは原因の除去:体位変換(2時間ごとが目安)と体圧分散寝具などによる除圧。 ・感染のない初期褥瘡に消毒・切開・抗菌薬は不要。発赤部のマッサージは禁忌。 ・予防・治療には栄養管理、ずれ・湿潤対策も重要。
