熱を出す病気、出さない病気―不明熱の「3大原因」と炎症の有無で解く
第102回医師国家試験 E問題 第36問
国試問題にチャレンジ
不明熱の原因となりにくいのはどれか。
- a.薬剤
- b.腫瘍
- c.感染症
- d.膠原病
- e.変性疾患
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
不明熱は38.3℃以上の発熱が3週間以上続き、一定の精査でも原因がわからない状態で、感染症・悪性腫瘍・膠原病(非感染性炎症性疾患)が3大原因として全体の約3分の2を占め、薬剤熱などの「その他」も重要です。発熱はIL-1・IL-6・TNF-αなどのサイトカインが視床下部の設定値を引き上げて生じるため、持続的な炎症や免疫反応を伴う病態が原因となり、全身性の炎症を伴わない神経変性疾患は通常不明熱の原因になりません。感染性心内膜炎や深部膿瘍、結核、悪性リンパ腫、高齢者の巨細胞性動脈炎などは見逃しやすく、薬剤熱は被疑薬の中止で48〜72時間以内に解熱することが手がかりです。神経変性疾患の患者が発熱したときは、誤嚥性肺炎などの合併症や治療薬中断による悪性症候群を考えます。発熱の機序から原因を論理的に絞る姿勢は、不明熱に限らず発熱患者の診療全般の土台になります。
解答・解説
正解はeです
不明熱(fever of unknown origin:FUO)とは、発熱が長く続くにもかかわらず、一通りの診察・検査を行っても原因が特定できない状態をいう。古典的な定義(Petersdorf と Beeson、1961年)では、①38.3℃以上の発熱が経過中に何度もみられ、②発熱が3週間以上持続し、③1週間の入院精査を行っても診断がつかないもの、とされた。その後 Durack と Street(1991年)により、③は「3回の外来受診または3日間の入院精査」に改められ、あわせて院内(医療関連)不明熱、好中球減少者の不明熱、HIV 感染者の不明熱という病態別の分類が加えられた。
不明熱の主な原因
不明熱の原因は、次の4つのカテゴリーに整理するのが基本である。 ・感染症 ・悪性腫瘍(腫瘍性疾患) ・非感染性炎症性疾患(膠原病・血管炎・自己炎症性疾患など) ・その他(薬剤熱、詐熱、甲状腺機能亢進症、深部静脈血栓症、炎症性腸疾患など) 古典的には感染症・悪性腫瘍・膠原病が「3大原因」とされ、これらで全体の約3分の2を占める。さらに、十分な精査を行っても最終的に原因が不明のまま終わる例も少なくない。
考え方
発熱は、病原体や腫瘍細胞、免疫反応などによって産生された炎症性サイトカイン(IL-1、IL-6、TNF-α など)が視床下部の体温調節中枢に作用し、体温の設定値を引き上げることで生じる。したがって、持続的な炎症や免疫反応を伴う病態は不明熱の原因となりうる。一方、Parkinson病や脊髄小脳変性症のような神経変性疾患は、神経細胞が徐々に脱落していく病態であり、全身性の炎症反応を伴わないため、通常は発熱の原因にならない。よって「原因となりにくい」のは変性疾患である。
選択肢考察
- ×a. 薬剤
薬剤熱は不明熱の「その他」のカテゴリーに含まれる重要な原因である。主な機序は薬剤に対する過敏反応(アレルギー)で、抗菌薬(特にβ-ラクタム系)、抗てんかん薬、アロプリノール、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などが原因となりやすい。発熱の割に全身状態が良好で、体温上昇に見合った脈拍の増加がない(比較的徐脈)ことがあり、発疹・好酸球増加・肝機能障害を伴うこともある。被疑薬を中止すると通常48〜72時間以内に解熱することが診断の手がかりとなる。不明熱の診療では、まず服用中の薬剤をすべて確認することが基本である。
- ×b. 腫瘍
悪性腫瘍は不明熱の3大原因の一つである。腫瘍細胞や腫瘍に反応した免疫細胞がサイトカインを産生すること、腫瘍の壊死などが発熱の機序とされる。特に悪性リンパ腫(Hodgkinリンパ腫・非Hodgkinリンパ腫)、白血病などの造血器腫瘍が代表的で、固形腫瘍では腎細胞癌、肝細胞癌や転移性肝腫瘍などが発熱をきたしやすい。心臓粘液腫のような良性腫瘍が原因となることもある。
- ×c. 感染症
感染症は古典的に不明熱の原因として最も多いカテゴリーである。細菌だけでなく、結核(特に肺外結核・粟粒結核)、真菌、ウイルス(サイトメガロウイルス、Epstein-Barrウイルス、HIVなど)などあらゆる病原体が原因となりうる。とくに感染性心内膜炎、肝膿瘍・腹腔内膿瘍などの深部膿瘍、椎体炎・骨髄炎、前立腺炎、歯性感染症などは、局所症状に乏しく見逃されやすいため、常に念頭に置く必要がある。
- ×d. 膠原病
膠原病およびその類縁疾患(非感染性炎症性疾患)は不明熱の3大原因の一つである。代表例として、成人Still病、全身性エリテマトーデス(SLE)、血管炎症候群(巨細胞性動脈炎、結節性多発動脈炎、顕微鏡的多発血管炎など)、リウマチ性多発筋痛症が挙げられる。特に高齢者では巨細胞性動脈炎やリウマチ性多発筋痛症が不明熱の原因として重要である。近年は家族性地中海熱などの自己炎症性疾患も鑑別に含まれる。
- ○e. 変性疾患
Parkinson病、脊髄小脳変性症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、Alzheimer病などの神経変性疾患は、特定の神経細胞が徐々に変性・脱落していく疾患であり、全身性の炎症反応や発熱性サイトカインの持続的な産生を伴わない。そのため疾患そのものが発熱の原因となることは通常なく、不明熱の原因にはなりにくい。なお、これらの患者が発熱した場合には、誤嚥性肺炎や尿路感染症などの合併症、あるいは Parkinson病治療薬の急な中断による悪性症候群などをまず考える。
不明熱の分類(Durack と Street による)
・古典的不明熱:38.3℃以上の発熱が3週間以上続き、3回の外来受診または3日間の入院精査で原因不明のもの ・院内(医療関連)不明熱:入院患者に新たに生じ、3日間の精査(培養結果待ち2日を含む)で原因不明のもの ・好中球減少者の不明熱:好中球数500/μL未満(または数日以内にそれ以下に低下が予想される)の患者の発熱 ・HIV関連不明熱:HIV感染者で外来4週以上、入院3日以上の発熱が続き原因不明のもの
不明熱の原因の頻度
古典的には感染症が最も多く、次いで悪性腫瘍、膠原病の順とされてきた。画像検査や血液培養などの診断技術が進歩した現在では、感染症や腫瘍の多くは早期に診断されるようになり、相対的に非感染性炎症性疾患や、精査しても原因不明のまま終わる例の割合が増えている。
不明熱の診療の進め方
詳細な病歴聴取(渡航歴、動物との接触、性交渉歴、服薬歴、家族歴など)と、繰り返しの身体診察が最も重要である。検査は血液培養(複数セット)、血算・生化学・炎症反応、尿検査、胸部X線、腹部超音波・CT などから始め、必要に応じて心エコー(感染性心内膜炎)、FDG-PET/CT、生検(リンパ節・骨髄・側頭動脈など)を行う。原因不明のまま抗菌薬やステロイドを試験的に投与すると、診断が困難になるため安易に行わない。
発熱の機序
外因性発熱物質(細菌の内毒素など)が単球・マクロファージに作用して内因性発熱物質(IL-1、IL-6、TNF-α など)の産生を促し、これが視床下部でプロスタグランジンE2の産生を介して体温の設定値を上昇させる。
POINT
・不明熱の古典的定義:38.3℃以上の発熱が3週間以上持続し、精査しても原因不明 ・不明熱の3大原因は感染症・悪性腫瘍・膠原病(非感染性炎症性疾患)で、全体の約3分の2を占める ・その他の原因として薬剤熱が重要。被疑薬の中止で48〜72時間以内に解熱する ・見逃しやすい感染症:感染性心内膜炎、深部膿瘍、結核 ・神経変性疾患は通常発熱をきたさない。発熱時は誤嚥性肺炎などの合併症を考える
