下がって、また上がる―高齢化が描く「粗死亡率」のV字カーブ
第102回医師国家試験 B問題 第3問
国試問題にチャレンジ
ある比率の1947年から現在までの統計(実線)及び今後の予測(点線)のグラフを別に示す。縦軸は人口1,000人当たりの人数である。 何を示したものか。

- a.出生率
- b.離婚率
- c.死亡率
- d.高齢者率
- e.認知症有病率
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
人口1,000人当たりで表す指標には出生率、死亡率、婚姻率、離婚率があり、乳児死亡率は出生1,000当たり、高齢化率や認知症有病率は%で表すため、単位と桁でまず候補を絞れます。日本の粗死亡率は、戦後の衛生環境改善や抗菌薬の普及で急低下し、1980年前後に約6で底を打った後、人口の高齢化により上昇に転じ、今後も上昇が予測されます。少子化で低下を続ける出生率とは将来予測の向きが逆で、ここが判別の決め手になります。粗死亡率は年齢構成の影響を受けるため、地域・年次の比較には年齢調整死亡率を用い、日本の年齢調整死亡率は長期的に低下しています。統計グラフを単位・桁・推移の形から読み解く力は、国試対策にとどまらず、高齢社会の医療需要を理解する土台にもなります。
解答・解説
正解はcです
グラフは日本、アメリカ、ドイツ、スウェーデンの4か国について、ある比率の1947年から2005年までの実績(実線)と2045年までの予測(点線)を示している。縦軸は人口1,000人当たりの人数(‰、パーミル)で、目盛りは5〜15の範囲である。
グラフの読み取り
・日本:1947年には約14〜15と高いが、1950年代にかけて急激に低下し、1970年代後半〜1980年代前半に約6と最低になる。その後は上昇に転じ、2005年には約8.5〜9に達し、予測では2045年に約14まで上昇して他国を上回る。 ・欧米3か国:期間を通じて約8〜12の範囲でほぼ横ばいに推移し、予測ではいずれも緩やかに上昇する。
考え方
人口1,000人当たりで表し、日本の値が一桁台になる人口動態の指標としては、出生率と死亡率が候補になる。次のように考えると死亡率と判断できる。 ① 実数による確認:2005年の値を約9とし、日本の総人口を約1億2,700万人とすると、1年間の人数は約110万人となる。これは当時の年間死亡数(2005年で約108万人)にほぼ一致する。一方、当時の年間出生数は約106万人であり、数値だけでは区別しにくいが、次の②③で判別できる。 ② 推移の形:戦後直後は衛生環境や栄養状態が悪く、結核などの感染症による死亡も多かったため値が高い。その後、生活環境の改善、医療の進歩、抗菌薬の普及などにより急速に低下した。1980年代以降は、人口の高齢化により高齢の死亡者が増えるため、粗死亡率(年齢構成を調整しない死亡率)が上昇に転じる。この「急低下のあと再上昇」という形は、日本の粗死亡率の推移と一致する。 ③ 将来予測:今後さらに高齢化が進むため、粗死亡率は上昇し続けると予測される。出生率であれば少子化により将来も低下または低い水準にとどまるはずであり、上昇するという予測とは合わない。 以上から、このグラフは死亡率(粗死亡率)の国際比較である。日本の高齢化は欧米諸国より急速に進むため、日本の死亡率は将来ほかの先進国を上回ると予測されている。
選択肢考察
- ×a. 出生率
出生率も人口1,000人当たりで表す指標だが、日本の出生率は1947年に約34と非常に高く(第1次ベビーブーム)、グラフの縦軸(5〜15)の範囲を大きく超える。また、日本では少子化により出生率は長期的に低下を続けており(2023年は約6.0)、将来も上昇が見込まれないため、2005年以降に大きく上昇するという予測とも合わない。
- ×b. 離婚率
離婚率も人口1,000人当たりで表されるが、日本の値は最も高かった2002年でも約2.3で、近年は約1.5前後である。グラフの5〜15という水準とは桁が合わない。
- ○c. 死亡率
日本の死亡率(粗死亡率)は、戦後直後の約14.6から衛生環境や医療の改善によって急速に低下し、1979〜1982年頃に約6.0で最低となった。その後は人口の高齢化により上昇に転じ、2005年には約8.6となった。グラフの実線の推移はこれに一致する。さらに、高齢化の進行により今後も上昇が予測される点も点線と一致する。なお、実際の日本の粗死亡率は2023年に約13.0(年間死亡数約157万人)まで上昇している。
- ×d. 高齢者率
高齢者率(高齢化率、総人口に占める65歳以上人口の割合)は通常パーセント(%)で表す指標であり、人口1,000人当たりの人数で示すものではない。また日本の高齢化率は1950年の約5%から一貫して上昇しており(2023年は約29%)、戦後に大きく低下したグラフの推移とは合わない。
- ×e. 認知症有病率
認知症有病率は、通常65歳以上人口に占める認知症の人の割合(%)で示され、日本では1割を超える水準と推計されている。1947年から継続的に集計された統計でもなく、戦後に急低下したグラフの推移にも該当しない。
人口動態統計の主な指標
・出生率(粗出生率)= 年間出生数 ÷ 人口 × 1,000 ・死亡率(粗死亡率)= 年間死亡数 ÷ 人口 × 1,000 ・婚姻率・離婚率 = 年間婚姻(離婚)件数 ÷ 人口 × 1,000 ・自然増減率 = 出生率 − 死亡率 これらはいずれも人口1,000人当たりで表す。一方、乳児死亡率・新生児死亡率は出生1,000当たり、周産期死亡率は出産(出生+妊娠満22週以後の死産)1,000当たりで表す。
粗死亡率と年齢調整死亡率
粗死亡率は人口の年齢構成の影響を強く受ける。高齢者の割合が多い集団ほど、健康水準が同じでも粗死亡率は高くなる。そのため、年齢構成の異なる地域や年次を比較する場合は、基準人口を用いて年齢構成の違いを調整した年齢調整死亡率を用いる。日本の年齢調整死亡率は長期的に低下しており、粗死亡率の上昇は健康水準の悪化ではなく、主に高齢化によるものである。
日本の人口動態の変化
・2005年に、戦後初めて年間死亡数が出生数を上回った(自然減)。その後、2007年以降は自然減が続いている。 ・年間死亡数は増加が続き、2023年には約157万人となった。一方、出生数は2023年に約73万人まで減少している。
POINT
・日本の粗死亡率は、戦後に急低下 → 1980年前後に最低(約6.0)→ 高齢化により上昇、という推移をたどる。 ・粗死亡率は年齢構成の影響を受けるため、地域・年次の比較には年齢調整死亡率を用いる。年齢調整死亡率は低下傾向にある。 ・出生率・死亡率・婚姻率・離婚率は人口1,000対、乳児死亡率は出生1,000対、高齢化率は%で表す。 ・グラフ問題では、縦軸の単位と桁、実数への換算、推移の形から指標を推定する。
