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「家では普通」が決め手―人前だけが怖い18歳と社交不安障害

第101回医師国家試験 G問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第101回 G問題 第3問

18歳の女子。会社を休みがちで,心配した家族に伴われて来院した。高校卒業後デパートに就職したが,大勢の客の前で商品の説明をすることや販売することに苦痛を感じ,休みがちとなった。自宅では特に変わった様子はない。 考えられるのはどれか。

  1. a.うつ病
  2. b.不安障害
  3. c.強迫性障害
  4. d.解離性障害
  5. e.統合失調症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、就職したばかりの若い女性が会社を休みがちになった、という症例から精神疾患を見分ける問題だ。ポイントは「どんな場面で苦痛が出ているか」と「それ以外の場面ではどうか」。症状が出る状況の範囲に注目して考えてみよう。
医学生医学生
仕事に行けなくなっているので、まずうつ病を考えてしまいました。
ドクタードクター
就労困難というと、うつ病が真っ先に浮かぶのは自然だね。でもうつ病なら、抑うつ気分や興味の喪失が場面を問わず、ほぼ一日中、2週間以上続く。睡眠や食欲の変化、易疲労感も伴うことが多い。今回はどうだろう。
医学生医学生
自宅では特に変わった様子がない、とあります。家でも元気がないわけではないんですね。
ドクタードクター
そう、そこが大きな手がかりなんだ。苦痛が出るのは、大勢の客の前で説明したり販売したりするという、他人から注目され評価される場面に限られている。そしてその場面を避けるために欠勤が増えている。
医学生医学生
人前で恥をかくのが怖くて避けてしまう、というのは社交不安障害でしょうか。
ドクタードクター
その通り。社交不安障害、昔の言い方では社会恐怖で、不安障害群の一つだ。だから選択肢の中では不安障害が正解になる。他者から否定的に評価されることへの過剰な恐怖があり、その状況を回避するか、強い苦痛をこらえて耐える。赤面や発汗、手の震え、動悸、声の震えといった身体症状もよく伴うよ。
医学生医学生
精神科の講義で、日本の対人恐怖症の話を聞いた記憶があります。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。日本で古くから記載されてきた対人恐怖症は、社交不安障害と概念的に重なる部分が大きい。発症は10代半ばが多く、進学や就職で人前に出る機会が増えると表面化しやすい。高校を出て接客業に就いた今回の時期とぴったり合う。
医学生医学生
統合失調症も10代後半から20代に多いので、年齢だけ見ると引っかかります。
ドクタードクター
年齢的に鑑別に挙げるのは大事な姿勢だ。ただ統合失調症なら、幻聴や被害妄想などの陽性症状、感情の平板化や意欲低下といった陰性症状、まとまりのない言動が出てくる。今回はそうした記載がないし、家での様子も変わらない。もし「客にじろじろ見られて悪口を言われている」と確信しているなら、妄想として鑑別が必要になるけれどね。
医学生医学生
強迫性障害も不安が強い病気だと思うんですが、違いはどこですか。
ドクタードクター
強迫性障害は、不合理だとわかっていても頭から離れない強迫観念と、それを打ち消す強迫行為が特徴だ。手を何度も洗う、鍵を何度も確認する、といったものだね。今回はそういう観念や行為の記載がない。なおDSM-5では、強迫性障害は不安症群から独立して「強迫症および関連症群」に分類されている。
医学生医学生
解離性障害は記憶が飛んだり、別の人格が出たりするものでしたよね。
ドクタードクター
そう、記憶・意識・自己同一性・知覚の統合が一時的に失われる病態で、解離性健忘や離人感、解離性同一性障害などがある。今回はそのような症状はないから否定的だ。
医学生医学生
症状が特定の場面に限られるか、精神病症状はあるか、反復行為はあるか、解離症状はあるか、と一つずつ確認していけばいいんですね。
ドクタードクター
その整理で完璧だ。発展として、不安障害群にはほかにパニック障害、広場恐怖、全般性不安障害、限局性恐怖症などがある。それぞれ「何を恐れるか」で区別すると覚えやすい。
医学生医学生
治療は薬でしょうか、それともカウンセリングでしょうか。
ドクタードクター
両方が柱になる。薬物療法ではSSRIを使い、心理療法では認知行動療法、特に恐れている場面に段階的に身をさらしていく曝露療法が有効だ。臨床で注意したいのは、社交不安障害はうつ病やアルコール使用障害を合併しやすいこと。「人前が苦手なだけ」と見過ごさず、経過中の気分の変化や飲酒にも気を配る必要があるよ。

まとめ

人前で注目・評価される場面に限って強い不安と苦痛が生じ、その状況を回避して社会生活に支障が出ている場合は、不安障害群に属する社交不安障害(社交不安症、社会恐怖)を考えます。「自宅では変わった様子がない」という状況依存性は、場面を問わず症状が続くうつ病や、幻覚・妄想を伴う統合失調症を否定する重要な手がかりです。強迫観念・強迫行為があれば強迫性障害、記憶や自己同一性の断絶があれば解離性障害と、特徴的な症状の有無で鑑別を進めます。社交不安障害は10代半ばに発症しやすく、SSRIと曝露療法を含む認知行動療法で治療し、うつ病やアルコール使用障害の合併にも注意が必要です。症状が「どの場面で」出るかを丁寧に聞き取る姿勢は、精神科に限らず日常診療での問診の基本になります。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・18歳女性。高校を卒業してデパートに就職した直後という、生活環境が大きく変わった時期である。 ・苦痛を感じるのは「大勢の客の前で商品を説明する・販売する」という、他人から注目され評価される場面に限られている。 ・その結果、会社を休みがちになっている(恐れる状況の回避と、社会生活への支障)。 ・自宅では特に変わった様子はない。すなわち、気分の落ち込みや意欲低下が生活全般に及んでいるわけではなく、幻覚・妄想、奇異な言動、繰り返す確認行為、記憶の欠落なども記載されていない。

診断のプロセス

症状が「人前で注目を浴びる特定の社会的状況」に限定して出現し、その状況を避けることで仕事に支障が出ている、という構図が本症例の核心である。これは、他者から否定的に評価されること(恥をかく、変に思われる)への強い不安を特徴とする社交不安障害(社会不安障害、社会恐怖。DSM-5では社交不安症)に合致する。社交不安障害は不安障害(不安症)群の一つであり、選択肢の中では「不安障害」が該当する。 鑑別では、症状が特定の場面に限られるかどうか(うつ病は場面を問わず持続する)、精神病症状の有無(統合失調症)、強迫観念・強迫行為の有無(強迫性障害)、解離症状の有無(解離性障害)を確認していく。本症例ではいずれも否定的で、状況依存性の不安と回避だけが前景に立っている。

選択肢考察

  1. ×a.  うつ病

    うつ病では抑うつ気分や興味・喜びの喪失が、場面を問わずほぼ一日中、ほぼ毎日(2週間以上)持続し、睡眠障害・食欲変化・易疲労感・集中困難・自責感などを伴う。本症例は「自宅では特に変わった様子はない」とされ、苦痛は職場で人前に出る場面に限られているので、うつ病は考えにくい。ただし社交不安障害は経過中にうつ病を合併しやすいため、今後の気分の変化には注意が必要である。

  2. ○b.  不安障害

    人前で話す・接客するなど、他者の注目を受ける状況で強い不安と苦痛を感じ、その状況を避けるために欠勤が増えている。それ以外の場面(自宅)では問題がない。これは不安障害群に属する社交不安障害(社会恐怖)の典型像である。社交不安障害は10代半ばに発症することが多く、進学・就職など人前に出る機会が増える時期に顕在化しやすい点も本症例に合う。

  3. ×c.  強迫性障害

    強迫性障害は、不合理だとわかっていても頭から離れない考え(強迫観念:汚染への恐怖、戸締まりへの不安など)と、それを打ち消すための反復行為(強迫行為:過剰な手洗い、繰り返す確認など)を特徴とする。本症例にはそのような観念や行為の記載はない。なおDSM-5では、強迫性障害は不安症群から独立した「強迫症および関連症群」に分類されている。

  4. ×d.  解離性障害

    解離性障害は、心理的ストレスや心的外傷を背景に、記憶・意識・自己同一性・知覚などの統合が一時的に失われる病態で、解離性健忘、解離性遁走、離人感・現実感消失、解離性同一性障害(いわゆる多重人格)などがある。本症例には記憶の欠落や人格の交代といった解離症状の記載はない。

  5. ×e.  統合失調症

    統合失調症は思春期から青年期に好発するため年齢的には鑑別に挙がるが、幻聴・被害妄想などの陽性症状、感情の平板化や意欲低下などの陰性症状、まとまりのない会話・行動が特徴である。本症例ではこうした症状の記載がなく、自宅での様子にも変化がないため否定的である。人前での不安が「他人に見られている」という被害的な確信(妄想)に及ぶ場合には鑑別が必要になる。

社交不安障害(社交不安症、社会恐怖)

・定義:他者から注視・評価される可能性のある社会的状況(人前での発表、会話、会食、人前で字を書くなど)に対して著しい恐怖や不安を抱き、「恥をかく」「否定的に評価される」ことを恐れる。その状況を回避するか、強い苦痛を感じながら耐える。恐怖は実際の危険に比べて過剰であり、社会生活・職業生活に支障をきたす。DSM-5では6か月以上の持続を目安とする。 ・症状:赤面、発汗、手指の振戦、動悸、声の震えなどの身体症状を伴いやすい。人前での行為に限られる「パフォーマンス限局型」もある。 ・疫学:発症は10代半ばが多い。うつ病、アルコール使用障害、他の不安障害を合併しやすい。 ・治療:選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの薬物療法と、認知行動療法(不安を生む考え方の修正や、恐れる場面に段階的に身をさらす曝露療法)が中心である。 ・日本で古くから記載されてきた「対人恐怖症」と概念的に重なる部分が大きい。

不安障害群(不安症群)の主なもの

・パニック障害:予期しないパニック発作(動悸、呼吸困難、死の恐怖など)を繰り返し、発作が再び起こることへの予期不安をもつ。 ・広場恐怖:逃げられない・助けを得にくい場所(電車、人混み、広い場所など)を恐れて避ける。 ・全般性不安障害:さまざまな事柄について過剰な心配が慢性的に続く。 ・限局性恐怖症:高所、動物、血液など特定の対象・状況に対する恐怖。 ・社交不安障害:上記。 なおDSM-5では、強迫性障害は「強迫症および関連症群」、心的外傷後ストレス障害(PTSD)は「心的外傷およびストレス因関連障害群」として不安症群から独立した。

鑑別の視点

・症状が特定の状況に限られるか、生活全般に及ぶか(不安障害とうつ病の区別)。 ・病識の有無、精神病症状の有無(統合失調症との区別)。 ・反復する思考・行為の有無(強迫性障害)。 ・記憶や自己同一性の断絶の有無(解離性障害)。

POINT

・人前で注目・評価される場面に限って強い不安が生じ、その場面を回避する → 社交不安障害(不安障害群)。 ・「自宅では変わった様子がない」=症状が状況依存的であり、うつ病や統合失調症を否定する手がかり。 ・社交不安障害は10代半ばに発症しやすく、治療はSSRIと認知行動療法。 ・DSM-5では強迫性障害とPTSDは不安症群から独立した分類になった。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。