StudyMed医師国家試験

耳の水疱と顔のゆがみ―Ramsay Hunt症候群の犯人は神経節に潜むウイルス

第101回医師国家試験 F問題 第72問

国試問題にチャレンジ

第101回 F問題 第72問

Ramsay Hunt症候群を起こすのはどれか。

  1. a.EBウイルス
  2. b.アデノウイルス
  3. c.サイトメガロウイルス
  4. d.コクサッキーウイルス
  5. e.水痘・帯状疱疹ウイルス

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、症候群の名前と原因ウイルスを結びつける知識問題だ。ただ丸暗記するより、「なぜその症状がそろうのか」をウイルスの性質と顔面神経の解剖から理解しておくと、臨床問題にも強くなる。まず、Ramsay Hunt症候群と聞いて、どんな症状を思い浮かべるかな。
医学生医学生
顔面神経麻痺に、耳の発疹がくっついているイメージです。耳鼻科の実習で、耳介に水疱がある患者さんを見た記憶があります。
ドクタードクター
いい記憶だね。典型的な三主徴は、耳介や外耳道の発赤と水疱、同じ側の末梢性顔面神経麻痺、そして難聴・耳鳴・めまいといった内耳神経の症状だ。水疱が神経に沿って出て、しかも麻痺を伴う。この組み合わせから、どんなウイルスが思い浮かぶ?
医学生医学生
神経に沿った水疱なら帯状疱疹ですよね。水痘・帯状疱疹ウイルスでしょうか。
ドクタードクター
正解。水痘・帯状疱疹ウイルスは、子どものころに水痘として初感染したあと、全身の知覚神経節に潜伏する。加齢やストレス、免疫低下をきっかけに再活性化すると、その神経節が支配する皮膚に帯状疱疹が出る。再活性化の舞台が顔面神経の膝神経節だと、耳の帯状疱疹と顔面神経麻痺が一緒に起こる。これがRamsay Hunt症候群なんだ。
医学生医学生
膝神経節って、顔面神経が側頭骨の中で曲がるところにある感覚性の神経節でしたよね。解剖の講義で名前だけ覚えていました。
ドクタードクター
そう。そこで起きた炎症が、内耳道で隣を走る内耳神経にも波及するから、難聴やめまいが加わるわけだ。では他の選択肢も見ていこう。EBウイルスはどうかな。
医学生医学生
同じヘルペスウイルス科なので、神経に潜伏して顔面神経麻痺を起こしそうな気もしてしまいます。
ドクタードクター
確かにEBウイルスもまれに脳炎やGuillain-Barré症候群、顔面神経麻痺を起こすことはある。でも主にB細胞に感染するウイルスで、代表疾患は発熱・咽頭扁桃炎・頸部リンパ節腫脹・異型リンパ球増加をきたす伝染性単核球症だ。耳の帯状疱疹を伴うRamsay Hunt症候群の原因ではない。
医学生医学生
サイトメガロウイルスもヘルペス科ですが、免疫不全の人の網膜炎や間質性肺炎のイメージが強いです。
ドクタードクター
その理解でいい。移植後やAIDSでの再活性化、それから先天性感染による難聴や脳室周囲石灰化が大事なポイントだね。ヘルペス科だから潜伏・再活性化はするけれど、本症候群とは結びつかない。
医学生医学生
アデノウイルスはプール熱や流行性角結膜炎、コクサッキーウイルスは手足口病やヘルパンギーナでしたね。手足口病も水疱ができますけど……。
ドクタードクター
そこはひっかけになりやすいね。コクサッキーはエンテロウイルス属のRNAウイルスで、神経節に潜伏して再活性化する性質はない。アデノウイルスも同様だ。水疱という見た目だけでなく、「神経節に潜伏し、デルマトームに沿って再燃する」という性質で考えるのが大切なんだ。
医学生医学生
ところで、ただの顔面神経麻痺と言われたらBell麻痺を考えますよね。違いは何でしょうか。
ドクタードクター
Bell麻痺は末梢性顔面神経麻痺で最も多く、多くは単純ヘルペスウイルス1型の再活性化が関わると考えられている。一方Ramsay Hunt症候群は麻痺が重く、完全に回復しにくい。しかも水疱が麻痺より遅れて出たり、ほとんど出なかったりする無疱疹性帯状疱疹という病態もあって、その場合はBell麻痺と見分けにくい。ペア血清での抗体価上昇などが参考になる。
医学生医学生
だから耳の中まで丁寧に観察して、難聴やめまいがないか確認するのが大事なんですね。
ドクタードクター
その通り。治療はできるだけ早く抗ウイルス薬と副腎皮質ステロイドを併用する。麻痺が高度なら顔面神経減荷術が検討されることもある。回復過程で、瞬きすると口角が動く病的共同運動や、食事中に涙が出るワニの涙といった後遺症が残ることもあるよ。
医学生医学生
顔面神経の枝ごとの症状も、OSCEの神経診察の練習で混乱したところです。
ドクタードクター
整理しておこう。大錐体神経が障害されると涙が減り、アブミ骨筋神経なら聴覚過敏、鼓索神経なら舌前3分の2の味覚障害、末梢の運動枝なら額のしわ寄せ不能や閉眼不全、口角下垂が出る。中枢側で障害されるほど症状がそろうから、これを組み合わせて障害部位を推定できるんだ。
医学生医学生
ウイルスの性質と神経の走行がわかれば、症状の理由まで説明できるんですね。

まとめ

Ramsay Hunt症候群は、顔面神経の膝神経節に潜伏していた水痘・帯状疱疹ウイルスが再活性化して起こり、耳介・外耳道の帯状疱疹、同側の末梢性顔面神経麻痺、難聴・耳鳴・めまいなどの内耳神経症状を三主徴とします。EBウイルスは伝染性単核球症、サイトメガロウイルスは免疫不全者の網膜炎や先天性感染、アデノウイルスは咽頭結膜熱や流行性角結膜炎、コクサッキーウイルスは手足口病やヘルパンギーナが代表で、本症候群の原因ではありません。主に単純ヘルペスウイルス1型が関与するBell麻痺より予後が悪いため、抗ウイルス薬と副腎皮質ステロイドによる早期治療が重要で、水疱が遅れて出る例や出ない例にも注意が必要です。ウイルスの潜伏・再活性化という性質と顔面神経の枝の解剖を結びつけて理解すると、顔面神経麻痺全般の診断と部位診断に役立ちます。

解答・解説

正解はeです

Ramsay Hunt(ラムゼイ・ハント)症候群は、顔面神経の膝神経節(顔面神経が側頭骨内で屈曲する部位にある感覚性の神経節)に潜んでいた水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)が再び活性化して起こる疾患である。VZVは小児期に水痘として初感染したのち、全身の知覚神経節に潜伏する。加齢・ストレス・免疫力低下などをきっかけに再活性化すると、その神経節が支配する皮膚領域に帯状疱疹を生じる。再活性化の場が膝神経節であれば、耳介や外耳道の帯状疱疹とともに顔面神経麻痺が起こり、これがRamsay Hunt症候群である。 典型的な三主徴は、(1)耳介・外耳道の発赤と水疱(耳性帯状疱疹)、(2)同側の末梢性顔面神経麻痺、(3)感音難聴・耳鳴・めまいなどの第VIII脳神経(内耳神経)症状である。内耳道内で顔面神経と内耳神経が隣接して走るため、炎症が波及して蝸牛・前庭症状が加わる。そのほか、顔面神経の枝である鼓索神経の障害による舌前2/3の味覚障害や、アブミ骨筋神経の障害による聴覚過敏、涙腺分泌の低下なども起こりうる。 本問は、症候群の名前と原因ウイルスを正しく結びつけられるかを問う知識問題である。「帯状疱疹を伴う顔面神経麻痺」という病像から、原因はVZVと判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  EBウイルス

    EBウイルス(Epstein-Barr virus)はヘルペスウイルス科に属し、主にB細胞に感染する。代表疾患は伝染性単核球症(発熱・咽頭扁桃炎・頸部リンパ節腫脹・肝脾腫・異型リンパ球増加)であり、Burkittリンパ腫や上咽頭癌との関連も知られる。まれに脳炎、髄膜炎、Guillain-Barré症候群などの神経合併症や顔面神経麻痺を起こすことはあるが、耳の帯状疱疹を伴うRamsay Hunt症候群の原因ではない。

  2. ×b.  アデノウイルス

    アデノウイルスはエンベロープをもたないDNAウイルスで、流行性角結膜炎(EKC)、咽頭結膜熱(いわゆるプール熱:発熱・咽頭炎・結膜炎)、急性出血性膀胱炎、乳幼児の胃腸炎などを起こす。神経節に潜伏して帯状疱疹を起こす性質はなく、Ramsay Hunt症候群とは関係しない。

  3. ×c.  サイトメガロウイルス

    サイトメガロウイルス(CMV)はヘルペスウイルス科に属する。健常者では不顕性感染が多いが、臓器移植後やAIDSなどの免疫不全状態で再活性化すると網膜炎、間質性肺炎、腸炎、脳炎などを起こす。また先天性感染では難聴・小頭症・脳室周囲石灰化などを生じる。同じヘルペスウイルス科ではあるが、Ramsay Hunt症候群の原因ではない。

  4. ×d.  コクサッキーウイルス

    コクサッキーウイルスはエンテロウイルス属のRNAウイルスである。A群は手足口病やヘルパンギーナ(軟口蓋の水疱・潰瘍)、B群は心筋炎・心膜炎や流行性筋痛症(Bornholm病)などを起こし、いずれも無菌性髄膜炎の原因となる。手足口病でも水疱はできるが、神経節に潜伏・再活性化する性質はなく、帯状疱疹と顔面神経麻痺を起こすRamsay Hunt症候群とは無関係である。

  5. ○e.  水痘・帯状疱疹ウイルス

    Ramsay Hunt症候群は、膝神経節に潜伏していた水痘・帯状疱疹ウイルスが再活性化して起こる。耳介・外耳道の水疱性発疹、同側の末梢性顔面神経麻痺、難聴・めまいなどの内耳神経症状を特徴とし、味覚障害を伴うこともある。したがって本症候群を起こすのはVZVである。

末梢性顔面神経麻痺の主な原因

・Bell麻痺:原因がはっきりしない特発性の麻痺とされてきたが、多くは単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)の再活性化が関与すると考えられている。末梢性顔面神経麻痺の原因として最も多い。 ・Ramsay Hunt症候群:VZVの再活性化。Bell麻痺に比べて麻痺が重く、完全に回復しにくい(予後が悪い)。 ・その他:中耳炎・真珠腫、側頭骨骨折、耳下腺腫瘍、聴神経腫瘍など。

Ramsay Hunt症候群の診断と治療

・水疱が麻痺より遅れて現れたり、ほとんど出なかったりする例もある(無疱疹性帯状疱疹:zoster sine herpete)。この場合はBell麻痺と区別しにくく、ペア血清でのVZV抗体価の上昇などが参考になる。 ・治療は早期に抗ウイルス薬(アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル、アメナメビルなど)と副腎皮質ステロイドを併用する。麻痺が高度な例では顔面神経減荷術が検討されることがある。 ・麻痺の回復過程で病的共同運動(瞬きすると口角が動く等)やワニの涙(食事中に涙が出る)などの後遺症を残すことがある。

顔面神経の枝と障害時の症状

・大錐体神経:涙腺分泌 → 障害で涙の減少 ・アブミ骨筋神経:アブミ骨筋 → 障害で聴覚過敏 ・鼓索神経:舌前2/3の味覚、顎下腺・舌下腺の唾液分泌 → 障害で味覚障害・唾液減少 ・末梢の運動枝:表情筋 → 障害で額のしわ寄せ不能、閉眼不全、口角下垂 障害部位が中枢側ほど多くの枝の症状がそろうため、これらを調べて障害部位を推定できる(部位診断)。

ヘルペスウイルス科の整理

HSV-1/2、VZV、EBV、CMV、HHV-6/7(突発性発疹)、HHV-8(Kaposi肉腫)。いずれも初感染後に体内に潜伏し、再活性化する性質をもつ。

POINT

・Ramsay Hunt症候群=膝神経節でのVZV再活性化。 ・三主徴:耳介・外耳道の帯状疱疹、同側の末梢性顔面神経麻痺、第VIII脳神経症状(難聴・耳鳴・めまい)。 ・Bell麻痺(主にHSV-1)より予後不良。治療は抗ウイルス薬+ステロイドを早期に。 ・他ウイルスの代表疾患:EBV=伝染性単核球症、アデノ=EKC・咽頭結膜熱、CMV=免疫不全者の網膜炎・肺炎、コクサッキー=手足口病・ヘルパンギーナ・心筋炎。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。