タバコ1本を食べた乳児―「1時間以内」と「症状あり」が胃洗浄を決める
第101回医師国家試験 D問題 第13問
国試問題にチャレンジ
10か月の乳児。1時間前に紙巻タバコ1本を食べたことを主訴に来院した。意識は傾眠傾向で,顔色は不良である。 対応として適切なのはどれか。
- a.輸液
- b.胃洗浄
- c.経過観察
- d.緩下薬投与
- e.人工乳投与
対話形式の解説
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医学生まとめ
乳幼児のタバコ誤飲は頻度の高い誤飲事故で、ニコチンは胃内で吸収が遅く嘔吐を誘発するため重症化は多くありませんが、摂取量・経過時間・症状の有無で対応を判断することが重要です。少量(2cm未満程度)で無症状なら家庭での観察が可能ですが、紙巻タバコ1本のような多量摂取で意識障害などの症状があり、摂取後1時間以内であれば、気道を確保したうえで胃洗浄を行い、活性炭投与も検討します。水や牛乳・人工乳を飲ませるとニコチンの吸収を促進するおそれがあり、緩下薬や催吐も推奨されません。灰皿の水などタバコの浸出液はより吸収が速く危険であること、そして手の届かない場所に保管する予防指導が最も大切であることも押さえておきましょう。誤飲対応の基本的な判断軸は、他の中毒診療にも応用できる考え方です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
10か月の乳児が、1時間前に紙巻タバコ1本を丸ごと食べた。来院時すでに傾眠傾向(刺激がないと眠り込んでしまう軽い意識障害)と顔色不良がみられる。
病態の考え方
タバコ誤飲は乳幼児の誤飲事故として最も頻度の高いものの一つで、ハイハイやつかまり立ちで行動範囲が広がり、何でも口に入れる生後6か月〜1歳半ごろに多い。紙巻タバコ1本には10〜20mg程度のニコチンが含まれ、乳幼児にとっては少量でも中毒量となりうる。一般に、乳幼児が紙巻タバコを2cm程度以上食べた場合や、症状が出ている場合には医療機関での処置が必要とされる。 ニコチンは酸性の胃内では吸収が比較的遅く、また嘔吐を誘発する作用があるため、実際には重症化する例は少ない。しかし本例は1本全体という多量を摂取し、すでに意識レベルの低下と顔色不良という全身症状が出現しており、中毒症状が進行していると判断すべきである。
設問の考え方
摂取から約1時間以内で、中毒症状を伴う多量摂取であることから、胃内に残るタバコ(ニコチン)を除去する消化管除染として胃洗浄を行うのが適切である。胃洗浄は一般に摂取後1時間以内が最も効果的とされ、本例はその条件に当てはまる。なお、傾眠傾向の患児では誤嚥の危険があるため、気道確保(必要なら気管挿管)を行ったうえで実施し、洗浄後には活性炭の投与も検討する。バイタルサインを監視し、けいれんや呼吸抑制などへの対症療法の準備も並行する。
選択肢考察
- ×a. 輸液
輸液路の確保や輸液は、全身状態が不良な中毒患者に対する支持療法として行ってよい。しかしニコチンの排泄を大きく促進するものではなく、胃内に残っているタバコを除去する処置が優先される。本問で問われている最も適切な対応ではない。
- ○b. 胃洗浄
紙巻タバコ1本という多量摂取で、摂取後約1時間、しかも傾眠傾向・顔色不良という中毒症状が出ている。胃内に残るタバコを取り除き、それ以上のニコチン吸収を防ぐために胃洗浄を行う。意識障害があるため、誤嚥防止のための気道確保を行ってから実施し、あわせて活性炭の投与も検討する。
- ×c. 経過観察
誤飲量が少なく(目安として2cm未満)無症状であれば、自宅や外来で数時間の経過観察とすることもある。しかし本例は1本全体を摂取し、すでに意識障害と顔色不良という中毒症状がみられるため、経過観察だけでは不適切である。
- ×d. 緩下薬投与
緩下薬(下剤)で腸管内の毒物の排出を早める方法は、中毒の治療として単独では有効性が示されておらず、ルーチンには用いられない。乳児では脱水や電解質異常を招くおそれもある。本例で優先されるのは胃内に残るタバコの除去である。
- ×e. 人工乳投与
タバコ誤飲時に水や牛乳・人工乳を飲ませると、タバコからニコチンが溶け出しやすくなり、吸収を促進するおそれがあるとされ、行うべきではない。意識が低下した乳児への経口摂取は誤嚥の危険も高い。
ニコチン中毒の症状
ニコチンは自律神経節や神経筋接合部のニコチン性アセチルコリン受容体に作用し、少量では刺激、大量では遮断に働く。 ・初期(刺激症状): 悪心・嘔吐、流涎、腹痛、下痢、顔面蒼白、発汗、頻脈、血圧上昇、興奮、振戦。 ・重症(抑制症状): 意識障害、けいれん、徐脈、血圧低下、筋力低下、呼吸抑制。 症状は通常、摂取後30分〜4時間以内に出現する。4時間程度経っても無症状であれば、その後の重症化は少ないとされる。
タバコ誤飲時の対応の目安
・摂取量が少なく(2cm未満程度)無症状: 口の中に残ったタバコを取り除き、家庭で数時間観察。 ・2cm程度以上の摂取、または症状あり: 医療機関を受診。症状があり摂取から時間が短い場合は胃洗浄、活性炭投与などの消化管除染を検討する。 ・タバコの浸った水(灰皿の水や吸い殻を入れた飲料缶の液体)は、ニコチンがすでに溶け出していて吸収が速く、より危険である。 ・水や牛乳を飲ませない、無理に吐かせない(意識低下時は誤嚥の危険)ことが家庭での注意点である。
消化管除染の考え方
・胃洗浄: 生命を脅かしうる量を摂取し、摂取後おおむね1時間以内の場合に適応を考慮する。意識障害がある場合は気管挿管で気道を保護してから行う。腐食性物質(強酸・強アルカリ)や石油製品では禁忌である。 ・活性炭: 多くの薬毒物を吸着して吸収を減らす。 ・催吐: かつてはトコン(吐根)シロップによる催吐が用いられたが、有効性が乏しく誤嚥などの危険があるため、現在は推奨されていない(6か月未満の乳児には禁忌とされていた)。
予防
タバコ・灰皿を乳幼児の手の届かない場所(高さ1m以上)に置くことが最も重要である。近年は加熱式タバコや電子タバコのリキッドの誤飲も問題となっている。
POINT
・乳幼児のタバコ誤飲は頻度の高い誤飲事故。2cm程度以上の摂取または症状があれば医療機関での対応が必要。 ・症状があり摂取後1時間以内なら胃洗浄(意識障害時は気道確保のうえ)を行い、活性炭も検討する。 ・水・牛乳を飲ませるとニコチンの吸収を促進するおそれがあり避ける。 ・灰皿の水などタバコの浸出液は吸収が速く危険性が高い。 ・トコンシロップによる催吐は現在は推奨されない。
